GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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フェンリルにはクリーンなイメージは無い


mission119 最狂

 -フェンリル本部、自室-

 

 防衛戦が終わった後、神機を預けて各々用意された部屋へと入っていく。しかし、ユウキに用意された部屋は皆とは違い、客室フロアとは別の階層に用意されていた。

 皆がエレベーターを降りた後もしばらく乗って、3つ上の階でようやく止まる。扉が開くと、歩きながらカードキーに記された部屋番号を探す。

 

(ここか…)

 

 降りたフロアの一番奥、そこに指定された部屋があった。カードキーをリーダーに翳すと、『ガチャッ』と小さく解錠された音が鳴る。部屋に入ると、

いかにも高そうで綺麗な家具や調度品の数々が設置されていた。そしてサッと一周り部屋を見ているとあるものが目についた。

 

(写真…?)

 

 遠目から見ると人が2人映った写真が立ててある事はわかった。来客用の部屋に個人の写真など、随分と不釣り合いな物だったので、気になったユウキは近くまで行き写真を手に取った。

 

(この2人は…)

 

 写真に写っていたのはユウキも知っている人物だった。何故この2人の写真がここにあるのかと考えていると、不意に部屋のブザーが鳴る。

 

『アルベルトです。少々お時間頂けませんか?』

 

「ええ、どうぞ」

 

 ユウキの返事を聞いた後、扉が開くとそこには本部長であるアルベルトが立っていた。写真を元に戻した後、ユウキはアルベルトの方を向くと、彼は既にこちらに歩を進めていた。

 

「先の任務、見事な戦いぶりでした。流石は極東の英雄なんて二つ名は伊達ではありませんね」

 

「私は自分の仕事をしたまでです」

 

「そうですか…」

 

 先の防衛戦での活躍に称賛を送るアルベルトだったが、対するユウキは口調こそ丁寧なものの、何処か素っ気ない返事で返す。

 しかし、アルベルトはそんな事を気にした様子もなく、じっとユウキの顔を見つめていた。

 

「…何か?」

 

「やはり、君とあの人は見れば見る程にそっくりだ」

 

「…?」

 

 アルベルトの言葉を聞いたが、一体何の事を言っているのか分からずに思わず眉をひそめる。

 

「ああ、失礼…その写真の女性、神童サクラさんの事です。彼女は優しさと知性を兼ね備えた誇り高い女性だった」

 

「母を知っているのですか?」

 

 さっきまでユウキが見ていた写真に写っている2人の人物…『ヒト』の姿の時と同じ顔をした女性、神童サクラと『アラガミ』の時と同じ顔の男性、クロウ・オルフェウスだった。 

 2人の写真がこの部屋にある事もそうだが、母親であるサクラの事をよく知っているかの様な口ぶりに、ユウキは少し驚きを見せた。

 

「…ええ、彼女とは幼少の頃からの知り合いでした。毎日のように会っていた訳でもないのですが、お互いの会社事情で、催し物でよく会っていましたし、プライベートでも仲良くさせていただいていました。この部屋も、彼女がコチラに来たときに使っていた部屋なんです」

 

 何処か懐かしむ様に、しかし少しずつ悲しげな表情に変わりながらもアルベルトはユウキの母であるサクラの事を語りだす。

 

「正直、貴方の顔を見た時は心底驚きました。彼女があの時と変わらない身姿で戻ってきたのかと錯覚したくらいです。本当に…その位に、同じ顔をしています」

 

「私は他の誰でもない…神裂ユウキです。過去に拘るのも結構ですが、それではいずれ足元を掬われますよ」

 

「肝に銘じておきます」

 

 写真を見る限り、確かにユウキとサクラの顔つきは瓜二つだった。その姿を見て昔に戻った様な感覚になり、何処か優しさや愛おしさを感じる目つきになっていた。

 しかし、当のサクラはもうこの世には居ない。アラガミ化していたからとは言え、ユウキ自身の手で葬ったからだ。その事実は知らないだろうが、母が既にこの世に居ない事はアルベルト自身も頭では理解しているはずだ。今ここに居るのは同じ顔をしていても別人、そのことを認識していなければ、かつてのアリサの様に認識が歪み、正常な判断が出来なくなってしまうだろう。そこを指摘すると、またユウキの部屋の呼び鈴が鳴る。

 

「はい」

 

『ジュリウス・ヴィスコンティです。お話したい事があるのですが…今、お時間よろしいですか?』

 

「ええ、大丈夫です」

 

 どうやら来訪者はジュリウスのようだ。丁度アルベルトとの話も区切りはついたので、ユウキが入室の許可を出すと部屋の扉が開いた。

 

「失礼、先約がありましたか…」

 

「いえ、私の用事は先程終わりました。それでは神裂少佐、ジュリウス大尉、またお会いしましょう」

 

 しかしジュリウスにはそんな事は知る由もないので、邪魔をしてしまったと思い、出直そうかと踵を返そうとしたが、既に用事を終わらせたアルベルトが代わりに部屋から出ていく。要件の内容を少し話しをした後、ユウキはジュリウスに連れられて部屋を出ていった。

 

 -フェンリル極致化技術開発局『フライア』-

 

「おかえりなさいませ、ジュリウス隊長」

 

 ジュリウスに連れられてフェンリル本部を出て、ビルが立ち並ぶ奇っ怪な巨大な船にも見える何か…『フライア』に案内された。そのまま施設を歩いていき、中枢と思わしき設備に入ると受付カウンターと思わしき所に一人の少女が立っていた。

 ジュリウスは迷う事なくボブカットの金髪、翡翠色の瞳の少女の元へと歩み寄りユウキもそれに続いた。ジュリウスに気が付いた少女は2人に声をかける。

 

「ああ、グレム局長と先生達は?」

 

「研究室でお待ちです。いつでも大丈夫と仰っていましたよ」

 

 先生と言うのが誰かは分からないが、先の防衛戦前に聞いた名前が聞こえてくる。彼らの所在を確認している様だが、呼び出された理由も分からないユウキでは2人の話が理解できず、話が終わるまで傍観するしかなかった。

 

「ああ、紹介していませんでしたね。彼女は…」

 

「フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュと言います。フランとお呼びください」

 

「承知しました、フランさん。私は神裂ユウキです。よろしく」

 

