GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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ようやっと落ち着きはじめたと思いきやまたしばらくしたら忙しくなる宣言されてキレそう


mission113 理解

 -外部居住区、藤木家-

 

 ユウキと言い合いをした後、コウタは極東支部を出て実家に帰っていた。

 

「…」

 

「…」

 

 夕飯を食べ、ノゾミが就寝した後コウタはテレビを見ながらボーッとしていた。そんな中、カエデは洗い物を終えた後にお茶を2つ入れて持ってきた。『ありがと』と言ってお茶を受け取ったコウタは飲むと、再びテレビを見る。

 

「何かあったのかい?」

 

「え…な、何で…?」

 

 カエデから予想外の一言でコウタは動揺する。確かに支部内でユウキとゴタゴタがあった事をあっさり見抜かれていた事に驚いていた。

 

「何年あんたの母ちゃんやってると思ってるんだい?息子の様子が何時もと違えば気が付くさ」

 

「…」

 

 カエデの言う通り、コウタは帰ってからと言うものいつもよりも口数が少なくなっていた。

 

「何に悩んでるのかはわかんないけど、難しい事を色々考え事してるのは分かるよ…母ちゃんに話せない事なら聞かないけど、誰かに話してみると頭の中を整理できるかも知れないよ?」

 

 極東支部でユウキと言い合いになった事を見抜かれて、コウタは支部で起きた事を話すことにした。

 

「その…友達の事でちょっとね…」

 

「喧嘩かい?」

 

「そう言う訳じゃないんだけどさ…その、その友達の生まれがちょっと変わってるって事が分かってさ、その事で周りとゴタついたんだ」

 

 コウタはユウキが特異点に覚醒したことで変わってしまった事をボカしながらも話していく。

 

「その生まれのせいで、色々特殊な体質らしいんだよ。自分が死ぬ時、周りの人を巻き込んで死んでしまうらしいんだ…しかもその体質を利用する事もできるみたいでさ、自分の命を狙う奴や悪用しようとする奴に容赦なく襲いかかる所を何度も見てきた…今までは仲良くしてたのに、俺達の事も信じてくれなくなったしスゲー警戒してた。仲間だから、友達だからこそ、大変な時には助け合っていくもんだと思ってた…」

 

 仲間だからこそ大変な時に支え合うものだと思っていたのに、ユウキは頑なに手助けされる事も信用する事を拒んでいる。その事を話すコウタの表情には、信用されずに力にもなれず、心が通じあったと思っていたのに話さえ聞いてくれない事に対する悔しさが滲み出ていた。

 

「間違ってる事をしようとしてるなら止める…それが友達だと思う…けど、アイツが何をしたいのか、全然分からなくて…でも、アイツの言うことも、分かんなくはないんだ…だから、止めて良いのか分からないんだ…」

 

 自分の油断で世界中の人が死んでしまう…そんな状況になれば人間不信となってもおかしくはないだろう。しかし、それでも仲間と一緒に築き上げてきた絆は本物だと信じていた。だからこそ、こんな状況で頼ってくれる事はあっても拒絶される事はないと思っていた。

 その分、ユウキが自分達に手を上げる事が信じられなかったし、今でも本心からの行動なのかが分からないままだった。

 

「…友達だからって…何でも分かってないといけないのかい?」

 

「…え?」

 

 コウタの独白を黙って聞いていたカエデはお茶を飲みながら今度は自分の考えを話していく。

 

「どんなに相手を知ったつもりでも所詮は他人さ。心を読めでもしなけりゃ完全に理解できやしないよ。分からないから、こうやって話して、考えて、喧嘩して、理解しようとするんじゃないのかい?」

 

「…」

 

「なにも理解してから話さなきゃいけないなんて事はないだろ?人間生きてりゃ考え方なんていくらでも変わる…理解出来なくなったんならこれからまた理解すれば良いじゃないか。先ずは関わって、話してみて、何をしようとするのか見極める…その子を止めるのは、それからでも良いじゃないかい?」

 

「何をしようとするのか…見極める…」

 

 カエデの言っている事は分からないなら話せと簡単なものだった。確かに今のユウキは変わる前とはかけ離れてしまっているが、以前のユウキと変わらないと言う前提で色々と会話をしているため、ユウキの話をまともに聞いていなかった事を思い出す。

