孤物語   作:星乃椿

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皆さまこんばんは。覚えておいででしょうか?
まずは遅くなってしまって大変遅くなってしまって申し訳ありません。仕事に押しつぶされ、PCを開く気力すらありませんでした。さらに、今回の話はほとんど閑話に近いにも関わらず難産極まりなくて・・・。省いたら省いたで(個人的に)腑に落ちない話だったので省くわけにもいかず。しかも無駄に長い。
そんな話ですが読んでいただければ幸いです。



020

 自らの右脚を取り戻したキスショットはしばらくはしゃいだ後、堪えていた眠気が戻ってきたのか、はたまたただ単にはしゃぎ疲れたのか、その両方かはわからないがすぐに眠ってしまった。

 

 おかっぱ頭だった髪は腰まで伸び、身長は10歳児ほどまで成長していた。それでもまだ童女であり、犯罪性がよりリアルになったような感じである。もう少し成長したら思わず告白して即刻足蹴りされそうである。いや別にMじゃないから。むしろ泣かせるから。

 

 眠っている様はまさに絵画のように可憐で、安らかな寝顔はまさに純真無垢な天使の様である。きっとこんな娘がいたら猫かわいがりするだろう。

 

 けれど、先ほど見た、見てしまった惨状が脳裏に焼き付いて離れない。自らの右脚に喰らいつく様はまるで獣のそれで到底受け入れられるものではない。

 

 だが、それは彼女にとってみればきっと「ふん。人間の物差しで測る出ないわ」と一蹴されてしまう“人間”の常識なのだ。人間は糧であるという吸血鬼にとっては当たり前の常識。それがとてつもなく怖かった。

 

 いずれ俺も人の血を吸い、人を喰らう鬼になってしまうのだろうか。小町や両親のことすらただ食料としてしか見ることができなくなってしまうのだろうか。

 そう考えてしまうと太陽が出ている時分に寝るという行為が吸血鬼化を進ませてしまう要因に思えてしまって怖くて眠れない。

隙間から差し込む太陽の光が実に憎く思えるのは吸血鬼に染まってきたということなのだろうか。

 

 まるで子供のようだと自嘲してしまう。

 堂々巡りした思考を断ち切りたくて、自分が吸血鬼なのか試したくなって俺は昼間(よる)の街へと繰り出した。

 

 

 千葉有数のショッピングモール。春休みということもあって中高生で溢れかえっている。

 正直、一人でこんなところにいると、浮いているような気がしていてとても居心地が悪い。ぼっちはこんなところ無縁なのだ。だってショッピングモールって大体若い女性、もしくはカップル向けの店の集まりなんだもの。

 

 なぜ居心地の悪いショッピングモールに来たのかといえば、日光を遮断するために創造スキルで作ったフードの深いコートを着ていたら不審者に思われて通報されかけた為にショッピングモールへと逃げ込んだのだ。防犯意識が高くて結構なことである。

 流石にまた通報されたくないはないので、フードを脱いでも問題のないショッピングモールへと逃げ込んだ次第だ。

 

 それはそれとして。

 なぜか視線を感じるのだ。

 最初はあいつらか忍野あたりが見張りにでも来たのかとも思ったのだが、特に敵意を感じるわけではないし、そもそも彼らなら俺如きに監視を悟らせるほど無能ではないだろう。

 

 ベンチに座り、スマホをいじっているふりをしながらあたりを観察すると視線の主はすぐに見つけることができた。

 

 意外なことに視線の主はダッフルコートに身を包み、ピンクブラウンに染め上げたショートヘアをお団子にアレンジした如何にも女子女子した若い女だった。

 その女子には面識はないが、一緒にいる奴らのうち二人は知っている。

 

 葉山隼人。1年にしてサッカー部のエースを務め、成績は学年トップクラス。さらにモデル並みの顔立ちに、さりげないおしゃれ(金髪がさりげないかはさておき)。誰にでも優しいと女子を熱狂させているまさに少女漫画から出てきたかのような完璧イケメンである。