「では行きましょう。先生達も待っています」

 

 ジュリウスに紹介され、フランと名乗る少女に挨拶する。挨拶も程々にして、ユウキは再びジュリウスに連れられ行く。長い階段を登り、高層フロアに上がると大きく綺麗な扉の前に来た。ジュリウスが『神裂ユウキさんをお連れしました』とと伝えると、男の声で『入れ』と聞こえてくる。ジュリウスの手で扉が開くと、そこには先の顔合わせで会ったグレム、レア、ラケルの3人が居た。

 

 -高層フロア、ラケル博士の研究室-

 

 ジュリウスに促されて、ユウキも研究室に入る。先の顔合わせで3人は自己紹介をしてあったが、ユウキからはまだだ。ユウキが名乗ると、3人は再度自己紹介して、ユウキはここに呼び出された理由について尋ねる。

 

「それで…私は何故ここに呼び出されたのでしょうか?」

 

「フフフ…まずは先の戦闘、お疲れ様でした。実は、貴方の戦い方でお耳に入れておきたい事があるのです」

 

「…」

 

「失礼ながら、先程の討伐作戦時の戦闘ログを解析させて頂きました。その結果、面白い事実が発覚したのです」

 

 ラケルが語る面白い事実…それが何なのかは気になるが、それよりも自身のログをいつの間にか調べ上げられていた事に一気に警戒レベルを上げた。組織内でも最高峰の頭脳の持ち主と聞くラケル…彼女をここで始末しようかとも考えたが、今いる場所は指折りの実力者が集っているフェンリル本部だ。手を出せばそれなりに厄介な事になる。しばらくは泳がせて、特異点に繋がる動きを見せた段階でまた潰しに行けばいい。そう考え、今はラケルの話しを聞くことにした。

 

「先の戦闘で貴方から…ジュリウスと同種の力が発動した事が確認されました…それは混迷した世界で神機使い達を導く…血の力…」

 

「正確に言えば、ジュリウスの力とは多少異なるものだけど、やっている事はほぼ同じ、自身の意志を力に変えて、それを感応現象で他者へと伝える…これは本来、偏食因子ブラッドに適合した神機使いのみに与えられる力なの」

 

「にも関わらず、ブラッドでもない貴様が独力で同じ力を身に着けた。どうやったかは知らんが、貴様は実質ブラッドと同等の存在と言えるわけだな」

 

 要約すれば現状ジュリウスしか使えないはずの力とほぼ同種の力をユウキも使ったとの事だった。これでこの場に呼ばれた理由はかなり絞られた。あとはその力の正体と感応現象の戦闘利用の情報を聞き出せれば御の字と言ったところだろう。

 

「ジュリウスの血の力は『統制』…そして、貴方の力に名付けるとしたら…『共振』…自身の受けた力を増幅、強化し、それを他者にも伝播させる力。先の任務では、ジュリウスの統制によって得られた強化を増幅、周囲に伝えたと言う訳ですね」

 

「…なるほど。あの時の感覚はそう言う事だったのか。ならもう1つお聞きしたい。ジュリウス隊長がガルムに対して使った技、あれは一体なんです?」

 

 ユウキが防衛戦で感じた違和感、それはジュリウスの血の力をきっかけに発動した力によるものらしい。その力の正体も分かって取り敢えずは1つ、聞きたい情報が引き出せた。後はジュリウスがガルムを一瞬で切り刻んだ時に使った能力を聞き出せれば取り敢えずの目的は達成できる。

 血の力の情報をあっさり話した事もあり、もう小細工無しで直球で聞いてみる。

 

「『ブラッドアーツ』の事ですね。偏食因子ブラッドに適合した神機使いが使える力なのですが…そうですね…『ブレイカー』と言う言葉は聞いた事がありますか?」

 

「ええ、噂程度は」

 

「あれは神機の制御を極め、その結果不可思議な力を発現させ、強大な力を発揮する事ができると言われていますが…ブラッド達はそれを感応現象を使って簡易的に再現しているのです」

 

「もう少し踏み込んで言うと、神機との有線接続の他に、感応現象による無線接続もしていて、その回線を使って通常制御以外の処理を行っているって思ってもらえばいいわ」

 

「その結果、ブラッドはある程度の制約はありますが、イメージを力に変える事ができる様になります。その1つが、先の防衛戦でガルムに使った力なのです。それから、貴方の力で面白い発見もあったのです。先程お話した貴方が持つ血の力…お気付きかは分かりませんが、神機との間でも発動しているようです。貴方の高い戦闘力は、ブラッドと同様…感応現象によってもたらされている側面もあるのです」

 

 ユウキの疑問にラケル、レア、ジュリウスがブラッドの持つ力、『ブラッドアーツ』について話してくれた。どうやら感応現象でブレイクアーツを再現しているようだが、その制御技術はブレイクアーツよりも優れている様にも思える。恐らく大出力であるが故に制御が難しいブレイクアーツ、出力を落とす代わりに制御を容易にして力を一点に集中させるのがブラッドアーツなのだろうと話しを聞きながらユウキは予測した。

 それにしても思いの外あっさりと自部隊の秘密を話した事に内心ユウキは少し驚いていた。もしかしたらユウキがブレイクアーツを扱える事を知っているが故に、そのことを例えに出したのかも知れない。その場合、ブレイクアーツを理由に何かしらの取引を持ちかけられる可能性も高い。しかし、そうでなくともユウキが呼び出された理由は限られる。あとはテキトーに誤魔化して一旦ここから離れるだけだ。

 

「ここまで話してもう気付いているだろうが…我々、極致化技術開発局としてもブラッド隊の戦力を増強を図りたいのだよ。しかし、ブラッドになり得る神機使いは未だに見つからない。そんな中、貴様が現れたと言うわけだ…」

 

 グレム局長が技術者姉妹の話しを遮る。そしてブラッド隊が人員確保もままならない事、ユウキがほぼ同種の力を持つ事を話し、ようやくここに連れてきた理由を話し始める。

 

「ブラッドに入れ。神裂ユウキ」

 

 予想どうり、ユウキが呼び出されたのはブラッド隊への勧誘するためだった。グレム局長は睨みつける様に眼力を強める。暗に断る事は許さんと言っているが、ユウキは考えるフリをして一旦目を伏せる。

