The transmigration of Eagle   作:fumei

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クリスマスその2

 キングズ・クロス駅に向かう列車に揺られながら、アルタイルは窓の外の風景を眺めていた。

 

「休暇中はどうするんだ」

ぼんやりと外を見ているアルタイルにドラコが話しかけた。

「別に……何も。例年通りだよ」

 

「例年通り、屋敷しもべと2人きりか?なら、僕の母上がご馳走したいらしいから一度くらい遊びに来てくれ」

 

「わかったよ……荷物置いたら顔出す」

 

「君はほぼ家族みたいなものだから、直接こっちに来ても構わないけどな」

 

 僕が構うんだよ、とアルタイルは内心で溢した。

 ルシウスも、ドラコの母親であるナルシッサもアルタイルに対して良くしてくれる。6年に及ぶ付き合いだ。関係も良好である。彼らにとって礼儀正しく落ち着いているアルタイルは息子の良い友人で、いままでに何度も食事をした。

 しかし、誰にも話したことはないが、アルタイルは幸せな家族像というものが苦手だった。前の世界での家族を思い出すからだ。

 暗く沈みそうになる思考を、アルタイルは頭を振って飛ばした。

 

 見事な雪景色と共に、ロンドンまでの時間はゆっくりと流れていく。

 

 

 

 

 

 キングズ・クロス駅では、ドラコの出迎えに来ていたマルフォイ夫妻に軽い挨拶と後日訪ねる旨を伝え、アルタイルは1人グリモールド・プレイスの屋敷へ向かった。

 

 歩くこと20分。数か月ぶりの我が家の前に着いた。アルタイルは扉をゆっくりと開け、温かい玄関に足を踏み入れた。

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 奥から走って出迎えてくれたクリーチャーにコートを預け、アルタイルはトランクを自室に置きに行った。約4か月ぶりだが館が懐かしく感じられる。すっかりホグワーツでの生活に馴染んでいたのだと実感した。

 

 この世界でのアルタイルの母親が亡くなったおよそ6年前に引っ越してきた当時、ブラック邸は埃が積もり、陰気な雰囲気が漂っていた。しかし、アルタイルが住み始めてからはクリーチャーが率先して掃除をしてくれたおかげで大分様変わりした。

 壁に飾られた屋敷しもべの首には布が被せられ、古くなった家具は処分された。代わりに先代が集めた歴史ある品々がきれいに並べられ、使い心地がよさそうなソファやテーブルが置かれた。暖炉の上などに飾られた写真立てがこの家の雰囲気をやわらかくしていた。

 今はクリスマスの時期なので、玄関ホールには大きなツリーがある。今年もクリーチャーが気合を入れて飾りつけをしたのだろう。金銀のモールが掛かり、妖精の羽の鱗粉が掛かった花飾りや溶けない氷の結晶のオーナメントがぶら下がっていた。

 

 

 

 

 

 次の日の24日、アルタイルはドラコと約束した通り、イングランド南部ウィルトシャー州にあるマルフォイ邸を訪れていた。広大な庭を通って、ドアのノッカーを鳴らすとドラコが出迎えた。

 

「遅かったじゃないか。待っていたんだぞ」ドラコはアルタイルを館に招き入れ、2人は応接間へ向かった。

 

 応接間では、マルフォイ夫妻が座って待っていた。アルタイルが部屋に入ると、夫妻は立ち上がって歓迎する。

 

「やぁ、いらっしゃいアルタイル君。今日はぜひゆっくりしていってくれ」

まずドラコの父親であるルシウスが歓迎の言葉をアルタイルにかけた。続けて、その妻のナルシッサが声をかける。

 

「今日はアルタイル君の誕生日でしょう?私、ケーキを焼いたの。後で一緒に食べましょうね」

 

 アルタイルは2人に挨拶を済ませるとドラコに連れられ、彼の部屋に通された。そこで「誕生日おめでとう」の言葉と共にプレゼントを渡された。毎年ドラコはクリスマスプレゼントと別に誕生日用の品を用意してくれる。律儀だな、と思いつつアルタイルは受け取った。

 

「アルが欲しい物ってあまりわからないから用意するのに困るんだよな」

アルタイルがプレゼントの包装を解くなか、ドラコが言った。確かに、アルタイルが何かに執着するということは滅多にない。

 包みを開けると、箱の中に細身のネクタイピンが納まっていた。台座はシルバーでできており、先端には楕円の黒水晶が埋まっている。作りは華奢に見えるがやはり高級品だからか意外と丈夫なのが触ってみて分かった。

 

「君に似合うと思って買ったんだ」ドラコが照れくさそうにしながら言う。アルタイルは「ありがとう。とても嬉しいよ」と返し、ちょうど身に着けていたネクタイに早速つけた。

 

 しばらく歓談しながら過ごしていると、部屋のドアがノックされ屋敷しもべが入ってきた。屋敷しもべは深々と頭を下げ「奥様が昼食にお呼びでございます」と告げた。

 

