FINAL FANTASY X ≪ーAnother story≫   作:ふゆー

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③グアドサラム

ティーダたち一行はジョゼ寺院を後にしてさらに街道を進んでいく。しばらくして、幻光河の南岸シパーフ乗り場へとたどり着いた。

遠目から見ても、すぐに分かる巨体な生物が出迎えてくれる。

ここには幻光河を渡るために使用されるシパーフと呼ばれる象のような巨大生物と、それを世話をしているシパーフ使い(ハイペル族)がいた。シパーフはとても大人しい性格の生き物であるが、その巨体さゆえに過去に魔物と間違われ、斬りつけられる事件もあった。

ティーダたちが乗り場に近づくと、シパーフ使いがゆったりとした独特の口調で話しかけてくる。

「シパーフ乗る~?」

ノネの表情が緩んで、シパーフ使いに駆け寄った。

「ご苦労様!」

シパーフ使いはノネの顔を見て、呑気な顔がさらにほころんでゆく。ゆっくりとした動作で円環の挨拶を行った。

「ノネ様~!〝チープ様″と時期に久方の対面ですね~」

嬉しそうに話すシパーフ使いにたいし

「どうかしら・・」

と、少しだけ躊躇しながら眉を下げる。そしてすぐに話題を変えた。

「村に変わりは?」

ノネの問いにシパーフ使いは

「なんの問題もな~いよ~」

その場でいる人たちは、自然と時の流れがゆるやかになったかのように感じていた。

ティーダたちと一緒に後ろで会話を聞いていたライナーが驚きながらノネに話しかけた。

「チープさんも式典に!?」

「チープ?」

今度はティーダが話に割って入る。

先ほどから何回か会話に出てくる人物であったが、ティーダにはそのチープが誰なのか見当もつかない。

ぽかんとしているティーダにユウナが解説した。

「少数派の亜人種、ハイペロ族やペルペル族は合併をし、一つの種族になったんだ。それが〝ハイペル族″。チープさんはハイペル族の族長さん」

「へぇー」

ティーダは自分の知らないスピラの歴史風土に興味をもつ。

カーシュもその式典に興味を示した。

「式典にはそれぞれの族長も集まるの?」

うなづくユウナだが、その表情はかんばしくない。

「お声は掛かっていると思うんだ。ただ・・」

心もとない口調。その先を紡ぐことをためらっていた。

濁した言葉の続きを引き継ぐように、ティーダが話をつなげる。

「エボンが主催だからな・・。シドのオッサンとか難しいだろ」

シパーフ使いと話しているノネの顔色がほんの一瞬だけ陰ったかのように見えた。

そのノネの心境を知ってか知らでかシパーフ使いは

「トーブリーさんに宜しくお伝え下さい~」

と、親しみをこめてお辞儀をしていた。

 

シパーフの上に設けられたやぐらに乗る五人は、そこからの絶景に圧倒されていた。

ゆらりと水上を揺られながら、シパーフは静かな湖面を進んでいく。そこから一望する幻光河の景色は、どこまでも広がり雄大で偉大さを感じずにはいられなかった。

湿ったそよ風がふわりと流れていき、湖に波紋を際立たせはやがて静かに消えていく。

ティーダはやぐらにいる誰よりも興奮していた。

「やっぱ迫力あるよなー!」

椅子に膝を落としながら、ここからの幻光河の風景とシパーフに乗っていることに奮起している。

「凄い・・!」

カーシュも初めての経験に、普段は感情を表に出さないが、このときは熱心に堪能している。シパーフの乗り心地とともに、このパノラマ風景に魅入っていた。

「ガキん時以来だ!」

ライナーは背もたれに深く腰を落とし、風を感じながら、優雅に楽しんでいる。

ユウナとノネは隣同士で座り、男子たちの騒々しさに互いに目を合わせた。ユウナはそれを微笑ましく思い、くすくすと笑っていたが、ノネは呆れた様子で眼下に広がる幻光河を眺めていた。