 

「…お断りします」

 

「何だと貴様!!」

 

「俺には極東支部でやらなければならない事があります。そちらの隊に転属する気はありません」

 

 元よりユウキにはブラッドに入る意志はない。その旨を伝えるとグレム局長は激昂する。

 

「貴様ァ…その一言で我々がどれ程の利益を失う事になると思っている!!」

 

「…取らぬ狸の皮算用ってやつですか…俺がブラッドに入隊した時の利益を既に勘定に入れているようですが…そんなものをアテにしている様では、今後のフライヤの経営が心配になってきますね」

 

 グレム局長としては既にユウキを手中に収めたつもりでいた。その為、ユウキがブラッド隊に入隊した後の手筈も既に考えていて、そこから発生するコストとネームバリューを利用して得られる利益の目算がついていたのだろう。

 

「ふざけるな!!こうなったら損失の分をありとあらゆる手段で貴様から搾り取ってやる!!」

 

「…」

 

 利益が得られないのならば既に損失として勘定しているグレム局長はもの凄い剣幕でユウキに対して怒鳴りつける。本来入る見込みだった利益が得られないのならば、その分は断った張本人から毟り取るまで。まるで悪質な取り立て屋みたいなやり口でユウキに金品の支払いを要求する。

 

「…やってみろよ…」

 

 しかしユウキの声色も、低く、ドスの利いた威圧感のある声に変わる。

 

「俺に手を出すと言うのなら…貴様ら全員生かしたまま地獄を見せてやる…」

 

 支払いを要求するグレムに対して逆に睨みを聞かせ、素人でも分かる様に強く濃い殺気をブチ当てる。数秒程度だったが、それでも非戦闘員のグレム局長やレアは怯んで声も出なくなり、ジュリウスは無意識のうちに戦闘態勢になっていた。

 

「話が終わったのなら、俺これで失礼します」

 

 もう話す事も無いと判断し、ユウキは踵を返してフライアを去っていた。ブラッドに入隊しない事に対する賠償をさせてやると息巻いていたグレム局長も悔しそうに後ろからユウキを睨みつけるだけで動かない。そんな中、ラケルが少し残念そうに小さくため息をついた。

 

「フラれてしまいましたね…」

 

「そ、そうね…それにしてもラケル、あんな濃い殺気を受けて何で貴女平気そうなの?」

 

「…恐怖よりも、『興味』の方が強かったから…でしょうか?」

 

「…?」

 

 ラケルの一言で緊張が解け、次々と動き出すフライアの面々…ユウキを追いかけ、出口まで案内しようとするジュリウス、怒りに任せて荒い足取りで自室に戻るグレム局長、ラケルの一言に返事をするレア…三者三様の反応をしていた中、ラケルがクスクスと小さく、そして上品に笑い、ユウキに対して何かしら面白いモノを感じ取る。しかし、レアはその興味と言う言葉の意味するところを理解出来ず、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

 -フェンリル本部、パーティホール-

 

 ジュリウスに案内され、ユウキは本部に戻って来た。その後、すぐにパーティの準備を始める。シャワーを浴び、ペイラーが用意したタキシードに着替え、慣れないリボンタイを結んでから会場へと向かった。

 長い通路を通り、ようやく会場までたどり着く。大きな扉を開けると、そこにはいくつがの大きなテーブルに豪華な料理がいくつもならべられ、参加者は立食パーティ形式でグラスを片手に談笑と食事を楽しんでいた。ユウキがホールに入ると、すぐにユリがユウキを見つけて話しかけてきた。

 

「ユウキさん!!こっちです!!」

 

「…あぁ」

 

 ユリが手を振って居場所を教えると、それを頼りにユウキは2人のところへ歩み寄る。近くまで行くと、今度はアリサが話しかけてきた。

 

「お久しぶりですね…ユウ」

 

「ああ、ロシアでの対禁忌種部隊の活躍は時折耳に入っている。たった数ヶ月で部隊を形にした統制力は流石だな。その手腕をいつかアナグラに戻った時にも存分に発揮してくれ」

 

「実はそのことなんですが…この任務を終えたら、そのままアナグラへ再転属するつもりでいます」

 

 合同任務が終わるとアリサが極東支部に戻ってくる。それを聞いたユリが思わず『えっ?!』と声を出し、驚いた顔でアリサを見る。

 

「ロシア支部には話はつけてありますので、あとは博士に承諾が貰えれば…」

 

「…分かった。落ち着いた時に俺からも博士に話を通しておく」

 

 アリサが『ありがとうございます』と返すとトントン拍子にアリサの転属の話しが進んでいく。もう1つの故郷とも言える極東支部に帰れそうな状況に心なしか弾んだ口調のアリサに対して、内心焦りを見せたユリ。対称的な心境にさせたアリサの転属話だったが、ユウキが後からペイラーにも話しておくと告げると、一旦この話を終わらせる。

 しかし未だに欲しい一言が出てこない事に痺れを切らしたアリサがわざとらしく咳払いしてユウキの注意を引く。

 

「そ、それよりですね…女の子がおめかしして来たんですから…何かこう…言う事があるんじゃないですか?」

 

「ど、どうてすか?ユウキさん…」

 

 露出の多い赤いパーティドレスを着たアリサ、それとは対になるようにと蒼く低露出なゴシック調のドレスを着たユリが少し照れながらユウキに感想を求めてくる。

 

「…あぁ、よく似合ってる」

 

 しかしユウキはいつもと変わらず、あまり感情を感じない表情で無難な答えを返した。傍から見れば興味も無ければ関心も無いために素っ気ない返しにしか見えなかったが、言われた当人達はニヤけ顔で頬を朱に染めつつ喜んでいた。その後、ユウキは2人と一緒のパーティテーブルにつくと、見知った顔の大半が揃っていた。

 大抵の者はスーツやタキシード、パーティドレスなどの正装で参加していたが、そんな中普段と変わらぬエセ和装のペイラー、ジャケットを全開にし、シャツも出してネクタイも緩めている上に崩れているシルバが目に映る。直せや面倒と瑞希と言い合いをしている中、エドガーが2人を仲裁しつつシルバを引っ叩いて服装を直させる。そんな光景を眺めていると、後ろからペイラーが声をかけてきた。

