孤物語   作:星乃椿

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こんにちは。4年前に患ったインフルぶりの高熱に寝込んでる星乃椿です。
投稿が遅れて申し訳ありません。PCの調子が良くなかったり、仕事が忙しかったりで執筆できませんでした。
八幡らしさが出せてないことにもどかしさ感じる14話。



014

 忍野の計らいでドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッター、それぞれとの一騎打ちの場が設けられることとなった。どうやって交渉したのかは結局わからず終いだったが。本当に何者なんだあのおっさん。

 

 聞けば、本当に俺を引き摺りながら路頭に迷っていたキスショットにこの学習塾跡を教えたらしい。

 

 この街に住んでいる人間ですら知らないようなところをなぜ住民ですらない人間が知っているのかという疑問を投げかけたところ、本人曰く、長いこと放浪生活してるからね。寝床を探すのは得意なのさ。とのことだ。本当かどうかは知らないが。

 

 忍野が信頼たる人物かどうかは正直まだわからない。俺達にしてくれた施しだって見方を変えれば罠にも思えてくる。相手の信頼を得てから金品を巻き上げる詐欺の常套手段と同じだ。実際に金を巻き上げられてるし。

 実際、キスショットが力を失っているこの状況下で、あの3人から生き延びるにはこのおっさんに頼る、言い方を変えるならばこのおっさんを利用するしか道はない。

 

 ともかく、忍野のおかげで外に出ても襲撃されなくなったため、漸くわが家へと帰ってこれた。

 時刻は夜2時を廻った頃。丑の刻。怪異の力が最も強くなる時刻である。実際、感覚が研ぎ澄まされた感覚がある。

 なぜこんな時間に帰ったのかといえば、昼は活動できないし、事実上家出状態で両親がいる時間に帰宅しようものなら説教を受けて余計な時間をとれてしまう。そうなると必然的に小町も両親も起きていない深夜になってしまうのだ。

 

 自宅だというのに物音を立てないように気を遣い、できるだけ帰宅したという痕跡を残さないように自室へと足を運ぶ。途中カマクラに出会ってしまったが一目散に逃げられてしまった。なんか悲しい。

 

 そんなちっぽけな悲しみを背負ったまま自室に入ると、違和感があることに気付く。俺の楽園(ベッド)が膨らんでいるのだ。

 

 ・・・あれれ?? なんで小町ちゃんが俺のベッドで寝てるの?? もしかして俺の存在抹消されちゃった? 俺が帰ってこないことをいいことにあのクソ親父。血吸ってやろうか。

 

 などと吸血鬼としての使命感を覚えつつ音を立てないよう引き出しを物色する。照明を点けなくともはっきり見えるというのは本当に便利なのだが、まだ慣れていないのか若干気持ちが悪い。いくら身体が、五感が化物と成り果てても、まだまだ人間の感覚なのだろう。

  

 「ぅんん・・・おにいちゃん・・・?」

 

 物音をできるだけ抑えていたといえど、ある程度の音は出てしまう。いるよね、寝てるときやけに感覚が研ぎ澄まされてて少しの物音とかで起きちゃったり、誰かと同じ空間だと寝れない人。どうやら我が妹は俺に似て敏感な性格らしく起きてしまったらしい。

 

 つーか、なにその甘え声。すっげぇかわいいんだけど。あれ? あれあれ? 小町ってこんなかわいかったっけ? マイエンジェルだから仕方ないね。

 

 「おにいちゃん、そこにいるの?」

 

 自惚れでも自意識過剰でもなくともわかるくらい寂しさの滲んだその声に胸が締め付けられるようだった。思わず返事をするところだったが、答えるわけにはいかない。

 俺はもう人間として死んだ存在で、生きることから逃げた化物。本来ならばこの家に帰ってきてはいけなかった。

 

 これ以上ここにいるとまずい。一度捨てた日常に、決して楽しいと思えなかった日常に戻りたいと思えてしまう。

 

 相変わらず弱いままの俺はすぐに立ち去ろうとした。

けれど。

 けれど、俺のベッドに丸まりながらすすり泣く小町を置いて逃げ出すなんてことはできなかった。

 

 「・・・ああ」

 

