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出鼻を挫かれた高校1年生も終わり、これといって宿題が出されるわけでもない、学生にとって最高で至福な期間である春休みに突入した。
高校という新天地に不安を抱く中学生でもなく、大学受験のために受験モードへと移る時期でもないため自堕落な毎日が続くある日。
ゲームにもなんとなく飽きてしまい、かといって読書しようにも部屋にあるものは全て読破していたため、珍しく書店へ赴こうとしていた。
引籠りではない。断じて。ただ外に出る必要性がないだけなのだ。
誰に対してかわからない言い訳をしたのは妹に驚かれたからかもしれない。
「お出掛け!? お昼ご飯と晩ご飯のときにしか部屋から出てこないごみいちゃんがお出掛け!? 明日は雪!?」
「おおげさすぎんだろ」
なに? 俺が外に出ると雪降るの? もしかして俺の斬魄刀は氷雪系なのかもしれない。ちなみに俺は氷輪丸より袖白雪派だ。倒した敵の数多いし。
それにしてもなぜ氷系統の能力って全然敵を仕留められないんだろうな。オサレポイント高いからですか。そうですか。
「それはそうとして、本当にどうしたのお兄ちゃん。具合でも悪いの?」
「いや、ただ本でも買いに行こうと思っただけだから。そんな心配する事でもないから」
部屋から出ただけでなぜこんなに心配されるのだろうか。地味に傷ついた俺がいる。心配されたこと自体は悪くはないのだが、いかんせん内容が小さすぎる。
「ふーん。じゃあコンビニでプリン買ってきて! おいしいやつ!」
「はいはい」
コンビニで売ってるプリンなんてどれも同じ味じゃないだろうか。
というか、さりげなく妹にパシられるあたり、比企谷家のヒエラルキーが垣間見える気がする。別に買ってくるのはやぶさかではないが。
「あっそうだ。お兄ちゃん」
「なんだよ。まだ何か買うものあんのか?」
「いや、別に。そうじゃなくてさ、知ってる? 最近この街に吸血鬼が出るんだってー」
「はぁ? 吸血鬼ぃ?」
なんとも間抜けな返しだが、仕方ないだろう。なんの脈絡もなく突然わけのわからない都市伝説を聞かされればこうもなるというもの。
「そうそう。なんでもね、金髪でめちゃくちゃキレイな女の吸血鬼なんだってー」
「普通吸血鬼ってダンディなんじゃねーの? ドラキュラ的な」
「それが違うのですよ! なんと美人な吸血鬼さんなのです! 友達の友達が見たんだってさ」
友達の友達はもはや他人ではなかろうか。というか、なんでパッと見で吸血鬼だってわかったんだよ。血でも吸われたのか?
「で。なんで今それ話したの?」
「久々にお兄ちゃんと世間話がしたかったのです。あっ、今の小町的にポイント高い!」
「最後のがなければな。・・・で、本当は?」
「久々に外に出るお兄ちゃんを怖がらせたかったのです!」
てへっ、と舌を出す我が妹。ちくしょうかわいいから許す。
「でも、本当に気を付けてね。吸血鬼さんはともかくまた事故に遭ったら嫌だもん」
「はいはい」
「もー心配してるにその返事はポイント低いよ?」
その言葉で八幡的にはポイントは爆上げされてることは口が裂けても言うまい。
「んじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい!」
これが俺の人間として最後の会話だった。
書店で面白そうな本を購入し、小町のために焼きプリンを購入した後、購入した書物を紐解くことに心を躍らせながら帰り道についていた。
その道はまさに異常の一言に尽きていた。
国道ではないにしろそれなりに広い道にもかかわらず通行人は一人もおらず、5m間隔で設置されている街灯がほとんど明かりを灯していなかった。ほとんどというより、1本を除いてすべてが消えていた。
それだけでも異常だというのに、それ以上に異常なことがあった。
「うぬ」
唯一点灯している街灯の真下に『彼女』がいた。
「おい。そこのうぬじゃ。儂を助けさせてやろう」
美しい金髪に、整った顔立ち、そして冷たい目。
場に合わない格調高い真っ赤なドレス・・・は、引き千切れ、破れに破れ、ボロボロの布切れになっていた。
そんな見るに堪えない格好とは裏腹に、尊大に続けて言った。
「おい。聞こえんのか・・・。儂を助けさせてやると、そう言うておるのじゃ」
『彼女』は俺を睨みつけている。
ただでさえ人の、特に女性の視線が苦手なのに、『彼女』の鋭く冷たい視線に俺は底知れぬ恐怖を覚えた。
足が動かないほどの恐怖。
別に視線に怯えて動けなかったというわけではない。『彼女』は疲労困憊なのが目に見えている。なにせアスファルトの地面に座り込んでいるのだから。
ぼろぼろの服を身に纏った女性が睨んできたからと言って恐怖で動けなくなるほど男を捨ててはいない。
むしろ憐れむだろう。恐怖を覚えるとすれば、自分もその犯罪に巻き込まれないか、あるいは犯人の残虐性にだろう。
ではなぜ『彼女』の視線に恐怖を覚えたのか。
答えは簡単だ。彼女の視線には到底理解できない、今まで向けられたことのないくらい強い”何か”が込められていたから。
一応注釈をしておくが、決して善意に満ちた視線ではない。かといって悪意に満ちていたわけでもない。
まるで虫けらを見るような、そんな視線。
その理解のできない視線に俺は恐怖したのだ。
もし、『彼女』が手を出して来たら俺は死んでいたのではないかとすら考えた。もちろん出せたらの話だ。
『彼女』には出すべき手がなかった。
手は右肘あたりから、左腕は肩の付け根から。
しかも手だけはない。
右脚は膝のあたりから、左脚は太ももの付け根から。
もしかしたら犯人が近くにいるかもしれないとも考えたが、もし近くに居たら今頃『彼女』も俺も殺されていることだろう。
得体の知れない存在に出会い呆然としてしまったが、やるべきことを思い出す。
スマホを取り出し3桁のダイヤルを入力していく。
「待ってろ!!今救急車を呼ぶから!」
「きゅーきゅーしゃ?そんなものはいらんわ」
瀕死な状態にありながら、それでも意識を失わず、焦りも見せず、ただ冷淡に、強い口調で、古臭い口調で、『彼女』は語りかけて来た。
「じゃから・・・・、うぬの血を寄越せ」
ダイヤルを打つ指が、止まった。
―――金髪でめちゃくちゃキレイな女の吸血鬼なんだって―――
当初は小町との会話がありませんでした。
最近俺ガイルのssなどを読んでいないため少し苦戦しました 笑
なんだかキャラが違う気がしますが、こういうものだと割り切っていただければ幸いです。