孤物語   作:星乃椿

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今日仕事が休みで、筆もまぁまぁのノリだったので2話連続投稿。
というより、1話分が短かったから連続投稿します。


016

 総武高校は千葉県有数の進学校であり、そのためか予算も多く使えるため校舎がわりと大きい。力を入れているのは校舎だけではなく、運動場にも力をいれている。たいして運動部に力を入れているわけでもないのにグランドがいくつかあり、一つ一つがわりと大きかったりする。人家も隣接しているわけではないので、決闘をするにはうってつけだった。

 

 個人的には廃墟とかの方が隠れられるし、罠を仕掛けることもできるのでありがたいのだが、拓けていて、それでいて人目に付きにくい、それでもって俺が少しでも落ち着いてできるなじみ深い場所でということで忍野がここにしたらしい。

 

 決戦場所の第二グラウンド。人家から最も離れている代わりに、校舎に最も近いこのグラウンドの中央には筋骨隆々の男が―――ドラマツルギーが胡坐をかいていた。

 どうやって声をかければいいのだろう。校庭の中心で座禅を組んでいる筋肉隆々のヴァンパイアハンターの吸血鬼にどうやって話しかければいいのか誰か教えてほしい。

 

 「●●●。・・・ああ、現地の言葉で、だな。」

 

 ドラマツルギーは厳めしい口調とは裏腹に、どこか優しさを孕んだ声で話しかけてきた。

 立ち上がった彼の両の手にはあの夜の波打つ大剣―――フランベルジェが握られていなかった。

 

 「勘違いするな、同胞よ。私が、あの軽薄そうなあの男の言に従ってここに来たのは、何もお前を退治するためではないのだ」

 「はぁ? でも、お前あの二人―――エピソードとギロチンカッターと一緒になって斬りかかってきたじゃねぇかよ。何を今更―――」

 「だから、勘違いするなと言っている」

 

 反論を許さない厳めしい言葉は続く。

 

 「私がここに来たのはお前を我らの仲間として迎え入れるためだ。まさか、あの二人の前でお前を勧誘するわけにもいくまい。鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、ハートアンダーブレードの眷属という稀有な存在は殺すには惜しい」

 「仲間・・・?」

 「そうだ。私と同じように―――吸血鬼狩りに身を窶すつもりはないか?」

 

 それは初めての誘いだった。正直、少し嬉しく思ってしまったのは否定できない。

 

 「・・・仮に俺がその誘いに乗ったとして、キスショットの右足は返してもらえんのか?」

 

 ここでこいつの話に乗って、右足を返してもらうのが一番リスクが少ない。あの二人に襲われる危険性も減り、追われるだけの生活を送る必要もなくなる。何より、勝てるかわからない戦いに身を窶さなくてもキスショットの右足が手に入るというならばそれが一番いい。

 

 「・・・あの女をキスショットと呼ぶその度胸は大したものだが、それは違う。むしろハートアンダーブレードを殺すのがお前の初めての仕事だ」

 「・・・っ」

 

 キスショットを殺す? 俺が? そんなことできるわけないだろう。あいつは俺に生きたいと縋った。俺はあいつのために生を捧げた。そして、あいつは俺に生を与えてくれた。そんなあいつを殺すことなど、できるはずもない。

 

 「なぜ躊躇う? お前はあの女に血を吸われて吸血鬼となったはずだ。復讐したいとは思わんのか?」

 「・・・思わねぇよ」

 

 復讐なんてとんでもない。むしろあいつの復讐のためにお前らと戦うまである。

 

 「なぜだ? お前は主人からの支配も弱かろう? 復讐するなら手を貸そう。お前だけで心もとないのであれば私と我が同胞53名が手助けしようとも」

 「支配力が弱いかどうかなんて知らねぇよ。ただ俺はあいつに忠誠の証を示すのが好きなだけだ。間違ってもお前の頭なんか撫でたくない」

 

 あいつの金糸のような髪を撫でらなくなるなんて嫌だ。もっと撫でていたい。

 

 「大体、53名もお仲間がいるならいいだろ? こちとら長年ぼっちやってるからな。なじめる気がしねぇよ」

 「そうか。惜しいな。実に惜しい。お前ならすぐにNo.1になれたものを」

 「生憎、エリート思考は持ち合わせてないんで」

 

 だいたい、No.1ってトップでしょ? 嫌だよそんなん。吸血鬼としても、人間としても、実戦経験でも、人生経験でも間違いなく最下位の俺がトップ? 間違いなく後ろから刺されるわ。すぐ再生するけど。

 

 「そんなもの私も持ち合わせてなどいない」

 「えっ、トップだったの? ごめんなさい」

 

 機嫌を損ねてはまずいとこれから戦うであろう敵に本気で平謝りする情けない男はどこにいる。ここですねすみませんでした。だってこんな巨漢が不機嫌オーラ出してみろよ。漏らすぞ。

 

 「ではそろそろ始めるとしよう―――哀れなる少年よ。ハートアンダーブレードの眷属よ。あまり時間をかけるわけにもいかないのだろう?」

 「・・・そうだな。そのまえに一つだけ確認させてくれ」

 「いいだろう。相互の認識に齟齬があっては困るからな」

 

 忍野がした交渉。その確認。

 

 「俺が勝ったらキスショットの右脚を返してもらう」

 「私が勝てば、ハートアンダーブレードの居場所を教えてもらおう」

 

 認識に齟齬はない。

 では、始めよう。吸血鬼同士の戦いを。

 

 




そういえば、ここでひとつだけ。
阿良々木さんと違って、別に今作でのヒッキーは人間に戻りたいだなんて思っていないんです。
だから、小町と話してその感情が湧いたとしてもただ諦めて辛くなるだけ。
なので小町との会話を短くさせていただきました。そこら辺を暗に織り交ぜたつもりではあったのですが、力が及ばなく、伝わらなくて申し訳ない限りです。

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