 

「やぁ、遅かったね。もうパーティは始まってるよ」

 

「…ブラッド隊に勧誘されました」

 

 遅れた理由を聞いたアリサとユリは驚いた顔になり、ペイラーはいつもの様に『ほぅ…興味深いね』と返す。

 

「何でも部隊の人員確保がしたいとか…まぁ、断りましたが…」

 

 ユウキが勧誘を断ったと聞くと、2人はホッとした様子だった。ペイラーはその返答を予見していたのか、『まぁそうだよね』と言いたげに『そうか』とだけ返した。

 

「それから、ブラッド隊の持つ特異性、ブラッドアーツや血の力についてもいくつか聞き出せました。それから、アリサの転属の話も来ているので、合わせて詳細は追って伝えます」

 

「了解。何にしても、皆今日はお疲れ様。美味しい物でも食べてゆっくりするといいよ」

 

 3人を労うと、ペイラーはその場を離れて行った。その後、瑞希がユリとアリサを見つけると、2人の手を引いて別のテーブルへと行ってしまった。しばらくは3人の様子を眺めていると、初っ端からシルバの事で顔を赤くする瑞希だったが、反撃にユウキの事を聞くと今度はアリサとユリが顔を赤くする。

そんな中、今度はさっき別れたジュリウスが会場に現れた。早速数人の女性に取り囲まれていたが、案外上手く受け答えしているようだ。

 

「失礼…もしや貴殿は、極東支部の神裂ユウキではありませんか?」

 

 ジュリウスの様子を遠目に見ていると、不意に横から声をかけられた。声がした方を向くと、右目に眼帯を付け、厳格そうな大柄の男性が立っていた。

 

「ええ、そうですが…?」

 

 今の今まで、声をかけられるまで気配に気づかなかった。只者ではないと察したユウキは警戒しつつも大柄な男性と話し始める。

 

「俺…ンンッ!!私の名はエイブラハム・ガドリン…以後、お見知りおきを…」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 どうやら普段の一人称は『俺』なようだが、一応は客人に準ずる立場のユウキに対して相応の言葉遣いにしているようだ。一人称も『私』に直して丁寧な口調でユウキに右手を差し出した。それに応えるため、ユウキもまた右手を差し出して握手をする。

 

「それにしても、こんなにも早く『極東の英雄』と出会えるとは…まだお若いのに、相当な修羅場を潜ってきたはず。是非ともお話をお聞かせ願いたい」

 

「お話し…と言われましても…普通にアラガミを倒してきただけですので、あまり面白い話しは聞けないかと…」

 

 ガドリンとの会話でユウキは少し困った顔をして返した。面白い話…と言われて思いつくのはアーク計画やリンドウ救出の件、それにアリウス・ノーヴァやガーランドの反乱と、機密事項に触れる内容ばかりだったため、安易に話すわけにはいかなかった。

 

「では、到着した時に戦った自立型神機…あれはどうでしたかな?私としても、あの兵器の性能は興味があります。是非実際に戦った感想をお聞きしたい」

 

「戦力…として見るならば…期待はできません。現状では大幅な強化も出来ないかと思います」

 

 自立型神機に対するユウキの見解を聞くと、ガドリンは眉をピクリと動かした。

 

「ほう…それは何故?」

 

「偏食因子を取り込み、オラクル細胞に対応させたフレームを使おうとも、所詮は金属…オラクル細胞の強固で靭やかな結合には耐えられません。フレーム自体をオラクル細胞で制作すれば或いは…と思ったのですが、恐らくはコンセプトの1つである『あらゆる骨格に変形し、究極の汎用性を持たせる』にはコアの学習が追いつかないのでしょう。それから…偏食因子を使ったフレームにコアを埋め込んでいる以上、どうあっても外側のオラクル細胞との結合は弱くなってしまう。外装を簡単に壊してしまえるのなら、内部へ攻撃を届かせるのも然程難しい事ではないでしょう。これが、自立型神機が戦力にならない理由ですね」

 

 ユウキが実際に戦った時の感触を基に、自身なりの見解を述べていく。それはフレームと外殻の親和性が低い為、どちらの強度も維持できないと言うものだった。対策としては外殻とフレームをどちらもオラクル細胞で構成する方法が考えられたが、それは奇しくもフライアが開発している神機兵と同じ構想だった。

 

「なるほど、実用化するにしても先ずはスペックに追いつくだけの強度を確保する必要がある…と。であれば、しばらくは神機使いとしての仕事は減りそうにないですな。貴重な意見、ありがとうございます」

 

 そこまで話すとガドリンの通信機に連絡が入る。『失礼…』と断りを入れた後、背中を向けて通信に応える。しばらくは無言だったが、すぐに小さくため息をついて『分かった。すぐに行く』と返すと通話を切る。

 その後任務が入った事を告げ、ガドリンはユウキに挨拶をしたあとその場を去ろうとする。しかし途中で『そうだ』と何かを思い出した用に再度ユウキに話しかける。

 

「ワイズマンと言う男…気をつけてくだされ。今回の件を受け、何やら不穏な動きがある。それにあやつは蛭のようにしつこい…恥をかかされたと貴殿を狙ってくる可能性が極めて高い…」

 

 今回の件でワイズマンの技術者、研究者としてのプライドを木っ端微塵に破壊された。本部長の前で無様な醜態をさらさせられたと、ユウキへの復讐を企てているのか、早速不審な動きがあるようで、ガドリンはユウキに忠告する。

 

「忠告ありがとうございます。しかし、あのアラガミモドキに負けるような実力では私は今ここには居ません」

 

「ふふ、…無用な心配と言うものでしたな。では失礼」

 

 ガドリンが敬礼した後、ユウキも『武運を』と言いながら敬礼を返す。ガドリンを見送った後、周りをざっと眺める。その際、作戦前にはユウキと険悪なムードになったジャックがワインを片手に食事をしていた。

 向こうもユウキに気が付き目を逸らしたが、ワインを軽く上げて乾杯の様な合図をする。どうやら今回の掃討戦でユウキの実力をジャックは認めてくれたようだ。それを素直には表さない当たりは彼らしいとも言える。ユウキもそれに対して、グラスを持っていない為軽く手を挙げて返す。先の戦闘で小型種をほぼ単騎で壊滅させたジャックの手腕には驚かされていて、ジャックへの見方も変わっていた。

