FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫   作:ふゆー

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❻聖ベベル宮

ライナーの実家を後にして、ティーダたちは次なる目的地へ向けてベベル中央に位置する繁華街を横断するように通り抜けていく。街の主要機関が集結する中央地区では、背高い高層の建物が軒並み続いていた。雑多な街並みに切り取られた空には、うっすらとした水色の透明が覗かせているだけであった。

スピラでもっとも発展しているというのも様相から想像できる。街行く人々の姿格も民族的ではなく都会の様相を伺わせていた。

日中だというのに出歩く人の数は多く、活気盛んである。

その陽気さが続くものと思われていたのだが、都会の一角で突然に街並みが途切れるようにして木々が鬱蒼と生い茂る区画が広がっていた。

森をかき分けるように一本道が続くが、見通しは悪く奥までは見通せない。

ライナーが先頭で公園に入っていき、その後をティーダたちも続いていく。都会の中であるとは思えぬほど、広大な面積地に森林地帯が根付いていた。

各地に、湧き水が溢れ小さな水たまりを作り出していた。この土地柄の特性でもある豊富な水により、各地で水がコロコロと遊ぶ音が聞こえてくる。

ここに居住地域が広がるにつれて消えてしまった、かつて群生していた自然がこの森にはたしかに残存しており、古来のベベルの土地の姿を思わせる。

土を盛っただけのあぜ道の左右には樹齢何百年であろう巨大な樹木が両脇に座すようにいくつも立ち並び、日陰を帯びた森の街道が出来上がっていた。街中では感じることができなかった芳醇な土の香り、植物の息吹が鼻につく。そして小鳥たちが嬉しそうにさえずる声が森のざわめきに交じってとどいてきた。

外からの人工的な騒音はしんと掻き消えて、森の中は梢のざわつく音で満たされ静まり返っている。

カーシュが一変した雰囲気に気を取られて珍しそうに進んでいると、とある一点の風景に目がとまり足がぴたと止まった。

枝を踏み割る足音がとたんに途切れてしまう。その一点を凝視しながら、記憶を探るような表情を向けていた。巨大な幹のふもとで一人立ち尽くすカーシュは、そのままふらりと迷子になり消えてしまいそうな心もとない瞳を森の片隅にかたむけていた。

一行は、そのことに気づく様子もなく道を進んでいったが

「・・?」

ティーダだけはカーシュだけが、離れ立ち止まるのに気がついた。

「どーした?」

と、声をかけながら惚けているカーシュに近寄っていく。

不思議そうな顔をしているティーダに気づいていないのか、カーシュは未だにその一点をぼんやり見つめてながら何かを模索している。

「・・いや、なんでも」

と、ふんぎりをつけるように視線をはずした。そして歩き始めティーダと合流を果たす。

しかし、やはりまだ未練が引っかかるのか、もう一度振り返ってうっすら光が反射する森の湖の風景の一角を一瞥をした。そこには物言わぬ静かにきらめく湖面の揺らめきがあるのみであった。

原生林の公園を抜けた先、今度は個人の住宅がひしめく区画が現れた。ここでは突出した背の高い建物はなく、同じような形の一軒家が整列するようにきれいに建ち並んでいる。

ユウナは、しばし立ち止まりその風景を眺めていた。この街並みのことをはっきりと覚えていた。

懐かしい気持ちとともに柔らかなまなざしを周囲に向ける。雲の合間から切り込む陽ざしに目を細めながらも、自然と歩く速度が早くなった。この辺りはユウナが幼いころから、よく遊んだ界隈であった。

