GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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さあ、神機使い解体ショーの始まりや
※今回ほとんどがヒトコロ描写です。詳しく描写してないので大丈夫だと思いますが問題あるようなら対策します。


mission109 鬼神

 -エイジス-

 

 ガーランドが宣戦布告をしている間、エイジスの管制塔頂上の上から即席の設備で吊るされたモニターには襲撃を受けている極東支部が映し出されていた。それはガーランドの宣戦布告の後も流れ続け、ガーランド本人やアーサソールだけでなく、エイジスに連れてこられたユウキとペイラーの目にも映っていた。

 

「どうです?中々に壮観でしょう?」

 

「君は…自分が何をしているか分かっていないようだね…」

 

 極東支部と外部居住区が煙を上げる景色を見て上機嫌になっていたガーランド…それを見たペイラーは糸目を微かに開いてガーランドを睨む。その表情と声色から怒りが滲み出ていた。

 

「フェンリルに来た時も思ったが、教鞭を振るっていた頃とはまるで別人だ…一体何が君をそこまで変えた?」

 

「…今の時代でそんな事を聞く意味があると思いますか?」

 

 アラガミに喰い荒らされた世界では悲劇なんてそこら辺の石ころの如く身近に溢れている。誰だってある日突然全てを奪われ、今までとは真逆の考えに固執する様になるなんて珍しいくもない。世界の現状からペイラーはガーランドの裏事情を大方察する事ができた。

 

「それよりも…この映像をお2人に見せる意味、お分かりですよね?」

 

「私達を抱き込むつもりなのだろう?だが素直に従うと思うのかい?」

 

 今回の襲撃は、襲われる極東支部を見せる事で極東支部全体を人質としてペイラーとユウキとの交渉材料に使うためだった。しかしペイラーはガーランドが支配する世界になれば今よりも悲惨な世界になることは目に見えている。ペイラーはガーランドの勧誘を断る。

 

「構いませんよ。 このまま外部居住区の人間が贄として犠牲になっていくだけですから」

 

「クッ…!!」

 

「まあ、貴方の答えは後からでも構いません。計画の要ではありませんので…」

 

 しかしペイラーが勧誘を拒否したところで極東支部の被害が大きくなるだけだと不敵に笑う。そして歯軋りするペイラーには大きな支障はないと言い放ち、そのままユウキの元までゆっくりと歩いて来た。

 

「神裂君…君はどうする?私の計画に乗れば、この攻撃を止め、世界の支配者たる私の腹心としてのポジション与えましょう。どうです?悪い話ではないかと思いますが?」

 

 今度はガーランドの支配する世界でユウキには高い位のポストを与えると言って勧誘する。しかしユウキ特に興味を示す事なく無表情でガーランドと視線を合わせ続けている。

 

「…40点」

 

「…ん?」

 

「…え?」

 

 突然ユウキが何かを採点したようだが、ペイラーとガーランドは何の事を言っている事を言っているのか分からず困惑した。

 

「この状況を採点するとしたらせいぜい40点…そう言ったんだ」

 

 対してユウキはおかしな事を言っている自覚が無いのか、変わらず無表情でガーランドが作り出したこの状況を冷静に採点する。

 

「人質が多数居るのは高得点だ。しかし数が多すぎる。これでは俺の知り合いが死ぬ確率よりも知らない奴ばかりが死ぬ可能性の方が高い…これでは人質として機能しない」

 

 ユウキは多数の人質を取った事は評価できるとあっけらかん採点内容を話していく。

 

「次点で俺の目の前に親しい者を人質として数人用意しなかった点は大きな減点だ。実際に目の前で殺し、次もある、その次もあると認識させれば交渉で優位に立てる。それに、複数の人質はこちらの動きを高確率で封殺する意味でも有効だ。それから最後の減点要素は…」

 

 そして淡々と人質を使った交渉術と同時に反撃を封じる術を用意しなかった事は減点対象だと言う。

 

「お前はアナグラの戦力を過小評価しすぎだ。アイツらはこの程度の襲撃は乗り切れるぞ…」

 

 ガーランドに最後の減点対象を話すユウキは何時もよりも鋭い目付きに変わっていた。しかしそれを聞いたガーランドは後ろにゆっくりと下がりながら左手で顔を覆い下を向いた。

 

「クッ…フフフッ…アハハハハッ!!!!」

 

 ユウキの話を聞いたガーランドは突然今まで聞いた事の無い程に大笑いして、隣のペイラーは絶句してユウキを見ていた。

 