 ジャックがそのまま別のテーブルに向かうと、ユウキはまた周辺を見回した。

 

(これだけの食料があればどれだけの人が救えるか…)

 

 日々食べていく事さえままならない人々がいる中、食べ切れる分からない程の豪華絢爛な食事が多くのテーブルに所狭しと並べられている。アラガミに喰い荒らされている世界情勢とこの場に広がる光景があまりにも乖離している事にユウキは強烈な違和感を覚えていた。

 荒廃した時代で独自の技術を行使し、辛うじて人類を存続させている大企業であり、絶対ではないが安全な居住区や拠点を用意している実績もある。時代を読み、それを利益にして巨万の富を築き上げたのだから華やかな生活を送る事自体はある意味では当然の権利なのかもかれない。だが人類の守護者を自称する組織が、影ではその影響力を行使して弱者を踏み潰してやりたい放題…悪い意味での特権階級的な意識が働いているようにも見える光景を前にして、居心地の悪さを覚えたユウキはこっそりと会場から抜け出した。

 

 -フェンリル本部、正面ゲート-

 

 会場を出たあと、行く宛がある訳でもなくブラブラと歩いていると、いつの間にか本部の正面ゲートの近くまで来ていた。ふとゲートの外側から人の気配を感じ、気になって外へと出る。

 

「よう、アンタもパーティから締め出されたのか?」

 

 ゲートを出たと同時に声をかけられる。誰かと思って見てみると、ゲートの脇に手錠をされて鎖に繋がれた状態のグラムが神機を持って座り込んでいた。鎖の先には監視員もいて、グラムの傍らに立っている。

 

「上品すぎて空気が合わん。あの場に居ると吐き気がする」

 

「カカカッ!!言うねェ英雄様。確かに、オ上品に取り繕った連中のアの空気は気に入らねェよな!!」

 

 世界中の人が困窮し、神機使いたちも決して楽な生活をしている訳でもない中、本部でのパーティは酒池肉林の贅沢三昧だった。本部の特権意識これでもかと見せつけられてウンザリしていた。

 それを聞くとグラムは嬉しそうに嗤い、本部の上流階級を気取った言動を批判する。

 

「それにしても、何故アンタはこんな所に?」

 

 率直な疑問…何故パーティへの参加が認められなかったのかをグラムに問いかける。すると相変わらずケタケタと嗤いながらその理由を話し始める。

 

「俺ァフェンリルに捕らえられた身だからな。アンな華やかなパーティなんざにオ呼ばれされないのさ」

 

 捕らわれた身…という点はこの状況を見れば理解はできる。しかし、ユウキが知りたかったのは何故捕らえられたのかだ。言葉足らずだったのか、或いは分かってて話す気は無かったのか…どうやって事の詳細を聞き出そうかと考えていると、グラムの監視をしていたフェンリル職員が『失礼ですが…』と横槍を入れる。

 

「英雄である貴方がこの男とお話されるのは如何なものかと…こいつはスラムで一般人だけでなく神機使いをも襲い、その死体を喰らったと聞いています。そんな奴と話していては貴方の品位も疑われてしまいます。それに、こいつがいつ貴方を襲うかも分かったものではありません」

 

「つッてもなァ…資源の無イ時代だぜ?散ッていッた命も有効に使わなイとな」

 

「貴様…!!」

 

 過去に数多くの人を殺めたにも関わらず、グラムの反省を感じさせない態度に監視員は思わず怒りが滲み出た様な声をあげる。今にも掴みかからんとする勢いだったが、ユウキが軽く静止すると監視員はそのまま大人しく引き下がった。

 

「それはそうと、防衛戦で見せたあの捕食形態は何だ?初めて見たが…」

 

「へェ…」

 

 ユウキが防衛戦で見せた捕食口の事を聞くと、グラムは鋭い目付きに変わり、トーンも少し落ちた声で反応する。

 

「『アレ』につイてはニイちゃンもよく知ってンだろうに…」

 

 小さな声で意味深な事を呟くと、鋭かった目付きが元に戻った。

 

「…まあイイや。あれはブレイクアーツ。神機との適合率が100%を超えたブレイカーッてヤツが使える力なんだと」

 

 グラムが簡単に戦闘中に見せた捕食形態の正体を話すと、ユウキの予想通りの回答が返ってきた。どうやらグラムもブレイカーであることは確かなようだ。ユウキはその事実を聞いて、取り敢えず驚いた様な反応をしておく。

 

「ブレイカー…噂には聞いた事があるが、実在したとはな…」

 

「カカッ!!そんなヤツらが今、この場に居るンだもンな…」

 

 ブレイカーの存在に驚いているように見せたユウキに対して、そんな摩訶不思議な存在が実在している事にケタケタと笑いながら応える。しかし、直後にアラガミの気配を感じて、ユウキの目付きが鋭く変わった。

 

「…」

 

「ニイちゃンも気づいてるみたいだな」

 

 どうやらグラムも気がついているようで、神機を握り直して不敵な笑みを浮かべている。

 

「1人で十分だ」

 

「だろうな。けどよ、こっちは皆がお楽しみの中、締め出されて外で待機させられてたんだ…鬱憤の1つも晴らしたくなるだろ?」

 

 皆がご馳走を前にして楽しんでいる最中もずっとグラムは外で待機させられていた。その事に不満はあったようで、向かって来ているアラガミにそのストレスをぶつけたくて仕方ないのか、防衛戦には乗り気なようだ。

 

「先に行ってろ」

 

 ここでどっちが行くなどと言い争っても意味はない。取り敢えずすぐに動けるグラムを先行させ、ユウキも神機を回収してから向かう事にして2人は一旦その場を離れた。

 

 -フェンリル本部、居住区外-

 

 ユウキと別れた後、グラムは監視員と共に居住区外まで来ていた。そして目の前には小型種のアラガミが押し寄せてきていた。

 

「分かっていると思うが、拘束の解除は敵対するアラガミの排除のためだ。怪しい動きを見せたら遠隔で爆弾を起動させるぞ」

 

「わァってるヨ。余計なコトはしませンよ」

 

