The transmigration of Eagle   作:fumei

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賢者の石編
9と3/4番線からの旅


 ホグワーツへ行くまでの8か月間、アルタイルはこれまでの復習、買ってきた参考書やブラック家の書庫にある古書を使ってさらに知識を蓄えた。

 ホグワーツへ出発する9月1日の前日、アルタイルはクリーチャーと暫しの別れと寂しさを分かち合った。アルタイルが転生してから6年間(クリーチャーにとっては11年だが)の付き合いは彼らのつながりを密接なものにした。

 

「クリーチャー。僕はしばらくホグワーツに行ってこの家を留守にするけど、その間のことは任せたよ」

「はい、アルタイル坊ちゃま。クリーチャーめは、言われた通り坊ちゃまのお家をお守りします!」

「ありがとう。本当に君は良い家族だ」

「そんな…(わたくし)には過ぎた立場でございます!家族だなんて…!アルタイル坊ちゃまこそ良いご主人様でございます!」

 

 アルタイルは度々クリーチャーに対して家族と表現した。その言葉の中に思惑はなく、ひたすら感謝の気持ちだけが存在した。何の打算もなく尽くしてくれるクリーチャーは、アルタイルにとってかえがたい存在であった。前の世界で彼の周りにいる人々は、アルタイルの外面やステータス、家柄に惹かれた者ばかりで、アルタイルは彼らに親切に対応していたが、決して心を許すことはなかった。そういった過去の経験からなおのことアルタイルはクリーチャーを大事にしていた。

 

 その夜は明日の出発に向けて、早めにベッドに入った。

 

 

 

 

 次の朝、早くに目が覚めたアルタイルはクリーチャーと朝食を摂った後、荷物の点検をし、9時に家を出た。

 

 ホグワーツ特急が出るキングス・クロス駅にアルタイルが着いたのは9時半だった。荷物があるせいかいつもより時間がかかってしまったのだ。

 構内に入ったアルタイルは知識にある通り9番線と10番線の間の柵を通り抜けた。抜けた先には9と4分の3番線と書かれたプラットホームがあり、紅色をした蒸気機関車が停車している。ホームの上には『ホグワーツ行急行11時発』と書いてある。

 時間が早いためだろうか、ホームはまだ閑散としていた。

 

 アルタイルは列車の真ん中あたりの車両に入り、ガラガラに空いたコンパートメントの一つにトランクを積むと、その中から取り出した本を重ね、読み始めた。

 

 

 ふと、外が騒がしくなってきたと思い、時計を見ると11時10分前になっていた。集中していてわからなかったが、1時間弱は経過していたようだ。

 窓から外をのぞくと、そこには子供を見送る親や別れを惜しんで抱き合う家族が見えた。

 

 この世界ではアルタイルに家族といえる存在はクリーチャーをのぞいて他にはいない。───いるとすれば唯一アズカバンにいる彼の叔父だが。

 しかし、前にいた世界では彼にも人間の家族がいた。だが、かつての両親が恋しいといった感情はアルタイルにはなかった。

 

 

 

 

 やがて汽車が走り出すと、親たちは子供たちに手を振って見送った。汽車を追いかける赤毛の少女をアルタイルは何の感慨もなくただ見ていた。

 

 

 空いているコンパートメントを探す生徒は1人しか座っていないアルタイルのコンパートメントに気づいたが、声をかける前に、彼の姿を目にして何も言わずに他のコンパートメントへ向かった。本人はただ本を読んでいるだけだったが、その空間は傍目から見れば、美しい少年が捲る(ページ)の音と呼吸音のみが響く何より侵しがたい静かな聖域のようだったからである。

 

 

 12時半頃、通路でガチャガチャと大きな音がして、車内販売のおばさんが戸を開けた。アルタイルはかぼちゃジュースだけを頼んだが、おばさんは「オマケよ」と言って蛙チョコレートを2つ足してくれた。アルタイルは読みかけの本をひとまず置いて、クリーチャーが持たせてくれた昼食を食べた。

 

