The transmigration of Eagle 作:fumei
空き教室での一件はアルタイルにクィレルを警戒させるのに十分な出来事だった。あの場での答えを先延ばしにできたのは良かったが、以降クィレルが自分の後を付ける気配を感じ、アルタイルは常に誰かと行動するようにしなければならなかった。
とはいえ、意識して一人になろうとしない限りアルタイルの周りにはいつも人が寄ってきた。
例えば、一緒にクィディッチの試合を見ようと誘ってきたり(試合後、なぜかグリフィンドール席からやってきたドラコは青あざを作っていた)
イースター休暇は談話室で級友に試験範囲の勉強を教えてほしいと請われたり(人数がどんどん増えていった結果、1対多数の授業形式になった)
試験10週間前をきったある日、昼休憩に姿を見せなかったドラコが息を切らしながらアルタイルにあることを知らせた。
「森番とハリーたちがドラゴンを育ててる?」
アルタイルがドラコの言ったことに疑問符をつけながら復唱すると、ドラコは「そうだ!」と興奮した様子で肯定する。
「今度こそポッターを退学にできるぞ……それに野蛮人の森番のおまけつきだ……」
「余計な事に首突っ込まない方がいいと思うけど」アルタイルはそう忠告したが、ドラコに「こんな面白いことに首突っ込まないでいられるか!」と小躍りしそうな調子で返されたのでため息をつき、これ以上関与しないことにした。
その1週間後の土曜日の夜、アルタイルはマクゴナガル教授との個人授業のために彼女の研究室に来ていた。
「大分形になってきましたね。この調子でいけば再来年末には習得できるかもしれません」
アルタイルの成果を確認したマクゴナガル教授は感心した様子で評価を下した。
「教授の教え方が上手なおかげですよ」とアルタイルは立ち上がりながら返す。
「お忙しい中、貴重なお時間を頂きありがとうございました」と言って退室しようとしたアルタイルを「お待ちなさい」とマクゴナガル教授が静止させた。
「この頃は物騒ですから、寮の前まで私が送ります」
マクゴナガル教授はそう言うと、杖の先に光をともし先導した。
アルタイルは地下室の湿ったむき出しの石が並ぶ壁の前でマクゴナガル教授と別れ、自室へ戻ったが、そこにドラコがいないことに気づいた。
(もうすぐ消灯時間だけど……)
シャワーを浴び、寝る支度を済ませた後になっても未だアルタイルの隣のベッドはもぬけの殻だったが、時間も遅かったのでアルタイルは寝ることにした。
翌日、アルタイルはいつも通り顔を合わせた友人と軽く挨拶を交わしながら大広間へ向かっていた。すると、なにやら寮点を記録している大きな砂時計の下に人だかりができている。どこか困惑した様子の赤を色調とした制服の生徒たちをわき目にテーブルに着席すると、先に来ていたドラコが話しかけてきた。
「寮点を見たか?」
「見てないけど」
「昨夜ポッター達が仲間と一緒に捕まって150点減点されたんだ。これでスリザリンが首位にたった」
アルタイルは寮点がいくらかを気にしたことはなかったが、なるほど、確かに砂時計を見るに昨日までグリフィンドールは1位だったのだろう。今では最下位に落ちているが。
広間の反対側、グリフィンドールのテーブルに視線を向けると、生徒が何人かに固まって時折テーブルの隅を見ながら、コソコソと話している。そこではハリーとハーマイオニー、ネビルが肩身を狭くしながら座っている。生徒の中には、すれ違い広間を出ていくときに罵っていく者もいた。
(見事な手のひら返しだな……)
アルタイルは自分のトーストを食べながら一部始終を観察していて、周囲の人々の身勝手さに呆れた。
人間は利己的な生き物だ。自分の願望を勝手に人に押し付け、それを裏切ればまるでこちらが悪いことをしたかのように責めたてる。
ハリーをやれ英雄だ最年少シーカーだと持ち上げた挙句、一度失敗をしただけで簡単に背を向ける。そんなに寮杯が欲しければ自分で点をとればいいのに。
まぁ、いくら人が利己的であろうとアルタイルにとっては構わない。いちいち取り上げるのも面倒な問題だ。自分がかわいくない人間なんてどこにいる?ならば上手いこと操ってやればいいのだ。人々が望む自分を演じるのは得意だ。いままでだってそうだし、これからだってそうだ。そうすれば人は意のままに動く。アルタイルはそこで思考を終えると皿を下げ、席を立った。
しばらくの間、自分達の寮の談話室には居づらいのかハリー達が図書館で勉強している様子を見かけた。学年末試験が近づくにつれ、人々も自分の試験のことに意識が向いたのか、表立って彼らを非難する空気は薄れていった。
ようやく迎えた学年末試験当日、6月のうだるような暑さの中で生徒たちは大教室に詰め込まれ筆記試験を受けさせられた。試験は3日間に分けられて行われ、実技試験ありの教科の日は午後までかかった。
筆記試験は言うまでもなく、高学年の範囲まで学習を終えているアルタイルにとって実技試験は基礎中の基礎の内容だった。フリットウィック教授のパイナップルをタップダンスで机の端から端まで移動させる試験では、アルタイルのイメージした通りの動きを再現できたし、マクゴナガル教授のねずみを「嗅ぎ煙草入れ」に変身させる試験では、家にあった先々代の物と思われる宝石がちりばめられた紋章入りの嗅ぎたばこ入れに変えた。マクゴナガル教授は満足気に頷いていたのでそれなりの出来だったのだろう。魔法薬の実技では「忘れ薬」を作らされた。色・香りともに指定通りの出来で提出されたアルタイルの薬をスネイプ教授はじっとりと見ると「よろしい」と言って退出を促した。
すべての試験が終わると、教室のそこら中で歓声が上がった。数週間ぶりに勉強から解放された生徒たちは自由を満喫しようと我先にと廊下へ飛び出した。アルタイルも級友と談笑しながら陽の射す校庭へ出る。
学校の箒を借りてミニゲームをして過ごすとあっという間に日が暮れ、夕食の時間になった。夕食の席では相変わらずグリフィンドール席で無視されている3人が試験明けだというのに深刻な表情をしている。そして、もう1つおかしな点があった。広間の上座の真ん中、校長席が空席だった。そんな異常を横目にアルタイルはいつも通りに振る舞っていた。
夕食後、しばらくやめていた日課を再開しようと図書館へ本を借りに行った帰り、アルタイルは異変を感じた。
周囲に人がいないのだ。
ここ最近、クィレルの尾行はなくなっていたが、念のためアルタイルは人気の多い場所を通っていた。にもかかわらず、孤立状態になっているということは
「人払いの呪文……」
「その通り」
アルタイルは背後から不意打ちで撃たれた失神呪文になすすべもなく意識を飛ばした。
仕掛けられたのは 誰だ
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追記
学期末試験が迫っているので2,3週間程更新を控えます。クライマックス直前のいいところで申し訳ありませんorz