 

「まずはちゃんと話してみな。その子が何をするつもりなのか、言動の節々に答えが見え隠れしてると思うからさ」

 

「…うん、分かった」

 

 カエデの言葉を聞いて、コウタはまずはきちんと話してみようと心に決めた。その表情には以前のような陰りはなくなっていた。

 

「ユウキ君の事、しっかり支えてあげなよ」

 

「え?な、何でユウの事って分かったの…?」

 

 ユウキの事とは一言も言っていないのに、カエデが誰の事を言っているのか言い当てたのでコウタは驚いていた。

 

「何となくさ」

 

 コウタの問いに、カエデはイタズラっぽく笑うと再びお茶を飲んだ。

 

 -エイジス-

 

 コウタが実家で相談している頃、シェリーとライラは数日の間ひたすらアラガミを倒し続けていた。それを示すかのように、2人の周囲にはあらゆるアラガミの死体が散乱していた。

 

「ふぃー…やぁっと終わった…」

 

「はぁ…これでようやく一区画ね…区切りも良いし、一旦戻りましょう。どうせこれ以上は資材を積む事も出来なさそうだし…」

 

 人智を超えた存在の2人も、数日間戦い続けるのは流石に堪えたのか、疲れが見え隠れする口調となっていた。しかし、それに反するように涼しい顔をしていて、余裕さえ見える顔をしていた。

 

「だね。にしても雑魚ばっかりだけど数が揃うとこんなに面倒くさいとはねぇ…」

 

 『おかけでスッゴいイライラしたよ…』と言ってライラは足元に転がったアイテールの首を睨み付ける。その他にもセクメト、テスカトリポカ、ディアウス・ピターのような禁忌種の死体ばかりが倒れていた。

 禁忌種の群れを数日間相手にして、涼しい顔をしながら雑魚扱いする様子が底の知れない彼女らの戦闘力を示していた。

 

「そうね。余計な手間ばかりかけさせてくれるわ…早く片付けて戻りましょう…」

 

「そ、そうだねー…」

 

 相変わらず恐ろしい顔をするシェリーを見て、ライラは早く帰っておっかない雰囲気を放つシェリーから解放されたいと心の内で思っていた。

 

(ほんと、ユッキー君の事になると余裕なくなるんだよなぁ…)

 

 シェリーがユウキの事となると焦りや怒りが顕著に現れる理由は知っている。しかしそれはライラ自身にはどうしようもない事なので、早くシェリーが自分の手で、願わくばシェリーにとって最良の形で決着をつけて欲しいものだと思いながらライラは近くのアラガミからコアと素材を剥ぎ取っていった。

 

 -訓練室-

 

 普段はユウキが訓練の相手をしているが、今回は時間が取れたツバキがオウガテイル、コクーンメイデン、ザイゴートのホログラムを相手にするユリの戦闘を観察して檄を飛ばしていた。

 

「ユリ!!いつまでも避けてばかりでは敵は倒せんぞ!!攻撃を避けたら反撃しろ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 正面のオウガテイルの噛みつきを後ろに避けた後、数秒遅れて右からコクーンメイデンのレーザーが飛んでくる。さらに後ろに下がってレーザーを避けると、オウガテイルの後ろからザイゴートが体当たりを繰り出してきた。それを左に跳んで避ける。

 すると何度か反撃の機会があったにも関わらずに避けてばかりでツバキから怒られ、ユリは避けたザイゴートを連続で斬りつける。

 

(ツバキさん、鬼教官だなんて呼ばれる程に厳しい人だと聞いてたけど、思ったより優しい人だな…気を使ってくれてるのか訓練もそんなにキツくない)

 

 続いて動かないコクーンメイデンに向かいながら、ツバキの鬼教官っぷりを聞いていたのだが、想像していたよりも楽な訓練だと思っていた。そのままオウガテイルも倒すと、ツバキは次の訓練を開始した。

 

 -食堂-

 

 午前中のツバキの訓練を終え、昼食のため食堂に行く途中、アネットとフェデリコと会い、ユリはそのまま3人で食事をする事になり、注文を伝えてテーブルに着く。当然2人の関心は初のツバキ監修の訓練についてだったので、自然と話題は訓練についてのものになった。

 

 

「どうでした?ツバキさんの訓練」

 

