GOD EATER ~The Broker~   作:魔狼の盾

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新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


mission105 幻の従者

 

 -贖罪の街-

 

 第一部隊は旧市街地に出現したアラガミの群れに対処に来ていた。本来ならばアーサソールが処理する任務だったが、別任務で既に出撃していたため、防波堤代わりに第一部隊が出撃し、アーサソールが到着するまでの時間稼ぎをする事となったのだが…

 

「ちっきしょぉ…アーサソールの連中、いつになったら援護に来るんだよ…!!」

 

 ボロボロにされた第一部隊は教会近くの建物の中で身を隠していた。と言うのも、案の定作戦領域に近づくとソーマは不調となり、アラガミ同士で連携をとって多勢に無勢で攻めてきた。

 頭を抱えて踞る程の頭痛を訴えるソーマを庇い、コウタとアリサが囮なるなどの無理をして、どうにかこうにかアラガミ達を撒いて身を隠す事ができた。その結果、身体中に痣や裂傷、火傷と言った傷を作っていた。それも本来ならアーサソールが増援に来るまでのはずだったのだが、いつまで経っても現れない彼らにコウタが苛立ちの声をあげる。

 

「ソーマ、動ける?」

 

「大…丈夫だ…ッ!!」

 

 コウタの肩を借りてソーマは立ち上がる。口では大丈夫と言っているが、実際は神機を握るのが精一杯で、まともに立って歩く事も出来ないでいた。そんな様子を見ていたアリサは、今自分達が取るべき行動を思考する。

 

(…ソーマはここ最近不調続き、それをカバーしてきたコウタも消耗してきてそろそろ限界…今動けるのは…)

 

 『私だけ…』そう思い、現在の状況でできる事を考える。自分も含めて部隊は満身創痍、特にコウタの怪我が一番酷かった。ソーマを守る為に自身を盾にし、迫り来る敵を一撃で倒せる様に高火力のバレットを使って次々とアラガミを倒していた。

 既に自分達は戦力として機能していない。任務本来の目的である前線の維持はもう不可能だと言う結論に至った。

 

「…撤退しましょう」

 

「撤退ったって…それじゃぁ任務が…」

 

「命令違反は覚悟の上です」

 

 アリサが任務を放棄して撤退を進言する。しかし、コウタは納得いかない様子で最後まで戦うとゴネる。しかしアリサはそれをバッサリと切り捨てる。

 

「それじゃあアーサソールやあのクソイケメンに俺達の実力を認めさせられないじゃんか!!」

 

「ここで死ぬよりはマシです!!」

 

 コウタは今回の任務で、アーサソールが来るまでにアラガミを減らし、自身の実力をガーランドに認めさせたかったようだ。部隊員の全員生還、本隊が到着まで前線を持たせるどころ相手を押し返す程の戦果を挙げていれば、間違いなく上からの評価は変わるだろう。

 その為にもコウタはかなり無茶をしていたようだが、コウタを含めてここに居る全員がこんな所で死ぬつもりはないが、戦果を挙げて帰りたいコウタと、生還を優先するアリサとの間でこんな状況にも関わらず意見がぶつかっていた。

 

「お前らには分かんないだろうけどさ!!俺には養う家族が居るんだ!!ここで力を認めさせて、仕事を確保しないと母さんやノゾミが!!」

 

「『生きる事から逃げるな』!!」

 

 コウタが自身の置かれた立場から、戦わざるを得ない事を叫ぶ様に話すが、アリサが言い放った一言でコウタはハッとした表情になる。

 

「…あの時、ユウが言った事です…生きてさえいれば、どんな最悪な状況でも、ひっくり返すチャンスは得られるはずです。それにコウタの身に何かあればお母さんやノゾミちゃんだって悲しむはすですよ」

 

 戦果を挙げる事に固執して生き残れなかったら意味がない。そう言ってコウタを諭す。それを聞くとコウタは頭が冷えたのか、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 

「…分かった」

 

「…先行します!!私の後に着いてきてください!」

 

 立たせたものの動くことさえままならないソーマをコウタが背負い、アリサは神機をしっかりと握り、隠れていた建物から飛び出した。

 手始めに目の間のオウガテイルを切り裂く。するとアリサはまっすぐ待機ポイントまで走り出すと、ソーマを背負ったコウタもそれに続く。いきなり現れた標的にアラガミ達は全員アリサ達の方に向かってくる。