そのノネにたいし、顔を向けるはカーシュ。じっと見つめながら口を開く。

「そう言えば付きの兵がいたよね?」

突然の質問に、ノネは怪訝な顔をして振り返った。真摯に見つめるカーシュの視線と交錯する。

ノネは質問の意図するところがよく分からずにカーシュを凝視しながら

「先に向かってもらったわ」

と、半疑ながらに答えた。

それを聞き、カーシュは考え込む仕草をする。その後の会話が続かない。

その無表情な顔に、ノネは皮肉を交えながら

「・・何?私が居ると迷惑かしら」

と、カーシュの反応を伺った。

「別に」

しかし、カーシュはノネの思惑にまったく気付かずに淡々と返す。他ごとを考えているために、必要以上に言葉を付け加えることはしない。

「・・な」

素っ気ないカーシュの態度にノネは顔が引きつる。

ライナーは、これから先の旅路のことを考え出した。

「次はグアドサラムか・・」

ティーダがライナーのつぶやく言葉をひろった。

「んで次は、マラカーニャだな」

それを聞きクスクス笑うユウナ、と同時にライナーとノネは無表情の眼差しをティーダに向ける。

「何?」

ティーダはなぜユウナが笑っているのかよく分からない。

笑うのをこらえながらユウナはティーダにみんなの反応の説明をした。

「マカラーニャだよ・・」

言われハッとするティーダ。

ライナーはそのタイミングに合わせ軽快に笑い、ノネは顔を下に落としながら笑いをこらえてみせる。

「また惜しいね」

カーシュは静かに突っ込みをいれた。

面目ないと頭をかくティーダ。

「その前に雷平原があるのよ・・」

と、先走る会話に釘をさした。ノネは呆れ顔でティーダをねめつけている。

「ったく」

ライナーもやれやれといった感じでため息をついた。

ティーダは申し訳ないといった感じで、笑ってごまかす。

会話が一区切りして静かになり、心地よい波風が五人それぞれの髪をさらっていく。とても静かで、だがとても心地よい時間をみなが感じ取りながら和んでいた。

そのタイミングを見定めたユウナはみんなに目配せをする。

「あの」

改めて、という感じでユウナはみんなを見る。ほんの少し声がこわばるユウナは姿勢を正しながら喋り始めた。

「グアドサラムで少し時間貰えるかな?」

みんながユウナを注視する。

「・・ナギ節が来てからまだ一度も行けてなかったんだ」

それを聞き、ティーダはユウナの身の上を心配した。

「・・異界っスか?大召喚士もまた大変だな」

ユウナは困ったように微笑みながら

「各寺院への参拝は私自身も望む事だから」

そして一呼吸おき、みんなの顔を見渡しながらこの言葉を噛みしめる。

「・・でもあの旅路を経て改めて思う。今はこの旅を大切にしたいんだ」

ユウナの一言でその場にいる誰もが感慨深い気持ちを抱いた。

カーシュもユウナと同じ気持ちを共感し、それが言葉として紡がれた。

「不思議だよね、俺達はお互い目的も目標も違うのに・・こうして共にいる」

同じ風、同じ波音を感じ、そして同じ風景に溶け込みながら確かに今、五人はこの時を共に過ごしている。

ライナーは、その意味を司る単語を知っていて、それを簡潔にこう述べた。

「常識を超える。・・それが縁だ」

それぞれがライナーの言葉から色々なことを汲み取り、感傷に似た感情が過ぎ去っていく。

それは、ただ単純に素晴らしいとかそういった偶発的な類なものではなく、人知を超えた奇跡の重なりを感じずにはいられなかった。

たそがれる中で、ティーダがグアドサラムについてひとつの用件を思い出して、口を開いた。

「カーシュもグアドサラムには用があるんだ、丁度良いっス」

ライナーもグアドサラムのことを考えながら

「俺は武器屋を見に行く」

と、手持ちの年季の入った銃をホルダーから取り出して撫ぜる。

それにピンと反応するはティーダ。

「!俺も」

勢いよく身を乗り出しティーダはライナーに近づく。そにたいしてライナーは渋い顔で忠告をした。

「気付けろ、グアドの経営は高値で売買されてんだ。出し抜かれるなよ」

