FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫ 作:ふゆー
ズズズ‥ズズッ。
重そうに地をすりながら飛空機が前進していく。
大きな翼をもつ飛空機。
今は自力で動くことができないので、人の手で押すしかない。
地面に機体の引きずる跡が足跡のように、残っていく。
飛空機には空を飛んでいるときの自由さはどこにもなく、重たい金属の塊が横たわっているのみだ。
無様とは言わないまでも、その様子は愚鈍であった。
青年が前方、ティーダが後ろを支え押している。
二人とも前のめりになりながら、体重を傾けて前へ前へと押す。
その速度はゆっくりと歩くよりもさらに遅い。
「翼んとこだけは気付けろよ!」
青年がティーダに注意を促す。
「この飛機、壊れてんのか!?」
飛機の後方にいるティーダから声が飛んでくる。
「いや、ただの燃料切れ」
2人は飛空機を木々が生い茂るところの外れまで引きずり運ぶ。
森の切れ目にさしかかり、そこからは開けた場所に出る。
視界が開けたその場所は丘の上であった。
「ここらだ。飛び出すにゃ絶好な場所だろ」
青年は額ににじんだ汗を拭う。
「あっ?!」
飛空機の後ろを押していたティーダは、青年とは時間差で景色が見えた。
ティーダの視界に飛び込んできたのは遥か彼方まで広がる青い空、優雅に泳ぐ曇、そして澄み切った碧い海であった。
空と海との境界が混じり合い曖昧になっている。
ティーダの知る懐かしい浜辺がそこにはあった。静かに波が押し寄せては引いていく。
海から香る潮の息吹をティーダを感じ取った。
気づくとティーダは駆け出していた。
青年のほうに振り返るティーダは満面の笑みだった。
「燃料が必要なんだろ。村まで案内するっスよ!」
「お、頼んだ」
軽い足取りで先にゆくティーダの後を青年はついていった。
浅い谷間を抜ける道を二人は歩く。
幾度か歩いてきた道のり。ティーダは懐かしさを感じずにはいられなかった。
山道をしばらく歩いていると前方に滝と橋が見えて来た。
さらにその先から狼の形をしたディンゴという魔物が走ってくる。
ティーダと青年は戦闘体勢に入った。
ディンゴは群れをなして行動している。
数は三体。大型犬に相当する体躯をもち凶暴な性格で人を襲うディンゴ。
目が血走っており、口からはよだれとともに鋭い牙が露わになっている。
「〝グラン″戦後だけにこのディンゴが可愛く・・見えねぇな」
青年は苦笑しながら銃を構えた。
ディンゴを射程距離にいれるために青年は歩き近づいていく。
「グラン戦?」
「魔物を2つに分けて〝グラン″と〝プティ″。
このディンゴのような各地で現れる普通化の〝小さい″魔物をプティ、俺らが最初に戦った巨大化の〝大きい″魔物あれはグランだ」
射程距離にはいったディンゴに対し青年は銃撃を始めた。
「『シン』が空で散って、スピラ中にクリスタル言わば〝魔石″が見付かるようになった」
ティーダは手の内にあるクリスタルを見る。
「それと同時にグランが現れるようになって・・エボンの奴らは『シンの代償』だとか言ってる」
飛びかかってくるディンゴを撃ち落とす青年。冷徹無比で確実に急所を狙っていく。
銃弾が当たったディンゴは弾かれるように吹っ飛んだ。
ティーダがディンゴの連携が崩れたところにすかさずその中に駆け込んで行く。
すぐさまディンゴたちがティーダを標的に襲いかかってきた。
ティーダはその身をひねりかわしながら、ディンゴたちの隙間をぬうように縦横無尽に駆け回る。
一瞬の隙をつき、斬撃を繰り出すティーダ。
ディンゴはすがることができず、追いつくことも出来ない。
ティーダを標的にするのは無理と判断したディンゴたちは狙いを変えて、青年に飛びかかろうとする。
しかしディンゴたちが近づくのを青年は許さない。的確に打ち抜き、距離を計っている。
