役人転生〜文部科学省学園艦教育局長に転生した私はどうしたらいいのだろうか〜   作:トマホーク

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会談

「どうぞ、お座り下さい。高島君、皆様にお茶を」

 

「か、かしこまりました」

 

さて。鬼を――ゴホン。しほさんを味方に付けた杏ちゃんが蝶野一尉や児玉理事長と共にやって来た訳ですが。

 

うーん。やっぱりしほさん恐ッ!!

 

表向きには黒森峰が大洗を叩き潰せなくなるという最もらしい理由を付けつつも、本音的には可愛い娘を助けるべく気合いを入れているご様子。

 

隠しきれぬ威圧感が溢れ出ておいでです……。

 

私はもう慣れてしまっているので大丈夫ですが、この場にどうしても同席すると言っていた高島君がしほさんの威圧感で完全に萎縮してしまっていますね。

 

しほさんが会う約束を申し込んで来た時には、私が全員説き伏せて見せます!!と豪語していたのに……あの意気込みは何処へ行ったのか。

 

まぁ、相手が鬼――ゲフンゲフン。しほさんですからね、しょうがないですけど。

 

「早速ですが、本題に入らせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「はい」

 

「まず、話の大前提として若手の育成なくしてプロ選手の育成はなし得ません。にも関わらず、文科省は確たる実績を残した大洗女子学園を廃校にすると仰っています。ですから、将来有望な若手の芽を摘むこのような愚行が罷り通る現状ではプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」

 

全く。しほさんは相変わらず痛い所を容赦なく突いてきますね。

 

代わりとなる人が居ないだけに、この時点でこちら(文科省)が取れる選択肢は一気に絞られてしまいましたよ。

 

……私が取る選択肢は元より1つだけですけど。

 

「それは……どうか考え直して頂けないでしょうか。今年度中にプロリーグを設立しないと戦車道大会の誘致が出来なくなってしまうのは先生もご存知のはず」

 

「それは貴方方の都合です。それにそもそも優勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは?」

 

「う、それは……その……」

 

しほさんの言っていることが正論なだけに反論のしようがありませんね。

 

まぁ、この状況は予定通りの事なので反論出来なくとも何ら問題はないのですが。

 

さて、そろそろ頃合いですかね。話を締めに掛かりましょう。

 

「そして何より私が言いたいのは、貴方がもっとしっかりしていたのならこの様な事態にはならなかったのではないのか。ということです」

 

……不味い。非常に不味い。

 

話の矛先が私個人に向いてしまいました。

 

「い、いやぁ〜その事につきましては耳が痛い限りです。ハハ――」

 

「……」

 

「ハ…ハハ……ゴホン」

 

笑って誤魔化そうとしたら思いっきり睨まれました。

 

……あれ?しほさんが私は知っているぞって顔してます。

 

まさか。

 

「はぁ……1人で全て背負おうとして失敗していては元も子も無いと思うのだけど」

 

あぁ。ダメですね、これ。全部バレちゃってるヤツです。

 

話し方を私的なモノに変えたのが、その証拠です。

 

参りましたね……少々予定を変更せねば。

 

「いや、あの……まだ失敗した訳では無いのですが」

 

「この状況でまだそんな事を言うつもりなのかしら?」

 

 

「その……何といいましょうか。全てを丸く収めるためには遠回りをする必要がありまして」

 

回りくどいやり方ですが原作の流れに従うのが一番確実ですからね。

 

「では、最終的にどう決着をつけるつもりなの?」

 

「それについては先生のお力添えを頂けたらと考えております」

 

最終的にはこうして外部――しほさんからの圧力が無いと腰の重い上が動いてくれないんですよ。

 

「そう……私の。つまり私が“こうして”ここに来る事も折り込み済みだったと」

 

「えぇ。“大人”が始めた問題を“大人”が片付けるために必要な理由、もしくは通過儀礼と言いましょうか。なにぶんお役所ですから面倒でも手続きを踏まねば動かせるモノも動かせないのです。ですから……先生には大変ご面倒をお掛けしますが、何卒お願い致します」

 

えーと。私の目論見を理解してくれたようですし、これで何とかなりましたかね?

 

しかし、今の会話を高島君と蝶野一尉に聞かれたのは痛いですね。

 

知り得ている情報が多い2人だけに、どちらも薄々理解してるような――あ、ダメです。

 

蝶野一尉にはバレましたよ、これ。だって滅茶苦茶キラキラしてる視線を送って来てますもの。

 

……後々が怖いです。

 

まぁ、肝心の杏ちゃんにはバレてないのでいいですけ――バレてないよね?

 

首を捻ってるんだからバレてないよね?

 

「……あまり褒められた事ではないわね。“全てが”丸く収まる訳ではないようだし。もっとやりようが――」

 

「まぁまぁ、彼にも事情や立場というものがあるのですから、あまり責めては……」

 

理事長。事情を知る貴方がフォローに回ってくれるのはありがたいんですけど……。

 

貴方でしょ、私が裏で動いていたのをしほさんにバラしたのは。

 

……今さら目を逸らしても遅いですよ。

 

「あ、あの!!横から失礼かとは思いますが、大洗女子学園は運に助けられてまぐれで優勝した学校です。それを将来有望というのは些か大袈裟かと」

 

そして、高島君。機を逃さずに私のフォローをしてくれるのはいいんですけど。

 

フォローがフォローになってないですよ!!そのセリフはしほさんを刺激するだけです!!

 

……あぁ、しほさんが麦茶を一気飲みしています。

 

「戦車道にまぐれなし!!」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

しほさんがコップを机に叩き付けるという事を知っていた私までビクッとしましたよ。

 

「あるのは実力のみ。どうしたら認めて頂けますか?」

 

計らずも原作通りに進みましたね。良かった良かった。

 

「……まぁ、彼女達が大学強化選手に勝ちでもしたら――」

 

「分かりました!!では大学強化選手に勝ったら廃校を撤回してもらえますね?」

 

「えぇ!?(棒)」

 

私から言質を取った杏ちゃんが嬉しそうな顔で『せいやくしょ』を手にしていますが。

 

裏面もやっぱり真っ白……。

 

これはやはりこっちで準備しておいた書類を出さないといけませんね。

 

「今、ここで覚え書きを交わして下さい。噂では口約束は約束では無いようですからねぇ〜」

 

さてはて。ようやくここまで漕ぎ着けましたか。あと少し……ですね。




さて、ストック分が切れました。
(;´д`)

シフト表には勝てなかったよ……。

という訳で、また2週間刻みぐらいの投稿ペースになると思われます。


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