言われティーダは両腕を組みながら、うーんと悩む。

「見極め方とかあんのか?」

と、ライナーにアドバイスを求めた。

聞かれてライナーは肩をすくめる。

「ま、見るだけタダってな。買うとしても俺は銃の改造に使う器具パーツぐらいだ。武具の価値はよくわかんねーし」

再びティーダがピンと反応する。その顔に笑顔が戻った。

「改造って!?今使ってるやつをか」

目をキラキラさせるティーダ。

「好きねぇー」

ノネはそんな二人のやりとりを遠目から眺めるように聞いている。

ユウナはふと淵のほうでカーシュがとても楽しそうに笑っているの事に目が止まった。

「・・どうかした?」

急に声をかけられたカーシュは驚きすぐに返事を返すことができなかった。

「え!?いや・・」

もう一度、賑やかに会話をしているティーダたちをみて、そして優しい表情になる。

「大勢でこういうの良いね」

それを聞いて、ユウナも嬉しそうにうなづく。

「うん、私もこういう旅は初めてかな・・」

はにかみながら

「一緒にいると元気になる」

と、心底楽しそうに笑うユウナ。

「それ、彼の事?」

カーシュの問いかけに

「え!?」

と、最初は目をぱちくりさせていたユウナだったが、やがて

「・・うん」

と、少し恥ずかしそうにうなづいた。

「わかる気がするよ」

二人はこの場の空気の賑やかさの根本となっているティーダをみた。

相変わらず忙しそうに会話が飛びかっている。

「なんつーか、あの時は反動でさ」

悪びれた様子なくティーダは軽快に語っていた。

ノネは、それを聞いて呆気にとられる。

「敵に突っ込んでいったと?」

と、本気で信じられないという顔をしながらティーダに食ってかかっていた。話題は、ミヘン街道でのチョコボイーターとの戦闘のやりとりになっている。

大げさにかぶりをふりながら

「まさかよ」

と、ノネは信じ難い形容を表情で表していた。

ライナーはそれを横目でみながら

「こいつはそう言うヤツだ」

と、達観しつつノネにもそれを受け入れるように諭す。

ノネは、ティーダを得体の知れない者をみるような目つきでみながら、こめかみを押さえため息をついていた。ティーダはそのことに気づく様子はなく、ほがらかに笑っている。

ユウナが会話の隙間のタイミングを見計らいティーダに話しかけた。

「ねぇ、もしかしたらルールーに会うかも」

それを聞いてティーダの脳裏には、かつて一緒にガードとして旅を共にした仲間のことが蘇る。

「そういや、ビサイドにはいなかったな」

と、ビザイド村での出来事を振り返りながらその回想が口から自然と漏れていた。

「村へ行ったの!?」

ユウナは、ティーダがビザイドにいたことに一驚する。

ティーダは口走ってしまった言葉にしまったと思うが、すでにあとの祭であった。

「え、あ・・まぁ」

急に歯切れが悪くなり、言葉を濁し出す。

ノネもその話に関心をもった。

「ビサイドでも魔物で大変な騒ぎになったそうね・・」

その事件のことはノネの耳にも情報が届いていた。

さらにライナーがその経緯に補足を付け加える。

「ルカでのあの男だ。面を被った」

ライナーが思い返すは、あの不気味な仮面を被った者。雰囲気からも得体の知れなさを感じ取っていた。

全容を把握していないユウナは、不安な表情をしながら

「村の皆は!?」

と、ティーダに詰め寄った。

「大丈夫、皆無事だ。ワッカも」

ティーダは安心させるようにゆっくりとした口調で喋る。その言葉を聞いてユウナは胸をなぜ下ろした。

ノネはずっと抱えていた気味の悪いモヤっとした気持ちを言葉として成す。

「なんなのかしらだって妙じゃない。・・『シン』のコケラだって」

ユウナもルカでの一件を思い返した。

「いったい・・」

しかし、今の時点で答えを見出せる者は誰もいない。

謎は深まるばかりで皆の中に、疑念と沈黙が降り積もっていく。それを払拭するように口を開いたのはティーダであった。

「わからない、ただ・・」

(「そうか、ジェクトの息子か」)