「キツイ…とは聞いていましたが、普段の訓練を知ってるのか加減してくれてましたね。そこまで苦ではなかったですよ」

 

「…ツバキさんならそんなことで加減しなさそうなんだけどな…」

 

 ツバキの訓練を体験したアネットとフェデリコからしたら、ユリの口から案外大したことないと答えが来たのは予想外だった。想像以上に斜め上な回答に2人はどんな反応をしたらいいのか困る事になった。そんなこんなでしばらく話をしていると、トウカが器用に3人分に加えて自分の食事を持って現れた。

 

「お待たせしました!!アネットさんのグーラシュ、フェデリコさんのナポリタン、お姉ちゃんにはサンドイッチだよ!!」

 

 ちょうど休憩になるトウカは3人から受けた注文の品を渡すと、ユリの隣に座ってユリと同じサンドイッチを食べ始める。

 

「ねぇお姉ちゃん、さっきツバキさんの訓練がどうって話してたけど、本当に大丈夫だったの?ツバキさんの訓練は相当辛いって聞いたけど?」

 

「うん。ユウキさんの訓練内容を知ってるのか、そんなに辛くなかったよ」

 

((それだけ先輩の訓練がキツいんだろうなぁ…))

 

 トウカは食べる合間に聞こえてきたツバキの訓練について聞いてみた。噂では最初の訓練で音を上げる者が多いと小耳に挟んでいたので少し心配していた。だがユリのケロッとした様子を見る限り本当に何ともないのだろう。かつてツバキの扱きを受けた2人はどれだけ辛かったか未だによく覚えていた。それが思ったより大したことがなかったと聞くと、それだけユウキの訓練が危険なものなのだろうと察して、2人はユリに同情した。

 そうして昼食を終えてしばらく雑談をしていると、ユウキが食堂に入ってきた。

 

「ユリ」

 

「あっはいっ!!」

 

 ユウキに呼ばれたユリは立ち上がり、少し上ずった声で返事をした。

 

「今日は訓練の予定を変更して本来の予定にはなかった実地演習を行う。廃工場エリアに現れた変種のハンニバルを調査する。お前には調査エリアに現れた小型種を掃討してもらう。その後は調査に同行しろ」

 

「分かりました」

 

 ユウキ曰く、特殊なハンニバルの調査にユリを同行させるとの事だった。その前に小型種の掃討任務をユリに任せると伝えると、ユリは緊張した面持ちで返事をした。

 

「出発は30分後だ。携行品と神機の準備をしておけ」

 

「はいっ!!」

 

 ユウキは淡々とした様子で準備をするように伝えると、ユリは対象的に力んでいるのか、勢いよく返事をする。そして伝えることを伝えたユウキはそのまま食堂を出ていった。

 

「初の実戦ですね。頑張ってください」

 

「ハンニバルの調査は気になりますけど、小型種なら落ち着いて相手をすれば大丈夫ですよ」

 

「は、はい!!」

 

 初めて実戦に出る事に緊ているユリにアネットとフェデリコがエールを送る。

 

「お姉ちゃん、頑張ってね!!」

 

「う、うん。初めての実戦…ちょっと怖いけど、行ってくる!!」

 

 トウカも声援を送り、ユリは緊張したまま気合いをいれる様に小さくガッツポーズをして食堂を出ようとする。

 

「いいところ見せて早く未来のお義兄ちゃん捕まえてきてね」

 

「えっ?!なっ!!そ、そんな事の為に任務に行くんじゃないんだよ?!もう!!」

 

 食堂を出るユリに対してトウカは任務で活躍してユウキにカッコいいところをアピールしてくるように言うと、その先の事も想像してユリは真っ赤になって、逃げる様に食堂を出て行った。

 

 -鉄塔の森-

 

 ユウキとユリはハンニバルの調査任務の為、廃工場の待機ポイントまで来ていた。ユウキは周囲を見渡すと近くには小型種が居ないが、気配で少し離れた所にオウガテイルの気配を確認するとユウキは任務の内容を確認する。

 

「まだハンニバルは来ていないようだな…先ずはオウガテイルの駆除だ。その間は俺は手を出さない。自分の力で乗り切れ。後のハンニバルは俺が受け持つ。無理に戦闘に参加しなくていい。危ないと感じたら逃げろ」

 

「…はい」

 