 しばらく本を再読していると、コンパートメントをノックする音がした。アルタイルが戸を開けると丸顔の男の子が立っていた。

 

「ごめんなさい。僕のヒキガエルを見ませんでしたか?」

男の子は今にも泣きそうな表情をしている。

「見てないよ。呼び寄せようか?」聞きながらアルタイルは杖を取り出した。

「えっそんなことができるの?あ、できるのですか?」

 

「敬語じゃなくていいよ。君のヒキガエルの名前は?」アルタイルはオドオドする少年を落ち着かせるように問いかけた。

「ト、トレバー」

アクシオ(来い)、トレバー」アルタイルが呪文を唱えながら、杖を振ると、遠くでドスンという音がしたが、目的のカエルはやってこなかった。

「うーん、もしかしたら誰かがカエルを捕まえているのかも。僕ちょっと見てくるよ」

 アルタイルは自分の魔法が失敗しているとは思わなかった。正しく作用したのに呼び寄せたものが来ないとすれば、それを阻害する何かが巨大ということだ。

 

「あ、ありがとう。僕も一応こっちを探してみる。」アルタイルは音のした方へ、男の子は逆側の最後尾の方へ別れた。

 

 

 先頭の方へ歩いていると、アルタイルに声をかける者がいた。

「やぁ、アル。久しぶり」5歳からの幼馴染───ドラコ・マルフォイである。

「やぁ、ドラコ。1か月ぶりかな」アルタイルがにこやかに返した。

 ドラコと「母上がアルに会えなくて寂しいといっていたぞ」「宜しく言っといてくれ」といった世間話をしながら、ドラコのコンパートメントへ向かうと、そこには大きな先客がいた。ドラコの取り巻きのビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルだ。二人のうち大柄な方(すなわちクラッブだが)がヒキガエルを掴んでいるのにアルタイルは気付いた。

「さっき通路にいたのを僕が捕まえさせたんだ」ドラコがアルタイルの視線に気付いて言った。つまりこのヒキガエルは先程の男の子のペットだろうとアルタイルは判断した。

「良かったら渡してもらってもいいかな?僕ちょうどこのカエルを探していたんだよ」

「そうなのかい?まさか君のペットじゃないよね?今時ヒキガエルなんて時代遅れだよ」

「まぁ、違うけど。他所のペット探しを手伝っているんだ」

「相変わらずよくやるね。僕だったらそんな面倒なこと引き受けないよ。貴族が義務を負う(noblesse oblige)ってやつかい?」ドラコが肩をすくめて呆れた風に言う。アルタイルが人に手を貸すのは日常茶飯事だ。

「そんな大層なものじゃないよ。ただ僕の手が空いていたから手伝っただけ」

「当たっているじゃないか」

 

 ドラコには真似できない行動だが、それには確かな信念が存在していることを理解していた。アルタイル・ブラックという人物はただのお人好しではなく、《ブラック》という姓に相応しく腹の底では何を考えているのか分からない男だとドラコは正しく認識していた。アルタイルの根底にあるものが何なのかを深く追及することはなかった。アルタイルが引いたラインを越えない限り、彼はドラコにとって良い親友でいてくれると長年の付き合いによって知っているからだ。

 

 

「ところで」ドラコが話を再開した。

「最後尾のコンパートメントにハリー・ポッターがいるらしい」

ドラコの一番話したい内容はそのことだったらしい。この年頃の子供はハリー・ポッターという名前を聞いて育つ。有名人に会えるという期待でドラコは興奮しているようだった。

「これから挨拶しに行こうと思う。アルも付いてくるかい?」

アルタイルは少し考えてから、「後から行く」と言って断った。

 

 

 飼い主の男の子とはすぐ再会できた。アルタイルがクラッブから受け取ったヒキガエルを渡すと男の子は感謝して何度もお礼を言った。男の子と一緒にいた女の子の「見つかって良かったわねネビル」という言葉でやっとアルタイルは目の前の人物がネビル・ロングボトムだと気付いた。そして連鎖的に、隣にいる豊かな栗色の髪をもつ少女がハーマイオニー・グレンジャーだとわかった。