道路の両端に整然と並ぶ街路樹が、街中に綺麗な緑のコントラストの色付けをしている。ここでは子供たちが楽しそうにはしゃぐ姿がよく見かけられた。

家と家の間に張り巡らされている細い裏路地を通りすぎ、再び広い通りに出て進んでいくのを何回か繰り返していると、やがてユウナはその足をゆっくりと止める。

目の前には、こじんまりした小さな一軒家が佇んでいた。

静かなる鼓動を感じつつ、まさか今日という日に自分の生まれ育った家まで足を運ぶことになるとは夢にも思っていなかった。

ユウナは若干の緊張をしながらその家を見上げる。外観は年代さを感じさせつつも、綺麗な佇まいを残したままの状態を保っている。

ぼうっと眺めているユウナの背中にライナーの声が飛んできた。

「どーだ、変わりはないか?」

ユウナは視線を傾けながら

「うん、まったく」

と、嬉しそうに微笑んでいる。懐かしみが、胸の奥底からこみ上げてきていた。

生まれ育った家の情景は何一つ変わりなく今もここにあること、そして自分がその家の前に立っていることに素直に感動している。

「ここがユウナの住んでた家か!」

ティーダがユウナの横に並びながら、声を大にして感動していた。

ユウナ以上に奮起しているティーダは、背伸びをしながら家を色んな角度から眺めようとしている。

「7歳までね」

と、ユウナは穏やかに答えた。もう一度、確かにその目に焼き付けるように家をまっすぐに見つめる。

「忘れてしまっている事も多いけど、母さんと父さんと暮らした時間はちゃんと覚えてる」

胸の高鳴りを抑えつつユウナは両手を胸のあたりに添えた。

「懐かしいな」

と、決意を新たにして、かつて自分が暮らしていた思い出の場所に向かって一歩踏み出した。暖かい日差しが庭に萌える観葉植物たちが出迎えてくれる。そこには色とりどりの花が微かに揺れていた。

そして玄関へとたどり着いた。ユウナはアグネスから預かった鍵を、着物の裾から取り出した。少しの間それを見つめた後に、静かに鍵穴に差し込んでいく。

カチャ・・。

スムーズに鍵は左へと旋回し軽やかな音が鳴りながら、難なく施錠は解除された。

ユウナはそっとドアノブを握る。

開かれた扉からユウナは家の中へと入ると、しんと静まり返った玄関が出迎えてくれた。長年の沈黙が降り積もった空気が足元から流れてくる。

ユウナに続いてティーダたちは玄関の前で会釈をしてあがっていった。

廊下を進むユウナは思っていたよりも狭いなと思うと同時に、幼い頃のままでこの家のイメージがとまっていたことを改めて実感させられる。

まっすぐに進んだ突き当り、そこにリビングへと続くドアがある。

そこを開けると、先には綺麗な状態を保ったリビングのたたずまいがあった。長い時、誰も住んでいなかったとは思えぬほど部屋に埃っぽさはなかった。

ユウナはリビング中央に設置されているダイニングテーブルまで来て、指をそっと触れながらなぞっていく。

その当時は当たり前だと思っていた家族の日常が追憶の1ページとして蘇ってくる。

その頃のこの家には家族の温もりがたしかに根付いていた。

 

庭で遊んでいた幼いユウナは、母がつくる自慢の美味しい料理の香りを嗅ぎつけて廊下を走ってくる。

急いで椅子に座り、食卓の上に用意してあった食事をのぞき込んだ。

「こら、ちゃんと手を洗ってからよ!」

母はユウナのその行動を逐一逃さない。洗い物をしながらユウナに背を向けているはずだが、物音を聞きながらしっかりと我が子の行動をチェックをしていた。

母の一喝で射抜かれたように、伸ばしたユウナの手が止まった。そろりと母の様子をうかがう。母はユウナにたいし、睨んではいなかったが、しかし笑ってもいなかった。

次にユウナは横に座っていた父、ブラスカに助けを求めるように上目遣いで伺い覗いた。

席に座っているブラスカは新聞を読むのをやめてユウナに優しく語りかける。

「今日も美味しそうだ!ユウナ、早く洗って来ないと父さんが全部食べちゃうよ」

と、優しく微笑みを向けた。

ユウナはそれを聞いて口をあんぐりと開きながら固まってしまう。

さらにブラスカは料理に手を伸ばす仕草をした。

「え!?待ってー」

慌てた顔をしながら、ユウナはあわただしく椅子から飛び降りて急いで洗面所に走っていく。

ブラスカはその後ろ姿を見守りながら

「ははは・・」

と、我が子を愛しむように微笑んでいた。

 