そのうちにディンゴは力尽き、崩れゆく身体から幻光虫が放出された。
剣をおろしたティーダの顔つきは険しかった。
「関係・・してんのか?『シン』と」
ティーダの問いかけに青年は肩をすくめる。
わからない、といった様子で
「原因不明・・。まぁタイミングは合ってはいるがな」
と、言うのみであった。
それを聞くティーダは疑心暗鬼に飲み込まれそうになっていた。
“昔から嫌な予感だけは当たるんだ。‥だから口にはしなかった”
ビサイド村へ向かう道をさらに進んでいくと岬に出た。
徐々にティーダの歩く速度が遅くなり、そしてついに立ち止まるティーダ。
その表情には若干の緊張がにじんでいた。
「!?」
急に立ち止まるティーダを不思議におもう青年。
ティーダの後ろ姿を眺める青年にはティーダの表情はわからない。
ティーダの気はピンと張り詰めていた。
背筋が自然とのび、心臓の鼓動が早くなる。
“なんだか緊張した。不思議だった。俺にとっては数ヶ月とかの感覚だった訳で・・”
ティーダはどんな顔をして良いか分からずにいた。
そのうちに数人の人影が丘の下から登ってくるのが見えてきた。
その姿形がくっきり見えてきた頃。
「あーーー!やっぱり」
黄色とオレンジを基調とした軽装の服をきた若者たちが一目散に駆け寄ってきた。
上半身はタンクトップの形状の服で、そこから出る腕の筋肉が程よくつき、体つきがしっかりとした屈強な若者たち。
皆笑顔で駆け寄り、中には手を振る者たちもいる。
全力で駆けてきたので、ティーダの前まできた時には軽く息を切らしていた。
照れくさそうな面子の若者たち。
ティーダを直視出来ずに恥ずかしがる者もいる。
もじもじした態度の者もいる。
「・・お久ぶりです!本当に」
「!?・・あ」
若者の言葉にたじろぐティーダ。
後ろにいる青年は会話に入ることなく、ティーダと若者たちとのやりとりを聞いている。
一人だけ動揺するティーダ。
そんなティーダをよそに一同全員が横一列に並び直立する。
全員が息を吸い、一呼吸の間。
そして
《ありがとうございましたーーー!》
右手を上側、左手を下側にし、胸の中央あたりで両手をつかい円環をつくり、深々と一礼。
一連の流れがとても流暢な動きでお辞儀をした。
突然のことに驚き戸惑うティーダ。
照れくさそうに笑う若者たち。
「何年経ったって帰って来たら皆で言おうって・・。どうしても礼が言いたかった」
「こんなんじゃ感謝し切れないけどな!」
顔がほころぶティーダ。
「なんだよそれ」
ティーダは一人一人の顔をしっかりと見ながら
「・・皆の歌があったからだろ」
と、かみしめるように言った。
「皆の歌・・?」
青年が疑問を呈する。
若者のひとりが感極まって泣き出した。
「おい、泣くなって・・」
つられて他のメンバーも目が潤んでくる。
泣くのをこらえようと我慢するが、最後にはみんな泣いてしまう。
泣きなぎらも、みんな笑顔だった。
“悲しみの涙が喜びの涙に変わった、そんな瞬間だった”
みんなにつられて笑うティーダ。
ティーダを中心にひとつの笑顔の輪が出来ていた。
オーラカの人たちとビサイド村までやってきた。
“ビサイド村。3年ぶりに見る村は・・雰囲気が少し違った。建物とかそう言うのが増えてたんだ。‥この時、月日が経った事を実感させられた”
ビサイドオーラカのメンバーたちと別れ、ビサイド村に足を踏み入れるティーダと青年。
ビサイド村の人たちは平和な日常に溶け込んでいた。
ティーダは雰囲気が変わった村を興味津々に眺める。
三年前と変わった部分、変わらなかった部分を一つ一つ確かめるかのように見てまわる。
懐かしさがこみ上げてくるとともに、新しい環境に変わっていることを実感する。
一通り見終わったあとに青年の目的である、ビサイドショップへ案内するティーダ。
