FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
スフィアプールから各チームの選手達が出てきた。
アルベド=サイクスのファンたちから暑いエールが絶え間なく贈られてくる。
それに応えるように、手を振る選手たち。
ティーダのもとへ=サイクスチームのメンバーが囲むように集まってきた。
「ノハレ、ヌドミコ!!(お前、凄いよ!!)」
ティーダの肩を両手でがしりとつかみ、興奮気味に喋るエイガー。前後に大きく揺さぶられ、ティーダの顔が上下にゆれる。定まらぬ視界の中で言葉が通じないのと、興奮で目が血走っているエイガーに笑えてきた。
エイガーは、プールから降りてきたライナーに声をかけた。
「ライナー、ボモロレーヌガモミムトルオルラマヒケガゴ(ライナー、何処のエースだ。こいつそうとうなやり手だぞ)」
聞きながらライナーは不敵に笑う。
「ガホ、ヌワルオラサカオリニホコ。(だろ、スカウトなら後にしろよ。)」
ライナーは頭を振り、髪の毛の水を払った。濡れた水により、黄金の髪がさらに鮮やかに映る。
「ヌドミロマノハレヨガコライナー!ヨムヤミエレ(凄いのはお前もだよライナー!もったいねぇ)」
エイガーはライナーに手をあげる。
二人はハイタッチをし、乾いた小気味良い音が響く。
「何話してるんでしょうね」
ティーダは相変わらずアルベド語がわからず、楽しそうに話す会話を聞きながら首をかしげるばかりであった。
ルムニクがティーダのもとにやってくる。
「モンラヤロニミニカミマギネケガ!カヒダオル(こんな楽しい試合は初めてだ!ありがとう)」
敬意を込めた眼差しで、手を差し出す。
「っと・・」
ティーダは言葉は分からないも、差し出された手を見て、おそらく握手だと感じ取り、手を向ける。
その手をしっかりと握るルムニク。
そこにエイガーもはいってきて
「あ〝い″がとう!」
と、満面の笑みでティーダにお礼を言った。
ティーダは、間違ったお礼の言葉の中に感謝の気持ちを十分に感じ取った。
「・・、こっちこそ。あ〝い″がとう!」
エイガーとも握手をするティーダ。
その光景を横からライナーは微笑ましく見ていた。
応援席がざわつき始める。中には指をさす者もいる。
アルベド=サイクスのもとに、ルカ=ゴワーズの選手たちが近づいてきた。
皆の表情は固く、和やかじゃない空気を醸し出していた。
場内がピリッとした空気に包まれる。
〈ゴワーズリーダーのビクスン〉がサイクスの選手たちを押しのけてティーダに詰め寄った。
「やっぱりな。・・お前何処のチームからだ?」
睨みをきかせながらティーダの正面に立つ〈ビクスン〉。
ティーダは、ひるむことなく〈ビクスン〉の視線を受け止めた。
「試合は楽しむもんだ。でもあんた達の楽しみ方じゃ結果は出せない」
「何が」
ビクスンは眉間に皺をよせる。
「《チョーシ乗んなよゴワーズ!!》」
「!?」
突然のティーダの張り上げた声にその場にいた者は全員びっくりする。
〈ビクスン〉は驚きつつも、どこかで聞いたフレーズに過去を探るようにたぐり寄せていく。
ティーダは勢いよくゴーグルを外した。
「?お前・・」
ビクスンは目を見開く。忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってくる。
後ろで見ていた〈ドーラム〉も驚きのあまりのけぞった。
「!・・カンヤ、ハタワビサイド=オーラカロ(!・・あんた、まさかビサイド=オーラカの)」
「俺!?〝ザナルカンド=エイブス″からっス」
ガッツポーズを決めるティーダ。周りにいる選手たちは、全員唖然としていた。
観客たちの興奮の熱がだいぶ収まりつつある頃。
ティーダたちは優勝式に出る事なくスタジアムを後にし、街の外れを歩いていた。
連絡橋を渡りながら、夜の海を背景にティーダは軽快に歩きながら愉快に笑う。
「あははは」
「ったく、笑事じゃねーぞ。あれだけゴーグルは外すなって」
文句を言うライナーにティーダが会話を重ねた。
「ありがとな!・・久々のブリッツだったんだ。楽しかった」
それを聞いて、文句を言う気が失せたライナーは明後日の方を向く。そして挑戦的な視線をティーダにあびせた。
「・・満足すんのは俺に勝ってからにしろ」
ライナーの言葉にティーダは神妙な顔をする。
「・・望む所っス」
そして少しだけ笑い合った。
“冷静になっていろんな事が見えて来た〝夢から覚める"ってこう言う事なのかも・・。試合後に吹いた夜風は俺をそう思わせた”
