The transmigration of Eagle   作:fumei

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ハーマイオニー視点で掘り下げ


ハロウィーンその2

 ハーマイオニー・グレンジャーは勉強が大好きな才女だ。歯科医師の両親のもとに生まれた彼女は、幼いころから本を読むことが好きだった。静かに本を読んでいる彼女の姿を見ると、周りの人は揃って「おとなしい子だ」といって褒めてくれた。しばらくしてハーマイオニーがナーサリー・スクール(保育園)に入るようになると、両親は2人とも仕事に戻り、閉園後はベビーシッターへ預けられた。そこでもハーマイオニーは与えられるままに本を読み漁った。両親と遊ぶ時間が少ないことで多少の寂しさはあったが、本があればハーマイオニーは耐えられた。

 

 プライマリー・スクール(小学校)に上がるとハーマイオニーはその膨大な知識をもって、周囲から優秀だと評価されるほどになった。彼女が満点のテストを持ち帰ると両親は手放しで喜んでくれた。ハーマイオニーはそれが嬉しくて、ますます書物あるいは勉強にのめりこむようになった。昼休憩や放課後は他の子たちと同じように外で遊ぶことはせずに、図書館で本を読み、勉強をする。そんな日々を続けているといつの間にか「がり勉」の烙印を押され、クラスメイトに避けられるようになっていた。

 

 自身が浮いた存在になっていることに気づいていたハーマイオニーだったが、その習慣をやめる気は起きなかった。本は面白いし、いい成績をとって先生や親に褒められることはうれしい。外で泥だらけになって遊ぶ同年代の子供を見て「子どもっぽいわね」と言えるくらいには彼女は自分に自信があった。

 

 そして友達がいないままミドル・スクール(中学校)に上がるのだろうと若干の諦めをもったまま過ごすある日、一通の手紙が届いた。

 

 一部の魔力を持った少年少女が魔法についての理論や実技を学ぶための全寮制の教育機関───ホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可すると手紙には記されていた。ハーマイオニーは自分に魔力が備わっていると知って驚いた。確かに不思議なことが身の回りで起こっていたが、偶然だと思っていたのだ。本に書かれていることだけが真実だと思い込んでいた彼女にとって、ありえない出来事は見間違いだと信じて疑わなかった。ところが、この手紙に書かれていることが本当ならば、自分の知らない世界には魔法を当然のように使いこなす人々がいるらしい。そして、その事実は魔力を持たない人々───自分の両親のような非魔法族(マグル)の世界には隠されているというのだ。

 

 本にも書かれていない世界があるなんて!ハーマイオニーははじめこそいたずらだと疑っていたが、案内係と名乗る先生の話を聞き、魔法界に向かうと事実だと認めないわけにはいかなかった。ダイアゴン横丁で買ってきた分厚い本を一冊読み終える頃には、ハーマイオニーはすっかり魔法のとりこになっていた。

 

 次の年の9月1日、ホグワーツへ向かう列車に乗り込むハーマイオニーの胸中は未知の世界へ足を踏み入れる期待と自分の知識が通用するかという不安でいっぱいだった。加えて、魔法を学ぶという同じ目的を乗った人たちの集まりなら自分にも友人ができるかもしれないと密かに希望を持っていた。

 

 

 

 

 そんな彼女の望みは入学してすぐに打ち破られた。勉強という自分の唯一の取り柄と共に。

 

 

 

 

「だから、誰だってアイツには我慢できないっていうんだ!」

呪文学の帰り道、一人で歩くハーマイオニーの耳に前方からの声が届く。

 

 発言したのはロン・ウィーズリー、ハーマイオニーと同じ寮の生徒だ。彼とは入学前からそりが合わなかった。親切で注意したことを反発で返される度に自分がグリフィンドールに組分けられたことに疑問を抱いた。私はグリフィンドールに向いていないんじゃないかしら。レイブンクローは勉強熱心な生徒が多いと聞く。もしレイブンクローになっていたら、今よりは居心地が良いかもしれなかったのに。

 