 ユリが相手にするのはあくまでもオウガテイルである事を念押し、ハンニバルの事は相手にしなくていいと伝えるが、ユリは珍しく眉間にシワを寄せて気分が悪そうな顔をしていた。

 

「どうした?」

 

「いえ、ちょっと廃液の臭いがキツくて…」

 

 そう言ってユリは口元と鼻を手で覆った。確かに廃工場から出る廃液は鼻につく嫌な臭いたが、ある程度近づかなければわからない程には希釈されている。それをかなり離れた位置の待機ポイントからでも分かるのは相当に嗅覚が鋭くないと不可能だ。

 ユウキはその可能性に気が付いたが、今はその事に時間を割いている余裕はない。そのため、ユリには強引なアドバイスを押し付ける事にした。

 

「…慣れるしかない。この先、血の臭いや焼け焦げた臭いやらを嫌と言うほど嗅ぐことになる。この程度で嫌気がさしているようじゃ戦場では戦えんぞ」

 

「は、はい…」

 

「オウガテイルは塔の反対側にいる。それじゃあ行くぞ」

 

 ユウキの任務開始の合図で2人は待機ポイントから飛び降りた。ユウキはすぐに塔の縁から縁へと飛び移り、あっという間に頂上へと登った。その様子を感心した様に眺めていたユリだったがすぐに我に返って標的のオウガテイルを探しに鉄塔を迂回して反対側まで走る。すると標的が2体並んで捨てられているガラクタを夢中になって喰い漁っていた。ユリは息を殺して後ろから一気に近づき、手始めに右側のオウガテイルに斬りかかる。

 

「やぁっ!!」

 

 標的のオウガテイルの尻尾を切り裂いた。対してオウガテイルは何が起こったのか確認しようと振り替えるが、その最中にユリがもう一度切りつける。そして振り向ききる直前にユリは一度左に跳び、もう一体のオウガテイルに切りつけた。

 

「っ!!」

 

 しかしその瞬間、オウガテイル達が姿勢を落とし尻尾を振りかぶる。それを見たユリはすぐに後ろへ下がった。すると最後に攻撃したオウガテイルは尻尾を振り回して攻撃してきたが、既にユリはその場から離れていたので攻撃は空振りとなった。

 そして最初に攻撃したオウガテイルは尻尾から針を飛ばしてきたので、ユリは前に出て針を避けつつ最後に攻撃したオウガテイルに向かっていく。

 

「ていっ!!やぁっ!!たぁっ!!」

 

 ユリが3回連続でオウガテイルを切りつける。すると切り口から微かにコアが見えてきた。ユリはそれを見逃さず、コアに神機を突き立ててオウガテイルのコアを破壊した。

 さらにユリは残ったオウガテイルに向かっていく。だがオウガテイルは針を飛ばしたときの動作から立ち直っておらず隙だらけだったので、ユリはまず下顎を左から右に横一線、下顎を切り落とす。

 

「これでとどめっ!!」

 

 何が起きているのか分かっていないのか、オウガテイルは一瞬動きを止める。その隙にユリは姿勢を落として今度は逆方向に振って足を切り落として最後のオウガテイルを無力化した。

 

「で、できた…ふぅ」

 

 初めての実戦と言うこともあって緊張が解けたのか、大きくため息をついて脱力する。しかしすぐにコアを回収しないといけない事を思い出して、ユリは捕食口を展開してコアを回収する。

 

「よし、これで私の任務は終わり…」

 

  『グォォォオッ!!』

 

「ッ?!」

 

 敵を倒しきったと思い、完全に油断していた。突然後ろからアラガミの雄叫びが聞こえてきた。振り替えると既にザイゴートが口を開けて迫ってきていた。既に避けられる距離ではなく、ユリは自らの死を連想する。

 

  『バンッ!!』

 

 短い炸裂音が響き渡ると、狙撃弾がザイゴートの頭を上から貫いた。何事かと思っていると、鉄塔の上からユウキが右だけ鞘から抜き、銃形態に変形した神機を持ったユウキが降りてきた。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「対象を倒しても油断するな。後ろから小型種が飛んでくる事なんてそう珍しくもないぞ」

 

「はい…気を付けます…」

 

 ユウキが神機を剣形態に戻しながら隙を見せた事を咎めると、ユリはションボリと落ち込みながら返事をする。

 