店内へのドアを開けると軋んだ音を立てた。
こじんまりとした店の中には女性の店員が一人迎えてくれた。
青年は店に入るとまっすぐに店員のもとに向かっていき、話を始める。
その間、特にやることのないティーダは店内を見渡す。
店内に陳列されているのは様々な装飾品や調度品。
それらがディスプレイに綺麗に並べられていたり、天井近くまで品物が飾ってあった。
魔物と戦う武具として色鮮やかな籠手、小さいナイフ、大型の剣、魔導師が使う杖、ブリッツで使用されるボール、と色々と取り揃えてあった。
それを一つずつ眺めていくティーダ。
途中でとある不思議なことに気づく。
それは装飾として必要とは思えないが、どれにも共通して施されているものであった。
「ルカまで持てば十分だから」
カウンター越しに店員と話している青年の会話がティーダのところまで聞こえてくる。
「良かった、ごめんなさいね」
お詫びをいう店員。
話がひと段落ついて青年は店員に軽くお礼をいい、ティーダのもとにやってくる。
「よし、次はお前の〝アクセサリー″だな。」
「え!?」
装飾品をみていたティーダがきょとんとする。
「クリスタルを戦闘中持ったままなんざ不便だろ」
たしかに、とうなづくティーダ。
「だから〝スフィアクセサリー″にはめて置くんだ。俺の場合、このブレスレットがそうだ」
青年は自分のつけているブレスレットをティーダにみせる。
軽量のブレスレットに赤いクリスタルが綺麗に収まっていた。
これなら戦闘の邪魔になることはない。
ブレスレットをじっと見つめるティーダ。
「この他の穴は?」
それは先ほど気になっていたものだった。装飾品のほぼ全てにいくつも穴が空いていて不自然な気がしていた。
「自分の属性クリスタルじゃなくとも、はめて置く事でその属性特融のアビリティを取得し使える。ただし所有の属性じゃないとそれ本来の属性力は引き出せないがな」
「へぇー・・」
店に展示されているアクセサリーを手に取りながら興味を示すティーダ。
青年と話し合いながらいろいろと試着をする。
いくつか候補を選び思案した結果、ティーダはグローブが一番しっくり来たので、それを購入することにした。
グローブを店員に渡し、支払いをしようとしたときにお金をもっていないことに気づくティーダ。
ライナーはあたふたするティーダの横を通り過ぎ、店員に代金を支払った。
「良いのか!?」
ティーダは嬉しそうに驚きながら、ライナーに問いかける。
「おう、気にすんな!」
ライナーは振り返りながら、店員から受け取ったグローブをティーダに渡した。
日が暮れ始め、夜の時刻が迫ってきていた。
村人は夜に向けての準備を始める。暗闇に怯え備えるかのように、いそいそと支度をしている。
日はだいぶ陰り、建物から伸びる影が長くなる。
夕日の色に村が染まる。
店の前にてティーダと青年は挨拶を交わしていた。
「今日はビサイド泊まりだ。宿屋に居っから暇あれば来いよ」
互いの顔もほのかに赤く照らされている。
「なんか、いろいろありがとな」
自然とお礼の言葉が口をつぐティーダ。
それを聞いて青年は複雑そうな顔をする。
しばらく間をおいて、そして
「こっちのセリフ。・・ありがとな」
ぶっきらぼうな口調だが、その目には感謝の意が込められていた。
「?」
言われたティーダは不思議そうな顔をしている。
青年はそれ以上何も言わず軽く手を振り、宿屋へ向かった。ティーダも手を振り返した。
青年が見えなくなり一人になるティーダ。
下を向いて考え込む。
心に迷いはあったが、それでも行くことを決意するティーダは前を向いて歩き出した。
村の中の、とある場所へと向かう。
夕日に照らされるティーダの横顔は緊張の面持ちだった。
しばらく歩き、そして一軒の棲家の前で立ち止まった。
大きく深呼吸をする。