 進路上にコンゴウとヴァジュラが乱入してきた。アリサはコンゴウとのすれ違い様に、コンゴウの右手足を切り落として動きを止める。さらに横からオウガテイルが針を飛ばして来るが、アリサもコウタも全速力で駆け抜け、オウガテイルの攻撃を無視して走り抜ける。

 そして前方からヴァジュラが突進してきた。アリサはスライディングしながらヴァジュラの左前足を切り落として股下を抜けていく。続いてコウタはバランスを崩して倒れたヴァジュラを踏み台にしてヴァジュラの上を飛び越えていく。

 

(第一部隊…所詮はこの程度か…)

 

 撤退する第一部隊の戦闘を教会の屋根から遠巻きに眺めていた者がいた。その正体は黒いバイザーに白い制服を着たアーサソール隊長のレオンだった。神機を持ってはいるが、その傍らには外部居住区に設置したものと同じ型のレーダーが設置してあった。レーダーの調子を気にしながらも、第一部隊が撤退するのを眺めて、第一部隊の実力に幻滅していた。

 そんな中、逃走ルート上にセクメトが現れた。先行するアリサは分が悪い相手だがやるしかない。アリサはセクメトが動くよりも先に眼前に接近して神機を構える。

 

  『バンッ!!』

 

 セクメトの顔面をインパルス・エッジで爆破する。爆煙で姿が見えなくなったが、これで隙はできたはずだ。アリサ達はセクメトを無視してそのまま走り抜けようと駆け出した。

 

(ッ?!)

 

 しかし爆煙の中からセクメトの翼手がアリサの後ろから迫ってきた。

 

(ダメッ!!)

 

 咄嗟に神機を横に振るが、既にセクメトの爪がアリサを捉えようとしていた。

 

  『ブシュッ』

 

(…?)

 

 自分の攻撃は届いていなかったはずだ。なのに突然セクメトの上半身が切り飛ばされた。何が起きているのかと思っていると、切り落とされたセクメトの上半身が地面に落ちると、そこには長い金髪に金色の瞳、そして戦場には似つかわしくない背中がざっくりと空いた黒いドレスを着た長身の女性が、黒いサリエル装備の新型神機を携え立っていた。

 

「あな…たは…?」

 

 突如セクメトを後ろから切り裂いた女性が現れた事でアリサは放心してしまう。しかしその間、アラガミ達は金髪の女性が現れた事に動揺していたのか、襲いかかる事はなかった。

 

「監視する者が近くに居るわ。彼には私達の事は見えていない。居ないと思って動いて」

 

「えっ?あ…」

 

 女性は監視者の存在を伝えるが、突然そんなことを言われても何の事やら訳が分からないし、何より居ないものとして動けと言う意味が理解できない。

 謎の乱入者が現れた時点でも突然の事で理解が追い付いていなかったのに、矢継ぎ早に理解不能な状況や情報を前にして、アリサの半ば思考はショートしていた。

 

「…サポートするって言ってるの。早く動きなさい」

 

 『自分たち』は監視者には見えていない。怪しまれない為にもアリサ達が動き、自分たちがそれに合わせると金髪の女性は言ったのだが、状況を飲み込めずいつまでも動かないアリサにしびれを切らし、サポートすると言う分かりやすい言葉で自身の目的を説明する。

 

「何だか分からねぇが…ここを乗り切るにはっ?!…アンタの力も借りる必要があるな…」

 

 ドレス姿の女性が現れると、突然ソーマの頭痛が軽くなった。さっき程ではないが不調なままのソーマがコウタの肩から離れる。辛そうな声を出してフラフラと立ち上がったソーマは再び神機を握り直して戦闘体勢に入るが、原因不明の強烈な頭痛や不快感は未だに消えることなく残っている。

 

  『グォォッ!!』

 

 するとソーマの後ろからオウガテイルが飛びかかってくる。不調もあって反応が遅れ、コウタと共に振り向いた時には既にすぐ近くまで迫っていた。ソーマが神機を縦に振り下ろすが、既に迎撃が間に合わない程に近づいていた。

