ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その8

○月◇日 040

 緊急の課題である「日刊ナザリックを作る」の製作に取り掛かる。

 これでナザリックの地下第4層までの秘密が判明するはずだ。

 あの糞野郎も、まさかこのような所から情報が漏れるとは思っていなかっただろうな。迂闊なやつだ。

 

 創刊号の付属品は、だいたい1m四方くらいの箱庭状になっており、これに2号以降の付属品を配置したり、ギミックを設置するという手順になっている。

 10号まで作ると第1層の完成で、11号~20号で第2層、21号~30号で3層と、さらなる箱庭を重ねていくという手順らしい。

 これはかなりの大仕事だ。

 

 〝重爆〟が、「誰か使用人に作らせては?」と言うが、こういうものは見落としがあった場合に、作った者でないと気付かないこともままあるものだし、他人に任せては墓穴を掘ることもあるだろう。人類種の存亡に関わる重要な情報収集作業でもあるのだから、それは避けねばならない。

 重要なことは人任せにしてはいけないものだと〝重爆〟には諭しておいた。

 

 決して遊びで作っているわけではないのだから。

 

 

 

○月▽日 041

 珍しいことにスレイン法国から使者が来た。

 ダンジョンの調査で忙しいというのに、まったく空気を読まないやつらだ。

 

 使者の用向きは、とりあえず時候の挨拶と言うことだが、実際は魔導国の動向を、表向きその同盟国ということになっている我々帝国から探りを入れる目的だったようだ。

 まあ至極当然、国家としては当たり前の行動だな。我々が法国でもそうするし、むしろ使者を送ってくるのが遅いくらいだ。

 竜王国への対応も遅いようだし、いつぞや帝スポの記事で見た「法国内紛で弱体化」というゴシップ記事もあながち出鱈目ではないのかと心配になったが、冗談交じりに記事を持ち出して牽制してみた所、「スルシャーナ神の元、我々は一枚板です」と自信満々に言っていたから大丈夫なのだろう。

 法国は、その国是からしても表向きには対魔導国包囲網の中心に座ってもらわなければいけない重要な国だからな。

 でも、確かあそこの神様6人いたよな? 5人はどこに行ったんだ?

 

追記

 法国の使者の手土産の中に、ピニスン農園のリンゴがあった。ピニスン農園とやらは、随分と手広く商売しているようだ。

 しかし、周辺国では俺がリンゴ好きとでも噂になってるのだろうか? いつもリンゴを貰っている気がする。

 別に嫌いじゃないが、特別好きなわけでもないのだが。

 

 

 

○月□日 042

 ロウネが送ってくれた「日刊ナザリックを作る」の到着分がやっと完成した。

 ナザリック地下大墳墓の地下第1層~第4層の詳細が明らかになったのだ!

 

 全体的に石造りの地下迷路になっており、転移の罠や隠し扉、一方通行の通路、落とし穴、回転床など、あの糞野郎の性格の悪さが存分に発揮された作りになっていると言っていい。

 しかし、こうした罠については「そこにある」という情報さえあれば回避は容易だ。多少罠の位置がズレていたり種類が変更されていても、全く情報が無い状態と比べれば、より被害を抑えることができるだろう。

 この情報は、我々があの糞野郎に対してアドバンテージを1つ手に入れたということに他ならない。

 

 攻略法は、第1層で「銀の鍵」と「青銅の鍵」を入手したら、第2層に降りて「熊の置物」と「蛙の置物」を入手し、この2つの置物を使って「金の鍵」を入手する。

 次に第4層に降りたら「金の鍵」で進んだ先にある「モンスター配備センター」の敵を排除して「ブルーリボン」を手に入れれば第4層の攻略完了だ。

 注意すべき敵は第1層の<マーフィーズゴースト>と、第2層と第4層に出る<ボーパルバニー>等のクリテカルヒットで首を刎ねにくる敵と、エナジードレインを使う<シェイド>、4階の「モンスター配備センター」に出る高レベルの敵パーティーだな。

 攻略は大変だが、こうして着々とナザリックの全容が暴かれようとしているとは、あの糞野郎も知るよしもあるまい。

 

 

 

×月○日 043

 これまで判明したナザリックの攻略についての会議が行われた。

 出席した参加者からは

 >これウィザードリーだよ!!

 >ジル君騙されないで!!

 との声も上がったが、ナザリックで直接危険に身を晒すロウネからもたらされた情報と、冷暖房の効いた部屋で親の脛を齧って生きる愚者の言葉では、どちらが信頼に値するかは明白ではないか。 そもそも皇帝に対してジル君呼ばわりなど許されるはずもないではない。即刻首を刎ねておくよう命じておいた。

 

 震えて眠れ。

 

 

 

×月×日 044

 最近は朝一で帝スポを読むのが日課になってしまっている。

 色々と頭を悩ます問題は山積みだし、このくらいの息抜きは許して欲しいものだ。

「影に潜む悪魔の目撃談」や「深夜の帝都を徘徊する銀色の巨大な蟲の恐怖」なんて眉唾な記事も多いが、本当にそんなものがいたらとっくに人的被害が出て大騒ぎになっているだろう。 まあ、笑って済ませることができる記事に罪は無い。

 

 今回の「ナザリック美女突撃リポート」のゲストはニューロニストという女性だった。

 なぜかいつも載ってるイラストが無いから、どんな女性かはわからないが、ナザリックの女ならさぞかし美しいのだろうし、目の保養に是非一度見てみたいものだ。

 珍しく今回の記者は殺されなかったようで、「最後にチュー」と書いてあるからキスまでされたみたいだし、随分とサービス心旺盛な女性だな。

 男としては少し羨ましいと感じなくも無いぞ。

 

 




2016/03/20 各話にナンバリングを追加しました。
2016/04/16 文章の加筆修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。

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