孤物語   作:星乃椿

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006

 “犯罪者並びに幼児愛好者”というこの世の終わりのような真実に辿り着いた俺は、予期せず発覚してしまった自分の暗黒面に打ちひしがれていた。

 うわぁ・・・ないわー。

 いくらかわいくても、少女を誘拐した上、金髪の吸血鬼美女を格好つけて救ったと記憶を捏造し、あろうことか、2日間も寝てて記憶ないとか・・・

 もったいな・・・じゃなくて、何してんの俺。なんか、もう本当に死んでてたら良かったんじゃねぇかな・・・

 

 というかさ。

 

 2日間も家に帰ってないのに、着信5件、メール10件、全部小町ってなに?仕事しろよ警察官。

 そして小町ありがとう。ただ、「帰りにプリン買ってきて」は八幡的にポイント超低いよ。2日間帰ってこない兄にかける言葉じゃないよ。なんかもう、いろいろショックだった。

 ダウンしてる最中に蹴り入れられてる感じ。いや、包丁でメッタメタにされるに等しい。

 もう俺いない方がいいんじゃね?もう責任取ってこの子と結婚するよ。え?ダメ?はい。

 

 とまぁ、そんなどうでもいいことはさておき。メールやら着信が届いているということはいよいよ死後の世界でなく現実である線が濃くなってきたということである。

 これが現実であるのならGPSも正確に作動するということになる。地図アプリに表示された現在地は思ったよりも近所だった。あくまでも思ったよりもではあるが。

 

 総武高校より南西へ約3.5kmの学習塾跡。

 

 ただ、どうにもおかしい。俺はこんな場所を知らなかった。知らない場所に連れてくるなんて不可能だろうに。

 それに、書店の帰り道からここまで金髪の少女を連れていくにはあまりに遠すぎる。こんな距離を金髪少女を連れて移動するともなれば車が必要だろう。でなければ今頃両親と面談しているところだ。

 

 なんだかどんどん訳が分からなくなっていってる。現実である線が濃くなっているにも関わらず、暗い廃墟の中がまるで昼間(・・)に来たようにはっきりと見えている。

 ともかく、一旦帰ろう。霊体なら小町達は反応しないはずだし、まずはそこら辺をはっきりさせたほうがいい。

 

 それにしても、いくら真っ暗闇の廃墟とはいえ、こうもはっきり見えると案外怖くないものだな。

 

 なんて。

 暢気に・・・というか、開き直っていた俺は気づきもしなかった。

 

 ほとんど沈んでいる太陽が、あまりにも眩しすぎるということに。

 

 そして、すぐに思い知ることになる。

 自分の体の異変に。

 

 外へと出た瞬間に、俺の身体が、全身が、燃え上がった。

 

 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 痛いなんてもんじゃない。

 

 髪が、皮膚が、肉が、骨が、全て燃え上がる。

 凄まじい勢いで燃焼していく。

 血液が沸騰し、気化し、皮膚を引き裂いていく。

 身体中の水分という水分が身体から喪失していく。

 もはや声も出ない。声にならない悲鳴を上げ、地面をのた打ち回る。

 

 「たわけ!!」

 

 建物の方から幼い声が聞こえてくる。

 眼球の水分が飛んでしまって、よく見えない。

 朧げに見えた金色の少女はまたも怒鳴る。

 

 「さっさとこっちに戻ってくるんじゃ!」

 

 そんなことを言われてももはや身体が動かない。のた打ち回ることもできず、ただ地面に平伏することしかできない。

 

 それを見て取ったのだろう。

 金髪少女は、意を決したように、俺の元へ駆けだして来た。

 

 途端。

 

 少女の身体も燃え上がる。

 しかし、そんなことを構わずに俺を引き摺って行く。火達摩になりながら。

 ずるずる、ずるずると。

 年相応の力で引き摺って行く。燃えながら俺を引き摺るのは大したものだが、やはり、日陰へと運ぶにはかなりの時間を要した。

 

 日陰に入った瞬間。

 

 炎が消えた。

 俺の身体からも少女の身体からも。

 それどころか。

 火傷はおろか、衣服に焦げすらついていない。

 まるで幻覚だったかのように。

 残ったのは苦痛のみ。

 

 「全く」

 

 あまりの出来事に放心していると、金髪幼女が呆れたように口を開く。

 

 「いきなり太陽の下に出る馬鹿がどこにおるのじゃ。ちょっと目を離している隙に、勝手な真似をしおって・・・。自殺志願者か。うぬは。並みの吸血鬼なら一瞬で蒸発しておったぞ」

 「・・・・・・は?」

 

 吸血鬼?誰が?俺が?

 

 「さっきのような生き地獄を味わいたくなかったら、日のある内は二度と外に出るでないぞ。まぁ不死身の吸血鬼を生きておると定義すればじゃがのう・・・」

 「は?ちょ、え?」

 

 吸血鬼?じゃあ、やはりアレは夢でも妄想なんかじゃなくて―――

 

 「お前、もしかして―――」

 

 いや、そんなわけがない。彼女は確かに金髪で、冷たい眼をしていたが、こんな幼くはなかったはずだ。少なくても20代後半くらいのはず。こんな8歳児くらいの女の子じゃなかったはずだ。一体何がどうなって・・・

 

 「うむ」

 

 彼女は頷いた。高飛車な態度で、胸を張り。

 

 「いかにも、儂がキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ。ハートアンダーブレードと呼ぶがよい」

 


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