 

 そのままの流れで2人とホグワーツの話をしていると、最後尾のコンパートメントのほうから恐ろしい悲鳴と、続いて慌ただしい足音が聞こえてきた。

 足音の持ち主はドラコと取り巻きの2人だったようで、ドラコはアルタイルとすれ違いざま「ハリー・ポッターはろくでも無い奴だ!」と言い残すと、足早に自分たちのコンパートメントへと戻っていった。

 3人が去ると、ハーマイオニー・グレンジャーは最後尾の方へと向かっていったため、アルタイルも彼女に付いていった。

 

 

 

 

~sideハリー~

 

 マルフォイたちが去って間もなく、見知らぬ男の子と共にハーマイオニー・グレンジャーが顔を出した。

 

「いったい何をやっていたの?」

 

「こいつ、ノックアウトされちゃったみたい」

ロンはハーマイオニーの問いには答えず、ペットのスキャバーズの心配をした。

「ちがう……眠ってるみたいだ」

スキャバーズは本当に眠っていた。

 

「マルフォイに会ったことあるの?」

ハリーがロンに聞いた。

 

「マルフォイ?」

ハーマイオニーと一緒に来ていた男の子が急に声を出したので、ハリーとロンは驚いた。ついでにハーマイオニーも少年がいることに今気づいたようだった。

 目を丸くしているハリー達に続けて男の子が聞いた。「じゃあ、この散らかし様は彼が?」

 

「いや、マルフォイと一緒にいたやつとスキャバーズがけんかして…」

ロンがもごもごと答えた。

 

「そうなんだ……僕の知り合いが悪かったね。よかったらお詫びにこれ貰ってよ」といって男の子は蛙チョコを2つ渡した。

ロンはチョコを貰うとすぐに箱を開けた。

「ワーオ!見てよハリー!僕、アグリッパが当たったよ!」

 

「よかったね」

 

「お楽しみのところ悪いけど、ちょっといいかしら?」

ハーマイオニーが口を挟んだ。

 

「何かご用?」

ロンはハーマイオニーの方を振り向きながら尋ねた。自慢に水を差されて少し不機嫌になっている。

 

「2人とも急いだ方がいいわ。ローブに着替えないと。私、前の方に行って運転手に聞いてきたんだけど、もうまもなく到着するって」

 

「わかったよ。よろしければ、着替えるから出てってくれないかな?」

ロンがハーマイオニーに出ていくように言うとハーマイオニーは「あなたの鼻、泥がついてるわよ」と言い残して、去っていった。

 男の子は2人を困った顔をしながら見ていたが、ハーマイオニーが出ていくと肩をすくめて「じゃあね」といって同じようにハリー達のコンパートメントを後にした。

 

「あいつ誰だろう?いい奴そうだったけど」と呟きながらロンはアグリッパのカードを大事そうにしまった。

 ハリーも同じことを考えていた。あの最悪なドラコ・マルフォイの知り合いとは思えないとても感じの良さそうな男の子だ。

 

 そして、2人は自分たちのトランクからローブを出して、着替え始めた。

 

 5分後、停車した汽車から降りると小さな、暗いプラットホームに出た。外はすっかり夜になっていて、冷たい空気にハリーは身震いした。

 

 ハリーたち1年生はハグリッドの呼びかけに続いて、上級生とは別の道を進んだ。道は険しく狭かったが、ホグワーツの壮大な城が見える湖に着いたときには感動も一入(ひとしお)だった。4人ずつ乗ったボート一行は湖面を滑走し、トンネルをくぐり抜けた後、地下の船着き場に到着した。

 ハグリッドは全員がボートから降りたのを確認すると、生徒を城の巨大な木の扉の前まで引き連れ、自身のその大きな握りこぶしで扉を3回叩いた。

 




詫び蛙チョコ(無課金)

今の時点で主人公を一番わかっているのはドラコ。さすがだフォイ。

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