「人を数字としか見ないとは…中々の狂人っぷりだ…いやはや、君は人の上に立つ素質がありますよ」

 

 人の上に立つ者には時に冷徹な判断をしなければならない時がある。例えば大きな企業のトップともなれば、組織存続に必要な少数の為に大多数の顔も名前も知らない社員の首を切る事もある。紙面上に書かれた名前と数字には大切な人のや恩のある人など無い、人を人とも思わない感覚が必要になる時もある。

 しかしユウキはなんの迷いもなくそれをやってのけた。しかも人…命を奪うことを1つの通過点としか見ていない。人をムシケラとも思わないやり方にガーランドはある種の称賛と皮肉を送った。

 

「しかし分からんな…これだけのアラガミを操れるのならば、アーサソール…いや、新型神機使いを揃える必要は無いだろう。何でこんな面倒な事を?」

 

「何、新型神機使いを操る術は確立できましたが、アラガミとのコンタクトは新型神機使いでなければ成功しなかったと言うだけのこと。それ故、感応波発生装置を作り、それを受信するヘッドギアを新型達に装備させて意のままに操ったのです」

 

 ガーランドが一頻り笑った後、何故そこまで笑うのかと思ったが、そんな事よりもずっと疑問だった新型神機使いを集める理由、集めた上で反抗の可能性を潰した手段をガーランドに聞いてみる。するとユウキの狂った一面を見たガーランドは気を良くしたのか、とても愉快な様子でユウキの疑問に答えていく。

 

「あとは新型の感応波を再びヘッドギアを介して周囲に拡散し、それにアラガミがかかると洗脳できると言うわけです」

 

「…その感応波発生装置の有効範囲がどの程度かは知らんが、ここに設置したとしてかなり離れた極東支部まで届くものなのか?」

 

「勿論対策済みです。ここを発信源に中継機を海上や居住区に設置して感応波の強度を確保してます」

 

 ガーランドがベラベラと話してくれたお陰で計画の核となるものが見えてきた。エイジス管制塔のどこかにアーサソールを操る感応波発生装置が事態終息のカギとなりそうだ。

 ユウキはこの後の動きを思考しながら『時間稼ぎ』にすでに分かりきった事をガーランドに問いかける。

 

「成る程、これで合点がいった。それでアーサソールを使って操ろうとしているのが…そこのデカブツって訳か…」

 

 ユウキが視線を上げると、そこには巨大なカプセルに入った一つ目に無数の触手が生え、頭頂部に巨大なコアが剥き出しになった肉塊が浮いていた。

 

「そうです。私の研究の成果であり究極のアラガミ…その前段階です」

 

 ガーランドはカプセルに歩み寄ると、それに触れながら答えの分かりきった質問に答える。

 

「あとはアルダ・ノーヴァのコアを撃ち込めば、究極のアラガミ(フェンリル)が完成するのです」

 

 そう語るガーランドの頭上…正確にはカプセルの上にはアーサソールの一人が銃形態で一つ目のアラガミを狙っていた。そしてその神機にはかつてヨハネスが自ら取り込まれたアルダ・ノーヴァ…そのコアを素材にしたコアバレットが装填された。

 

「射ちなさい」

 

「止めるんだ!!」

 

 ガーランドの無慈悲な命令で構えていたアーサソールはバレットを発射する体勢をとり、ペイラーが止めようと声を上げる。

 

「大丈夫ですよ」

 

 しかし、ユウキが大丈夫と言った瞬間、『バンッ!!』という発砲音と共にアルダ・ノーヴァのコアが肉塊に撃ち込まれる。その瞬間、一つ目が大きく見開き、肉塊が脈動して変態し始める。

 

「結局こいつを倒せばガーランドの計画はご破算…やることは何時もと変わらない」

 

 肉塊が少しずつ姿を変えている中、計画の要である究極のアラガミを倒せば実質計画の遂行は不可能となると言うユウキは何時もと変わらぬ無表情で淡々と話していく。

 

「戦って…殺すだけだ」

 

 ようやくユウキの目付きが少しだけ鋭く変わる。だがその目付きや雰囲気からは殺意も闘志も感じられない。感情らしきものが何も感じ取れない事に違和感を感じつつも、ガーランドは次の手に進む為にユウキに語りかける。

 

「余裕を見せていますが、私が計画の核心部を話した意味…分かりますよね?」

 

 所謂冥土の土産と言う所だろう。ガーランドは数的有利を取っている上に、この場に居るのは全て自慢のアーサソールだ。この事実から得意になっている事もありここまで話したが、ユウキがこちら側に着くのならそれに越したことはない。ガーランドはこの状況を利用して最後の交渉に出る。

