FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫   作:ふゆー

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❺ミヘン街道

ミヘン南端にさしかかる三人は、平原にひかれた街道を歩いていく。

ミヘン街道と呼ばれるこの街道は、約800年前にミヘンという人物が『赤斬衆』を組織したときに寺院への反乱を疑われ、その汚名を返上するために通ったことが、この街道の由来となっていた。

夜もかなり深くなった時間帯。夜空に舞う星々たちはより一層の輝きとともに、地上を照らしてくれていた。

昼間のような明るさはないものの、暗闇をほのかに包む灯りは、ほんのりと色白く街道を照らしていた。

月の淡い光が、三人の先に広がるなだらかな街道を道標として示すように、遠く先まで照射している。

道の両脇には、瓦礫と化した建物の残骸がいた。朽ちた瓦礫には苔や蔦植物がまとわりついている。『シン』による痕跡は、風化されていく瓦礫の中にまだ脈々と残っていた。

歩く中、夜風が三人を追いかけるように通り過ぎ、少しだけ肌寒さを感じる。夜空を見上げ、スピラの歴史に想いを馳せながら安寧に喋り出すカーシュ。

月に照らされる唇がうっすらと動く。

「魔法は・・スピラにおける最初の発展。使用者は限られていてね。使えない者との格差が存在した」

ティーダは自分が生まれる遥か以前の歴史に興味をもち、静かに聞き入っていた。

「やがて不平等を打破する〝機械″が発明され、スピラ中に瞬く間に広がった。魔法文明から機械文明へ、次々と不可能を可能としていった」

カーシュはそこで一呼吸おき

「機械はのちに『眠らない都市』を実現させた」

と、スピラの歴史上もっとも文明が発達した機械都市をあげた。カーシュの説明にティーダが言葉を繋ぐ。

「・・〝ザナルカンド″?」

ライナーがうなづきながら話を引き継ぎ、その後の歴史の続きを切り出した。

「また不平等の始まりだ。機械を持つ国家持たざる国家。・・絶頂期に2大都市国家の戦争〝機械戦争″が起こる」

ライナーの声はいつもより低い。丁寧に、だが慎重に言葉を選んでいる。

「ベベルとザナルカンドのな」

「・・」

ティーダは『シン』に襲われたザナルカンドの記憶が蘇る。千年前のあの日、自分の故郷が滅びゆく光景を目の当たりにしたのを今でも鮮明に覚えていた。

カーシュは物悲しそうな顔をしながら話を紡いだ。

「人化の争いによって草木は燃え水は枯れた・・」

その声音に強い決意が宿り始めた。

「変えなければならない。誰も悲しむ必要なんてないんだ」

思い出されるはひとつの面影。

(「どうして?この子達が何をしたと言うの」)」

遠い過去の日の記憶がよぎっていく。

物思いにふけるカーシュは、自分をみる視線に気づく。その視線の主はティーダであった。

「変わるよ」

はっきりと、そして力強くいった。その言葉に迷いはない。

「だな」

ライナーも同じように強い意志を込めて言い切った。

「!?」

カーシュはティーダの発言に心臓の高鳴りを感じた。

ティーダはさらに続ける。

「変えられる!そう信じる人が居る限り」

そして暗闇の中でにこやかに笑った。

「俺は信じるっスよ」

カーシュの頬を撫ぜていく夜風と、故郷の風が妙に重なって感じた。

脳裏に思い浮かぶは、幼き頃の故郷での出来事。

石垣の上に座る二人。周りには緑豊かな草が生い茂っていた。

そこは、城の中から城外を天望できる場所で街を一望することができた。

森に囲われた街並みと、さらに奥に広大に広がる森林地帯。大自然の景色がそこには広がっている。

幼きカーシュは、幼なじみとここでいつもたわいない話をしていた。

少年は目を輝かせながらカーシュに興奮の胸の内を語る。

「見てみたいんだ。信じてみたいんだ。人は分かり合える」

幼きカーシュはそれを聞きながら怪訝な顔をした。

ウェポンという孤立した島でも、みなが分かり合え、理解しているかといえば、そうではない。いろんな事情やかけ引き、建前の上でこの世界は成り立っている。

人は自分にとって利益ある者は仲間とし、害ある者は敵として排除する存在だと感じていた。

ましてはカーシュ自身、父親との確執があり、そんな絵空事が叶うはずないと幼ながらに実感していた。

「そんな簡単に」

諭そうとするカーシュにたいし

「変わるよ」

少年は、力強くはっきりといった。カーシュはそれ以上、何も言えなかった。

何事も疑わぬ希望あふれる瞳にいつしかカーシュは魅了されていた。

カーシュは月明かりに照らされるティーダをみながら、ふとその口元から笑いが漏れている。

「・・いつか俺達魔族も君達と他の種族とも共に歩める日々が来るのかもしれない」

それは、いつしか聞いた友人の願い。カーシュもその希望を叶えたいと今は、心からそうおもっている。

東の空が白み始め、空が徐々に青みをましていく。夜空で輝いていたはずの星たちは気づけば姿を消し、その代わりに紅炎に燃える太陽が昇り始めた。

神々しい陽の光がスピラの大地を照らし始める。

太陽の光に照らされ、世界は色を取り戻し鮮やかな朝の風景が蘇ってきた。

 