「僕だってブラックと組みたかったさ」

続く言葉が、悪口がハーマイオニーに向けてのものだということを思い知らせる。ハーマイオニーは唇を噛み、彼らの横を走り抜けた。これ以上自分の悪口を耳にしたくなかった。こらえきれなかった涙が頬を伝う。けれども、きっと誰も追ってこないのだろう。ハーマイオニーはホグワーツでも孤立していた。

 

 走りながら、ハーマイオニーはさっきの授業のことを思い返した。

 

 

 

 

 

 魔法の実戦練習で組む相手がいなかったハーマイオニーは仕方なくロンと組むことになった。フリットウィック先生の板書を思い出しながら、慎重に杖を振ろうとした瞬間、向かいのテーブルから先生の褒め称える声が聞こえる。

「素晴らしい!ブラック君が成功しました!」

───アルタイル・ブラック。間違いなくこの学年で1番優秀だといえる生徒だ。彼はいつも最初に課題を達成しては先生そして周りの生徒の称賛を浴びている。本来なら私がその場所にいたかもしれないのに───。

 

 気を取り直して呪文を唱えようとするも、隣のロンが振る杖が視界に入って集中が途切れてしまう。しかも彼の唱える呪文は間違っている。そのことを指摘するためにハーマイオニーは口を開いた。

 

「言い方が間違っているわ。ウィンガーディアム レヴィオーサ!ガーを長ーくきれいに言わなくちゃ」言った途端に、ロンの表情が歪む。

 

「そんなによくご存じなら、君がやってみろよ」

 

 ロンに言われるまでもなく、ハーマイオニーは先生の指示通りに杖を振り、呪文を唱えた。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」羽根は浮かび、頭上を漂った。

 浮遊する羽根が先生の目に留まり、ブラックと同じように加点をもらう。そこで安心したハーマイオニーは自分が焦っていたことに気がついた。

 

 しばらくすると隣のハリーとシェーマスの組にブラックがやってきた。どうやら彼らにアドバイスをしているらしい。いったい彼はどんな指導をするのだろう。ハーマイオニーは気になってバレないように聞き耳を立てた。

 

「…あとは多分イメージを明確することかな。魔法は人の意思で効果の程度が違うんだ。上手にイメージすることで最大限の効果が現れるんだよ。」

 

 悔しいけれども、ブラックの説明はわかりやすかった。先生が教えていない情報が入っているのから察するに、彼は自習をしているのだろう。それに自分のように相手を怒らせないという点で彼はハーマイオニーの何歩も先を行っていた。

 

 

 

 

 

 自身の未熟さを恥じて、ハーマイオニーは俯きながら行く先も確認せずに走った。

 

 しかし、それがいけなかった。ハーマイオニーは前にいた人物の背中に激突する形で自分の持ち物を落としてしまっていた。

 

「あっ……ごめんなさい」ハーマイオニーは咄嗟に謝り、そのまましゃがんでカバンから散らばった物を拾い集めようとした。

 

「大丈夫?」

 

 かけられた声は先の授業でも聞いたものだった。ハーマイオニーが床から視線を上げるとブラックと目が合った。

 

「アルタイル・ブラック…」ハーマイオニーが呟く。

 ブラックはハーマイオニーの顔をじっと見ていた。彼の横には友人だと思われる生徒が、彼が静止しているのを不思議そうにしながら待っている。

 

 ハーマイオニーは一瞬、自分の心が怒りに染まったのを感じた。何も苦労をしていないような顔で、ハーマイオニーが欲しかった賛辞、友人を容易く手に入れている彼を羨ましく思うと同時に妬ましく思ったのだ。

 

 ブラックはハーマイオニーから一度視線を外すと、仲間に「先に行っててくれ」と見送り、再び彼女に向き直った。そして、ハーマイオニーの手が止まり、滞っていた荷物を集める作業を手伝いながら口を開いた。

 

「……妬みの視線は見慣れている。君の感情は手に取るようにわかるよ」

 

 ハーマイオニーには彼が何を言っているのかわからなかった。今の一瞬の感情がわかったというのか彼は。ハーマイオニーは信じたくなかった。ブラックは最後に羽根ペンを収納しながら、彼女に告げた。

 

「気を付けて、な?」

ブラックは形だけの笑みを浮かべながら、カバンをハーマイオニーの手に握らせた。その瞳は深淵が広がったように底が見えない澱んだ色をしていた。

 