 

「私のアーサソールに囲まれ神機もなく、両手を拘束されている。更にはペイラー榊と言う足手纏いも居る…この状況で生き残れるとでも?」

 

「足手纏いと言う意味ではお前も同じだが…まあ、このくらいのハンデがなければ勝負にならないだろう」

 

 ガーランドの言う通り、ユウキとペイラーの両手は繋がれていて、アーサソールに囲まれている。

 普通に考えれば従わなかった瞬間に蜂の巣にされるのが目に見えている為、命惜しさにガーランドの側に着くだろう。しかしユウキはこの状況下でも生き抜く自信があるのか、何も感じないにも関わらず余裕があるように思えた。

 ガーランドはこれ以上は時間の無駄と察したのか、最終確認をすることにした。

 

「我々のもとに来る気は無い…そう受け取ってもよろしいですね?」

 

「当然」

 

「ククク……残念ですよ。君の戦闘力や感応能力…フェンリルの飼い主にふさわしい力、そこは高く評価していたのですがね」

 

 静かに嗤うガーランドだったが、ユウキの能力を評価していたのは本当だろう。でなければユウキを計画に引き込む事などしなかったが、断られたのであれば障害でしかない。ガーランドはユウキとペイラーを抹殺した時の計画で動く事にした。

 

「では、お2人には新たに訪れる世界…私が支配する世界の為の生け贄となっていただきます」

 

「やってみろよ…そこの木偶の坊もろとも貴様ら全員を滅ぼしてやる」

 

 ガーランドは右手を上げる。その指示でアーサソールは神機を構えてユウキとペイラーを狙う。対してユウキは減らず口を叩いくが、ガーランドが手を下ろすと、遂にアーサソールの神機から発砲された。

 その瞬間にユウキは腕を伸ばしてペイラーを両腕で下から掬う様に抱え、ペイラーの首元の服を咥え、そのまま回転して後ろを向く。

 一見アーサソールによって小さな円陣、その外側に大きな円陣二重に囲まれていて逃げ道は無いように思えた。しかしお互いに射線上に立たないよう互い違いに立っていたので、当然弾丸が飛んで来ない場所がある。ユウキはそこに向かって一気に駆け出した。

 第一の包囲網を抜けると、今度は外側の包囲網に配置されたアーサソールの一人が剣形態で斬りかかる。しかしそれよりも先にユウキは上へと跳び攻撃を躱すと、管制塔の出口に着地してペイラーを放した。

 

「い"ッ?!」

 

 尻から落とされたペイラーは普段は出さないような呻き声を出したが、ユウキは気にせずに再びアーサソール達の元に大きく跳躍した。

 両手を繋がれたままユウキはアーサソールの円陣の近くに着地するが、当然すぐさまアーサソールが追撃してくる。そしてその隙にペイラーはその場から逃げ出した。

 その頃にはアーサソールがユウキの正面から斬りかかってきた。ユウキは軽く後ろに跳んで躱すと、再度横に振って頭へと追撃してくる。それをバク転で避けて、そこからさらに後ろに下がる。

 そして追撃にユウキの左右の斜め後ろからアサルト神機で十字砲火を浴びせるが、ユウキは前に出て先程斬りかかってきたアーサソールへと一気に接近する。今度は縦に振り下ろすが、ユウキは右側を前に出しつつ半身になって避けると、アーサソールの左肩に手を置いて軸にして転回して後ろを取る。

 

「ほら、こっちだ」

 

 振り返ったユウキは手を繋がれたまま右手で挑発する。すると前からではなく後ろから狙撃弾が飛んでくる。ユウキは左に逸れて躱すと、前に居た敵が回転しながら横凪ぎに神機を振ってユウキへと攻撃する。しかしまたもや後ろに下がって躱すが、前からはアサルトによる連続射撃、後ろからはスナイパーによる狙撃が飛んできた。

 ユウキはしゃがんで避けて右へ大きく跳ぶ、また後ろから狙撃弾が発射された事で少し戻って避けると、今度は前から横凪ぎの斬撃、後ろから弾丸の雨がハサミの様に迫ってくる。ユウキはまたしゃがんで避けると、その状態から一旦軽く後ろに下がった後、アーサソール達を飛び越えた。

 

「遅い遅い」

 

「チッ!!ちょこまかと!!」

 