「そいつも捕食しろ。必要なら神機の強化にでも使え」

 

「あ、はい」

 

 ユウキに言われてユリは捕食口を展開し、ザイゴートを捕食する。それを見届けたユウキは今度は自身の本来の任務を開始する事にした。

 

「…ハンニバルの調査を始める。ステルスフィールドを展開しておけ」

 

「はい」

 

 ユウキはユリが未知数の相手に発見される可能性を減らす為にステルスフィールドを張る様に言うと、ユリは神機を銃形態に変形させてステルスフィールドを展開する。

 その後、ユウキは右の神機だけを持ったままターゲットを探しに鉄塔の中に入っていき、ユリもそれに続いて行く。

 

「…」

 

「…」

 

 捜索の間、会話はなかった。相手を探し、調査と観察、用がなくなれば奇襲をかけて一気に倒す。見つかるリスクを減らす為にもユウキが口を開かないのは当然の事だった。

 

(き、気まずい…)

 

 しかしユリは一切の会話がない事に居心地の悪さを覚えていた。何か話題はないかと思考すると、直感的に出てきた事をユウキに尋ねる。

 

「あっあの…ユウキさん、ユウキさんは私を助ける以前にはどんな感じだったんですか?こんなアラガミを倒したとか、神機使いになる前とか…」

 

「…」

 

 ユリが聞いてきたのはユウキの過去だった。自分達を救ってくれた人が今までどんな事をしてきたのか、どんな人なのかは誰でも気になるところだろう。

 しかしユウキは自身の過去など語る気はなく、ユリの問いには返事をする事する事なく沈黙を貫いた。

 

「あっ!!人の事を聞くならまずは私の事を話さないとですね。私とトウカはオラクル技術研究者の両親と一緒に研究所に住んでたんです。何でも特殊なオラクル細胞の研究をしていたそうなんですけど…研究所に黒い羽を持ったアラガミが突然現れて、そのまま両親含めて大勢の人が黒い羽のアラガミに…」

 

「…」

 

 ユリはユウキの沈黙を自分にだけ語らせるのはアンフェアだと言いたいのだろうと思い、自分の事を話し始める。その中に研究所での生活や両親の事、その生活が『黒い羽』のアラガミによって崩れ去った事を語っていく。

 

「何とか逃げ延びた人達と一緒にキャラバンを組んで居住区の外で生活していたんですが、日に日にアラガミの襲撃で犠牲者が増えて、最後には私達姉妹だけになってしまったんです」

 

「…そうか」

 

 しかし、案の定居住区の外で生きる事は容易ではなかった。ひとり、またひとりとアラガミの犠牲になっていき、最後にはユリとトウカの2人になった事を話したが、ユウキは興味が無さげに静かな声で返した。

 

「だから、ユウキさんにはすごく感謝してるんです。神機使いにもなれて、妹と一緒に生きる力をくれた。そして神機使いになった今なら…きっと、お父さんとお母さんを殺した…黒い羽のアラガミを…ん?」

 

「どうした?」

 

 絶望の縁に居た姉妹だったが、そんな状況から救いだしてくれた事に感謝の言葉を述べていると、ユリが何かに気づいたような声をあげた。

 

「いえ、何だか焦げ臭い気が…」

 

「何…?」

 

 異変に気づいたユリはスンスンと匂いを嗅ぐと、大気やその中のチリが高熱で熱せられている時のような焦げ臭さを感じたユリが報告すると、ユウキ鉄塔の影に隠れて耳を澄ませてみる。

 

「…確かにいるな」

 

 微かにハンニバルのものと思われる咀嚼音が聞こえてきた。聴覚が優れているユウキでもかなり集中しないと聞こえない状況でも、ユリには匂いで普通に察しが着く事から、ユウキの予想通り嗅覚が優れていると結論着けた。

 そして鉄塔の影から顔を出すと、待機ポイントの近くで、白い身体に紫色の差し色をした普通とは違うハンニバルが資材を捕食していた。そして周囲を見渡し、ユリが待機する場所を考える。

 

「ユリ、あの高台が見えるか?あの上から可能な限り身を隠しながら敵を狙い援護しろ。撃てると思った時だけでいい。無理だと思ったら支援するな。わかったな」

 

「はいっ!!」

 