ミヘン街道、南部を歩くティーダたち。その前を、大きな黄色い鳥が横切っていく。

体長は人間の倍近くあり、黄のふさふさの羽毛で身体全体が覆われていた。人懐っこい顔をしており、ティーダたちにむかって軽やかなに一声鳴いた。

「あ!チョコボ」

ティーダは興奮しながら、その黄色い鳥に走って近づいていく。

「なぁ、旅行公司からはさチョコボ乗ろうよ」

それを聞いたライナーはため息ながらに笑う。

「良いぜ、お前持ちでな」

「え・・」

急に顔色が優れなくなるティーダ。しばらく悩み、しぼりだした言葉が

「あ、ほらカーシュだって乗りたいよな?」

と、カーシュに同意を求めた。

二対一で戦い、ライナーを丸め込もうという魂胆だ。

急に話を振られるカーシュは、首をかしげなから

「さっきの黄色い鳥?」

とチョコボを眺める。

「・・実は言うとあまりスピラ自体に詳しくないんだ」

カーシュは二人の話題についていけないことを告白する。

それを聞いて快活に笑うティーダ。

「俺もっス、全然!」

「え?」

天然なのか、何の悪びれる様子もなくその屈託のない笑顔に畏れ入るカーシュ。

「はぁ、こりゃ大変だ」

ライナーは、保護者の気分で二人を見た。

 