 今度は言葉と何処か愉しげな表情で挑発する。ここ最近で無口で無表情になったユウキが珍しく表情を作り、よく喋る様になっていた。この状況を見ていたガーランドは何処か違和感を感じていたが、多勢に無勢…いずれは死に絶えるだろうとガーランドは楽観的にこの状況を見ていた。

 ユウキが着地する直前にまた別のアーサソールが横に刀身で攻撃してきた。ユウキは頭を下にして敵の刀身に手を着いて避けつつ、攻撃してきたアーサソールの後ろに着地する。

 

「どうした?非武装の神機使い1人に攻撃を当てる事も出来ないのか?」

 

 攻撃を避けられたアーサソールがその場で回転して、後ろへと斬りかかる。ユウキは前に出てそれを躱してエレベータの方へと走り出す。そのついでに再び言葉での挑発を繰り返す。

 

「まさか戻ってくるとは。あのまま逃げておけばしばらくは生きていられたものを…」

 

「なに、少し気になった事があってな」

 

 今度はガーランドがユウキを挑発するためにわざわざ死にに戻ってきたのかと尋ねる。するとユウキは気になる事があるからと答えつつ、エレベータの近くで横から飛んでくるモルターバレットをジャンプで避ける。

 

「感応現象を使ってどんなに自我を抑え込んでも、動物的本能ってやつまでは抑えられない。何せ自我も思考も介して居ないんだからな。だから試したい事がある」

 

 喋りながらもユウキは空中で自身を正面から狙う狙撃弾を身体を左に捻って避ける。さらにいつの間にか目の前にアーサソールが現れ、逆袈裟斬りでユウキを真正面から斬ろうとする。それをハンマーの様に右から刀身に叩き付け、一気に下へと降りる。

 

「命の危機を自覚したコイツらは…一体どうなるか…とかな…」

 

 そのまま背中を下にして、足のバネだけで無理矢理エレベータの方へと跳ぶ。しかしアーサソールが回転しながら下から掬い上げる様な軌道で斬りかかる。ユウキは手を上にして床に手を着き、腕の力も使って急加速してこれを避ける。

 そして手を着いたまましゃがむ体勢に直して1度足を着き一気に床を蹴って背中からエレベータの方へと大きく跳んだ。そのほんの数秒後、エレベータの扉をぶっ壊してジープが塔の頂上に突っ込んできた。

 

「ユウッ!!」

 

 アリサの声が響き渡る。その瞬間、ジープに積んであったユウキの神機が勝手に起動し、ユウキの元へと『飛んで行った』。

 

「「「なっ?!?!」」」

 

 その場に居た第一部隊だけでなく、アーサソール、さらにはガーランドまでが神機の遠隔起動に浮遊する事態に驚いている中、さっきまであった表情が消え、抑揚も無くなったユウキの声が小さく響き渡る。

 

「…時間切れだ」

 

  『バキッ!!』

 

 呟いたユウキは両手を繋いでいたゴツい手枷を軽々と引きちぎる。そして後ろからアーサソールが迫ってくる中、飛んで来た2つの神機を掴むと、空中で右回転して後ろを向いて右の神機を振り抜いた。

 

  『『ブシャァッ!!』』

 

 後ろを取っていたアーサソールが無表情となったユウキに一瞬で斬られ、2人共胴体から上下に斬り分けられて大量の血が吹き出した。

 

「ッ?!」

 

「なっ?!」

 

「…え?」

 

 人を斬り、あまつさえ命を奪う…衝撃的な場面を見た事に第一部隊は着いた早々に言葉を失った。

 

(ユウが…人を…斬った?何の…迷いもなく…?)

 

 アリサは目の前で起きた事が信じられず、目を見開いたまま絶句した。それはアリサだけでなく、ソーマやコウタも同じだった。しかもそれをやったのは、優しさから甘いとさえ言われ、果てにはアラガミと戦う事にさえ躊躇した自分達の仲間だった事がより大きな衝撃を与えていた。

 しかしユウキは第一部隊の事などお構い無しに戦い続ける。着地隙を狙って3人のアーサソールが狙撃弾を射つ。ユウキは一気に前に出ながら左の神機を外から内に振って前から飛んで来た狙撃弾を斬り捨てる。その直後に両手の神機を銃形態に変形して左右斜め前のアーサソールの胸部を撃ち抜いた。

