FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫   作:ふゆー

3 / 25
③ビサイド寺院

祈り子の間に到着するティーダと青年。

三年前よりもその空間は気鬱な雰囲気を漂わせていた。

隣にいる青年がティーダにしっと目配せをする。

うなづくティーダ。

ビサイド寺院の祈り子の間。

そこはかつてティーダがユウナと初めて出会った場所。

そのときの光景を思い出すティーダ。

しかし今そこには別の影が三つ立っていた。

祈り子像に向かって不気味な仮面で顔を覆った者が立つ。その左右に男と女の従者が二人。

漆黒の仮面には得体の知れない奇怪な朱色の紋章がびっしりと並び連ねてあり、気持ち悪い雰囲気が漂わせていた。

仮面の者たちは祈り子像を見下ろしている。

その後ろ姿を見るティーダと青年。

祈り子を見ていた中の一人が、気配を敏感に感じ取り後ろを振り返る。

「ほら。人来たよ?」

仮面の者の右後方にいる女性の可愛らしい声が祈り子の間に響いた。

「問題ない」

左後方にいる従者の男が女性に向かって素っ気なく答える。

ティーダと青年の表情が次第に強張る。

「・・何してんだよ」

ティーダが厳しい口調で聞いた。

続いて青年が睨みながら

「村の騒ぎ御存じ?」

と、問いかける。

仮面をつけた者は祈り子像をじっと見据え、ティーダたちに背を向けた状態のままでいる。

青年の問いに答えたのは、左にいる従者の女性だった。

「やっぱ集まってたんだ?醜い」

嫌悪感を出し吐き捨てるように答える。

「!?」

ティーダと青年は何かを知っているであろう素振りの彼女の発言を理解することができない。

右にいる従者の男が肩をすくめる。

「力を求めずには居られなかったんだろ」

他人ごとのように話す従者の男は、このことにあまり興味がなさそうに喋る。

仮面をつけた者がその身に着ている服をひるがえしながらティーダたちの方を向いた。

黒一色の長衣の風貌。

魔道士が好む服装に似ていたが、どこか不吉さを引き連れた様相をみせている。

長衣には、いくつかの装飾があるがそのひとつひとつがどれも禍々しい。

仮面の者がティーダたちを見る視線には何ら感情が込められていなった。

ティーダたちのやりとりを聞いていた仮面の者が口を開く。

「事は済んだ」

威厳ある声がその場の空気を制した。

左右の二人は崩していた対面を戻し後ろに控える。

「済んでねーよ!何なんだって聞いてんだよ」

苛立ちを隠すことをせず、吠えるティーダ。

従者の男が無言で剣を鞘から抜く。

が、仮面の者がゆっくりとした悠長な動きでその剣に手を添えた。

「君達は時が訪れるのを待てば良い」

諭すような口調。

しかし、その眼光には人間としての扱いではなく、まるで虫をみるような蔑みが宿っていた。

何かがおかしい、と違和感を感じずにはいられないティーダ。

肌で何かを感じ取っていた。

その違和感は徐々に確信へと移り変わっていく。

控えの間の中央付近がぐにゃりとし始めた。

従者の女の子は、嘲笑が張り付いている。

歪みの奥からぞくりと震わせる雰囲気が発せられていた。

その場の空気を圧倒させるほどの力と畏怖で満たされる。息をするのもやっとなほどの威圧が迫り来る。

「これ・・」

ティーダの身体はこの感覚を知っていた。

かつては自身らの味方として存在したその力が、今は対峙することとなる。

ティーダの顔から血の気がひいていく。

否応にも身が引き締まり、息をのんだ。

「そうだ」

仮面の者は静かに喋った。

従者たちは肩の力を抜き、仮面の者の両脇で直立不動をしている。

特に動く気配はない。

