ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その1

○月○日 001

 私はバハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 後の世に名を残すことが約束された身として、何らかの記録を残すことも皇帝たる者の勤めだろうと考えて日記を付けてみることにする。

 

 周囲から生意気な金髪の孺子と呼ばれながらも、己が実力で家柄だけが取り得の無能な貴族共を討ち倒し、赤毛の親友と共に強大なバハルス帝国を打ち立てたというのはもちろん嘘だ。

 ナザリックに残ったロウネの代わりの秘書官が、「定番ネタは必要ですから」「絶対ウケますよ」と言っていたので言ってみた。何だ定番って?

 まあ、ウケなかったらあいつはクビだ。

 

 それはそれとして、父皇帝より受け継いだ帝国を、己が代でより盛況に、強大に育て上げ、大陸に覇を唱える大帝国へと導くことが使命と考えている。

 しかし、あの謎の魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンの出現により、今、我々人類は種の存続を賭けた未曾有の危機を迎えていると言って良いだろう。

 私は帝国のみならず、全人類種を糾合してこれに対処していかねばならないと思っている。そう、人類の明日を背負って。

 

 

 

○月×日 002

 あの悪夢のカッツェ平野の虐殺の戦後に、緊急時の相互連絡の為に設置された帝国王国間《メッセージ/伝言》ホットラインで、王国の第三王女から通話があった。

 通話第1号が嫌いな女1位とか何の嫌がらせだ?

 

「戦勝おめでとうございます」とか言うので、「嫌味か貴様ッツ!」と言ったらオーガにそっくりと言われた。

 本人は褒めたつもりらしいが、人をオーガ呼ばわりとか失礼にも程があるではないか。

 あの女は、今、王国で流行ってる物語の主人公の父親だとか言ってたが・・・それにしても何の用だったのだろう、その後も飼っているペットの犬がどうだとか、美味しいリンゴがどうだとか、取り留めの無いことを散々一方的に喋って一方的に切られてしまった。

 何かの探りだったのだろうか、あの女は油断できん。

 

 

 

○月△日 003

 今日は軍の訓練日だった。

 あの糞野郎(名前すら口にしたくない)相手には意味が無いかも知れないが、やはり軍は重要だ。決して疎かにすることはできない。

 訓示の後、開始の合図を掛けたが、兵士・騎士はおろかカーベイン将軍までガタガタと震えだしたのは困ったものだ。

 気合を入れて「訓練始メェェエエー!!」と合図したのだが、ちょっと威圧感を出しすぎただろうか?頃合いとは難しいものだ。

 

 訓練の後は気晴らしに三騎士を誘って、お忍びで城下に飲みに行った。

 肉料理の美味い店があると秘書官が言ってたので試しに入ったが、あれは本当に美味かった。秘書官には褒美を与えても良いかも知れないな。

 何の肉かと店の者に聞いたら「羊肉」だと言ってたが、突然〝激風〟のやつが泣き出したのには閉口した。あいつが泣き上戸だったとは知らなかったぞ。

 

 

 

○月◇日 004

 突然、魔導国の糞野郎からフールーダを魔法学院に入れろとか言ってきた。

 確かにやつらの駆使する魔法に比べたら、フールーダの魔法など足元にも及ばないのだろうが、それでもかつては帝国主席魔法使いだったのだぞ。それを「この程度じゃヒヨッコ学生と一緒だ」とでも言いたいのだろうか? 本当に嫌味なヤツだ。

 

 とんでもないと即座に断ったが、後で考えたら、いっそ俺も一緒に入学して机を並べてやろうかとも考えた。学生が逃げるからやめてくれと秘書官に泣いて止められたので思い留まったが、全く、思い通りにならないものだ。

 

 

 

○月▽日 005

 ナザリックにいるロウネから久しぶりに便りがあった。

 最初は怯えていたが、暮らして親しくしてみるとバケモノ達は非常に気さくで親切だと言う。そんな訳あるか。

 

 確かに、あんな化け物の巣窟に一人残された身であることには同情の気持ちもあるが、帝国の未来の為には、あの時はこうするのが最善の手だったのだ。

 しかし、あの蛙顔の悪魔が人を操る魔法を使うことはわかっていたが、こうも素早く露骨に手を打ってくるとは・・・ロウネはもう、すっかり洗脳されているのは間違いないと確信した。

 

 ロウネ曰く、ナザリックは「酒は美味いしネーチャンは綺麗だ」ということだが、あいつはもう死んじまったと思うことにしよう。

 

 

 

○月□日 006

 竜王国から援軍の要請があった。

 糞野郎包囲網形成の為にも援軍は吝かでないが、あそこの女王は嫌いだし、ビーストマンごときに苦戦する竜王国にその価値があるのかが問題だ。

 

 うちだって魔導国の双子の邪妖精のせいで近衛は壊滅だわ、自慢の四騎士の〝不動〟は殺されて三騎士になっちゃうわ、エラい被害を受けたし、オマケに王国との戦争じゃあ圧勝したって報告だったのに、なぜか一般騎士に謎の被害が出てるしで余裕なんぞこれっぽっちも無い。

 

だいたい、あそこはいつも法国が手助けしてたんじゃないのか?

 法国は何してる?

 だんだん腹が立ってきたぞ。

 援軍が欲しいのはこっちだ。

 

 




2016/03/20 各話にナンバリングを追加しました。
2016/04/15 一部気になってた文章の加筆訂正を行いました。
2016/05/01 文章の修正を行いました。

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