街道をしばらく歩いていると遠く、旅行公司が見えてきた。

懐かしそうに、辺りの景色を眺めるティーダ。

そのとき、遠くから重低の響く音が聞こえてきた。その音に気づくのはライナーとカーシュ。

音のする方を見ると、それは平原のなか浮かぶように点のようなものが存在していた。

二人は音のする方角へ目を凝らす。しばらく眺めていると

「!?」

それは徐々に形を成し、そして急激に大きさを増していく。ものすごい速度で迫ってきていることに気づく。

ティーダは悠長に旅行公司を眺めていた。なつかしそうにくまなく見学している。夢中になっているティーダは、轟音に気づく気配がまったくない。

豪快に煙を立てて向かってくるそれは、一直線にティーダに向かって突き走ってくる。耳を切り裂くような騒々しい音にさすがに気づいたティーダは後ろを振り返った。

ティーダの眼前にものすごい勢いで当たる寸前のところまで接近して来くるバイクがいた。

目の前に迫る猛威に戦慄するティーダ。

「ちょ・・、うあ゛あ゛」

ティーダはその場から一目散に弾けるようにして飛んだ。それはわずかにティーダをかするように通り過ぎていく。

ティーダは地面に転がりながら派手に横転し、土煙をまきあげる。

煙を派手に撒き散らしながらとまるのは宙を飛ぶ大型のバイクであった。速度を落としながらゆっくりと地上へと降りる。

土煙でバイクの主の顔はよく見えないが、がたいの良さが煙の中でも見て取れる。バイクの主はライナーに手を挙げた。

「コル!ライナー。(よう!ライナー)」

ライナーはその声を聞き、目を見開く。

「レド?」

レドと呼ばれた大柄の男はバイクから降りてライナーに歩み寄った。ゴーグルを外して興奮してまくしたてるように喋り出す。

「ゼンシトルガラ。シミヤゴ、ボーミルワベロウシハアニガカ!?(元気そうだな。聞いたぞ、どー言う風の吹き回しだぁ!?)」

ずいずいと近づくレドと一定の距離をとりながらライナーは面倒そうな顔をした。

「ニカミロモオワ。ハヤ、オムベンガラ(試合の事か。また、突然だな)」

ティーダは服についた土をはたきながら、立ち上がる。

「大丈夫?」

カーシュは心配しながら近づく。

ティーダはレドを睨み、肩をいからせながら向かって歩いていく。

「じゃ、ないつーの!危ないだろオッサン」

怒声をあげながらレドに詰め寄る。

ティーダに振り返るレドはにかりと笑い、肩を思いっ切り叩いた。乾いた音が響き、勢いでティーダは前のめりになり吹き飛びそうになる。

カーシュは見ているだけで痛みが伝わってきそうで、悲痛な面持ちをつくった。

「すまねぇ、すまねぇ!がははは」

「痛いっ・・」

肩が痺れ強烈な痛みを伴いながら、ティーダは悶絶する。

「つうか言葉!?」

レドがアルベド語以外を喋ることに気づき、痛みが吹っ飛ぶ。

「連れか?」

レドはとても嬉しそうにライナーを見やり、聞いた。

「あぁ」

ライナーは素っ気なく答えた。

「・・ほー」

何やら物知り顔で、そして意外そうな表情をするレド。やたらとにやにやしている。

ライナーにはそれが居心地が悪いようにレドから視線をそらした。

ピピッ。

レドが耳につけている小型通信機、インカムに通信がはいる。

「ンカ!?ったくよ。(んぁ!?)」

インカムの方に視線を傾け、面倒そうな声を出す。

そのとき、旅行公司からエボンの関係者らしき姿をした者とその取り巻きの兵士が数名出て来た。

「ライナ-。ナラニナハヤガ、ニドオダナミムキハムヤ(ライナー。話はまただ、仕事が入っちまった)」

素早くバイクに跨るレドは無造作にゴーグルをつける。エンジンを始動させ、アクセルを全開にひらき、凄まじい黒煙を吐く。

「ミトダニトルガラ(忙しそうだな)」

バイクの傍に歩み寄るライナーにたいし、レドは優しい笑みをした。

「ハカハカラ。・・ヤハリナワレムケモミ(まぁまぁな。・・たまには帰ってこい)」

「!」

ライナーは、何か言い返そうとするがうまく言葉がでてこない。

レドはそれをうかがいながら、にやりと笑う。

「ハ、ノメヨチオロモオミレエレワ!(ま、俺も人の事言えねぇか!)」

レドは一人で大笑いをした。乾いた空にその声は溶けてゆく。

「おい、おめぇら!」

突然呼ばれて、驚きながら振り返るティーダたち。

「ライナー頼むわ」

「!?‥」

急に話を振られ呆気にとられるが、レドの真摯な瞳を見て二人は神妙な気持ちになった。

ティーダとカーシュが、返す言葉を探しているとレドは勢いよく手を挙げた。

バイクは地面から浮きつつ発進し、土煙をまきあげながらすぐに見えなくなる。

「・・」

ライナーはすぐに小さくなるバイクの後ろ姿を見送った。

「あのオッサン・・」

ティーダがライナーに話しかけた時に、別の声がティーダの会話を遮った。

「知り合いかね?」

不機嫌そうな声が聞こえてきて、三人は振り返る。

そこには、エボン僧官の長の格好をした色白の人物と、さらにその後ろに数人のエボン兵士たちが控えていた。

色白の僧官の長は軽蔑をした眼差しを三人に向ける。

「エボンに反していると伝えて貰えるかね?」

わざと大げさに両手をひろげ、そしてうんざりした顔をつくった。

「困るんだよね。無闇に機械を乗り回されては」

そのあからさまな態度と言い方に苛立ちを覚えるティーダ。

「・・あんた誰だよ」

「あんた!?」

色白の僧官の長はなるべく平然を保とうとするが顔が完全に引きつっている。それでも平然を装い

「コホン。言葉を選びたまえ」

と、たしなめるように穏やかにいった

「私は〝エボン四卿師″の1人“司宮”を担当・・」