歩くティーダたちの横を通りすがる人たちの話が聞こえてくる。
「大召喚士様の!?」
「補欠として試合に出ていらしたんですって!」
ライナーは、その会話をしていた人たちを横目でみながら
「ほーら、言わんこっちゃねぇ。自覚持てよ」
ティーダを軽く咎めた。
「ごめん・・」
「噂が本当になる前に早くルカを出ねぇとなんだが・・来るのか」
ライナーはこの件に関して疑問視していた。
それは、ルカに着いたときのところまで遡る出来事となる。
(ルカ港3番ポート。
埠頭の先。景色を隔てるものは何もなく、海と空がどこまでも広がる景色がよく見える。
ティーダとライナーは、カーシュと対峙していた。
「口実だよ。あの場に時間をかけたくはなかった」
淡々と喋るカーシュ。
「俺達を逃がしたって事は・・」
ティーダが話そうとする言葉の続きをカーシュがうなずきながら引き継ぐ。
「裏切り者だね」
自分自身のことなのに、身も蓋もなく率直な言い方をするカーシュにたいしティーダは、表情がくもった。
「‥でも君達は俺が開いた歪みに偶然居合わした。意図的にウエポンに来た訳じゃない」
カーシュは、あくまでもティーダたちはただの偶然が重なっただけで故意に行ったわけではないと、かばうような言い回しをした。
それについてライナーが疑問を投げかける。
「あの歪みは簡単に扱えるのか‥?名のないクリスタルだとか言ってたな。初めて見た」
カーシュは首を横に振る。
「いや、制限が限られてる」
その手にクリスタルを取り出した。今は不思議な色味の光を放つこたはないが、太陽の陽を浴びてきらめいている。
「このクリスタルは貴重とされている。その意味も理由も明確ではない」
ティーダは心配そうにカーシュをみつめた。
「これからどうするんだ?」
カーシュは少し考え、二人に話した。
「・・グアドサラムと言う場所に」
「?・・。忠告しとくが異界には運が悪けりゃ入れねぇぜ」
ライナーの言葉に反応したのはティーダだった。
「なんだよ運って?」
「異界の地盤が不安定らしくてよ。訪問者はある程度の復旧が済むまで足止めをくらうそうだ」
説明を聞きながらティーダは引きつった顔をする。
「・・なんかやばそうだな」
そして思い出したかのように
「つうか丁度通るよな」
と、カーシュをみた。二人の視線が合う。
「一緒に来れば!?」
快活な笑みをたたえるティーダ。
言われたことの意味は理解できたが、一緒に行くという選択肢を全く考えていなかったカーシュは躊躇した。
「理由はどうあれ助けられた訳だし!」
ティーダの言葉にカーシュは戸惑う。
「俺は何も・・」
カーシュはつぶやくように答えるが、ティーダは相変わらず邪険のない笑みを向けていた。
「・・、俺は構わねぇよ。詮索もしねぇ」
ライナーは視線を外しながら
「・・好きじゃねぇんだ、そう言うの」
と、ぶっきらぼうにそういった。
見ず知らずの素性もわからない人物を、成り行きでしかもグアドサラムを通過するという理由だけで、一緒にいこうと言う。
親切なのか、甘いのか。警戒心は全くない気がした。
カーシュは事情を何も聞くことなく誘ってくる二人にたいし、性格の良さに呆気にとられるばかりであった。)
ティーダとライナーは静けさに満ちた港にいた。
港は、ひんやりとした空気に包まれ、ここまでスタジアムの明かりは届くことなく夜の暗さに満たされている。
堤防に等間隔に立つ外灯が、その周囲だけを明るく照らし、虫たちが集っていた。
港につけられた船たちの軋む音が聞こえる。潮の満ち引きで、波が堤防に打ちつける音が一定のリズムでうち鳴り響く。
貨物船のそばには降ろされたコンテナがいくつも積み重なっている。
ティーダは自分の背丈の倍以上もあるコンテナに背を預けていた。
ライナーはテトラポットに座り、夜の海を眺めている。ルカの灯台に導かれるように、何も見えない吸い込まれそうな暗闇にまたたく光がちらほら見える。
それらは、船舶であり、ルカの灯台の光を頼りに目的地までいこうと航海する船であった。
ライナーは思慮深くその心もとない光を見続けていた。
無言の時間がしばらく続き、夜風が心地よくなびいていく。
カーシュはきっと来る。と、ティーダは根拠はないが、なぜかそう確信していた。
カタカタ‥。
背を預けていたコンテナが揺れ始める。
最初は気にもとめなかった小刻みに揺れる物音が次第に大きくなってくる。
さすがに変な予感を感じ取ったティーダはコンテナから離れ、辺りを見渡した。
