今回は、小町とのやり取りメインです。
なぜ小町がこんなところにいるのだろう。
暢気にもそんなことを考えてしまった俺は、小町が近づいてくるにつれ焦りと恐怖でパニックになっていっていた。
当然であろう。あんな化物同士の戦いを、殺し合いを誰かに見られるなんて思ってもいなかったし、見られないようお互いに配慮した取り決めだったのだから。しかも目撃者が実の妹と来た。
正直、赤の他人であればどうせ会うこともないだろうと高を括って全速力で逃げ出せばよかった。総武高生であったとしても、元々影の薄いから見られたところで問題などなかった。
だが、目撃者が小町となると話は別だ。
小町はいくら俺が自分の殻に閉じ籠ろうとも、いくら拒絶の言葉を投げかけようとも手をさし伸ばしてくれた。一度たりとも捻くれた兄貴を見限ろうとはしなかった最も大事な人間だ。
嫌われる―――
慣れて感じなくなっていた恐怖を久しぶりに俺の脳内を犯していた。
頭頂部が痺れ、毛穴という毛穴が開き冷汗が止まらない。小町が踏みしめる土の音を聞く度に視界が揺れ動く。
「お兄ちゃん・・・だよね?」
ああ、なんで今日に限って月が明るいんだよ。新月か曇りならばれることもなかったのに。
吸血鬼が月を恨むなんてなんて滑稽な話なのだろう。
「やっぱりお兄ちゃんだ。よかった。よかったよぉ・・・」
「は? え? ちょ!?」
俺がテンパっている間に小町は見たこともないくらいの大泣きをし、あろうことか抱擁をしてきた。
え、ここって普通怖がって逃げるところじゃないの?
一周まわって冷静になれたので、必死に頭を撫でて号泣する妹もあやす。間違っても抱き返していないからな。妹は攻略対象に入っていない。
「で、なんでお前はこんな時間にこんなところにいるんだ? 悪い奴に捕まったらどうするんだ。お前は親父達に俺を捕まえてほしいのかよ」
小一時間ほど経って漸く落ち着きを取り戻した小町はなんだか照れくさそうにしながらここに来た経緯を話しだした。
「小町のことを心配してくれるのはポイント高いけど、そのシスコンっぷりは少し引くよ。っていうか、お兄ちゃん! 噂になってるんだからね!」
「何がだよ」
「前に金髪の美人な吸血鬼さんの話したでしょ? それがいつの間にか目の腐った男が吸血鬼って噂になっててさ。ちょうどお兄ちゃん家出してたし、もしかしたらって思ってお兄ちゃんの通ってる学校に探しに来たの!! あっ、今の小町的にポイント高い!!」
「いや、ちょっと待て。ポイントは高くてもいいからちょっと待て」
いつの間に噂変わったの? なんで“目の腐った男”で真っ先に俺を連想したのん? なんで俺の行き先が学校なのん?
「だってお兄ちゃんヘソクリ持っていってなかったし、ぼっちだから友達家にもいけないじゃん。お兄ちゃんのことだから『学費払ってるんだから生活くらいさせろ』って学校に住んでるんじゃないかなって」
「おいこら」
流石にそこまで図々しくないし、非常識でもないわ。あ、でも電気も困らないし、きれいだからいいかも。というか、なんで俺のへそくりの場所知ってるの? 我が妹は俺のことをなんだとおもっているのだろうか。
というか。
「なぁ、小町。おまえ俺のこと―――」
「怖くないよ」
俺が聞くよりも早くはっきりと、だが優しく答えられた。
「正直、遠いし、早いし、薄暗いしで何してるのかよくわかんなかったよ。でも、お兄ちゃんが腕生やしたり、筋肉もりもりの人を斬ったのは見えた。怖かったし、意味が分かんないかったよ。正直、お兄ちゃんだって信じたくなくて、それが確認したくてこんな近くまで来たんだ。でもね、お兄ちゃんが『嫌われたくない』って顔してたんだ。だから安心したの。ああ、やっぱりシスコン捻くれお兄ちゃんだって。だから―――全然怖くないよ。・・・・・・あっ! 今の小町的にポイント高くない!?」
最後の最後にぶち壊すのが小町らしい。いや、しんみりしないように気を遣ったのか。小町は俺と違って気遣いができるからな。もう小町ルートに入っていいんじゃねぇの?
「本当にポイント高いよ。・・・ありがとな」
今度は俺から小町を抱きしめた。
「およ? ど、ど、どどうしたのお兄ちゃん!? まさかの小町ルート!? 小町ルートなの!? ダメだよ! 一回メインヒロイン攻略してからじゃないと入れない隠しルートなんだから! いや、でも千葉の兄妹なら妹ルートからが正しいのかな・・・」
「お前、俺のゲーム勝手にやってただろ」
どうしよう。少し見ない間に我が妹は千葉の妹としての自覚を持ってしまったらしい。これ以上ポンコツ化してしまうと貰い手がいなくなってしまう。いや、誰にもやるつもりないから別にいいか。というか、腕の中でこんな赤面しながら慌てられると本当に小町ルート入りそうだから抱きしめんのやめよう。警察官の息子が親近愛とか洒落にならねぇ。
少し物足りなさそうな表情をしている気がするが、あえて突っ込まず状況を打ち明けることにした。気がしているだけだ。いいな。
「小町、これからお前に全部話す。信じるかどうかお前次第だ」
噂になっていた金髪の吸血鬼にであったこと、その吸血鬼が死にかけていたこと、その吸血鬼に命を捧げて一度死んだこと、その吸血鬼の眷属としてまた生き返ったこと、その金髪の吸血鬼の力を取り戻すためにヴァンパイアハンターと戦わなければいけなくなってしまったこと、今は学習塾跡でその吸血鬼と一緒に寝泊まりしていることを、懇切丁寧に説明した。
「ふーん。本当にいたんだ金髪の吸血鬼さん。ねぇねぇお兄ちゃん! 小町もその吸血鬼さんに会ってみたいなぁ」
「だめだ!」
あざとく上目遣いをしてもだめなものはだめなのだ。幼女を腕枕しながら寝泊まりしてるとかばれたら本当に小町に嫌われる。それだけは回避しなくてはならない。
「・・・勝手に自殺しちゃうようなごみいちゃんは小町的にポイント低いんだけどなぁー。あーあー、小町の好きだったおにいちゃんはもういなくなっちゃったんだなー。残念だなー」
「わかったからそのうざい口調やめろ。それと勝手にいなくしないで」
小町の好きなお兄ちゃんはここにいるから。まだ健在だから。
「会ってもいいけど明日な。さすがに今日はもう疲れた」
「しょうがないなぁ。明日まで待ってあげるのであります!」
「うぜぇ・・・。おら、送っていくから帰るぞ」
「じゃあ、おんぶお願いしまーす! 小町はもう足が疲れてしまったのです」
明らかにまだまだ歩けそうなものだが、流石に家まで徒歩で歩かせるには距離があるので素直におんぶをして小町を家まで送ることにした。「ほら早く!」などと急かされたので、吸血鬼の身体能力をフルに使ったアクロバティック送迎をしたら途中で泣かれたが。ざまぁみろ。
「・・・。おい。いい加減泣き止めよ。親父に殺されちゃうだろ」
「・・・さっきみたいに抱きしめてくれたら泣きやむ」
どうやら小町ルートが着々と進められているらしい。
最近、俺ガイル本編の方を書きたくて仕方ない。
はよ雪ノ下と由比ヶ浜出したい。