含んだ笑みをみせながら、色白の僧官の長はキメ顔をつくった。無駄に髪をかきわけながら、そして自らの名を高らかに言う。

「名をホクヨ」

「ホクロ!?」

ティーダの言葉に、周りにいる者たちは静まり返った。

「・・」

カーシュは面白さは感じているもそれが顔には一切表現されない。

ホクヨに付く兵士らはこらえようとするが、歪みきった顔の一人が耐え切れずに吹き出してしまう。他の兵が笑い出す兵をたしなめるが、全員が笑いを必死にこらえていた。

ホクヨの白い顔はみるみるうちに真っ赤になる。

怒りで、その場で地団駄を踏む。

「な、なんたる仕打ち・・」

ホクヨはティーダを睨む。

「ゴホン。ともかく!」

ホクヨは自らの気持ちを切り替えるべく咳払いをし、心を落ち着かせようとした。

「機械はまた普及しつつある。彼らアルベドは罪を重ね・・」

ホクヨの言葉に、ライナーはじろりと睨む。その眼圧に気圧され、ひるみ後ろに仰け反るホクヨ。

「俺にはエボンの教えが〝言い訳″に聞こえるぜ」

吐き捨てるように言うライナー。

「・・言い訳?」

ティーダがライナーの言葉に反応し、怪訝な顔をする。

「そなた!?」

ホクヨは驚きとともに叫びに近い声を出した。

「それ以上を口にする事は許さぬぞ」

鬼気迫る形相でライナーに食いかかるホクヨ。お互いの顔がくっつきそうな程近くなる。睨み合っているが、互いに一歩もゆずらない。

「なんつーか、結局さ問題は機械の使い方次第なんだって」

ティーダがライナーとホクヨの間に割って入った。腕で無理やり二人の距離をこじあける。

「そう。使い方も考え方も、次第で変わる」

草をはむ足音と共に、一人の男性が旅行公司から歩いてきた。

皆の視線がその声に注がれる。

「あ・・!?」

ティーダはその男性のことを覚えていた。ルカでぶつかった時のことを思い出す。

「ヴァンマ殿・・」

ホクヨは失態を見られたとおもい、悔しそうな顔をする。

ヴァンマはホクヨに穏やかに話しかけた。

「良いのですか?〝大卿式″の方は。付きの中官によりますと総卿師もすでにベベルへ向かわれたとの事」

ホクヨに焦りの色が見える。

「くっ、急がねばならぬな。・・参ろうぞ」

ホクヨらはその場を後にし先へと進む。

「ホクヨ師は、司宮卿なだけにエボンの事となると責任感が強くてね」

「ヴァンマ様」

近衛の兵にうながされ、ヴァンマはティーダに会釈をしホクヨのもとへといく。

ヴァンマが歩いていく姿を眺めるティーダたち。

「少し・・休んでこうぜ」

唐突にライナーが喋った。

「え?」

ライナーは返事を待たずに旅行公司中へ扉を開けて入っていく。

「触れぬ者に祟りなし、ってね」

カーシュは旅行公司のそばで草を食むチョコボをみる。

「・・そうっスね」

ティーダもうなづきながら海上遺跡のほうをみて背筋を伸ばす。

「ふんっー・・」

海に浮かぶ海上遺跡は、前に見た景色と同じ色合いを保っていた。

“気が付けば3年前と同じ道を歩いてた、同じ道だけど違う道・・。そう思ってた”

 

しばしの休憩を取り、旅行公司からライナーを先頭にティーダ、カーシュと続いて出てきた。

三人は再びミヘン街道を北上していく。

ミヘン街道の新道北部に差し掛かったころ、日はだいぶ昇り、太陽の位置が一番高い位置に差し掛かった。

その時、急に足元が震え始める。

「な、なんだ?」

ティーダはふらつぎながら、転ばないようにバランスをとり周りを見渡す。

「地震・・か?」

ライナーはこの後にさらに、大きな揺れがこないか警戒する。

しばらくして揺れはぴたりと止んだ。

「・・治まった」

周りに異変がないか辺りを見渡すカーシュ。

街道を歩く人々は、その場から動かずに怖がり、今の揺れの話題でもちきりとなっていた。

しばらく警戒するが、何も起こらなかったので慎重になりつつも、さらに街道を北上していく。

 

ミヘン街道の新道の北端にて、旧道北部へ向けて人だかりが出来ていた。

ティーダたちは、何事かと不審に感じる。

人だかりの先頭には金の兜を被った卿守軍中官を中心とし、左右にエボン兵が横に並び道を封鎖していた。

「危険ですので離れて下さい!」

卿守軍中官が、やじ馬の群れに警鐘を鳴らしている。

ティーダは人だかりの間をぬって最前列へ出た。

「何かあったのか?」

ティーダの問いに、卿守軍中官は血相を変えながら答えた。

「アルベドの機械が暴走しているんです」

「!?」

ティーダたちはこの先の騒ぎがただ事ではないことを察する。特にライナーは、その表情が険しくなる。

「さっきの地響き・・」

カーシュは、先刻の地響きが暴走した機械が原因ではないかと推測する。

ティーダたちはエボン兵たちとともに、深刻な雰囲気に飲み込まれていく。人だかりの声がやたらと大きく聞こえてきた。

「話は後よ。手を貸して!」

その場のどんよりとした空気を払拭するかのように、女性のげきが飛ぶ。

道を封鎖するエボン兵たちの間から、ノネが顔を出した。その表情には、幾ばくの余裕もなかった。

ノネは三人の返事を聞かずに、背を向け走り出す。服の裾が慌てるようになびいていく。

風のように去るノネに、呆然とするティーダとカーシュ。

「俺からも頼むわ!」

ライナーは兵士たちが作る策を越えてノネの後を追う。ティーダたちに声をかけ先行していった。

ティーダとカーシュは目を合わると、ライナーの後を追い旧道へ急ぎ走る。

それぞれが、胸騒ぎやある種の嫌な予感を携えて不穏に包まれた現場へと急行した。


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