幼き日の日常の些細なワンシーンが、まるでつい先日のことのように艶やかに蘇ってくる。ユウナは周囲にある家具をとても懐かしむように見渡した。

あのときと変わらぬ情景がここには確かに現存している。

ユウナはもう一つどうしても見たい部屋があり、リビングをあとにする。廊下に戻って、南側にある小さな部屋へと赴く。

扉の前で立ち止まるユウナは、じっとその奥の部屋を見透かそうとみつめていた。

少し緊張をした面持ちでドアノブを回すと、木材が軽快に軋む音階を奏でながら、静かに押し開かれてゆく。

その先にある部屋へ進むと、そこには小さな部屋に手芸のために用意された道具が数多くあった。正面にある棚には手芸関係の小物が整頓され並べられている。

カーテンのすき間から仄か(ほのか)に陽の光が流れ込んできていた。窓を開けるとそこから風が涼しげに遊ぶように舞い吹きこんでくる。眩しそうにユウナは目を細めた。

長年の静かな時間の経過から、うっすらと部屋全体に灰白い埃が積もっているものの、かつての面影がそのまま残っている。

その部屋に置かれている物ひとつひとつを確かめるように丁寧に眺めながら、ユウナは当時のままのこの場の雰囲気に浸っていた。

そこへティーダがユウナの後を追うように部屋に入ってくる。

「ここは・・?手芸部屋的なか?」

と、部屋の中にある道具類から推測しながら質問をした。

ユウナは静かに振り返る。こくりとうなづきながら、自分の首の横に流れる青の糸で編まれた耳飾りにそっと触れた。

とても大切そうに撫ぜながら

「これ、母さんが編んだ物なの」

と、耳飾りのルーツをティーダに伝えた。

「それ・・そーだったのか!」

出会ってから、ずっと片時も離さずにつけていた耳飾り。その意味をティーダは初めて知りとても驚く。

「この家を出た時からずっと付けてるんだ」

と、もう一度優しく撫ぜた。

私の宝物・・

と心の中で自然と呟く。

ユウナは、この部屋での大切な記憶の片鱗が浮かび上がってきた。

 

その日は柔らかい日差しが窓から刺し込んでくる穏やかさが流れていたことをはっきりと覚えている。ゆるやかな日常の時間の中で、母は編み物をしていた。

幼いユウナは作業台に両肘をついて母の作業をする姿を、傍らに寄り添いながら熱心に飽きることなく見つめている。

やがて母は手を止めて、完成した青の編み物をみて満足そうにうなづいた。

「良い?これはおまじないをかけて作ってあるから、大切にね!」

と、腰をかがめながらユウナと同じ目線まで降りてきて、丁寧に耳飾りを付ける。

「おまじない?」

ユウナ耳飾りをつけてもらうために、動かずにじっとしながら母をみつめていた。

母のおまじないという言葉に不思議な魅力を感じながら首をかしげた。

そんなユウナを母は優しく引き寄せ抱きしめる。しばらくしてユウナの両肩をもちながらゆっくりと引き離した。

そして顔をしっかりと見つめながら

「私達を含めユウナを思う人達がいつだって側にいるんだよって言う証。これで寂しくないぞ」

と、愛しい愛娘に満面の笑みを向けながら頭をくしゃくしゃとなぜた。

「うん!大切にする!」

ユウナはとても嬉しそうに元気よくうなづいた。その拍子に耳飾りも嬉しそうに軽やかに踊った。

 