 残ったアーサソールは再び狙撃弾を射つが、それを右に躱してユウキは再び一気に前に出る。しかしまた別のアーサソールが標的のさらに2人が後ろからアサルト銃身でオラクル弾を撃ってきた。対してユウキは低姿勢になって避け、地に身体を這わせる様な姿勢のまま一蹴りで標的の前に出る。対して標的のアーサソールは眼前のユウキへ神機を剣形態に変形して上から神機を振り下ろす。だがユウキは回転して神機を空を切らせつつ、左の銃身をトンファーの様に構えて頭を狙いつつ、右は心臓に照準を合わせる。

 

  『『バンッ!!』』

 

 ユウキが撃った狙撃弾が標的の頭と心臓を撃ち抜いた。次の瞬間、ユウキは撃ったアーサソールを右足の後ろ蹴りで蹴り飛ばす。右にずれて飛んでいった敵の影に隠れて、体勢を直しつつユウキも続く。

 ユウキは相手に見えない状態で両手の神機を剣形態に戻しつつ、右に回りながら蹴り飛ばした敵ごと狙撃してきたアーサソールを斬り倒す。即座に右へと跳んで次の狙撃者へと向かっていく。その際、別のアーサソールがアサルトタイプの神機でオラクル弾を偏差射撃でユウキの眼前に撃ってきた。

 

「…」

 

 ユウキは急ブレーキをかけて一瞬止まると、上に跳びながら狙撃者に向かっていくが、真正面から狙撃弾が飛んできた。左の神機を上に掲げてインパルス・エッジを撃ち、その衝撃で急激に下へと降りるが、再びアサルトによる偏差射撃をされたので、今度は右の神機によるインパルス・エッジで、当たるよりも先に前に出る事で躱す。そのまま狙撃者の元に一気に跳び、敵が反応するよりも先に距離を詰めて両手の神機で斬り刻む。

 

「…」

 

 そして先程オラクル弾を撃ってきたアーサソールの元へと駆け出した。その間、何時もと変わらぬ無表情のままで殺戮を繰り返す姿を見た第一部隊には、人殺しに何の疑問も持っていない様に思えた。

 通路に荷物があったからどかして進む…腹が減ったから飯を喰う…酸素を取り込む為に呼吸をする…生きるために心臓を動かす…意識せずともやっている事、生きるために行う行動の様な日常のサイクルと同じ感覚で人を殺めている事に何ら疑問を持っていないであろうユウキの姿に第一部隊は戦慄して思考が止まって動けないでいた。

 そして2人のアーサソールが目の前の惨事を見て動けなかった第一部隊に剣形態の神機を振り下ろす。

 

  『『バンッ!!』』

 

 しかしアーサソールの後ろから狙撃弾が飛んできて、2人のアーサソールの頭を撃ち抜いた。

 何事かと思い狙撃弾が飛んで来た方を見ると、ユウキが第一部隊の方を見ることなく、銃形態にした両手の神機の銃口をこちらに向けていた。

 

「…人を殺せないなら邪魔だ。他所へ援護にでも行け」

 

「なに…言って…」

 

 ユウキの言葉を聞いたコウタは何を言っているのか理解できなかった。そもそも普通は人を殺さない、殺せないものだ。決してコウタや第一部隊の感覚がおかしい訳ではない。しかし、そんな狂った発言をした当の本人は人殺しを何とも思っていないのか、向かってくるアーサソールと戦っている。

 話している間にユウキが両手の神機を後ろに下げた隙を突いて先程ユウキにアサルトタイプの神機でサポートをしていたアーサソールが剣形態で斬りかかる。さらに別の隊員がサポートにアサルトタイプの銃形態でユウキの右側からオラクル弾を連射する。だが、それよりも先にユウキが目の前の敵の懐に入り込みつつ剣形態に変形した事でオラクル弾は躱され、敵の動きよりも先にユウキが右の神機を逆袈裟斬りで下から斬り上げる。

 

「…はぁ、ならこの辺りにアーサソールを操る装置があるらしい。それを破壊しろ。それから、最近ガーランドが居住区に設置した装置もだ。これでアラガミの統率が乱れて戦いやすくなるはずだ」

 

「で…も…」

 

 斬られたアーサソールが鮮血を撒き散らす中、ユウキは未だ動けない第一部隊にため息をつきながら次の指令を出しつつも、斬った敵を今度は左足を外から回して、血が吹き出た敵の上半身を巻き込む様な軌道でオラクル弾を撃った敵に向かって蹴り飛ばす。未だユウキへの追撃を諦めていなかったアーサソール隊員の撃ったオラクル弾は斬られたアーサソールに当たって身体中に穴を空けた所で止まり、ユウキに届く事はなかった。