 意味があるかも分からない言質を取ると、監視員はグラムの爆弾に繋がれた鎖を外し、手錠も外して自由にする。

 

「さぁ〜て…いっちょ暴れるかぁあ!!」

 

 軽く伸びをして神機を持った腕を軽く回す。監視員が退避したことを確認すると、グラムは戦闘態勢に入った。

 

「さァ、俺と遊ぼウやァ!!」

 

 言うやいなや、グラムは前に飛び出すと最前列のザイゴートに向かって一瞬で距離を詰めて、神機を振り下ろしてザイゴートをミンチへと変えた。続けざまにその場で右回りに回転しながら神機を振り、バスターでも届かないはずの距離のザイゴートを根こそぎ葬ってしまった。しかし直後に下からコクーンメイデンが飛び出し、直接攻撃を仕掛けてきた。

 

「しゃらくせェ!!」

 

 だがグラムは素早く一歩下がると、なんと回し蹴りでコクーンメイデンを真ん中から粉砕した。それをトリガーにしたかのように、複数のコクーンメイデンが地面から生えてきて、更にはドレッドパイクも同時に地面から飛び出してきてグラムは完全に取り囲まれた。

 

「ろくに動けもしねェ木偶の坊がワラワラとまァ…出てくンなら俺を愉しませて見ろよなァァ?!」

 

 グラムが咆哮と共に前に飛び出す。すると全てのコクーンメイデンからレーザーが発射されて飛んでくるが、グラムは物ともせずに突っ込む。真正面から向かってくるレーザーを刀身の側面で受け止めるとそのまま横に振る。するとテニスでもしているかのようにレーザーを弾き返して、目の前のコクーンメイデンの顔面を吹き飛ばした。

 

「ひャァアッハァァァ!!」

 

 奇声を上げながらグラムは左へと急旋回すると、周囲から発射されたレーザーを全て振り切りつつ次のコクーンメイデンに接近する。

 

「邪魔だァァァア!!」

 

 途中、攻撃態勢に入ったドレッドパイクを薙ぎ払い、標的のコクーンメイデンに神機を横薙ぎに振ると、反撃の間もなくコクーンメイデンは上下に斬り裂かれた。しかしその間に後ろからドレッドパイクとコクーンメイデンのレーザーが飛んでくる。グラムは後ろ向きながら神機を振ってドレッドパイクの処理とレーザーの防御を同時に済ませ、そのままチャージクラッシュの態勢になる。

 

「逝ッちまいなァ‼」

 

 一瞬のうちにチャージを終わらせたグラムが横に神機を振ると、辺り一帯に残ったアラガミ達が一撃で殲滅させられた。

 これで終わり…と思っていたのか、構えを解いたグラムだったがその足元に青い焔が発生していた。

 

  『ダンッ!!』

 

 狙撃弾が発射されてグラムの後ろに居たローブを被った人形のアラガミの頭を撃ち抜く。しかし青い焔は止まる事なく、大きく燃え上がり始めた。だが、グラムは難なくその攻撃を前に出て避けた。

 

「…油断でもしたのか?こんなのに追撃を許すとはな…」

 

「ハハッ!!まさか!!アンタが来なけりャ俺がそのまま殺ッてたッての!!」

 

 どうやら新手には気が付いていた様だが、ユウキが近くに居るため、特になにかする必要も無いと判断したようだった。

 

『クァァア!!』

 

 しかし頭を撃ち抜かれたにも関わらず、新手のアラガミは甲高い声を上げてユウキを威嚇する。

 

「小型種の癖にタフだな…何だコイツは?」

 

「極東じャ見ないのかイ?コイツは『シルキー』シルクのドレスを着てるッつーアレだ。雑魚にしてはタフな上、残留時間の長イオラクルを使ウンだが…まァ大した事はねェよ。ちなみにコアは人間で言ウところの心臓にあるぜ」

 

 いつもならば一撃で倒せた筈なのに、予想外にもシルキーと呼ばれているアラガミには耐えられてしまった。しかもそれに呼応するかのように、また新たにシルキーが複数体現れた。

 

「雑魚がワラワラと…邪魔だ」

 

「ハハッ!!まだまだ終わらないみてェだなァ!!ちッたァ愉しませてくれよォ!!」

 

 最初に頭を撃ち抜いたシルキーが右腕を振り上げて鋭利な爪で攻撃してくる。それよりも先にユウキはシルキーの懐に入り込み、右から左へと胸部辺りで横一閃に斬り裂いた。そのまま身体を大きく捻りつつ銃形態へと変形し、抜刀術の様な構えで右に居るシルキーのコアを撃ち抜いた。そのまま左へと飛び出し、剣形態へと変形して次のシルキーを狩りに行く。標的になったシルキーもユウキへと向かって突撃する…かと思いきや、その直前に動きを止め、両手をクロスさせたあとに開くと、自身の周囲に青い焔が燃え上がった。対策としてユウキは上に跳び、シルキーの頭上を跳び越える際に神機を振って頭上から一刀両断する。しかしシルキーの置き土産とも言える焔が、十字に広がりその跡にも補のを残す。着地先にトラップを仕掛けられた様な状態になったが、即座にインパルスエッジで軌道を変えて難なく避けた。そして着地と同時にまた銃形態に変形し、別のシルキーに狙いを定める。

 対してグラムはユウキとは反対の方に跳び、一瞬でシルキーを斬り捨てる。続いて左右から青い焔を纏ったシルキーの右爪が振り下ろされるが、グラムはその場で回転し、シルキーへカウンターを叩き込んで倒した。その間にグラムの後ろからゆらゆらと青い焔迫ってきて、それと同時にシルキー自身も先の2体と同じように青い焔を右爪に纏って襲いかかってくる。グラムは後ろを向きながら神機を逆手に持ち替え、装甲を展開して焔を防ぐ。そして刀身を地面に突き刺し、そこを軸にしては装甲の影から回転しつつ蹴りをシルキーの側頭部に叩き込む。そのままシルキーを巻き込んで真後ろに蹴飛ばすと、後からユウキが撃った狙撃弾がシルキーに向かっていく。だがシルキーは大きくバックステップをしてそれを避けたが、突然シルキーの背中に衝撃が走る。後ろを向くと、眼前には高い壁がそびえ立っていた。後ろには装甲壁…シルキーの逃げ道はなくなった。

 

  『ズガァァァンッ!!!!』

 

 しかし突如轟音と共に巨体が装甲壁から飛び降りてきて、杭の様な足によって最後のシルキーが踏み潰された。

 

  『ブモォォォオッ!!』

 

 腹に響く様な低い雄叫びと共に、無表情な人の顔をした四足のアラガミが現れる。

 

「コイツは…」

 

「『デミウルゴス』だな。アの間抜け面には面白い特徴があンだよ」

 

「特徴?」

 

「まァ見てな」

 

 言うやいなや、グラムはデミウルゴスに向かって走り出す。対してデミウルゴスは右の前足を振り上げてハンマーの様に振り下ろす。しかしその距離はどう見てもグラムには直撃しない程に離れていた。牽制のつもりかと考えていると、突然デミウルゴスの足に赤い物体が生えてきた。

 

(足が…伸びた?)