それから年月は経ち、耳飾りは目立った痛みもなく綺麗な状態を保ったままであった。

ライナーたちも部屋に入ってきて合流する。

「・・このお蔭なのかな」

「ん?」

ティーダはユウナの言葉の端を拾いとるが、それが何を意味するかまでは分からなかった。

ユウナは、改めて感謝の気持ちをこめながら耳飾りを撫ぜた。これまでの出会い、そして紡がれてきた絆のことを想う。

「皆・・、素敵な時間をありがとう」

自然と口から紡がれた言葉。それを聞くティーダたちはそれぞれに優しくユウナを見つめていた。

 

 

陽は徐々に傾き始め、澄んだ青海の空と純白の雲たちは焼けような色に鮮やかに染まりつつある。ティーダたちは市街から聖ベベル宮を結ぶ長いエレベータの昇降機を使い昇っていた。振り返れば、先程まで自分たちがいた市街地が小さな姿となって一望することができる。

しばらくしてエレベータは指定された階にとまる。そこから螺旋階段を上ると最初に見た正面大門にたどり着いた。脇にいる兵士に声をかけると簡単な手続きを行い、それはすぐに済んだ。重厚な扉が開き、その奥の光景が現れる。

宮殿の庭園に入ると、そこには昼間には見受けることのなかった多数の人だかりがあった。幾人ものベベル関係者たちが誘導しながら奥の会場へと案内している。この場に招待された著名人たちはそれぞれが雑談を交えながら、今回の式典の議題について案じていた。

「人出が増えて来たな」

来賓客の多さについてティーダが率直な感想を、特に恣意を込めずに呟く。

ユウナもここに集まる人々を見据えながら

「疑問に抱く事も疑う事もなく、ただ教えを信じて来た」

と、俯瞰的にこの世界の人々の気持ちを見透かすように言葉が漏れた。心情を吐露するようにも聞こえる。改めて自分の心の中にある違和感のようなものを手探りで探り当てるような作業に近かった。

「・・?」

脈絡なく切り出したユウナの言葉に、ティーダは目を配らせる。語るユウナの横顔には夕日に照らされ、燦々と焼ける朱色に頬が染まっている。そこにはにわかに不安の兆しが宿っていた。