 

  『ズカンッ!!』

 

 しかしソーマの後ろから何者かが飛び出し、オウガテイルを上から黒い神機で叩き潰した。

 

「ほらほら、ボサっとしなーい!!」

 

 何事かと思っていると、元気の良い高く幼さの残る声が聞こえてくる。ソーマとコウタは声の主を見ると、そこには赤いリボンで金髪を短いツインテールに縛り、先の黒ドレスの女と同じような金色の瞳で黒い戦闘服を着た10歳前後の幼い少女が、見た目からは想像もできない怪力で身の丈よりも遥かに大きい黒いヤエガキ系のバスターブレードを軽々と振っていた。

 

「えっ?なッ?!き、君は…」

 

「チッ!!後で説明しろよ!!」

 

 次から次へと乱入する者が現れ、ソーマとコウタは状況の変化に着いていけなくなってきたが、先のドレス姿の女の関係者だろうと何とか予想して、今は戦闘に集中する。

 ソーマとコウタは神機を握り直して、後ろから追い付いてきたアラガミを迎撃しに行き、怪力少女もそれに続く。そしてアリサもドレス姿の女性と共に止まっている間に体勢を整えたアラガミを切り崩しに行く。

 前に進むアリサ、その後ろからドレスの女が着いてくる。アリサの前から極地対応型グボロ・グボロが突っ込んで来て、さらにオウガテイルが四方から接てきた。アリサは横凪ぎに神機を振るが、前方のグボロ・グボロと右側のオウガテイルを両断する。しかしまだ右側の敵しか排除できていないため、残りの三方向からオウガテイルが攻めてくる。

 

「ハッ!!」

 

 対してドレスの女はアリサの後ろから飛びかかかってきたオウガテイルを斬り倒し、その流れで黒いサリエル系統のスナイパーに変形して、アリサの左側から接近してきたオウガテイルのコアを撃ち抜いた。

 

「てぁっ!!」

 

 アリサが最後に残った前方のオウガテイルを斬り倒す中、赤いザイゴートと黄色のザイゴートが横並びでアリサの右側から高速で飛んできた。ドレスの女は剣形態に変形してアリサよりも先にザイゴートに向かっていく。

 まずは左へ神機を振って赤いザイゴートを倒す。そして空かさず反対へ神機を振って黄色のザイゴートを斬り、素早い連撃で一瞬のうちに2体のザイゴートを両断した。

 

(…動きが変わった?)

 

 現メンバーの切り札であるソーマは不調、さらに圧倒的物量で連携をとられては、流石の第一部隊も防戦一方だった。

 しかし第一部隊全滅も時間の問題だと思っていた中、突如一転、攻勢に転じた第一部隊を見ると、『背中合わせとなっているソーマとコウタ』の周りをシユウとサリエル、ヴァジュラが取り囲んでいた。

 ソーマが正面のシユウとヴァジュラに先制攻撃するべく飛び出し、まずはシユウの頭をカチ割るべく神機を振り下ろす。シユウは反撃に翼手を突き出すが、それよりも速くソーマの一撃が頭に入り、そのまま胴体まで引き裂いた。

 

「せぇの…」

 

 ソーマがシユウのコアを破壊したのと同じ頃、『ソーマの隣に立っていた』怪力の少女は、電撃を撃とうと放電し始めていたヴァジュラに一気に接近し、両手で神機を掴み直した神機を勢い良く振り上げる。

 

「ドォォォオン!!」

 

 元気の良い掛け声と共に神機を振り下ろす。すると放電前にヴァジュラの頭を叩き潰した。その衝撃は胴体にも伝わったのかヴァジュラは頭が潰された瞬間、バラバラの肉片に変わった。

 その後、コウタが後ろから攻めてきた赤と黄色のヴァジュラテイル、さらに青と原種のザイゴートに気が付くと、動きの速いザイゴート2体を火属性の爆破バレットで撃ち抜いて倒し、続けざまに赤いヴァジュラテイルに照準を合わせつつ、バレットを氷属性に変える。

 そして爆破バレットを撃つと赤いヴァジュラテイルはバラバラになりながら吹き飛び絶命した。残るは黄色のヴァジュラテイルだ。最後の1体に照準を合わせながら神属性に変えてバレットを発射する。