 結果、肉の盾がユウキへの攻撃を防いだだけでなく、投擲物となって銃を撃っていたアーサソールに襲いかかる。追撃する事ばかり考えていたアーサソールにはこれを避ける事はできず、飛ばされたアーサソール諸とも巻き込まれて盛大に転んでしまった。

 そして立ち上がろうとした頃には既にユウキが眼前まで来ていて、左手で逆手に構えた神機が横凪ぎに振られていた。

 

  『『ブシッ!!』』

 

 アーサソールの2人を纏めて斬り捨て、再度辺りに血を撒き散らした。目も前の惨状にアリサはユウキの指示を理解できる程に頭の整理が追い付いていなかった事もあり、どうにか返事をするのが精一杯となっていた。

 

「…行くぞ」

 

「ソ、ソーマ…」

 

 やっていることはともかく、ユウキの言っていること自体は理にかなっている。ユウキの言う通り、アーサソールを抑えてる間に感応波を止める方が効率的だ。しかし思考が追い付いていない事もあって、アリサは納得いかない様子だった。

 そしてその間もユウキは後ろから狙撃と斬りかかってくるアーサソールを左に反転しながら避けつつ左手の神機で胸部を突き刺し、左手を振って突き刺したアーサソールを超スピードで投げ飛ばして、狙撃していたアーサソールの視界を塞ぐ。その陰に隠れてユウキが一瞬で狙撃手に近づいて投げ飛ばしたアーサソールごと右手の神機を袈裟斬りで振り下ろして両断した。

 

「事が事だ。こんなところで腐ってる訳にもいかないだろ」

 

「…はい」

 

「…」

 

 ソーマの言う事ももっともだ。ここで何もしないでいるよりはアーサソールを操る感応波を止める方がよっぽど効率的だろう。アリサはユウキの狂行を止めるべきだと思っていたが渋々納得し、コウタは戸惑いと軽蔑しているかにも見える鋭い目付きでユウキを睨んだ後、第一部隊は感応波発生装置を探しにいった。

 

「…」

 

 第一部隊の気配が感じなくなった事で指示通りに感応波発生装置を破壊しに行ったのだろうと察していたが、アーサソールを殺したすぐ後に、前から別の隊員が神機を振り下ろしてきた。対してユウキは右足を外から回し、足の裏で刀身の側面を捉えて神機の軌道を横にずらした。完全に振り下ろした後で隙となった相手に、ユウキは右側の神機を横一閃に斬って首を撥ね飛ばし、続いて左手側の2人のアーサソールに向かっていく。

 しかしアーサソール達は銃口を向けるだけで動かない…否、動けないでいた。

 

「…い、いや…やめてっ!!」

 

「…いやだ…死にたくないっ!!」

 

 これまで底知れぬ不気味さを見せる程に感情の無い表情で敵を葬り続けるユウキの姿と、束になっても次々と返り討ちに合う姿を見続てアーサソールは本能的にユウキが向かってくる=死と認識し始めていた。

 本能からくる恐怖で錯乱にも近い状態で向かってくるユウキにアサルトの銃身でオラクル弾を連射するが、ユウキは右へ左へ避けつつ前に出て銃撃しているアーサソールの間に割り込む。

 

「…」

 

 ユウキはその場で回転して後ろを向きながらアーサソール達を胴体から斬り飛ばした。そしてその時に目についた3人をターゲットにして一気に駆け出す。

 

「ク、クソッ!?クソ!!」

 

「う、うわぁぁぁぁあ!!!!」

 

「当たれ!!当たれよ!!早く死んでくれよ!!」

 

 今度はアーサソール達の方が速かった。アーサソールが3人横並びに銃弾を連射して面攻撃を仕掛けてきた。ユウキは上に跳び上がり、右の神機で穿顎を展開してアーサソールに接近する。その途中、ユウキは両手の神機を投擲する。高速で回転しながら神機が左右のアーサソールに飛んでいく。神機を投げると言う普通ならば考えられない戦い方に驚いた事もあって、左右のアーサソールはそのまま回転する神機によって斬り裂かれた上半身が宙を舞った。だが、その後地面に突き刺さると思われた神機はまるでブーメランの様に弧を描いて互いに離れる方向に移動した。

 そして間髪いれずに空中に居るユウキが高速で真ん中のアーサソールに向かって飛んで来て、頭を右手で掴むとそのまま地面に叩き付ける様な軌道で着地する。しかしユウキの腕力と速力に身体が耐えられなかったのか、途中で首が引きちぎられ、叩き付けられたのは胴体だけでもげた首はユウキの右手に捕まれていた。