仮面の者は、ティーダがジェクトの息子と知って、目を輝かせていた。

“俺や親父・・夢の事を知ってた”

「何かある・・」

その言葉を最後にしんと静まり返る。皆が仮面の者にたいして模索する中、波風の呑気に揺れる音だけが場違いに聞こえてきた。

 

しばらく雄大な景色を堪能したあとに幻光河を渡り終わり、北岸へとついた。

シパーフから降りて乗り場から出発しようとしたところに、一人の行商が待っていた。行商はティーダたちをみつけると、すぐさま駆け寄ってくる。

「おーッ!?」

ものすごい勢いで一目散にかけてくる行商に身構えるティーダたち。

それはキノコ街道にいたオオアカ屋であった。

「あ・・」

ティーダは、一気に近づいてくるオオアカ屋と一定の距離をとりながら警戒する。

「またか」

ライナーは苦笑をした。こう度々毎回会っていると、腐れ縁のようなものを嫌でも感じてしまう。

当の本人は、そんなことは気にとめる様子もなく、それぞれの顔を覗くようにじっくりと眺めていた。

そしてユウナの番になり目を見開く。

「ぉおッ!?ユウナ様じゃねぇの」

オオアカ屋の声には驚きの成分がぞんざいに含まれていた。さらにノネをみて今度はその身を大げさにのけぞらせる。

「・・ぉおッ!?ノネ様まで」

大仰なオオアカ屋の態度を見て、ティーダは白々しさを覚えた。

「大袈裟だな」

オオアカ屋は、珍しいものをみるように近距離でまじまじとノネをみる。ノネは露骨に嫌そうな態度をとっていた。

「いや、結構な顔揃いだと思うぞ」

ライナーはこの面子を改めて見て、オオアカ屋の態度にまんざらでもない様子をうかがわせる。

カーシュは、ユウナたちの立場を分かっているのかいないのか、何度かユウナとノネを見比べて不思議そうな顔をしていた。

「ちくしょー!」

オオアカ屋は顔を覆いながら、天を仰ぐ。急に叫びだしたのでどうしたのかと、ユウナは若干怯えた。

「・・残念だが今良い商品が揃ってねぇんだ、またに買ってくれ」

オオアカ屋は、泣く泣くしょぼくれながら、みんながグアドサラムへと行く後ろ姿を見送った。

 

 

ティーダたちは大地に空いた開口部から、グアドサラムの領域となる洞窟内部へとはいっていく。

洞窟内には木の根がいたるところに張り巡らされており、ここは地底と呼んでもさほど差し障りない。この土地独特の閉ざされた空間により湿気の多く、涼しいながらもじめっとした空気がまとわりついてくる。

この地の最大の特徴といえば異界が領内にあり、この土地をグアドという種族が守り続けていることであった。

ティーダは次第に鬱とした気分になり、どんよりとした雰囲気に身を浸していた。

“「来ました・・」って感じ”