 

「ヤベッ!!オラクルが!!」

 

 しかし、ここまでのソーマを庇いながらの連戦でオラクルを消耗しきってしまい、最後のヴァジュラテイルを撃ち漏らしてしまう。どう足掻いてもリロードが間に合わない。最悪神機で殴り付ける覚悟でコウタは神機を握りしめるが、突然横から神属性のバレットが飛んできた。

 

  『ドォンッ!!』

 

 鈍い爆破音と共に最後のヴァジュラテイルが爆散する。バレットを撃ったのは、黒いFシリーズランチャーに変形した神機を扱う例の怪力少女だった。再び剣形態に変形すると、すぐさま大型種がいる方に突っ込む。

 

「あははッ!!ほらほらぁ、早く逃げないと挽肉にしちゃうよぉ?!」

 

 戦闘狂の類いなのか、危ない事を言いながら非常に楽しそうな笑顔でアラガミ達を次から次へと屠っていく。もはやソーマとコウタのサポートと言う目的も忘れているのだろう、ソーマから大きく離れ、自身の本能の赴くままにアラガミを倒しまくっている。

 

(急に勢いを取り戻した…どうなっている?)

 

 教会の屋根から第一部隊の戦闘を覗き見て、第一部隊の壊滅を確信していたレオンは、突然反撃の勢いを増した第一部隊を見て困惑していた。どうあっても逆転不能な状況を覆し、第一部隊の3人が居ない場所のアラガミさえも次々と倒され、数を減らしていく。

 一体何が起きているのか、何故こんな事が起きるのか、そんな事を考えているうちにアラガミは全滅し、結果第一部隊は生き残る事となった。

 

(最後、突然アラガミを撃破する勢いが強くなった…気になるが…)

 

 アラガミ達を全滅させて息を切らしている第一部隊を見ながら、レオンは最後の最後、絶体絶命な第一部隊が『たった3人』という圧倒的に不利な状況を覆した事を考えていた。破竹の勢いでアラガミを倒していき、時折第一部隊が居た場所とは関係無いアラガミも倒されていったことは気になるが、遠くから眺めていた以上、詳しい状況は分からずじまいだった。

 

(まあ良い。彼らが生きようが死のうがガーランド様の計画には支障はない)

 

 しかしガーランドの計画とやらに第一部隊は関係が無いのか、レオンはこの結果そのものにはさして興味を示さなかった。

 

(最終実験も成功、データも取れた。もうここに居る必要もないか…)

 

 必要なものは揃ったのか、レオンは踵を返すついでに後ろに設置したレーダーを神機で破壊するとその場を去っていた。

 

「…行ったようね。もう良いかしら…」

 

 その気配を察したのか、黒ドレスの女性はさっきまでレオンが居たところを横目で睨むと、本格的に警戒を解く事にした。

 

「説明してもらうか。アンタら…一体何者だ?」

 

 先の戦闘では、高い戦闘力を見せつけるだけでなく、この場に来ていたと言う監視者には自分たちの存在は気取られないと彼女は言っていた。どう考えても普通じゃない。ドレス姿の女性に対し、ソーマは構えを解かずに神機を握り、警戒しつつも乱入してきた2人に探りをいれる。

 

「はじめまして。私は『シェリー』…つい先刻、我が主の命により助力に参りました。そしてこちらは…」

 

「やっほー!!『ライラ』だよ!!」

 

 ドレス姿の女性は自らを『シェリー』と名乗り会釈する。それに続いて、『ライラ』と名乗った怪力の少女は神機を肩に担いだ状態で左手を上げてフランクに挨拶する。

 

「…取り敢えず、助けてくれた事には礼を言う。だがその腕輪…神機使いの様だが、何処の所属だ?アナグラでお前達を見かけた事もないし異動の通知も来ていない…」

 

 一通り挨拶を終えて、これまでの状況からも彼女らが神機使いだと言うことは分かる。しかし、極東支部に新たに配属されると言う話はアーサソール以外に聞いてはいない。結局彼女らの素性はよく分からないままだった。そこも踏まえてソーマは彼女らに警戒心を露にしたまま話しかける。