 

 赤い筋肉の柱とも言える物体がデミウルゴスの足を割り、足全体が長く延びてきた。予想外な方法でグラムに攻撃を届かせようとしたが、グラムはあっさりと横へ跳んで避ける。

 

「遅ェッ!!」

 

 避けると同時に神機を振り下ろして振り下ろされた肉塊に攻撃して結合崩壊させる。しかしデミウルゴスは伸ばした足をしっかりと地に付け、伸ばした肉塊を伸びたゴムが戻る様に勢いよくタックルを繰り出した。

 

「オラァッ!!」

 

 デミウルゴスのタックルを大きくジャンプで躱すと、下からすくい上げる様に神機を振り上げてデミウルゴスの背中に強烈な一撃を与えると、そのまま腕力に物を言わせて吹っ飛ばす。

 

「ほらほら、もウおしまイか?」

 

 痛みに悶ているデミウルゴスを煽り、嘲笑う様に手招きする。その直後に立ち上がったデミウルゴスが前足を割って肉塊に埋め込まれた目の様な部分が青く光る。数秒後、氷の槍がグラムに向かっていく。

 

  『ブモォォォオッ!!』

 

 氷の槍を装甲で受け止めると、デミウルゴスは足を伸ばしながらのしのしとグラムに向かって突進してくる。

 

「おっととォ…」

 

 グラムが突進を右に戯けながら避けたが、その直後にグラムを踏み潰そうとデミウルゴスが左の前足を振り上げる。

 

「ところがぎっちょん!!」

 

 しかし一瞬でチャージクラッシュを発動させ、デミウルゴスよりも先に顔面に一撃を入れると、顔面が結合崩壊を起こして無表情な顔の中から別の顔が現れた。

 

(あの顔は…山羊ってやつか?)

 

 無表情な顔が壊れて山羊の顔が現れ、デミウルゴスが怒りで活性化する。右の足を割りながら薙ぎ払う様に振るのと同時にグラムも前に出る。デミウルゴスの攻撃よりも先にグラムが神機を振って右足を切り落とし、さらに前に出てデミウルゴスの懐に入り込む。そこから飛び上がり、神機を振り上げてデミウルゴスの顎に一撃入れて頭を大きく反らされせると、今度は神機を振り下ろして脳天を叩き割る勢いで頭上から攻撃する。

 勢いよく頭が叩きつけられ隙が出来た間にトドメをさそうとするが、それよりも先にデミウルゴスの口から氷の槍を発射する。グラムはトドメを止めて、装甲で氷の槍を受け止める。その間に着地したグラムを追尾する前足の肉塊から氷の様に冷たい青い球体を発射する。回避が間に合わないグラムはそのまま装甲を展開し続けて氷の球体を防御する。

 

「アッ?!」

 

「時間切れだ」

 

 反撃に出ようとしたグラムを差し置いて、傍観していたユウキが後ろから飛び出してきてデミウルゴスに急接近する。攻撃を終えて隙が出来たところにユウキが首元に接近して全力で神機を振り下ろす。

 

  『ブシャァッ!!』

 

 血を吹き出しながら胴体ごと首を切り落とし、デミウルゴスのコアを斬り捨て、力なく崩れ落ちたデミウルゴスは数秒後に霧散していった。

 

「チッ…オイシイところ持ッてイきやがッて…」

 

「なら、もっと早く倒すんだな。アンタならこの程度のアラガミなら一瞬で倒せただろ」

 

 最後にユウキがトドメをさした為、不完全燃焼になったグラムがユウキに文句を言うが、結局遊んで時間ばかりかかっていたせいだと言ってグラムの不満をバッサリと斬り捨てる。

 周囲にアラガミは居ない事を確認すると、ユウキ達よりも更に後ろから知っている気配を感じ取る。

 

『シェリーとライラか…いつの間にか後方を片付けていたみたいだな』

 

 ユウキとグラムが戦闘をしている最中、増援が来ない様に先に処理をしていたようだ。取り敢えずは倒すものは倒したので、本部に戻る事にした。

 その後、ユウキとグラムは事態を把握した他の神機達から問い詰められたが、特に気にする事もなく部屋に戻った。

 

 -3週間後-

 

 ユウキ達が本部に召集されてから3週間経った。当初の目的通り、多くのアラガミを倒して自立型神機を製作する為の素材を集めていた。この日もドレッドパイク、シルキー、ガルム、デミウルゴスと多くのアラガミを討伐したあとだった。

 

「うっし、標的の駆逐を確認、今日もお疲れ様!!」

 

「はい、お疲れ様です」

 

 霧散していくアラガミ達を見届けた後、ケビンが労いの言葉をかけるとアリサがそれに応える。

 

「あれ、まだこんな時間?最初の頃と比べると任務にかかる時間が短くなってるような?」

 

「それはきっとあれだよ!!私達の連携が洗練されてきたからだよ!!」

 

「はい、私達の連携も様になってきましたね」

 

 ユリが端末から時間を確認すると、任務開始からそこまで時間が経っていない事に少し驚いていると、瑞希とフロリアがチームワークが向上してきた結果だと、楽しげに笑い合う。

 

「ハァ…腹減ったな…最近は手応えの無い相手ばかりで飽きてきたなぁ」

 

「気を緩めたままミッションに出ていてはいつか足元をすくられる。余裕を持つのは良いですが、任務中は気を引き締めなければ…」

 

