The transmigration of Eagle 作:fumei
クリスマス休暇が近づく中、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は昼食までの空き時間に図書館にいた。スリザリンとの試合の日、ハグリッドがうっかり口を漏らしてしまった人物が4階に守られているものに関係すると目星をつけた3人は学校の図書館で調べることに決めたのだ。
しかし、これが大変な作業だった。なぜなら、ハリー達にはニコラス・フラメルがどんなことをやった人物なのかさっぱりわからなかったからだ。ハリーはどこかでその名前を見たことがあるような気がするのだが、思い出せなかったため、手当たり次第に探すしか方法がなかった。
ハリーは自分の身長の2倍もありそうな本棚が並ぶ通路をぶらぶらと歩きながら、どの本を探せばニコラス・フラメルが何をした人物なのかがわかるだろうかと考えていた。「20世紀の偉大な魔法使い」や「現代の著名な魔法使い」、「近代魔法界の主要な発見」などハーマイオニーが作った調べる本リストに従って読んでみたが、どの本にもニコラス・フラメルの名前は載っていなかった。
ふと、図書館の奥の方まで歩いてきたハリーは「閲覧禁止」の棚が視界に入った。もしかしたらフラメルの名はこの中にあるんじゃないかと、ハリーは考えた。三頭犬なんてものを置いておくくらいだ、きっと危険なものに違いない。なんとなく書棚の近くに来てみたハリーだったが、残念ながらここの本を見ることはできない。「閲覧禁止」の本を見るには先生のサイン入りの特別許可証が必要だからだ。
諦め悪く、閲覧禁止のコーナーを見ていたハリーはそこで見知った人物を見つけ、思わず「あ!」と声を出してしまった。その人物はハリーの声に顔を上げた。やはり思った通り、アルタイル・ブラックだった。
ブラックはそのまま読んでいた本を本棚に仕舞うとハリーの方へやってきた。
「ごめん、邪魔しちゃって」とハリーは謝った。
「いいよ、別に。それより、こうやって話すのは久しぶりだね」
朗らかな笑顔でブラックが言った。確かに、話す機会は少なかった気がする。決して仲が悪いというわけではなく、2人の属する寮が敵対関係にあるため、仲良く挨拶するのは外聞が悪いのだ。そういう理由から近づく人が少ない閲覧禁止のコーナーは現在の2人には都合が良かった。
しかし、呼び寄せたような状況になってしまったが、ハリーには特に用事があるわけではない。なにか話題はないだろうか…と考えたハリーはさっきブラックがいたのが閲覧禁止の本棚だったことを思い出した。
「…何読んでたの?」
「ん?あぁ、さっきの本?マクゴナガル先生との個人授業の課題で行き詰まっていて、それで読むだけなら、って先生に許可貰ったんだ」
「マクゴナガル先生に?」
確か、「閲覧禁止」の棚にある本は強力な闇の魔術に関するものだけではなかったのだろうか。その疑問をそのままブラックにぶつけると、彼は親切に教えてくれた。
「闇の魔術の本以外にも、生徒が遊び半分で試したりしないように、危険性の高い魔法が記述されている本はあそこに保管されているんだ」
「そうなんだ……」
なるほど、それで彼はあのコーナーにいたのか。ハリーは自分だったら絶対に許可を貰えないだろうなと思った。
マクゴナガル先生は厳しいことで有名だ。スネイプも同様に厳しいと評されているが、スリザリンを贔屓するため、公平に厳しいという点でマクゴナガル先生が勝っている。
そんなマクゴナガル先生が許可を与えるあたり、彼は相当優秀な生徒なのだろう。そこまで考えて、ふとハリーはもしかして彼ならフラメルについて何か知っているかもしれないと思いついた。
「ねぇ、ブラックはニコラス・フラメルって知ってる?」
ハリーは緊張と期待を感じながら聞いてみた。
「うん、知ってるけど?」
対して、ブラックの返答はあっさりしていた。