「それから、撃ったらステルスフィールドは解除される上、敵にも見つかる。ハンニバルの攻撃には遠距離に対応したものもある。自身の周囲に異変を感じたら後の事は気にせずすぐに逃げろ。始末は俺がつける」

 

「分かりました」

 

 ユリはステルスフィールドを展開したままハンニバルの後ろを通りすぎ、高台に登った事を確認すると、ユウキは左手の神機も抜き放ち、鉄塔の影から出て駆け出した。

 

  『グォォォオオ!!』

 

 だが、ユウキが飛び出す瞬間に気配に気付いたのかハンニバルは雄叫びと共にユウキの方に走る。すると踏み込む瞬間に『ボゴッ!!』と鈍い音と共にコンクリートで舗装された地面が砕けた。そして次の瞬間にはハンニバルはユウキの眼前まで迫り、右の拳を振り上げていた。

 

(速い!!)

 

 油断したつもりはなかったが、事前情報が無く、自身の知っているハンニバルをはるかに超える超スピードで接近してきた事で反応が一瞬遅れる。その間にハンニバルが右の拳でフックを放ったと思ったら、既に左のフックが振り終わっていた。

 しかし反応は遅れこそしたがハンニバルの動きは見えている。ハンニバルの拳を紙一重で後ろに下がって避けるが、大きな拳と尋常ならざる速さで繰り出された2回のフックからは強い風圧が発生して、ユウキをさらに後ろへ押しやってフラつかせた。

 そしてハンニバルが追撃に左の裏拳を放つ。ユウキは咄嗟に左の神機で装甲を展開して裏拳を防いだ。その際、敢えてフラついた体勢を整えずに勢いに任せて吹っ飛ばされる。飛ばされながら空中で体勢を整えて壁に着地してハンニバルを睨むと、既にハンニバルは右手に紫炎の剣を作って接近して追撃の体勢を取っていた。

 ハンニバルが紫炎の剣を振り下ろすが、その追撃よりも先にユウキが壁を蹴り、紫炎の剣の横を通りすぎてハンニバルに迫る。そしてハンニバルとすれ違い様に頭を左の神機で斬り裂くと結合崩壊を起こした。

 

(成る程、こう言う方向に進化する個体も存在するのか…バルファ・マータと言い、外見が近くとも今までと同じ…と言うわけにもいかない可能性が高くなってきたな…)

 

 ユウキは考え事をしながら右の神機を地面に突き立てて急ブレーキをかけつつ反転する。その間にハンニバルは左手に紫炎の剣を作って振り返り様に横凪ぎに剣を振る。

 対してユウキは刺した神機を引き抜きながら地を這うように姿勢を落とす。そのまま地を蹴って地面スレスレで突っ込み、両手を外から内に振って追撃する。だが振り切った頃にはハンニバルはその場から姿を消していた。

 だがユウキはどうにか動きを捉えていたのでハンニバルが上にいる事は分かっていた。上を見るとハンニバルは紫炎の槍を作って超高速で落下してきた。ユウキは後ろへ下がってこれを避けるが、ハンニバルは左手で再度剣を作って横に振るが、それをユウキは右の神機で装甲を展開して防御する。

 

(な、なにこれ…ハンニバルもユウキさん速すぎて全然目で追えない…)

 

 ユウキとハンニバルからしたらそれなりの時間を動いた感覚だったが、遠くから見ていたユリには10秒にも満たない時間で超高速で動き回っているため、殆ど残像が動き回っている様にしか見えなかった。

 そんな中、ユウキは展開した装甲をしまいつつハンニバルの懐に飛び込ん

だ。ユウキはハンニバルの胴体を一刀両断すべく右手の神機を横凪ぎに振るが、ハンニバルが左手の籠手で防御するとユウキの一撃で籠手が結合崩壊を起こす。

 

「チッ…」

 

 このままトドメをさすつもりだったが、ハンニバルの反応が想像以上に速く防がれてしまった。ユウキは舌打ちしながらも間髪入れずに上に跳び、ハンニバルの首をはね飛ばそうと左の神機を横に振り切って斬りつける。