 そしてすぐにユウキは遠く後ろで狙撃弾を撃ってきたアーサソールに向かって飛びかかりながら引きちぎった頭部を投げつける。

 そしてアーサソールは投げつけられた頭を神機で振り払う間にユウキがすぐ目の前に来ていた。

 

「や、やめろ!!来るなぁぁぁぁあ!!!!」

 

 どうにか剣形態に変形して迎撃する。アーサソールが右上から左下…ユウキから見たら左上から右下に振り下ろしてきた。ユウキは左手を内から外に回しつつ上から下へと底掌で神機の刀身の側面を捉えて下へと軌道を変える。

 そして切っ先を床に突き刺しつつも底掌で押さえた部分を軸に、右半身を前に出すと、右手でアーサソールの首を掴む。万力の様な握力で首を捕まれ、涙と鼻水と涎を垂らしながらジタバタと暴れるアーサソールをユウキはいとも簡単に後ろへ放り上げる。するとブーメランの様に帰ってきた2つの神機が投げられたアーサソールを3つに斬り刻んでユウキのもとに帰ってきた。

 それらをキャッチしたユウキは再び駆け出してアーサソールの攻撃を掻い潜りアーサソールを殲滅していく。

 

「ク、ククク…何ですか…?この状況は…?」

 

 ここまでの戦闘を見ていたガーランドが頭を抱えて静かに笑い始めた。

 

「私のアーサソールが…こうも簡単に…?」

 

 今目の前で起きている事態を信じられず、ガーランドはもはや笑うことしかできなかった。感応現象による現行の神機使いよりも遥かに優れた統率力、自我を抑えた事による痛みや恐怖心からの解放、新型神機の幅広い戦略性…それらをフルに使うための戦闘プログラムを施した感応波による洗脳で最高の部隊を作り出したはずだった。

 それが全く通用せず、たった1人の神機使いに圧倒されているのだ。ガーランドはこれまでの苦労と野望成就の可能性が一瞬で、しかも目の前で無惨に崩れ去っていく様を理解できなかった。

 その間もユウキは無策にも前から斬りかかってきたアーサソールに軽く前に出て右足で蹴りを入れて先制攻撃をした後、右の神機で外から斬り倒した。

 

「とんでもない誤算ですよ…優等生気質な切り札(エース)でありながら…その本性は暴虐の限りを尽くす事も厭わぬ鬼神(ジョーカー)だったとは…」

 

「…」

 

 ガーランド自身、ユウキに関する報告は行方不明を経て帰ってきてから豹変する以前の報告しか聞いていなかった。確かに以前のユウキでは人を殺めるなどと考えもしなかっただろう。アーサソールとの戦闘は圧倒的にユウキが不利

にして、根負けしたユウキが最終的にはアーサソールに加入すると言う流れになるはずだった。だが今のユウキは自らが生き残るためならばどんな相手とも戦うし、どんなことだってやってのける。そこを見誤ったガーランドの目論みは最初から見当違いとなっていた。

 ユウキはガーランドの声が聞こえてくると、アーサソールの数も減ってきた事もあり、そろそろ頭を潰そうかと思い、一気にガーランドの元に駆け出した。もうガーランドの元に行くまでの道に邪魔する者は居ない。一瞬のうちに近づいて右の神機を振り下ろす。

 

  『ギィンッ!!』

 

「お下がりください!!ガーランド様!!」

 

「…」

 

 間に割って入り、ユウキの攻撃を神機の刀身で受け止めたのはレオンだった。ユウキの攻撃が止まった隙にガーランドは義足の事もあり、遅くはあるが走って逃げていった。それを追うためにユウキは即座に左の神機で横凪ぎに斬りかかる。

 しかしレオンは左にズレながら神機を少し後ろに引いて、ユウキの左の神機を真正面から受ける様に装甲を展開してユウキの攻撃を受け止めた。それによって装甲は大きく傷を残してレオンは後ろにふっ飛ばされた。

 

「うわぁぁぁあっ!!」

 

 ユウキがレオンの相手をしているうちに後ろから悲鳴にも似た咆哮で残り僅かとなった生き残りのアーサソールが右上から斜めに振り下ろす軌道で斬りかかる。対してユウキは身体ごと左足を外から後ろに回して脹ら脛で刀身の横を捉える。神機の軌道を変えつつ足を回し続けてアーサソールの頭も捉えると、そのまま頭ごと床に足を叩き付けて潰してしまった。