視線だけをティーダたちに注いでいた。

「植物より生まれし層の一部」

仮面の者の声と共に、さらにその場の畏怖が増していく。

ティーダと青年は最大限の警戒をし、その場から動くことができない。

「名を〝クロノス″。召喚獣だ」

従者の女性からうっすらとした笑みが見え隠れする。

「!?」

ティーダは自分の耳を疑った。そんなはずはない。聞き間違えであるとそう思い込みたかった。

一気に場の侵食が始まる。

祈りの間の手前、控えの間を覆い尽くすほどの大きな黒き印が表れる。

そこから小さな芽がいくつも生まれ出した。

小さな芽にすぎなかった緑が瞬く間に巨木へと成長し、木々が重なり合い、ひとつの巨大な樹木が誕生した。

ティーダの視界を深緑が満たす。

その巨木が自ずら(おのずから)前に突き出すように歪み、さらにその中から人の形をした召喚獣が生まれ落ちるようにしてあらわれた。

それは人の形こそしていたが、構成するのは枝と幹であった。

いくつもの枝を無残に割るような、軽快で不快な音を立てながらクロノスは動き出す。

体中を気色の悪い小さな虫たちがいたるところに這っていた。

クロノスの目は完全に濁っていて、その瞳に光はなくぽっかりと空洞が出来ているようにみえる。虚無の瞳には何も映すことはない。

召喚の衝撃で、控えの間全体が軋む音を立てた。

壁のいたるところに亀裂がはいる。

クロノスは床の石畳を踏み割りながら一歩前進した。

「そんな・・はず」

目の前の光景を信じることができないティーダは唖然とする。

「これが・・召喚獣!?」

青年はその圧倒的な光景に、恐れ敬う感情を抱いた。

格が違いすぎることを肌で認識、本能が危機を訴えかける。

面の後ろに控える女はクスクスと小馬鹿にしたように笑っていた。

ティーダはまっすぐに不気味な仮面の者を見据える。

ティーダの睨む眼差しと、仮面の者の蔑む眼差しが互いにぶつかり合う。

「祈り子は夢見る事を辞めた」

仮面の者への視線をそらすことなく、まっすぐに凝視した。

「・・違うのか!?」

唸るように言葉を紡ぐティーダ。

問わずにはいられなかった。

「夢?」

青年が眉間に皺をよせ、ティーダの言葉を復唱する。

ティーダの言葉に仮面の者は目を見開いた。

観察するようにティーダを上から下まで眺め、次第に興味を示し出す。

「違うのなら・・俺がここに居る答えになる!」

あまりに強いティーダの言葉。

従者の女性は笑うのをやめていた。

真剣な眼差しをティーダに向けている。

その場にいる者が全員、ティーダに視線が釘付けとなった。

「何故・・夢の事を」

仮面の者は無機質な視線をティーダへ向け、問いかける。

自らがもつ剣の腹を撫ぜながら視線を落とす。

ゆらりとした緩慢な動きでティーダに一歩踏み出した。

長衣の裾が流暢に流れる。

『気を付けて!狙いは〝僕達″』 

ティーダに語りかけるどこからか響く声。

咄嗟にティーダは剣を振り上げた。

氷刃のごとき鋭利な刃が、ティーダの命を刈り取ろうと疾走してきていた。

仮面の者の斬撃を自らの剣で防ぐティーダ。

不意に鈍い金属音が鳴り響き、目の前で火花が飛び散る。

「‥っ!?」

剣をもつティーダの腕がものすごい衝撃で痺れる。

仮面の者はティーダの眼前に来ていた。

その間の動き、攻撃に移るまでのモーションは一切見えない。

「早い!?」

青年は銃を構えながらも仮面の者の動きに驚かざるえない。

不気味な仮面の者はティーダに対し、さらなる圧をかける。

「どう言う事だ」

仮面から覗く瞳が物欲しそうにティーダを物色する。

「くっ・・!」 

一方的な力で押され後ろに下がるティーダ。

“なんだこいつ。見えなかった剣の動きが・・!”