家の中に入ろうとノックをしてドアを開けようとする。
「ワッカさんなら留守だぜ」
「なっ!?」
ドアノブを引く手を止め、声がした方をみるティーダ。
そこにいたのは討伐隊に所属する青年、ガッタであった。
「ほんとに村へ帰ってたなんてな。オーラカの連中が言ってたぜ!」
「・・ワッカ出掛けてんのか?!」
ティーダの問いにうなづくガッタ。
「〝魔物退治″さ。この島でも、魔物に襲われる被害が多発して来ていて俺達討伐隊は本部より護衛を含め各地に派遣された訳なんだが‥人不足でね」
ガッタは真摯な視線をティーダに向けた。
「魔物退治には心強い事に、ワッカさんが協力してくれている!」
「ワッカが!?・・討伐隊と」
信じられないといった様子で目を大きく見開くティーダ。
ガッタは話をさらに続ける。
「駄目元で頼んだんだ!ほら・・チャップの件があったろ。だから驚いたよ協力してくれるなんて・・村を守りたい気持ちは同じだから、ってさ」
そこにはワッカに対しての尊敬の念が込められていた。
「‥ワッカらしいな」
言いながら笑うティーダ。
ティーダはガッタと軽く会話をして別れた。
夜が深くなりビサイド村は人気がなくなる。
松明の火がほのかに揺らめき村をほのかに照らしていた。
この時間で動く者といえば、村の入口を警備する数人の討伐隊が交代で見張りをするのみであった。
闇が跋扈(ばっこ)し辺りを包み込み、全てが暗闇に抱かれていた。
村の周囲に明かりはなく、しんと静まり返った空間がどこまでも浸透している。
明かりといえば、夜空に舞う星たちと月の灯りが地上を照らす光源となっていた。
聞こえてくるのは虫たちが奏でる音の響き。
村の外を出歩く者はほとんどなく、家の中で静かに夜を過ごしていた。
ビサイド村にはひとつだけ宿屋がある。
いくつかの部屋には灯りがとっており、部屋からの照明が外に漏れていた。
その部屋の一室。
青年は椅子に座り、ティーダはベットにあぐらで座り込んでいた。
天井からぶら下がるランプが調度の少ない部屋を照らし出す。
二人の間には机があり、そこに干し肉と乾燥させた豆類があった。
ティーダはグラスに注がれた酒を一気に飲み、胃の中に流し込む。
青年は話の続きをティーダに語る。
「いや、仮設だがその土地に存在する特有の魔物がグランになって現れると言われてる・・とにかく事態は深刻だ」
上から照らすランプの明かりで青年の顔の彫りが一層深く見える。
そのせいか嶮しい(けわしい)顔つきになっている。
「〝北″へ向かうほど異常に巨大な強さも半端ねぇグランが山ほどいやがるからな」
「北って・・」
ティーダの顔色がすぐれない。
北というキーワードに関して思う節があった。
青年はグラスの酒を飲み、話を続ける。
「聖なる土地〝ザナルカンド″へ向けてだ。あそこは高密度な幻光虫が漂う。何が起きても不思議じゃねぇ」
話がひと段落し、青年は干し肉を口のなかに放り込んだ。
ティーダは、ずっと下を向きながら考えている。
“また、わからない事だらけだ・・”
得体の知れない焦燥だけが、胸の内を焦がす。
手探りでなにかを探そうとするもなにも掴めない、そんなどうしようもないもどかしい感覚がよぎる。
『きゃー!?』
外から聞こえてくる悲鳴。
ティーダと青年は同時に窓の外をみた。
松明の炎が揺れる様に合わせて不穏な影の動きが見え隠れする。
次第に外が騒がしくなり始めた。
いくつもの叫び声が起こり、村全体が慌ただしくなってきた。
「!?」
二人は目を見合わせる。
「なんだ!?」
悲鳴は消えることなく次々と生まれ出てきていた。
ただ事じゃないと感じる二人。
立てかけてある剣を無造作につかむティーダは宿屋から飛び出すように外に出た。
その後を追う青年。
二人はその場の凄惨な光景を目の当たりにする。
「な・・!」
