孤物語   作:星乃椿

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こんにちは。体調も大分回復しました。
Zero Grand order終わってしまいましたね。今回のイベント中々美味しかった・・・


015

 3月31日。

 エイプリルフールの前日で、嘘が“許される”というよりは、嘘が“遊び”となる日の前日である。友達の多いリア充共は如何に周りの人を騙そうかと頭を働かせていることだろう。

 だが、考えても見てほしい。人が人を騙すのは日常茶飯事であることを誰もが身に染みてわかっているはずだ。『嘘も方便』。空気を読むことに長けていると言われている日本人にとっては最も似つかわしい諺だろう。にも関わらずだ。何故その美徳を捨て去って、わざわざ場が白けるような嘘を吐くことをするのだろうか。エイプリルフールなら虐めにならないと思ってんじゃねーぞ。いや、虐められてないからね? ただ告白されたものを取り消されただけだから。思い出に動画撮られてただけだから。我が人生に虐めは存在しません。

 

 とまぁ、こんな具合に現実逃避した思考をしているには理由がある。

 

 あろうことか、今夜はドラマツルギーとの決闘の日なのである。

 

 しかもだ。なんと決戦当日になってキスショットがドラマツルギーについて説明し始めたのだ。

 

 「わかっておるじゃろうが、ドラマツルギーは吸血鬼じゃ。決して血を吸われるでないぞ」

 「はぁ?」

 

 なぜこんなにも重大なことを隠しているのか。女児を、主人を、吸血鬼幼女を本気でぶっ叩こうかと思った俺は正しいと思う。

 

 「なんじゃその惚け面は? あんな巨体がただの人間なわけなかろう? それともうぬはあんな体躯をした人間を見たことがあるのかの? ろっぴゃ・・・500年生きとる儂でもあんな体躯の人間は、寡聞にして知らんぞ?」

 「・・・まぁ、言われてみれば確かに」

 

 2メートルを超える身長はスポーツ界、特に白人や黒人には多くいることだろう。筋骨隆々な体形も白人、黒人を中心に沢山いる。

 だが、ドラマツルギーの体形というのはそういう次元ではないのだ。アニメや漫画に出てくるような、およそ人間ではあり得ない、人間離れした体躯をいていた。浮世離れしてるといってもいい。

 

 思い返してみれば、大人版キスショットもこの世のものとは思えないくらい美しかった。もしかすると吸血鬼って身体を思い通りにすることができるのかもしれない。もしくは、洗練するとか。事実、吸血鬼化してから俺の身体も劇的な変化を遂げているのだから。

 だらしない体というわけではなかったが、運動すらしてこなかった俺のおなか周りが何と見事に腹筋割れているのだ。それも男の憧れのエイトパック。結果にコミットする吸血鬼化。何にコミットするのかわからないが。そうだ。幼女にコミットしよう。

 

 「それで? なんで血を吸われちゃだめなんだ?」

 

 もう吸血鬼になっているわけだし、血など吸われたところで血液が減るくらいだろうに。その血液すら即時に再生するのだが。

 

 「吸血鬼が吸血鬼に血を吸われるということは、存在そのものを吸われるということじゃからな。まぁ、吸血鬼がというよりは怪異のすべてがじゃがな」

 「・・・存在そのものが吸われる?」

 「そうじゃ。肉片一つ残さずこの世から消え去るのじゃよ。綺麗さっぱりとな」

 「なんだよ。まるで見たことがあるような口ぶりじゃねぇか」

 「忘れたのか? 儂は“怪異殺し”。どれだけの怪異の血を吸うてきたと思うとるのじゃ? 勿論、吸血鬼の血もの」

 

 幼女は凄惨に笑う。自慢げに己が牙を見せつけながら。あどけない表情のはずなのに、どこか妖艶で、自分の何倍も生きている吸血鬼であることを実感する。

 自分も舌で牙を撫でてみたが、核爆弾が自分の口内に取り付けられた気分になるだけだった。

 

 というか、本当にどうしよう。あんな筋骨隆々の大男にヘッドロックなんてされたらどうやったって逃げられないし、その間に血を吸われたらお陀仏って無理ゲーじゃねぇか。無理ゲーっていうかクソゲーだけど。誰かスターか1UPキノコくれ。

 

 「くはっ。そう心配そうにするな従僕よ。吸血鬼としてのランクはうぬの方が何段階も上じゃ。血を吸われたとてそう簡単に消えやせんわ。それに、あやつはそんな戦い方はしないとは思うからの。まぁ、一応注意くらいはしておくことじゃな」

 

 こいつのドラマツルギーに対する信頼度の高さはなんなのだろう。ライバルなの? 一緒に鍛え抜いた仲なの? ドラマツルギーはベジータポジションなの? 駄目だよ。初期のベジータは「汚ねぇ花火だ」とか平気でやるんだから。

 

 結局、キスショットの新情報で余裕のない心がさらに圧迫され、戦々恐々としたまま決戦の舞台へと足を運ぶ。

 

 決闘の舞台。これがまた足を重くしている要因でもあった。場所は馴染みがありつつも、そう長くはいたいとは思えない場所。

 

 つまり、千葉市立総武高校の校庭へと足を運んでいた。

 


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