 そして左からは剣形態、右からはブラストタイプの銃形態で構えている2人のアーサソールが攻撃体制を取る。ユウキは右に跳びながら左に神機を投げると、剣形態で斬りかかろうとしたアーサソールの肩に突き刺さる。迎撃に放射バレットを撃ったが、ユウキが銃身を右足の回し蹴りで蹴りつけたせいで射線がずらされ、ユウキに当たる事はなかった。

 今度は背中を見せる様に身体を捻りつつ、左足でアーサソールの顎を蹴り上げる。そして再度回転して、蹴ったアーサソールに背中を見せる様に回転しつつ右の神機で斬り捨てる。

 最後に神機を突き刺したアーサソールの元へ一気に跳ぶと、突き刺した神機を掴んで一気に振り下ろす。

 

 『ズシャッ!!』

 

 盛大に血を吹き出して倒れたのを確認すると、ユウキはガーランドにトドメを刺しに行くべく追いかける。

 

「行かせないっ!!」

 

 しかしレオンがユウキと真っ正面から対峙する。どうあってもガーランドを庇うつもりのようだ。レオンが神機を右から左へと横に振る。ユウキは左の神機で装甲を展開して受け止める。即座に右の神機を外から横に振ったが、それよりも先にレオンが前に出てタックルを食らわせる。

 ユウキは体勢を崩して後ろに軽く飛ばされる。その隙にレオンは反対に神機を振るが、ユウキはバックステップで更に大きく後ろに下がって躱す。これを好機と見たレオンは一気に前に前に出て、右上に神機を構える。対してユウキは下がった時のバネを使って両腕を後ろに下げながら前に出る。間合いに入る直前、レオンが先に振り下ろす。それをユウキは左の神機で受け止める。するとユウキは左腕を外側へと流すと、レオンの神機は右側へと勝手に逸れていく。

 

「なっ?!」

 

 一瞬何が起きているのか分からなかったが、何故自身の攻撃が勝手に逸れたのかはすぐに分かった。

 ユウキが攻撃を受けた刀身は逆手に構えられていた。攻撃を盾代わりに受けてさらに腕の力を適度に脱力させて、刀身を腕全体に沿わせる。その状態で腕を外に振れば後は振り下ろした神機が受けた刀身をレールにして勝手に滑り落ちて行けば、あとは無防備となった身体へ斬るだけだ。

 

(まさかこの構え…コイツ、始めから対人戦を想定してっ!!)

 

「…」

 

 あまり見ない上に、アラガミとの戦闘では役に立ちそうにない構えに疑問を持っていたが、それがまさか人間と戦う為の構えとは思わなかった。レオンがその事に気付いた時には既に神機はユウキの外側に流され振り切っていて、身体全体が右を向く様に体勢を崩していた。しかもユウキの神機がレオンの背中を斬り裂こうと外側からすぐそこまで迫っていた。

 

 『ブシャァッ!!』

 

 ユウキが神機を横凪ぎに振り切り、鮮血を吹き出しながらレオンの身体が上下に分かれた。

 しかしユウキは特に気にする様子もなく、さっきからの無表情を崩さずに、左にの神機を順手に持ち変えてから神機を振って血を吹き飛ばす。

 

「…?」

 

 思いの外時間がかかったが、これで残りのアーサソールは居住区に残った者達だけだ。ユウキはガーランドの元へと行こうとするが、フェンリルの入れられたカプセルから強い気配を感じた。フェンリルの変体が終わったのかと思い、ユウキはカプセルの方を見た。

 

 『ビシッ!!バリィンッ!!』

 

 カプセルにビビが入ると中の培養液が溢れ出し、圧力でそのまま割れてしまった。そこにはウロボロスと同じくらいの大きさで、フェンリルのエンブレムと同じ顔をした巨大な狼が立っていた。

 

 『グルルル…』

 

 フェンリルは低く唸りながら、目の前のユウキを睨み付けて戦闘体制に入る。

 

 『ゴァァァォォォオオオオオ!!』

 

 狼の遠吠えとは程遠い、天を震わす様な雄叫びが周囲に響き渡る。ガーランドの最高傑作である魔狼と殺戮の鬼神の戦いか始まった。

 

To be continued




あとがき
 うちの子対アーサソールと今回はGEvsGE回でした。○人描写がありますが斬った撃ったとしか書いてないので大丈夫だと思いますが、修正必要なら対策します。
 戦闘の方は…まあうちの子無双です。感応派による統率でチームプレーはバッチリですが戦い方自体は単調なものになるイメージで書きました。結果細かい状況変化に対応出来ずにうちの子の餌食となった…と言った感じです。

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