驚きを隠せないティーダ。
村中のいたるところに魔物が蔓延っていた。
唸り声や遠吠えがひっきりなしに響き渡っている。
炎に照らされる魔物たちが村人たちを襲っていた。
人々の逃げ惑い、怯える悲鳴が聞こえる。
魔物によって松明が倒され、村が火に包まれる。
事態を飲み込めないティーダ。だが、やるべきことは分かっていた。
「一先ず、人助けだ!」
ティーダは剣を構え、その場から弾けるように飛び出した。
「手貸すぜ」
青年もティーダに続いて走り出す。
銃を撫ぜながら弾数を確認する。
村人たちに飛びかかる魔物を撃墜するティーダたち。
すぐさま魔物はティーダたちを標的に切り替えた。
ティーダは短期決戦を挑み、危険を顧みず魔物に突っ込んでいく。
魔物の攻撃をかわしざまに魔物の急所を一撃で切り裂いていきながら、村人たちに避難を呼びかける。
走りながら二人は魔物を倒してゆく。
次々と魔物に襲われている人たちを助け、討伐隊のもとへ行くよう叫ぶティーダ。
村人たちはお礼をいいながら、討伐隊のもとへ避難する。
「グランがいないだけ救いか・・」
戦いの最中、つぶやく青年は銃を構え狙いを定めた。
銃弾が村人を襲おうとする魔物を射抜く。
走るティーダたちの前方で討伐隊が複数体の魔物と戦っているが、苦戦中になっている。
それを助けに入る二人。
一気に魔物を殲滅させていく。
「なんでこんなに」
ティーダが周りを見渡せば闇にまぎれて、いたるところに幻光虫が漂っていた。
その光景は幻想的であったが、現状は散々たるものであった。
「村や都市にまで魔物が襲い来たってか・・。にしても数が多過ぎる。不自然なほどに」
この様子に青年が疑念を抱く。
ティーダもこの魔物の多さに不自然さを感じた。
あらかたの魔物を倒し、村は落ち着きを取り戻しつつあった。
討伐隊たちは厳重な警備を怠らない。
武装をし見回りをしている。
村の入り口も厳重に固めていた。
念のためにティーダたちは街の中を見回る。
二人がビサイド寺院前の前に来た時に、ガッタが声をかけてきた。
ガッタは服が破れている。いたるところに擦り傷があった。
「助かるよ!プティは寺院の中にも」
「寺院の中に?・・」
青年の疑念がさらに強くなる。青年の中で引っかかっていた何かが強くなる一方であった。
不自然な要因が重なる。
ティーダはガッタをまっすぐにみつめる。
「一通りは倒した」
そして、ガッタの後方にある寺院に視線をうつした。
「寺院は俺達でなんとかする。ガッタ達は村人を頼む!」
力強いティーダの言葉。
「・・ぁあ、わかった!!!寺院はあんたに任せるのが適任だろう。」
ティーダはガッツポーズをガッタにみせる。
そして余裕の笑み。
「かってに決めやがって」
青年は肩をすくめながら笑う。
二人は松明の炎で照らされる寺院への階段を駆け上がっていった。
寺院の中に足を踏み入れるティーダと青年。
中は冷んやりとした空気で包まれていた。
寺院の中は光が灯っているが、若干薄暗く感じる。
厳粛な祈りの歌が寺院の中に響き渡っていた。
それは懐かしさとともに、どこか新鮮な気持ちを抱かせた。
天蓋は高く綺麗な装飾が施されている。
感慨深くティーダは寺院の中を見渡した。
順番に眺めながら、ティーダの足が途中でとまる。
大広間の中央にはユウナの御聖像が建てられていた。
じっと見上げるティーダ。
ティーダはユウナ像を見て軽く微笑んだ。
「来るぞ!」
ティーダは青年の声にはっとし、周囲を警戒する。
青年の見据える方角から、鳥の魔物が襲いかかってきた。
鳥の魔物は奇声を発しながらティーダにめがけ、急降下してくる。
ティーダは剣を構え、像の台座に片足をかけ待ち構えた。
そして、鳥の魔物がティーダの目前まで降下してきたときに足を踏みこみ、大きく跳躍をする。
宙を飛ぶ鳥の魔物のさらに上を飛ぶティーダ。