その足取りは重くゆっくりとしていて、みんなより後方を一人歩いている。

薄暗い一本道の通路を抜けた先、広い吹き抜けの空間まで来てノネがみんなのほうを振り返った。

「すぐには出発しないわよね?」

それぞれの相槌やうなづきを確認してから

「少し抜けるわ」

と、ノネは颯爽と歩き出した。その進む先にある一軒の屋敷を見つけてティーダは眉をひそめる。

「あそこって・・」

それは、見覚えのある場所であった。とはいえ、それは決して良い記憶ではないのだが。

ユウナも同じ屋敷を見ながらティーダが言わんとしていることを引き継いだ。

「今はトワメルさんがグアド族の族長さんなんだ」

体の向きをティーダに移しながらさらに続けて喋る。

「アルベド族はシドさん、ハイペル族はチープさん」

一本ずつ指をたてながらそれぞれの族長を数え上げていく。

「ロンゾ族は・・」

十分に間を含ませ、はにかむようなユウナの笑顔。

「キマリ!」

ティーダはその名を聞き、大げさに驚いた。

「キマリが族長に!?」

と目を点にする。

「そっ!」

ティーダの反応をみて楽しそうに、くすくすと微笑むユウナ。

腕組みをし、ティーダはかつての仲間キマリを思い描きながら

「大丈夫なのか~。笑顔の練習いるっス」

と、キマリの無愛想さに不安と心配を差し向けた。

それを聞きユウナは可笑しそうに笑う。

「あはは、キマリだからこそ大丈夫。」

ティーダはもう一度、キマリのことを思い返しながら

「そっか、そうだな。」

と、責任感の強さとそれにともなう行動力を思い出し納得した。

ユウナはティーダを見上げる。

「あ、私も今のうちに行ってくるね。・・キミは?」

ティーダはしばらく思い悩み

「うーん、気が向いたら行くっス」

とだけ伝え、あまり多くのことは語らなかった。

「うん」

ユウナもその場を離れ、異界へと向かっていく。

ティーダはユウナの後ろ姿をしばらく見送っていたが、やがて見えなくなるとカーシュを見た。

「族長って言えば、ウエポンにも魔族の族長がいたよな?」

カーシュは、微妙な顔をしてうなづく。

「・・ザンゼス」

一呼吸おいて

「父親なんだ」

と、自白めいた告白をした。

それを聞き、大仰に目を見開き驚くティーダ。

「ぇえ!?まじっスか・・」

と、ウエポンでの経緯を思い出す。あの時はザンゼスから攻撃を仕掛けてきたとはいえ、結果的にカーシュの父を倒したことに罪悪と申し訳なさの念を感じてしまう。

カーシュはザンゼスの話を続けた。

「父は厳しい人でね・・」

語る言葉とともに、ひとつの場面の光景が蘇る。

それはカーシュがザンゼスの後ろを追いながら懇願している場面であった。

(「待って下さい、何か理由があるはず〝セナ″は・・」)

前を向き、今一度、決意を顕にする。

「確かめたかった、真実を」

カーシュは、自分の身の上の話を始めた。

「王族の跡取りと言うだけで、慕われ期待され不平を抱きもせず、ただそうして生きて来た」

そこには何も知らずに生きてきたいう自身に対しての甘さと自虐的な意味も含んでいた。

カーシュの目に優しさを帯びる。

「セナに会うまで」

「セナ?」

その人物の名前をティーダは、聞き返した。

カーシュは一人の友人に想いを馳せる。

「城外への出入りは制限されていてね。大人に囲まれた生活の中で俺にとって彼は唯一、友と呼べる存在だった」

カーシュは今でも鮮明に覚えているあの日の情景を思い出した。

(城の敷地内庭園。

緑豊かな庭園には、淡い光が射し込み色鮮やかな花たちが咲き誇っていた。植物は区画ごとに綺麗に整理され、膝上くらいの高さの花や、大きな木に無数の小さな花をつけたものなど、様々なものが咲き誇っている。