 もう一人は金髪ドリル。名前までは知らないが、葉山にお近づきになりたい女子共からは『番犬』の異名で恐れられている女王的な存在の女子。

 あとはその取り巻き達。

 校内で見たような気がする顔が多いので、恐らくあのビッチっぽい女子もうちの学校の生徒なのだろう。

 

 だが、おかしい。俺はあんな女子知らないし、どこかで話したなんてことはないはずだ。中学の頃ならいざ知れず、高校では(まだ)女子から不評を買った覚えはない。

 

 なのになぜあんなにもチラチラとこちらを窺うような視線を送ってくるのだろう。

 いくつかの可能性を考えてある結論に辿り着く。

 

 見られていた?

 

 それならあの視線も合点が行く。だが、そうだとしてどうする? 仮にあの光景を人に話したとしても信じられるわけがないく、学校の怪談程度にしか思われないだろう。

 だが、動画を撮られていたら?

 

 今日日の女子というのは実に下らない日常を写真に残す習慣がある。いや、習慣というよりは習性だろうか。その例に漏れず、あの女子が反射的にあの戦いをレンズに収めていたのならどうだろう?

 あの女子が天才的なCGデザイナーであれば話は別だが、うちの学校は生憎そんな専門的なことは教えていないし、美術やPCに力を入れてすらいないのでそれはあり得ない。

 それを信じる信じないはこの際置いておくとしても、少なくともあの女子の周り、いや、学校全体から注目を浴びるようになってしまう。

 

 俺の優雅なぼっちライフは閉ざされるわけだ。

 それだけは絶対に阻止しなくてはならない。なんとしても視線の理由を確かめねばなるまい。

 

 ・・・どうすればいいのだろうか。

 生憎、見知らぬ女子に「やあ、君僕のこと見てたよね?」なんて行けるほどコミュ力高くないし、そもそもそんなキャラじゃない。かといって、ここで気付かないフリをしているわけにもいかない。

 万事休すである。

 

 そんな俺の焦りを加速させるかのように葉山グループは笑いながら歩を進めていく。

 少し歩いたところで、男子グループと女子グループで別れて買い物をするようである。なぜ一緒にきたのだろう。

 

 「でさーって結衣聞いてんの?」

 「き、聞いてるよ! あの、えーと、」

 「聞いてないじゃん。まぁいいけどさ。てか結衣さっきからなんか変じゃね?」

 「え、そ、そう?」

 「なんかチラチラどっか見てんじゃん。何々? もしかして好きなヤツでもいた?」

 

 人込みに紛れて斜め後ろから付けているとこんないかにも女子らしい会話が聞こえてくる。

 おい。顔を赤くすんな。誤解しちゃうだろ。まぁ、そんなわけないんですけどね。

 

 「ち、違うよ! 服! あの服かわいいなって思って買おうか迷ってたの!」

 「ふーん。まぁそーゆことにしとく。てか、結衣。指さしてんのそれブラなんだけど。何あーしに対する当てつけ?」

 

 たしかに結衣と呼ばれている女子のソレは厚手のコートの上からでもわかるくらい、というか、むしろ隠そうとしてるのがかえって強調しているようにも見えるくらい大きい。それほどのモノを持っている人物が明らかにサイズの小さい下着を指さしていては嫌がらせ以外の何物でもない。

 だが、かの女王と件の女子は仲が良いらしく、あーしさんがいじり、それを慌てて訂正しようとするいかにも青春の1ページを築き上げていた。

 

 なんだか尾行しているのが馬鹿馬鹿しいというか、虚しくなってきたところであーしさんはどこかに消え、例の女子だけが取り残されていた。見事なご都合主義である。

 

 「すみません。あの、これ・・・」

 「は、はい! って、ヒッキーか。あ! これあたしの! ありがとう! いつ落としたのかなー」

 

 渡したのは会話をしている最中に見えた適当な小物。勿論、話しかけるきっかけを作るために用意した贋作である。仮に不審がられようとも「あ、人違いでしたか」で終わる話だし、「いらない」と断られてもいつぞやの消しゴム事件を思い出すだけだ。なんら問題はない。