 返事をするや否や小町に抱き着かれた。それがなんだか無性に嬉しく、また恥ずかしくもあり、また申し訳なかった。

 返事をしてしまったのは失態と言わざるを得ない。兄としても、吸血鬼としても。

 それでも。

 死んでても、人外でも、化物でも、俺は比企谷小町のたった一人の兄貴なんだと、当たり前のことを実感せずにはいられなかった。

 

 「・・・・・・・・・」

 

 またも三点リーダの乱用で申し訳ないのだが、如何せん喋ることがない。この時ほど自分の対人スキルのなさを心底恨んだことはないと思う。というか、妹に抱き着かれたらどう反応するのがベストなのだろうか。泣きじゃくってる小町に冗談とか言えないし。

 小町に抱き着かれて早20分が経った頃。

 

 「・・・小町になんにも言わないでどこに行ってたのかなごみいちゃん」

 「おい。ごみいちゃんっていうなごみいちゃんって」

 「だまれ」

 「はい」

 

 いつの間にか正座でお説教タイムになっていた。あれれ~? さっきまで感動の再開じゃなかったっけ? どうしてこうなった。さっきまで天使だったのに閻魔様に見えるよ。やっぱりここ死後の世界でしょ。

 

 「で? ごみいちゃんは今までどこに行ってたのかな?」

 「あっえっと、じ、自分探しの旅に・・・」

 「あ?」

 「ごめんなさい!!」

 

 恐怖のあまり実の妹に対して躊躇なく土下座をし、涙目で自分の部屋の床に額を擦り付ける情けない兄の姿がそこにはあった。ていうか俺だった。

 というか、「あ」に濁点だったよ。女の子が出していい声じゃないからね。

 

 「で、本当の理由は?」

 

 どうしたものだろうか。まさか「本買いに出かけたら死にかけの伝説の吸血鬼助けちゃって、俺死んじゃったんだよねー。そしたら伝説の吸血鬼の眷属になっちゃって、助けた吸血鬼の手足を取り戻すためにヴァンパイアハンターとバトらないといけなくなったったんだー」なんて、言えるわけない。

 

 「・・・自分探しの旅だ」

 

 自分つーか、主人の身体探しだけど。まぁ、“吸血鬼(じぶん)”探しで間違いないと思うけど。

 

 「ふーん・・・。まぁそういうことにしておこうかな」

 「お兄ちゃんの言いうことくらい信じてくれてもよくない?」

 「無断で家出するようなごみいちゃんに対する信頼なんてありません」

 

 小町の俺に対する信頼度が急降下してる。元々ないに等しかったが。

 

 「まぁいいや。今日はもう寝ようよ。どうせまた出ていくんだろうけどさ、別に明日に出てもいいんでしょ?」

 「え、いや」

 「今日だけと・く・べ・つに一緒に寝てあげるよごみいちゃん!! 別に寂しかったわけじゃないんだからね! 家出してたごみいちゃんがコマチニウム不足してるだろうから仕方なくなんだからね!! あっ今の小町的にポイント高い!!」

 「お前なんでツンデレキャラになってんだよ。なんだよコマチニウムって」

 

 なんだよ。かわいいなちくしょう。やっぱり俺の妹前よりかわいくなってるよ。八幡的にポイント爆上げだよ。コマチニウムがなんだかわからないが、補給したくなってきたよ。

 

 「悪いけど今から出て行く」

 「・・・もしかして悪いことしてるの? 変なクスリとか?」

 「・・・いいや」

 「絶対帰ってくるんだよね?」

 「・・・ああ」

 

 きっと。きっと、俺が小町と会うのはこれが最後だろう。でないときっと後悔してしまうから。

 

 「帰ってきたらちゃんと話聞かせてね」

 「ああ」

 「ちゃんと、帰ってきてね」

 「約束する」

 「まだプリン食べてないんだから」

 「安心しろ。とびっきり美味いの買ってきてやる」 

 

 最後くらい欺瞞に頼ってもいいだろう?

 さよなら小町。

 小町を人撫でして明るくなり始めた街へと繰り出した。俺を待つ彼女の元へ帰るために。

 




本当はもっと丁寧に書く予定だったけど話進めたいからいろいろばっさりカットしました。

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