ブラックに詳しい話を求めたところ、曰く、ニコラス・フラメルとは錬金術という物質の構造を解し、それを以て新たな物質を作り出す古代学問の最難関課題といえる『賢者の石の創造』を成功させた人物だそうだ。そして、賢者の石はどんな金属をも黄金に変える力を持っており、また、飲めば不老不死になる『命の水』の原料らしい。
ハリーはブラックから話を聞き出すと、早速ロンとハーマイオニーに教えてあげようと思った。この最中にも、彼らはニコラス・フラメルについて調べまわっているのだから。
「教えてくれてありがとう! あ、あと言うのが大分遅れちゃったけど、クィディッチの時も。助かったよ……本当にギリギリだったんだ」
「構わないよ、それくらい」
ハリーの礼に、ブラックはにっこりと笑って返した。
ブラックと別れると、ハリーはすぐに2人の姿を探した。ちょうど2人は『魔法界における最近の進歩に関する研究』という題名の分厚い本を覗き込んでいるところだった。
「ロン!ハーマイオニー!」
ハリーの呼びかけに顔を上げた2人は、ハリーがニコラス・フラメルについて分かったと報告すると、歓声を挙げた。
「そこ、静かに!出てってもらいますよ!」司書のマダム・ピンスがハリー達に注意をした。
「ここじゃ話できないから、外に出ましょ」というハーマイオニーの誘いに乗り、3人は図書館を出て、大広間に向かった。道中、ブラックから聞いた話を2人に話す。
「なるほど……じゃあ、あの犬は『賢者の石』を守っているということね?」
ハーマイオニーが、ハリーが考えたことと同じことを言った。そこにハリーが付け加える。
「黄金に変え、不老不死になる石!スネイプが狙うのも無理ないよ。そんなのだれだって欲しいもの」
クィディッチの試合以来、ハーマイオニーはハリーがスネイプを犯人だということに対して何も意見しなくなった。あの時の出来事がハーマイオニーの考えを変えさせたようだった。
「それで、なんて本に載ってたんだい、ハリー?」ロンが聞いた。
「実は、ブラックに聞いたんだ」
答えた瞬間、左にいたハーマイオニーが立ち止まり「ブラックに聞いた?」と繰り返した。
「ハリー!あなた、ニコラス・フラメルについてブラックに聞いたの?」
あまりの剣幕に怯んでいるハリーに、再びハーマイオニーが問い詰める。
「ハーマイオニー!声が大きいよ、先生たちに聞こえるぞ」
3人は廊下の真ん中にいた。すぐ近くには教室もある。ロンが慌てて注意すると、ハーマイオニーは我に返ったが、かなり動揺しているようだった。
「ハーマイオニーはブラックにいつも授業で負けてるから、目の敵にしているんだ」とロンが肩をすくめながらハリーに説明した。違うわよ、と言う風にハーマイオニーがロンを睨む。
「まぁ、これで調べものはおしまいってわけだ!明後日からはクリスマス休暇だし、ゆっくりできるぞ」ロンが無理やり話題をシフトさせる。
「あ、そっか。僕とロンは学校に残るけど、ハーマイオニーは家に帰るんだっけ」
ハリーはハーマイオニーの意識を別の話題に向けようと思い、ロンの話に乗った。
「…えぇ、クリスマスは両親に会いに帰るわ」
どうにか落ち着いたハーマイオニーも加わり、3人はクリスマスの話をしながら廊下を再び進み始めた。
3人足音が遠ざかった頃、図書館から帰る途中にある空き教室のドアがそっと開く。開けた人物は廊下を端から端まで人がいないことを確認すると口を開いた。
「ご主人様……ハリー・ポッターたちが4階に隠されているものについて感づいたようです……」
その男はオドオドとした声で男が誰もいない空間で、誰かに話しかける。頭が気になるのか、しきりに触っている。
答える声はなかったが、男は見えない何かから返答をもらっているようだった。更に怯えたように委縮している。
「申し訳ございません、ご主人様……アルタイル・ブラックについては何も知りません……」
男はそう言うと、当然苦しみだした。ヒィヒィとすすり泣く声が教室に響く。
「はい……はい……分かりました……今度連れてきます……」
男はそう言うと、よろよろと立ち上がって教室を出た。
男の去った後の廊下は再び静寂を取り戻した。窓の外には静かに雪が降っている。
ホグワーツは間もなくクリスマスを迎えようとしていた。
次話はアルタイル視点