 カバンの感触がハーマイオニーを現実に引き戻した。このまま座り込んでいるままにはいかない。ハーマイオニーは素早く立ち上がると、走ってその場を後にした。頭の中に彼の読めない瞳がちらつかせながら。

 

 

 

 

 

 気づくとトイレの個室に籠り、数分が経過していた。今日はもう授業を受けられる心境ではなかった。集団からは孤立し、あのアルタイル・ブラックを不快にさせてしまった。理解できないものを前にした寒気がハーマイオニーを襲う。

 わざわざホグワーツに来た意味はあったのだろうか。ハーマイオニーは自分の居場所がないような心地になり、涙した。

 

 

 

 

 

 こぼれる涙も出ないほどになった頃、ようやくハーマイオニーは個室から出る気になった。泣いていても仕方がない。要はマグルの世界の時と同じように、一人きりで誰にも頼らずに勉強だけに生きればいいのよ。そう考えながら洗面台で顔を洗い、女子トイレのドアに向かう彼女の視界に信じられないものがのっそりと現れた。

 

 トイレの天井につくほどの大きさに、墓石のような灰色の肌、岩石を寄せ合わせたような屈強そうな巨体。長い腕には太い棍棒を握り、それは床を擦っている。

 

 恐怖に震え、ハーマイオニーは自分の声を忘れてしまった。唖然とトロールを見上げる彼女の耳にトイレのドアが閉まる音が聞こえた。

 

 閉じ込められた。彼女の脳がそう判断した瞬間、思い出したように口から悲鳴が出た。救いを求める声は壁を反響し、トロールを刺激した。まずい。そう後悔しても、すでに遅かった。トロールは棍棒を振り回しながら、ハーマイオニーに近づく。彼女の体は壁に張り付いたまま、足がすくんで動けなかった。

 

 そこへ鍵が外れる音と共に、ハリーとロンがやってきた。ハリーとロンはトロールによって崩された瓦礫をトロールに投げつけ、ハーマイオニーへの意識を逸らした。

 ロンが引きつけている間にハリーがハーマイオニーを救出しようとしたが、体がこわばったままで動けない。そうしているうちにトロールはどんどんロンに向かっていた。

 その時、ハリーは無謀にも後ろからトロールの背に飛びつき、腕を太い首に巻き付け、そのまま持っていた杖をトロールの鼻へ突きあげた。

 痛みに呻きながら棍棒を振り回すトロールに向かって、ロンが杖を取り出して呪文を唱える。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」

 

 棍棒はトロールの手から離れ、そのまま重力に従って、持ち主の頭へ落ちた。倒れたトロールが再び起き上がりやしないかと一同が立ちすくんでいると、慌ただしい足音と共に先生方が駆け付けた。

 

 マクゴナガル先生の「なぜここにいるのか?」という追及に対して、ハーマイオニーは初めて尊敬する人にうそを吐いた。規則を重んじる彼女だったが、今回ハリーとロンが言いつけをやぶってまで助けに来てくれなかったら、自分はトロールに襲われ死んでいただろう。そう思うと、ハーマイオニーの頑なだった部分が少しだけ緩んだ気がした。

 

 ささやかな加点を貰った後、グリフィンドールの談話室に戻ると、中断されたパーティの続きがそこでは行われていた。三人の間には、数時間前まで互いに苦手だと感じていた気まずさが残っていたが、「ありがとう」と言い合うとそんな空気は吹き飛んでいった。

 

 以来、ハーマイオニーにはハリーとロンという2人の友人ができた。

 




ひっさびさの更新です。すいません。
新生活が始まり、慣れるまでに大分経っていました。

初めの方は先の展開考えずにパーっと書いてたので、行き詰まり…
暇な時とかにぼんやりと話を考えたりはしてたのですが、本編は進まず…

いつの間にか金曜ロードショーで映画がやってたり…

でおよそ3か月。間あけすぎだろとやっと重い腰を上げました。
課題やらなんやらで定期的な更新はできませんが、引き続きよろしくお願いします。

加えて、プロットを考えている中で主人公の背景やら性格やらが変わってきたので、以前書いたものを編集するかもしれません。あれれ~?おかしいぞ~?と思った部分は感想等で指摘してください。

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