「堅いこと言うなよ。新人じゃあるまいし、こんな程度の任務でガチガチになっちまうよりは良いぜ?」

 

「…そうだな。多少の緊張感は必要だが…この程度の任務なら変に気負う必要もない」

 

 一方、野郎共は任務が終わると同時にシルバが腹が減ったと気の抜けた話を始めると、ジュリウスがそれを嗜める。だが、ジャックとユウキは気を張る必要はないと、シルバと同じようにして気の抜けた状態でも良しとしていた。そんな中でもグラムは事情が事情のために、任務が終われば即連行され、リゼは本部から呼び出しを受けた為、任務には参加していなかった。

 

「まるでピクニックのようだな…」

 

 ついさっきまで命がけの戦いをしていたとは思えない、好き勝手に話しながら、各々気の抜ける様な雑談任務興じる姿を見て、ジュリウスはポツリと呟きつつも共に帰路についた。

 

 -フェンリル本部、格納庫-

 

 ユウキ達が任務を終えた頃、本部内を探索していたシェリーとライラは自立型神機のお披露目が行われた本部技術開発局の実験室…その下に隠された地下研究室を発見して潜入していた。そこには天まで届くのではないかと錯覚する程に巨大な人形のフレームが鎮座していた。

 

「何…このでっかいの…?」

 

「…例の自立型神機…かしら?でも、このサイズは…」

 

「一応ユン君に報告しとこうか?」

 

「そうね。結局今日の今日まで自立型神機の素材集めしか目的らしい目的も出てこなかったし…もしかしたらこの大型の自立型神機以外には本当に大きな理由なんてものは無いのかもね」

 

 ユウキからの指示で本部がユウキを呼び寄せた本当の理由を探っていた2人だったが、結局自立型神機の有用性を証明する当て馬として呼び出した以外には、不審な動きは無かった。もし何かあるとしたら今目の前にあるこの巨大な自立型神機と思われるフレームだが、こんなモノでユウキ達に対抗出来るとは思えないが、一応は耳に入れておこうと、2人はその場を後にした。

 

 -フェンリル本部、ワイズマンの自室-

 

 シェリーとライラが格納庫から出た頃、ワイズマンに呼び出されたリゼが彼の自室に来ていた。

 

「やぁ、リゼ君。待っていたよ」

 

「…いえ、技術開発部門主導の作戦に参加している以上、局長の命とあらば応じない訳にもいきません」

 

 呼び出される心当たりもない中、しかも1人だけ突然の召集…何処か不審に思いながらも、仕事である以上応じないわけにもいかなかったため、いつもよりも低い声でワイズマンと会話する。

 

「ありがとうございます。今回実験では、貴女の様な高い感応能力を持つ新型神機使いの存在がどうしても必要なのです。手伝ってくれる事、感謝いたします。時間も少々圧しているのでね。早速ラボに向かいましょうか」

 

 ワイズマン曰く、実験には感応能力を持つ神機使いが必要と言われ、リゼは少し眉をひそませる。

 リゼも新型神機使いであるため、オラクル細胞との感応能力がある。しかも本部では他の追随を許さない感応能力がを持っている。しかし、今現在ワイズマンが主導する戦闘に出ている面々が居るのに、このタイミングで呼び出す理由が分からない。彼らが居るのが不都合なのか、邪魔されると思っているのか…何にしても碌な事にはならなさそうだ。

 警戒しつつもリゼは依頼を承諾すると、気を良くしたのかワイズマンはリゼの腰に手を回し、紳士的にエスコートする。しかし、当のリゼは突然触られて不快に思い、やんわりと牽制しながら実験室に向かった。

 

(クククッ…もうすぐ…もうすぐ私をコケにしたアイツらへの復讐が始められる…待っていろよ、クソガキども…)

 

 来て早々恥をかかされたワイズマンはリゼの後ろで見えない様に、復讐と憎悪を顔に滲ませ、自分をコケにした相手が無様に泣いて許しを請う場面を想像し、歪んだ笑みを浮かべながらリゼを研究室へと連れて行った。

 

To be continued

 




あとがき
 お久しぶりです。仕事だったりプライベートの都合で半年?も空きましたが何とか続きを投稿できました。下手くそなりにオリキャラのイラストとかも描いてましたがそんな元気も無くなったぜ…(トニカクチカレタ…
 そんなこんなでうちの子がブレイクアーツで使ってた能力の一部がブラッドアーツだったり血の力モドキが使えたりとラケルてんてーの解析で判明しました。まぁ、原作のリーダーもブラッドアーツ自力で覚えそうな感じだったから良いよね?
 下にリゼとワイズマンの設定を載せておきます。

リゼ・スローネ・フェイン

 本部に所属するポール型の新型神機使い。薄紫の瞳に同色の長い髪の女性。神機使いになって1年程だが高い実力を見せ、つい先日少尉に昇進した。常に冷静で感情の変化を見せず、基本的には理論的に物事を判断し、淡々と任務をこなしてないため、周囲からは冷徹女と揶揄される事もあったが、ガドリンが統括する部隊に組み込まれてからは表立った陰口は無くなった。その後もあまり周囲の神機使いともあまり馴染めず、チームで出撃しても単独で戦闘をすることが多く、連携は不得手。新型神機に適合した際に高い感応力を手にしたが、使い道の無い力だとして今後使う気もないし使い道を探す気もないようだ。


ワイズマン・グレイル

 フェンリル本部技術開発局局長を務める眼鏡かけた金髪の男性。前任の局長である父親が亡くなり、後任として局長の座に就いた。フェンリル屈指の技術屋であるペイラーやグラディウス姉妹を超える発明を世に出すべく奮闘している。昨今のアラガミの多様化に対して神機使いの補填や教導が間に合わない事態に危機感を抱き、神機そのものを戦わせる方法を思いついて自立型神機を開発する。アラガミが現在の地球環境を維持していることは知っているが、アラガミが滅んだとしても自然が完全に絶滅していない為、直近の環境悪化はあってもいつか再生すると考えてアラガミを滅ぼす為に自立型神機に邁進する。自身の能力に絶対の自信を持ち、自信家でナルシスト気質な面がある。神機使いに変わる大量生産が可能な戦力を開発した人物として後世に名を残す事を目的としている。

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