 

「アンタ達…本当にただの神機使いなのか?」

 

 戦闘中、アーサソールは自身の存在を認識出来ない。普通に考えるとおかしな事を言う彼女達が何者なのか、それが分からない以上警戒するしかない。ソーマは睨む様に2人を見てその正体を率直に尋ねた。

 

「…」

 

「あははっ!!なぁにぃ?!助けてもらっといて上から目線?!なになに?女子供に助けられてプライド傷ついたの?!」

 

 ソーマの問いにシェリーは答えなかった。しかし、代わりにライラが突然腹を抱えて笑いだし、それを見たソーマの眉間にはシワが寄った。

 ライラは子供であるが故の無邪気さと、同時に併せ持つ容赦のなさで、第一部隊を小馬鹿にする。さらには『怒った?!怒った?!?!』と煽っていくが、『止しなさいライラ』とシェリーがため息をついて呆れた様子だったが、興味なさげなトーンで止めに入る。

 

「ま、まあまあ。何にしても助けてくれたのは事実じゃん?えっと…シェリーとライラだっけ?助けてくれてサンキューな。それから、もし良かったら君達の事を色々教えてくれない?もしかしたらアナグラ…極東支部で引き取るかも知れないし。例えば、さっき言ってた主って人の事とかさ…」

 

「…そうね。ある程度だけど話しましょうか…」

 

 自分達の素性を何処まで話すか考えていたのだろう、コウタの問いに多少間を開けた後シェリーは自分達の正体を語り始める。

 

「単刀直入に言うと、私達は主の神機…その精神がこの世界で実体を得て形作られた存在です。簡単に言えば神機の精神体よ」

 

「「「…」」」

 

 気配も感じさせずに突如乱入したシェリーとライラ…その正体は神機の精神体だった。リンドウをアラガミ化から救った一件で、その存在はユウキやリンドウから聞いていたが、当事者のユウキとリンドウ以外は会ってすらない。

 さらに言えばレンが現れたのも偶然や奇跡の産物で、イレギュラー中のイレギュラーだった。そんなことを2度3度と起こるとは思っておらず、ソーマ達は予想の斜め上を行く回答に唖然としていた。

 

「えっと…ごめん、笑う所だった?」

 

 シェリーの言っている事を何とか理解したコウタはフリだったのだろうか思い申し訳なさそうに返すが、逆にシェリーは呆れた様にため息をついた。

 

「事実よ。かつて雨宮リンドウがアラガミ化から救われた時も、彼の神機は精神体として実体を持って主の救出に奔走した。アラガミ化して貴殿方の前に現れた時もあの場に居たのだけど…気付いていなかったようね」

 

「しょうがないよシェリー。『自分の神機もまともに扱えない』この子達じゃあ主くんが干渉しないと私らの気配さえ感じられないって」

 

 シェリーがトゲのある言い方で自らの正体を話していく。そしてそれを聞いたライラは再度ケラケラと第一部隊を小馬鹿にして笑いながら意味深な事を言った後に、『逆に言えばそれだけ主くんがぶっ飛んでるって事だけどね』と続ける。

 

「…で、そのぶっ飛んでる主様ってのは…結局誰なんだ?」

 

 第一部隊はライラの意味はよく分からないが明確に悪意のある嫌味に顔をしかめる。しかしここで怒るよりも彼女らの正体を知る方が重要だと考え、ソーマはさっきから何度も聞いている『主』について探りをいれる。

 

「…神裂ユウキ…それが我らが主の名よ…」

 

 シェリーが語る主…その正体は、ヨルムンガンドとの空中戦で行方不明になった仲間であり、現状最大の問題児でもあるユウキだった。

 予想もしてなかった名前がこのタイミングで出てきた事で第一部隊は一瞬思考が止まり、何を言っているのか分からなかった。

 

「い、今…なんて…?」

 

「ユウが…主?いやまて、お前、さっき『つい先刻、命を受けた』と言ったな?ってことは…」

 

 コウタはまだ理解が追い付かないのか、驚いた様子で声は出せたがシェリーが何を言った事の意味が分からなかった。

 また、ソーマもシェリーとライラがユウキの関係者だった事実に驚いていた。そして今までの2人との会話を思いだし、2人とユウキが何かしらの形で接触したはのはつい最近の事だと割り出した。探していた相手の情報が入って来た事で、少しずつ声の調子が弾んだものに変わってきた。