ティーダは切っ先を真下に向け、鋭く下へと突き刺した。
剣は鳥の魔物の胴を貫き、そしてティーダの自重によってそのまま地面に落下する。
地面に落ちた鳥の魔物の上に立っているティーダ。
鳥の魔物からは無数の幻光虫が飛び散っていく。
その背後から這い寄る影があった。
魔物を倒し終えたティーダの安堵の隙を狙い、後ろから巨大な針が貫こうと迫ってくる。
ティーダは、振り返りながら剣を構えようとしたが、それより先に青年が動く。
飛びかかる針を青年の銃弾が弾いた。
弾かれた針から紫の体液が飛び散る。
ティーダの背後にいたのは、蠍の形に似た魔物であった。
地を這いながら、ティーダを威嚇するように両手の鋏(はさみ)を差し向ける。
間をおかずして青年は銃を蠍型の魔物に向け、銃弾を一発撃ち放つ。
蠍の魔物の硬い殻には物理攻撃は通用しにくいが、関節の隙間を狙えば攻撃は通る。
関節を穿たれた蠍の魔物は、その節が吹き飛んだ。
蠍の魔物は青年に前進しつつも、的確な銃弾の攻撃により関節を次々と吹き飛ばされ力尽きた。
青年は頭上に違和感を感じ、視線を上へと向ける。
真上から青のゲル状の塊が落下してくる。
その液体は丸い形を成し、ぎょろりとしたおおきな目と、鋭いはを持った口を形成する。
プリンと呼ばれる魔物。
青年は、頭上のプリンに銃を構える。
プリンは落下しながら加速を増し、青年へ突っ込んできた。
ティーダは落ちてくるプリンに向け、剣を振り切った。
薙ぎ払われた剣圧により、青い液体の塊は吹っ飛んでいく。
壁に激突したプリンは、醜い悲鳴をあげながら破裂し飛び散る。
二人は武器をしまい、辺りを見渡し魔物がいないことを確認する。
「・・片付いたか。村の援護に」
「・・いや、まだだ」
ティーダが青年の言葉を遮った。
青年は訝しげにティーダをみる。
ティーダの視線はある一点を指していた。
試練の間への扉が開いている。
その奥に何があるのかをみつめようとするティーダ。
「行ってみよう」
歩き出すティーダ。
「そう来ると思った」
青年はティーダの意見に同意し歩き出す。
ティーダは壁の印に触れ道を開き奥へと進む。
薄暗い廊下。
最初に来たときと同じ景色のはずなのに、違うところにみえる。
最初にこの寺院に来た時のことを思い出す。
今は焦燥と不安が胸の内をよぎっていく。
実際にはあの時と何も変わってないはずなのに、雰囲気が違って感じられた。
‥パキッ。
「えっ?!」
ティーダは自分の足下をみる。
それは石の破片であった。
「おい、見ろよ!?」
青年の指差す方向。通路の扉は破壊されていた。
青年が扉に駆け寄る。
破片が辺りに飛び散っていた。
青年は破片を拾い考え込み、そして結論に思い至る。
「魔物とは考えにくい。もしそうなら最初の印の壁も壊してくはずだ」
壊された扉の先の通路をみつめながら
「・・人の手によるものだ」
青年の違和感が募る。
ティーダの視線が厳しくなった。
一体、何のために。
苛むティーダ。
寺院の中を吹いていた風がやんだ。
この先に何かが待っている。それだけはわかった。
迷う理由はない。
ティーダたちはさらに先へと進んでいった。
控えの間につく二人。
“ここで俺は召喚士を初めて見た”
そのときの情景を思い出すティーダ。
『シン』を倒す為の唯一の希望の光。
召喚士はこの世界の希望であった。
彼女はその儚き希望を一人で背負い、そしていろんな犠牲を全て一人で受け入れた上で、成し遂げようとした。
それが正しい選択かどうかは分からないが、彼女はそれが世界のためだと、みんなのためだと信じていた。
自分の父がそうしたように彼女も同じ道を歩む選択をした。
ティーダがそう考えていると、辺りの明かりが消えかかった。
「!?」
一連の異変の兆候なのかわからないが、嫌な予感を感じた二人は先を急ぐ。