カーシュは庭園の中に設けられた横長の椅子に座っていた。ぼんやりと何をするわけでもなく飽きずに花を眺めていると、次第にうとうと眠気が襲ってくる。

意識が飛びそうな最中で

「やっぱここにいた!」

と、ひとつの声が飛んできた。

気づくと友人の影が顔にかかっている。そこにいたのは親友のセナであった。セナはにこやかに笑いながら、長椅子に座る。

カーシュは寝ぼけたまなこをこすりながら、ひと息おいて話しだした。

「落ち着くんだよ」

それを聞き、セナは堰を切ったよう笑った。

「言えてる、城の中は形式的で窮屈だしな。世界は広いのに」

「?」

カーシュは、なぜセナが急に世界の話題をしたのか理解できなかった。そしてセナのいう世界が何を定義しているのかもピンとこなかった。

セナの口もとから笑顔が消え、覚悟をした顔で正面を向く。カーシュもその空気を察し、背筋を正した。

「カーシュ、いつか俺はスピラへ出る」

それを聞いたカーシュは、その言葉を素直に受け入れることが出来なかった。

「見てみたいんだ、信じてみたいんだ。人は分かり合えるってな」

セナはカーシュを見据え

「同じ生きる者とし平等に」

と、真剣に語った。

生き生きとするセナをよそにカーシュは首を横に降る。滑稽なことを言っていると言わんばかりに厳しい表情をしながら

「先代の歴史を覆す話だ。そんな簡単に・・」

「変わるよ」

カーシュの話をまるで聞いていなかったかのように無邪気に笑うセナ。

カーシュは何者も疑わぬその顔を見て、それ以上彼の否定を追求する言葉が見つからなかった。) 

その出来事を思い出し、ついつい笑ってしまうカーシュ。 

「なんだよ?」

ティーダには、カーシュが急に笑い出しどうかしてしまったのかと心配する。

「・・いや。同じ事を言っていたから」

(ミヘン街道、南端。

夜空に舞う星々を背景に、ティーダは自信のあるまなざしを向けていた。

「変わるよ 変えられる!そう信じる人が居る限り」)

それを聞いたカーシュは、セナの姿を重ねずにはいられなかった。

しかし、ティーダにはその偶然性がつながることはなく

「あ?」

と、カーシュの意図するところが全く読めずに困惑していた。

カーシュの顔が引き締まった。

「俺は確かめに来たんだ。・・異界へ」

「・・それってさつまり」

ティーダはカーシュの言わんとしているとこがすぐに分かった。

さらに突っ込んで色々と聞こうとすると

「これはこれは・・」

「!?」

聞き覚えのある妙に甲高い声と二人に近づく足音が聞こえてくる。

二人が振り返ると、そこにはグアド族の族長、トワメルがいた。濁った眼差しをティーダたちに向けている。

「トワメル・・!?」

ティーダは嫌気がさした顔をした。

トワメルの表情にも邪険がよぎった。

「相変わらずよのう」

あご髭を触りながらティーダを観察するようにねめつける。

「はて・・」

トワメルはとぼけたように辺りを見渡す。

「ユウナ様もこのグアドサラムへ足を運ばれておられるのかな?」

「だったらなんだよ」

ティーダは凄みのある威嚇の視線でトワメルをにらんだ。

トワメルはそれを気にする様子は微塵もなく

「随分な言いようのう」

と、見下すようにティーダをねめつける。

充分に間を持たせ、そしてティーダに軽蔑のまなざしをむけながら

「・・そなた達の考え、選択の全てが正しかったとは思わぬ事よ」

トワメルの吐き捨てる言葉にティーダの表情が一層険しくなった。

「何が言いたい?」

ティーダとトワメルの間の緊張感が増していく。

トワメルはティーダを一瞥した。

「我等グアドはシーモア様亡き後より、教えを守りこの地を守り築き上げて来た・・行く末の不安などないこれは分かり切って居た結果なのだ」

「・・?」

「お導きは〝シーモア様の予言通り″・・」

ティーダの全身に怖気が流れてゆく。

「外せぬ来客との約束ゆえ、これにて」

脈絡なく会話を切ると、トワメルは屋敷へと歩き出した。

「・・ふざけた予言なら俺がぶっ壊してやる」

ティーダは、トワメルの背中に叫び、怒声をぶつけた。

トワメルは一瞬だけその歩みを止める気配をみせるが、そのあとはティーダの声が届いていなかったのか立ち止まる事なく進んでいった。

ティーダの脳裏に浮かぶのは、かつてのグアド族長シーモア・グアドであった。

彼はユウナを利用したことといい、エボンの教えを都合よく解釈し大勢の罪なき人間を巻き込んだことといい、ティーダはどこまでも嫌悪感しかなかった。

シーモアの歪んだエボンの教えがここには浸透していて、彼の巧みな思惑がまだ息づいているような気にさせられる。

“正直、グアドサラムは早く抜けたかった。ここだけは今も昔も変わってないそんな気がした”


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