打開の策をなんとか見出そうとするティーダ。

「ガードだったんだろ」

青年の言葉を聞き、仮面の者の瞳孔が大きくなった。

不思議そうにティーダを眺めながら仮面の者はとても可笑しそうに笑い出した。

この緊迫した状況の中、場違いなたったひとつの笑い声だけが祈りの間に響く。

一通り笑い終わったあとに仮面の者は目を輝かせた。

「そうか、ジェクトの子に会うとはこれは面白い・・」

仮面の奥にある口もとが軽薄に笑ったかのようにみえた。

仮面の者は、剣を握っていない左手を上にあげる。

そして、指を青年に向け折り曲げた。

巨体のクロノスが木をへし折るような不穏な音を立てながら両手を下にかざした。

指先からのびる蔦が、青年に向かって地を這い蜷局(とぐろ)を巻きながら走っていく。

青年は反撃を試みるために、銃を構えクロノスから伸びてくる蔦を狙い撃つが、蔦の鞭は器用に曲がりくねりながら攻撃をかわしていく。

複数の蔦が青年の足下に絡みつき、そのまま祈り子の間から控えの間へと引きずり出した。

クロノスが両腕を真上へとあげる。

蔦が大きくしなった。

青年は蔦が上にしなる反動で宙へと放り出される。

体勢を崩しながらも、青年は受け身をとりながら着地をする。

攻撃に転じるために銃をクロノスに向けるも、その動きが停止した。

引き金を引こうとした瞬間、クロノスの指先からのびる蔦が青年の喉元に向けられていた。

指の枝先は割れ、そこから鋭利な歯がついた気色の悪い植物の口が飛び出し小さな奇声を発している。

青年は微動だに出来ない。

「召喚の力、どれ程のものかよく知っていよう。答えよ。・・消えたはずのがキミが今存在する理由を」

唐突の問いがティーダに飛んできた。

「・・んで親父を知ってんだよ」

少しずつ力を込める仮面の者。

切っ先に重みが増す。

うしろのめりになるティーダは踏ん張ることを許されない。

仮面の者の眼光がさらに強まる。

「質問にだけ答えてくれれば良い。彼の命・・惜しくはないのか」

クロノスの指先の口が青年の喉の皮膚を軽く食いちぎる。

鮮血が飛び、滴り落ちる。

うねる蔓の指先が蛇のように揺れる。

「・・!」

青年はその場から動かない。

「くそ・・!」

ティーダにはどうすることもできなかった。

仮面の者は喜悦しながら喋る。

「全ての命を我は導く、我次第。・・そうだ君の父は立派に事を行ってくれた」

「何を」

ティーダに不愉快な感情が掠める。感情が昂ぶり出す。

「素晴らしかったよ・・『あの姿』となりあの力得たか」

恍惚としながらティーダに語りかける仮面の者。

「黙れ!それ以上口にしたらただじゃ置かねえ」

怒りで瞳が煌めくティーダ。

その目を見て仮面の者は興ざめした声を出す。

「それはこの状況を見て言っているのか?」

仮面の者はティーダに顔を近づける。

仮面に刻まれた不気味な文字の羅列がティーダの眼前に迫る。

呪いをかけられたような気分になるティーダ。

「・・甘い考えだ」

さらに突きつけるように言葉を続ける。

「犠牲なくば生きては生けぬこのスピラに何が残る。〝カオス″の作り出した法則など守る必要があるとでも言うのか」

それは哀愁に似た感情であった。仮面の者は憐れむようにティーダをみる。

「さっきから何訳のわかんねー事言ってやがる」

憎々しげに睨むティーダ。

「・・〝彼女″もそうしたではないか。自らの仲間を犠牲とし『シン』を倒した」

それは残酷な現実を突きつけるようにティーダの胸に突き刺さった。

仮面の者の言葉がティーダの感情を逆撫でしてゆく。

「・・ふざけんな!黙れって言ってんだろ!!」

怒りとともに、熱いものが体の中を迸ってゆく。

闘志の光をその目に宿した。

仮面の者は、ティーダを見下すのみでそれ以上なんの感情も抱かない。

二人のかちあう剣がギリギリと音を立てて拮抗する中、ティーダから眩いばかりの輝かしい光が溢れ出した。

仮面の者を睨むティーダ。

「属性力か・・」

仮面の者は驚くことはなくティーダの力を察する。

ティーダを制圧すべく剣圧を一気に増していく仮面の者。

しかし、さらにティーダの光の拡散力が広がりその身を包み込む。

それを見た仮面の者は目を見開いた。

「違う!?なんだ」

ティーダは勢いで仮面の者の剣を跳ね上げる。

初めて驚きの表情をみせた仮面の者。

その瞬間、青年がクロノスのくびきをふりほどき、転がりながら体勢を立てなおしクロノスに銃弾を撃ち込む。

と、同時に赤き光を身に纏いながら敵陣に銃弾を放った。