 

「ええ。彼は生きています」

 

 シェリーの答えはソーマの予想通りのものだった。探していた相手が今何処に居るのかは分からないが、少なくとも生きている。それが分かっただけでもソーマはだいぶ安心した。

 しかし、それならば何故帰ってこないのか…その理由が思い付かず、再び思考に走ろうとしたとき、別の人間の声によってその思考は打ち切られた。

 

「あの!!」

 

 今まで声を出さなかったアリサが余裕の無さそうな様子でシェリーに話しかける。

 

「ユウに…ユウに会わせて下さい!!貴方はユウの居場所を知ってるのでしょう?!何処に居るのか教えてください!!」

 

 ようやく得られた手がかりにアリサは食い付き、ユウキの居場所を問いただそうとシェリーに詰め寄る。

 

 『バチンッ!!』

 

「「「ッ?!!?」」」

 

「わぁお」

 

 しかし、突然シェリーは右手でアリサにビンタした。誰も予想しなかったいきなりの攻撃に、打たれた本人は勿論、第一部隊、さらにはライラでさえも驚いていた。

 

「認めない…!!貴女が…貴女さえ居なければあの人は…!!」

 

 元からつり目で怒っている様にも見えたが、今アリサを睨むシェリーの表情は、怨みや憎しみを隠すことなく剥き出しにし、怨嗟の鬼の様に見える程に表情を歪めていた。

 

「…なっ」

 

 しばらく呆気に取られていたアリサだったが、打たれた自身の左頬を押さえて、そこに痛みが走り、熱を発している事に気づいた。ようやくビンタされたのだと理解すると、沸々と怒りが沸き上がってきた。

 

「何するんですか?!」

 

 打たれる様な事をした覚えもなく、怒らせる事もしていないはずだった。理不尽に突然ビンタを浴びせられたアリサも今回は怒りを抑える事が出来なかった。

 

「シェリー落ち着きなよ」

 

「…失礼」

 

 ライラがシェリーを諌めると、1度小さく深呼吸してから彼女は素直に謝罪する。

 

「今、彼に会うことは出来ないわ。でも、時が来れば彼の方から戻ってくる。それだけは確実に言えます。それでは、ごきげんよう…」

 

「ばいばーい」

 

 ユウキの近況を伝えるとシェリーはスカートをたくしあげてお辞儀をし、ライラはラフに手を振って別れを告げる。すると2人の姿は透けていき、次第に消えていった。

 

「な、何なんですか…あの人達…」

 

 戦闘中は強力な助っ人だったが、終わってみれば刺々しい態度や敵意を隠すことなく接してきて、さらにアリサにはビンタを浴びせた。挙げ句、その正体が神機の精神体だったり、別れ方が文字通り姿が消える等、色々と常軌を逸脱した状況を体験して、第一部隊は呆然と立ち尽くしていた。

 

To be continued




あとがき
 遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。小説の方は…うん、ごめんなさい。だいぶ遅くなってしまいました。その分、新キャラを出したり色々とスパイラルフェイト編も動き始めました。今後も投稿続けますので、今後もよろしくお願いいたします。
 下にシェリーとライラの設定書いときます。

シェリー
 自称ユウキの神機の精神体を名乗る女性。黒いドレスを着た長い金髪でつり上がった金眼、長身の美女。きつめの口調で話すため、他人を寄せ付けない雰囲気を放っている。
 ユウキに対しては絶対的な忠誠を誓っているが、アリサに対して異様なまでに敵意を向けている。

ライラ
 自称ユウキの神機の精神体を名乗る少女。黒い戦闘服を着た、赤いリボンで短いツインテールにした金髪に丸い金眼、10歳前半に見える少女。見た目に反して重量級の神機を片手で軽々と振り回す怪力の持ち主。シェリーとは対照的に年相応にフランクな口調で話すが、容赦の無い一言で相手の心を抉る事もある。
 ユウキには忠誠を誓ってはいるものの、対等な親友の様な関係を望んでいるため、言いたいことはしっかりと言う。

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