「もうそんな時間か」ドラコが先に立ち、アルタイルを促す。2人は食堂へ移動した。

 

 

 

 

 

 昼食後、アルタイルはドラコ、マルフォイ夫妻と共にお茶を飲みながら談話していた。内容はホグワーツでの生活や勉強、友人についてだ。

 

ドラコが授業の話をルシウスに話すのを聞いているとドラコがアルの方を向きながら言った。

「アルはいつも最初に課題を終わらせて先生に加点をもらっているんだ」

それを聞いたルシウスは感心したように声を漏らす。

 

「さすがだな。君はやはり大きな才能を秘めているようだ」ルシウスの大袈裟な褒め言葉に「恐縮です」とアルは返した。

 

 

 

 

 

 その後、ドラコとチェスに興じたり、アフタヌーン・ティーでナルシッサ手製のケーキをご馳走になったりすると外は暗くなり始めていた。

 

「本当に泊まっていかないのか?」

ドラコが再度引き留めるようにアルタイルに問いかけた。時刻は既に5時を過ぎている。早い家庭ではそろそろ夕飯を準備する時間だ。

 

「うん。屋敷しもべに今日は帰ると言ってしまったからね」

じゃあ、また休暇明けにと残念がるドラコに告げ、アルタイルは玄関まで見送りに来てくれたマルフォイ夫妻に別れの挨拶をするために向き直った。

 

「今日は食事に誘ってくださり、ありがとうございました」

 

「いいのよいいのよ。また来て頂戴ね」とナルシッサが言う。

次に会えるのはいつかしらと聞く彼女にアルタイルが答えあぐねていると、ルシウスが助け船を出す。

 

「そこまでにしてあげたまえ……シシー、アルタイル君が困っているじゃないか」

 

「だって、アルタイル君が来るともう1人息子ができたみたいで嬉しいんですもの!……そうだわ、ルシウス、今度の夏季休暇にパーティに招待するのはどうかしら?」

 

「サマーパーティーか……。社交界デビューには年齢的に早いかもしれないが、アルタイル君なら大丈夫か……どうする?参加するかね?」

ルシウスが尋ねる横ではナルシッサが「お願い」と言うようにじっとアルタイルを見ている。当然、断れるはずもなく、アルタイルは招待を受けた。

 

「では、時期になったら招待状を送るよ。たくさん人を呼ぶからね。楽しみにしてくれたまえ」

 

 そして、3人に別れを告げ、アルタイルは帰途についた。

 

 

 

 

 

 グリモールド・プレイスに帰ると、夕食の時間をとうに過ぎていた。アルタイルは夕食はまだだったが、マルフォイ邸でケーキなどを食べていたためクリーチャーにスープだけ求めた。

 

 

 

 

 

 その翌日、遅くに起き出したアルタイルはクリーチャーと2人きりだったがクリスマスを盛大に祝った。日頃の感謝をこめてクリーチャーにプレゼントをあげると、彼は感激の涙を流した。屋敷しもべ妖精は総じて感情表現が豊かである。

 

 

 

 

 

 2日後、ホグワーツに帰ってくると、寮の自分のベッドの周りがプレゼントで溢れていた。グリモールド・プレイスの屋敷はふくろうでも荷物が届かないから、ここに集められたのだろう。休み中に貰ったマルフォイ一家以外の人から贈られた数は多く、包みの山は隣のベッドまで侵略していた。

 中には話したこともない人物から送られてきたプレゼントや、明らかに妖しげな装飾がされたものなどがあった。それらを除けてもアルタイルから送った数を超えている。事前に送っていない人宛には後でギフトカードを送ろうと思いながら、アルタイルは開封作業を始めた。文具、書籍、チェスやゴブストーンセット、お菓子などの級友からのをはじめ、香水やネクタイなどの女生徒からの贈り物など全てを開封し終えると包装はかなりの量になった。それらをアルタイルは消失呪文で片付け、大広間へ向かう準備をする。時計の針は夕食の時間を指していた。

 




とりあえずクリスマス編はこれでおしまい。
わざわざ2話に分ける必要もないけど、日曜日の間に1話だけでも投稿したかったのでこのような形になりました。

ドラコのプレゼントは宝石をスリザリンカラーのペリドットやエメラルドにしようかまよったんですけど黒水晶になりました。果たしてこれは伏線になるのか、ならないのか……いつも通り考えなしで進めています、はい。

そして、ついにUAが1万、お気に入りが250を超えました。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

誤字、おかしな点などがあれば指摘お願いします。自分では何回か確認しているのですが、見落としがあるかもです。最近気づいたのはクリーチャーが女性だと思い込んでいたことです。男性でした。しかも屋敷しもべはみんな尊敬語と謙譲語が混じった変な話し方するものだと思い込んでいました。ウィンキーだけでした。

あと、感想気軽に送ってください。とても励みになります。

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