「!?」
ライナーも異変を察知し、スタジアムを注視する。
港からもコンテナの間からメインスタジアムの光が漏れているのが確認できる。
その方角から聞こえてくるは騒ぎのような音。ザラつくような騒々しさが時が経つにつれて拡大していく。
荒々しい声が、時折、騒音の中から響いてくる。
「なんだ・・?」
ライナーは、そこで何が起きているのか凝視した。
その時、静寂を蹴破る叫びが聞こえてきた。
《『シン』だぁーーーーー!》
ぞくりとした怖気がティーダたちの奥深いところまで響いてくる。
一瞬、その男が何を言っているのか理解が追いつかなかった。
しかし、その叫びを皮切りに次々と悲鳴の声があがってくる。
ただ事ではないと感じるティーダたちの表情がこわばっていく。
遠く、連絡橋を逃げ惑い走って行く人々がみえる。
事態を全く飲み込めないまま、しかし状況は待つことを許さなかった。
何事かと目を見張るティーダは、その光景に声が出なかった。
闇夜の中に浮かび上がるのは大量の〝『シン』のコケラくず″であった。
奇声を発しながら、ティーダたちに敵意をみせるコケラくず。
「な!?」
ティーダは、現実を受け入れることができなかった。ありえない出来事が、今まさに目の前で起きている。
ぼうぜんとしているティーダに、ライナーがげきを飛ばす。
叫び終わるかどうか否か、コケラくずが二人へ一斉に突進してきた。
ティーダは混乱する頭で、剣を引き抜き構える。
スタジアム場内は混乱を極める。
突如としてあらわれた魔物たちが観客としていた人々を襲い出した。
観客たちは悲鳴をあげながら我先にと逃げ惑っていく。
怯える人々を追いやる魔物たちは席を蹴散らしながら、鋭い牙や爪を人間に向けて突き進んでいく。
ノネはその惨状に目をそらすことなく見つめながら
「大至急、ルカへ憎兵を集めて!」
と、ノネを護衛している金の装飾がある兜をつけた兵に指示を出した。
迫り来る魔物を切りつけ倒した兵士は、うなづき駆け出してゆく。
「誰かぁー!」
「!?」
ノネはすぐに声のしたほうに目を向けた。
スタジアム下方の席のところで魔物に狙われる親子の姿がそこにはあった。
親子は互いに身を屈め抱きしめ合って震えている。
魔物は唾液をたらしながら大きな口を開けて親子に今まさに襲いかかろうとしていた。
ノネは駆け出し、右手で椅子の背もたれを掴みながら飛び越えた。
湾曲している椅子の上を、バランスをとりつつ疾走していく。
ノネはクリスタルに意識を集中。体から緑の輝きが増していく。
ノネの見すえる前方、魔物の上あごが親子に向かって振り下ろされた。一刻の猶予もないこの状況で、ノネは魔力を込めた左手を魔物へと突き出す。
魔物が急にびくりと動きを止めた。
そのおぞましい顔が親子にくっつのではないかというくらいの近距離にあるが、それ以上近づくことなく微動だにしない。
魔物から滴り落ちる涎が、母親の頬についた。
ノネは解放した魔力を収縮すべく、開いた拳を握りしめる。
直後、魔物の周囲を風が吹き荒れだした。
魔物を中心に竜巻のように暴風が起こり、その猛威によって魔物の体が切り刻まれていく。
気づけば鋭利な葉が舞っており、それらは魔物を切り刻み激しく乱舞した。
魔物は断末の叫び声をあげながら、身体中から裂くように次々と葉が飛び出していった。
親子は何が起こったのかわからず、その様子を不安そうに眺めていた。
ノネは親子のもとに来て、ケガ等がないか確認した。
幸い、どこも怪我をしていない様子でホッと息をつく。
すぐに兵士たちのいる方向に逃げるよう促した。
親子はお礼を言い、指示された方へ逃げていく。
ノネは兵士と無事に合流できるよう、その後ろ姿を見守っている。
「ノネ様!」
先ほど、指示を受けて走っていった兜の兵士がノネに向かって叫んだ。
ノネの視界が急に暗くなる。気づけばうっすらとした影に覆われていた。
顔を横へそらすと、背後から近づいた魔物の影であることがわかる。目が合った瞬間、不意を狙って魔物が襲いかかってきた。
ノネは視線だけを背後に送りながら、左手を腰に送り剣を引き抜く。
その場で飛翔すると同時に、剣を勢いよく振り抜いた。
折りたたまれていた刃が連結し、ひとつの長刃へと変化する。鎌のような形状となる。
ノネは背面跳びで魔物の突進をひらりかわしながら、その刃を魔物の頭上へ切り込み、そのまま鮮やかに切り裂いた。
重鈍な音を立てて倒れる魔物の上に立つノネ。
浮かび上がる幻光虫を背に、ノネは再び駆け出した。