 だがハンニバルは急に姿勢を大きく落としながら走り出した。するとユウキの神機はハンニバルの逆鱗を破壊して、ハンニバルの背中からは紫炎の羽が生えてきた。

 ユウキが追撃しようとしたが、ハンニバルが先に振り返って尻尾を振り羽ましてユウキを牽制する。ユウキは後ろへ少し下がって尻尾を避けるが、その間に両手に紫炎の剣を作ってハンニバルは一歩踏み込むと、左手の剣を横凪ぎ振る。ユウキは一気に姿勢を落として剣を避ける。するとハンニバルは右の剣を振り下ろし、ユウキは小さく左に跳んで避けたが、ハンニバルが追撃に右の剣を外側に勢いよく振った。ユウキはハンニバルに向かって飛び込む事でハンニバルの剣を飛び越えると、再度ハンニバルの左側の剣が下から追撃が迫ってくる。ユウキは左の神機を下に向けて防御すると、上に軽く跳ね飛ばされる。その隙にハンニバルが最後の追撃をしようと振り上げた剣を振り下ろそうとする。 この間、ハンニバルとユウキがほぼその場から動かない時間が数秒できた。その数秒間でユリはハンニバルの動きを捉える事ができ、ユウキの支援をしようと銃口をハンニバルに向ける。

 

(今だッ!!)

 

  『バンッ!!』

 

 炸裂音と共に狙撃弾がハンニバルに向かっていくが、狙撃弾はハンニバルの眼前を横切って、追撃しようとしていたハンニバルは一瞬動きを止めた。

 

「外れたっ?!」

 

 当てるつもりで射ったが、結局当たらずじまいとなった。ユリはマズいと思っていたが、ユウキにとっては一瞬動きを止めるだけでも十分だった。

 ユウキは右の神機で穿顎を展開してハンニバルの左肩を喰い、すれ違い様に左の神機でハンニバルの首をはね飛ばす。そして着地と同時にバーストすると、ユウキはその場で右回転して右の神機を横に振ると、ハンニバルは上下に斬り分けられた。

 

「…すごい…」

 

 高台からずっとユウキの戦いを見ていたユリが思わず感想を漏らした。しばらく放心していたら我に返り、ユウキの元に小走りで戻ってきた。

 

「あ、あの…ごめんなさい。最後の狙撃、外してしまいました…」

 

「…いや、あれで良い。よくやった」

 

「あ…は、はいっ!!」

 

 ユリは自身が射った狙撃弾がターゲットに当たらなかった事を謝った。怒られると思っていたのか、半泣きで謝っていたが、ユウキにとっては一瞬の隙さえあればよかったので特に気にした様子はなかった。むしろよくやったと誉められたユリは喜びさえ覚えていた。

 

「素材を回収して撤退するぞ」

 

 ユウキがコアと素材を回収し、研究用のサンプルを回収する間、ユリも素材を回収する。回収後、2人は揃って極東支部に戻っていった。

 

 -エントランス-

 

 ユウキとユリが任務から戻ってくると、ちょうど実家から帰ってきたコウタと鉢合わせた。一瞬互いに目線を合わせ、コウタが気まずそうにしてその場で立ち止まったが、ユウキは特に気にする事もなくコウタの隣を通りすぎる。

 

「…っユウ!!」

 

「…?」

 

 突然コウタに話しかけられて、ユウキは振り返る。

 

「正直、まだユウが何をしようとしてんのかよくわかんない…だから、まずはユウのやろうとしてる事を見極める。それで、間違ってたら…止める…力ずくでも…絶対止める。それをやるのが仲間だと…親友だと思うから」

 

「…好きにしろ」

 

 そう言うとユウキはその場を離れる。すると『おうっ!!好きにするっ!!』と言ってコウタもその場から去っていった。

 

To be continued




あとがき
 ようやっと仕事が落ち着きはじめた私です。おかげで仕事以外の事ができなかったぞチクショウ…
 そんなこんなでお話はユリの仇やハンニバル神速種と殴り合ったりコウタと和解(?)しました。神速種はなぁ…殺意は高いけどもモーションは原種と変わらないのですぐに慣れて楽しみはあまり長続きしなかった気がします。
 コウタはとりあえず様子見と言うことで落ち着きました。相手が何する気かわからない以上、下手に動かずに情報を得てから動く方が無難な気がします。
 コウタの悩みを見抜いた母ちゃんの如く、現実でも母ちゃんに悩み事を見抜かれていた気がしますねぇ…

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