呆然としながら、ティーダに魅入っている従者の女性は、視界の端で青年の動きを察知する。

こちらへの直接の攻撃に慌てて、攻撃への対処がワンテンポ遅れる。

「サイシス!」 

従者の男性は苛立ちながら彼女の名を叫んだ。

サイシスと呼ばれた女性はすぐに魔力を練り上げ自分たちを中心に一帯を透明な防護壁で包み込む。

しかし防護壁が完全に出来上がる前に当たった魔弾は凄まじい音をたて爆砕した。

激しい轟音を撒き散らしながら防護壁が砕れる。

身をかがめ防護壁の破片を避けるサイシスと、頭上に降り注ぐ破片を剣で振り払う従者の男。

ガラスが砕け散るような音が部屋を満たした。

破片が地面にぶちまけられる。

瞬きながら崩れ落ちる破片を背景に、ティーダと仮面の者はこの戦場の中央にいた。

しばらくティーダを見つめていた仮面の者は、不意に思い出したかのように宙を眺める。

そこには砂時計が浮いていた。

残りの砂を見て、仮面の者は驚きを隠せないでいる。

仮面の者の後方の空間が歪み始める。

それをみた従者は驚きを隠せずにいた。

「時間だ」

躊躇することなく歩き出す仮面の者。

仮面の者が歪みの中へ歩き出すと、そのあとを従者の男もついていく。

「クロノス」 

仮面の者の言葉でクロノスはピタリと動きを止め、その身体が変化を始める。

身体が巨木となり、その木は徐々に小さくなり、やがて最後には小さな芽となり消えた。

「・・覚えてなよ」

従者の女性は、仮面の者を追うように歪みに入っていった。

仮面の者はティーダたちを顧みることなく進んで行く。

そして三人は歪みに姿を消した。

その場の空気が静まり返る。

ティーダは、立っていられずに倒れこむように四つん這いになる。

「おい、大丈夫か!?」

青年がティーダに駆け寄った。

「・・!?」

青年の足取りが途中で止まり、言葉を失っていた。

ティーダの手の輪郭がぼやけ薄れている。

その薄れゆく手を目を背けずにしっかりと見つめるティーダ。

自分の手を通して、その先に石の床が見える。

「はぁ‥はぁ・・」

呼吸もままならないとくらい、身体が疲れきっていた。

指先ひとつ動かすのも困難で、気をぬくと意識を失いそうになる。

透き通る手が、自分の存在がいかに曖昧で有耶無耶なのかを痛感させられる。

“この時わかったんだ。俺は‥現実を夢見てただけだって・・”

 

 

 

朝方、浜辺にて。

紺から赤へのグラデーションが夜と朝を曖昧にし、境界を虚ろにさせている。

雲が朝日につられるように鮮やかに赤く染まっていた。

まばらに瞬く星たちは、朝の訪れとともにその輝きを失い始めている。

浜辺には飛空機が一機待機していた。

その飛空機の搭乗席にて、パネルを色々と調整する青年。

それを下から眺めているティーダには彼が何をしているのかは分からないが興味深そうに見ていた。

ひと段落ついて、搭乗席から顔を出す青年。

「乗れよ!」

「え!?」 

青年は手すりをもち、飛び越えるようにして浜辺に降り立った。

青年の足元に砂煙りが舞う。

ティーダと青年の視線が交錯する。

「〝ベベル″に行くんだろ。乗ってけ」

親指で飛空機を指差す青年。

青年の突然の申し出は有難いことではあったが、しかしながらティーダは戸惑うばかりであった。

ティーダは予想だにしてなかった彼の言葉に反応できない。

代わりに祈り子の間での情景が思い出される。

“・・たしかに聞こえたんだ。〝あいつ″の声。

(『気を付けて!!!狙いは〝僕達″』)

ベベルに行けば・・何かわかる。不思議とそう思った。”

ティーダの心の内の迷いを払拭するかのように青年は手を差し出す。

「俺は〝ライナー″。よろしく」 

その手を見つめるティーダ。

ティーダは最初は躊躇しながらも、最後はしっかりとその手を握る。

二人は朝日が昇る浜辺の中、握手を交した。

ティーダの表情が和む。

「本当にありがとう。ライナー!」

「おう!・・んじゃ、準備でき次第出発だ!」

“正直、心強かった。今思えば・・この長い旅の始まりには大きな意味があったんだ”

搭乗席に再び乗り込むライナー。

振り返るティーダの視界にはまばゆいばかりの太陽が水辺線から昇るのが見えた。

真紅に燃えるようなその様に思わず目を細めてしまう。

ティーダは手で陽射しをよけながらも、それでもその光景をずっと眺めていた。

燦々と輝く太陽の力強さに自分のこの先の見えない未来に希望を見出そうとしていた。

 

 