観客席から、さらに下に位置するスタジアム最下層部。
スフィアプールを支えるいくつもの無骨な巨大鉄骨が円陣を組むように入り組んでいた。
その前にゆらめく影がひとつ。はためく外衣のすそが、影がゆらめく様を連想させる。
朱色の文字が並ぶ仮面の下、目を閉じて周囲の悲鳴や魔物の雄叫び、不協和音に静かに耳を澄ませていた。周囲の騒々しさに身を浸しているかのようであった。
ふと、何かを感じ取る仮面の者。静かに目を見ひらく。
「・・英雄のお出ましか」
その先、連絡通路入り口からユウナが現れ、仮面の者は無情にその姿を見つめる。
歩くとともにユウナの耳飾りが静かに流れた。
臆することなく凛とした表情で、ユウナは仮面の者と対面する。
背合わせに戦うティーダとライナーは互いに息があがっていた。試合の負担により、二人は思うように体が動かない。
次々と増殖するコケラくずに囲まれたティーダたちは、倒してもキリがなく突破することが出来ずにいた。
コケラくずは羽をはばたかせながら、二人を圧迫するように近づいてくる。
「どうなってやがる・・」
ライナーは不審を抱きつつも攻撃を続ける。
気づけばティーダたちは、背中にコンテナがつきそうなくらいの距離までさがっていた。
徐々にスペースがなくなってきて、まとまに身動きがとれなくなってくる。
そのとき、コケラくずの眼前に小さな火が灯り、その火は地を這うようにのびてティーダたちとコケラくずを分かつように境界つくる。
そして一気に拡大、炎の波となりコケラくずを飲み込んだ。
「!?」
ティーダたちは、何が起こったのか分からずにいたがコケラとコンテナの間にスペースが出来、その隙間を縫うようにして脱出する。
「・・一先ず、片付けるんだよね」
暗闇からの気配とともに、ひとつの声が聞こえてきた。
カーシュが街灯の光に照らされ、その姿を現す。ティーダたちと合流をした。
「遅いつうの!」
言いながらもティーダは表情が若干やわらいでいた。
「ったく!」
ライナーもひと息つきながら、戦意が戻ってくる。
動かなくなったコケラくずを尻目に、すぐに三人は人々が逃げてくるスタジアムの方向に向かって走っていった。
被害で街の中は散乱、魔物により建物が壊される被害が相次いで出ていて、それが街全体に広がっている。
騒乱の最中、街を走りながらカーシュが何かに気づき、急に足を止め振り返った。
ティーダたちも、何事かとおもい速度を緩めカーシュをみる。
カーシュはある一点を凝視しながら動かなかった。
「どうした?」
ライナーが突然のカーシュの行動に疑問を抱く。
カーシュは今しがた倒し動かなくなったコケラくずをじっと見ていた。
「・・『シン』は魔物の分類として考えるよね」
「あぁ、・・『シン』は高密度な幻光虫で構成された魔物だ」
カーシュがさらに考える。その疑問はライナーの返答でさらなる疑問を生み出した。
「・・変だ、見えなかった」
「何が!?」
話の筋が見えなくて、結論を急ぐティーダ。
ライナーもカーシュの疑問に気づき、即座に倒されたコケラくずをみた。
改めて見る光景に、ライナーは愕然とする。
「・・幻光虫か!」
ティーダも急いでコケラくずをみた。確認するように
「幻光虫って・・魔物倒したりすると出てくるやつだよな?」
と、問いかけた。
カーシュは自分のもつ知識をティーダに伝える。
「言わば生体エネルギー。生きるものに存在する証ともされる」
三人の視線はコケラくずに注がれた。
「通常は目には見えないけど濃度に凝縮されると姿を現す」
カーシュは、確認するようにライナーに続きをうながす。
「働きを失った体を経て移動する・・って事だ」
ライナーは言いながらも、目の前で倒れているコケラくずたちから幻光虫が発せられていない事実を確認した。
その事実から結論づけると
「・・偽物?」
ティーダの出した答えに対して
「・・だとしても理解し難い」
ライナーは首を横に振りながら、この現状に理由をつけることもできず、納得も出来ずににいた。
結論を出すには情報が少なすぎるし、この問題は今の段階では安易に出して良い答えではなかった。
市街の淵で隠れている人たちに、一人の老人が声を大にして叫んでいた。
「大丈夫じゃ!わしらには〝大召喚士様″が居わする」
「!?・・」
ティーダの顔から表情が消えた。
“ルカに来てるのか・・ユウナ!?”
焦燥に似た感情がよぎっていく。
ティーダは考えるよりも先に体が動いていた。
ライナーとカーシュは目を合わせ、その後をついていった。