 というよりだ。

 

 「そのヒッキーってのはなんだ。俺のこと知ってんのか?」

 「え? えーと、あ、ほら! あたし隣のクラスじゃん!」

 「いや、知らないけど」

 「ひどっ!」

 

 なに? 隣のクラスじゃ俺はヒッキーって呼ばれてるの? なんの接点もないのに引きこもり認定されてるの? というか、隣のクラスの奴まで覚えてるのが普通なの? 同じクラスの奴すら知らないんだけど。

 

 「ね、ねぇヒッキーは誰とここにきてるの?」

 

 少しおどおどとした調子で聞いてくる彼女には少し怖がっているようにも思えた。さしずめ、あの戦いの相手、もしくはその共犯者が近くにいるのではないかと恐怖しているのだろう。それにしては堂々としている気もするが。

 

 「いや一人」

 「・・・さみしくない?」

 

 やめろ。その憐れむような眼をするな。

 その後は、彼女が一方的に質問をして、俺が返して、彼女が微妙な表情をするといったやり取りが数回行われるという不毛なやり取りが行われていた。

 

 ふと、気付く。彼女から恐怖の感情が消えていることに。彼女を一人のクラスメイトとして見れていることに。

 

 「え!? なんで笑うの!? あたしなんかおかしいこと言った!?」

 「よくうちの学校に入れたなって思っただけだ」

 

 もー!と起こる彼女。そういえば、初対面の女子に引かれずに会話したのなんて初めてかもしれない(キスショットは女子以前に人外なのでノーカン)。人と分け隔てなく話せるというのはきっと彼女の美徳なのだろう。

 

 「なぁ知ってるか? 近頃ここら辺に吸血鬼が出るらしいぞ」

 

 突拍子もないが、高校生の会話なんてこんなものだろう。というか、こいつとの会話はこれで十分な気がする。

 

 「知ってるよー。すっごい美人な吸血鬼と目の腐った吸血鬼が駆け落ちしたって話でしょ?」

 「そんなの知らない」

 

 いつから俺とキスショットの関係は駆け落ちなんていうラブロマンスのような美しい物語になったのだろう。 

 

 「あ! そういえば、その吸血鬼の男の方は高校生くらいの見た目なんだって!」

 「・・・俺がその吸血鬼だって言ったらどうする?」

 

 その質問に目を丸くさせ、途端に彼女は笑いだす。

 

 「確かにヒッキーは目腐ってるし、暗いとこ好きそうだけどありえないよ。だって吸血鬼がこんな時間にこんなところにいるとかありえないじゃん。ヒッキー意外と面白いんだねー」

 

 常識に当てはめればそうかもしれない。だが、怪異というものは日常にあふれているからこそ怪異なのだ。でなけば一般人が怪異を認識することなどないのだから。

 

 「あっやば! 優美子から電話きてたし! ごめんねヒッキー! クラス一緒だといいね!」

 

 そう言って彼女は携帯電話を耳に押し当て人込みへ紛れていった。

 

 堂々巡りした思考はものの見事に面識のない元隣のクラスメイトに断ち切られた。

 少しだけ。ほんの少しだけこんな日常も悪くない。

 ああ、夕日が眩しい。

 




ガハマさんはいかにも”普通のJK”って感じなので会話が楽です。ただ、難しく考えさせないというのが逆に難しいのですが。
今回の話は至る所に八幡の人間らしさと葛藤をちりばめさせていただきました。そこら辺を読者の皆様に想像していただいて自己保管していただけば幸いです。
それと、仕事の都合上これからも更新が遅れるかもしれません。本当に申し訳ありません。

傷物語ⅡのPV公開されましたね! キスショットのデザインが想像通り過ぎて嬉しい。逆にドラマツルギーはもっと化物感というか、厳めしい感じというか、傭兵みたいな感じを出してほしかった・・・。

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