飛空機は順調に高度を上げ飛んでいる。

窓にはうっすらと陰る雲の切れ端が横に並び、名残惜しむことなく通りすぎていく。

ティーダは小さくなってゆくビサイド島をずっと眺めていた。

これまでの一連の騒動を思い返すティーダ。

分からないことだらけで整理がつかない。

何かをまとめようとしても、基準となる軸がないので思考はまとまりがつくはずもない。

「なぁ、島の海岸に」

操縦管を握るライナーがティーダに何かを伝えようと語りかけた。

「えっ?」

懇々とした思考から、我にかえるティーダ。

ティーダは飛空機から身を乗り出して、海岸の浜辺を目で追い、そして目を見開いた。

そこには海岸に息を切らしながら走る者の姿があった。

ティーダはその人物を見て愕然とする。

「・・ワッカ!?」

ティーダは突然の出来事に驚き、言葉が続かなかった。

「戻るか!?」

操縦席からライナーが顔だけ振り返り、ティーダを見る。

ワッカも窓から眺めるティーダを見つけた。

何かを必死で叫んでいるが、飛空機にいるティーダまでは届くことはない。

ワッカは大きく手を振りながら全力で走っている。

それをティーダは愚直に見つめ続けた。

「‥いや、行ってくれ」

ティーダはそれ以上何も言わない。

ライナーも何も答えずさらに高度をあげる。

ティーダの視界から見えなくなるまでワッカは走り続けていた。

それをティーダは見えなくなるまでずっと見続けていた。

 

 

機内。

エンジンによる轟音が、BGMのように流れていた。

ティーダは外の景色を飽きることなくずっと見ている。

雲が流れていく様をぼんやりと眺めながらティーダは喋りだした。

「ワッカとはガード仲間でさ」

ワッカとのやりとり、思い出が次々と蘇っては通り過ぎていく。

「本当に世話になった」

窓に映る自分の姿は、どことなく元気がない気がした。

「なんつーか今はまだ説明できる状況じゃ‥」

「・・ベベルに行けば何とかなりそうなのか?」

ライナーの問いにティーダは首を横にふる。

「わからない・・でも、〝答え″を見付けたいんだ」

「・・。答えか」

ライナーはそれ以上、追求しない。

会話はそれ以上続かず機内の中が静まり返る。

エンジン音だけが機内に無機質に鳴り響いた。

沈黙する二人。

しかし、その静けさは不意に蹴破られた。

轟音とととにものすごい衝撃で機体が揺れる。

その勢いで転がりそうになるティーダ。

何事かとティーダは窓から空をみる。

激しく揺れる機内は急激に傾き始めた。

「んなっ!?」

窓の外の光景にティーダは驚愕の声をあげる。

「でかい・・鳥!?すーげー」

雲の間から、巨大な翼、羽根のない皮膚、長いくちばしが見え隠れする。

全長は分からないが、巨大な鳥型の魔物、ガルダのグラン化が接近してきた。

飛空機に合わせ巨大ガルダが追従してくる。

ティーダは窓越しに見える巨大ガルダに興奮した。

しかし翼に浮き出る血管には怖気を感じる。

おぞましく怪奇な声をあげる巨大ガルダ。

その気持ち悪い声はティーダたちの腹の底にまで響いた。

ライナーは思い切りハンドルをきり巨大ガルダから避けるように飛空機の軌道を修正していく。

色んなパネルを操作しながら揺れる機体の微調整を図っていた。

「移動にしか使わねぇ飛機だ。衝撃によっては墜落すんぞ」

ライナーの声には余裕がない。

色んな機器を調整し必死でバランスを保とうとしている。

思い切り操縦桿を握りしめるライナー。

飛空機は速度を増し、巨大ガルダを振り切ろうとする。

「まじっスか・・!」

ティーダは血相をかえライナーを見る。

巨大ガルダは、しばらく飛空機と並走を続ける。

そして轟く声で、一声だけ鳴いた。

それを合図に巨大ガルダが向きを変えて再びこちらへと迫ってきた。

一瞬、ティーダと巨大ガルダの目が合った。

「また来るぞ!」 

ティーダの叫び声が終わるか否か、巨大ガルダが長い首をしならせる。

鞭の如く振られる首と飛空機が再衝突。

凄まじい衝撃が機体に損傷を与える。

「ぬぁ」

あまりの衝撃にその場から転がるティーダ。

ライナーは揺れる機体の中でハンドルを必死に操作をする。

が、途中でその手が止まった。

「・・っ。操作機能がいかれやがった」

操縦桿を思い切り叩く。

機内に鳴り響くエラー音。

赤い点灯ランプが無慈悲に機内を満たし始めた。

低空飛行を続けた飛空機はやがて落下を開始する。

みるみるうちに加速は増していき、一気に海面が近づいてくる。

「!」

海面への激突の衝撃に備え、身を縮める二人。

その時、飛空機が落ちる前方の海面の空間が歪みだした。

二人の乗せた飛空機は歪みに吸い込まれるかのように飲み込まれた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。