ユウナ自身、不安が先行しつつも自らの胸の内にある疑念材料を口に集めだした。

「こうしてエボンが自らの呼び掛けをし、全ての種族関係者を集め話すほどの事・・」

と、この会議の重大さを感じ取っていた。会場全体から伝わってくる緊張感がそれを物語っているような気がしてならなかった。

「多くの著名人を含め、興味本意で駆け付けた者もいれば何らかの動きを察する者・・。いずれにしろこの式典は今までにない大きな場となる」

ライナーはユウナのこの話題を静かにずっと聞いていたが、やがて宮殿前に群がる人々に視線を移す。

「なんとなく検討はつくな」

と、ノネが皆に伝えたいであろう内容におおよその憶測をつけていた。

ユウナは返事をすることなく、ライナーの言葉を解釈しながら自分の中に落とし込んでいく。

カーシュは二人のやりとりを聞きながら、具体的なことを示唆しない二人にたいして怪訝な表情をしたまま次の言葉を待っていた。

しかし二人は硬い表情を崩さず互いに明後日の方角を向いたまま、無言を示すのみである。

ティーダはこらえきれずに会話に参入した。足りない情報を推測で補いながら

「なんだよ、例の守護獣とかその辺りか?」

と、思いついた節をほとんど根拠のない当てずっぽに近い形で尋ねた。

ユウナは首を静かに横に振りながら、ティーダを見る。その瞳には感情の振れ幅を映すように揺らぎに満ちていた。

「〝封記″と称したエボンの封印されし記憶」

と、そっと忘れられた記憶をなぞるように口を開く。

「え・・?」

ティーダは封記という言葉に反応した。

「きっと・・私達の想像がつかないお話だと思う」

ユウナは、触れる内容の重要さに心がにわかに震える気持ちを抱く。

ライナーは正面にいる招待された人々を見据えながら

「頑なに禁じて来た事にも限界がある、俺個人としては力添えでしかない本意での行動とは思えねぇけど・・」

と、この会議の議題について案じた。ライナーはノネの行動が身の切るような苦肉の策ということを感じている。

「教え教えって信じてやって来た。『シン』は結果望み通りいなくなった。教えは人々の中で確信に変った」

と、淡々とこれまでの経緯を語っていく。

しかし、ここでライナーは盲目的な人々の信教にたいし、眉間にしわをよせた。

「そもそも教えってなんだ?・・って今更教えを疑問に抱く奴も疑う奴もいない」

その問いにたいして、この場にいる誰も答えることはできなかった。

「今また新たに起こった現象だとかに封記と関係性があるんだろう。ノネも〝懸け″だろうな・・」

ライナーの苦々しい表情がさらに強くなる。

ユウナはその話を聞きながら、口をつぐみ顔に影を落とす。

「きっと・・」

彼女の記憶の中を横切るのは、雷平原での雨が降り注ぐ音と雷光に照らされるノネの横顔。

(「・・予想はある程度出来ているの」)

その時の視線には、相当な覚悟をまとっていた。

「重い責任感を背負ってる」

ユウナは喉が渇く感覚を味わう。ひどく緊張感に苛まれるのは、彼女のその責任の所在に思いを馳せているからなのだろうか。

ライナーがそのあとを引き継ぐように会話を締めくくった。

「スピラが一つになるかあるいは・・」

その先の言葉を続けない。その代わりに庭園の先にあるベベル宮を見上げた。

そこには傾く夕日を背にして朱に染められし宮殿の姿があった。1000年という長き年月の人々への平穏の享受と恩恵、そして威厳を漂わせながらも、ひた隠しにしてきた秘密のヴェールに包まれたスピラの象徴を体現しているかのようであった。

 

物音を立てる様子はひとつもなく、無音に静まり返った空間がただ時を刻んでいる。

ノネは自分の席についたまま、机上に広げられた書類の一点をずっと見つめていた。文字を釈然と読みながらも内容が全く頭に入ってこないで、別のことがぐるぐると頭の中をよぎっていた。

半ば開いている小窓から流れてくる風には、若干の肌寒さが含まれている。出口のない書斎の中で申し訳なさそうにノネの背後を通り過ぎていった。

小窓からみえる外の景色は、陽が赤い光線を放ちながら地平の彼方に沈んでいき、空には重くのしかかる藍色の暗褐が果てなく侵食を始めている。

暗闇を背景にしてガラスに映るノネの顔色は良好ではない。

空と同じく重厚な空気をまといながら答えのない目的地を探すように、これまで辿ってきた足跡を何度も繰り返し反芻している。

パリンッ。

突然の破砕音が書斎に一瞬の衝撃を与えた。それは束の間の音であったが静寂の空間を打ち破るには充分な力をもっていた。

ノネは背筋をのばしながら現実に舞い戻り、音がした方に視線を流す。

そこには、隣の窓際の机にあった花瓶が割れているのが見てとれた。花瓶は落ちたときの衝撃に耐えられずに、無常にも割れてしまっている。

大小無数の陶器の残骸となった破片の中央に一輪の赤い花が、横たわっていた。花瓶の中に満たされていた水が絨毯に侵食していく。

ノネは席を立ち、花瓶に向かって歩き出した。

花の美しさはそのままに、しかしそれを守ってきた花瓶は割れてしまって無防備なその姿をさらけ出している。

腰をかがめながら、儚げに横たわる花に手をのばしていると、真っ赤な花びらが一輪はらりと落ちた。

「・・。私は」

と、ノネはふいにその手が止まった。

自分が信じてきた未来は、こんなにも容易く壊れてしまうのだろうか。

スピラを覆う不可解な不穏な空気、それを打開するための試案の末、この会議は開催された。しかし、自分が望む結果ははたして得られるのであろうか。

これは自分の本意だったのであろうか。

相反する矛盾した感情が彼女の中で綯交ぜとなり、コントロールのきかない感情に心臓を鷲掴みにされているかのようであった。割れた破片がノネに何かをいいたげに物語ろうとしているようにも見えた。


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