スキマ妖怪、邁進す 作:りーな
帰 っ て 来 た !
ほんとスミマセン(土下座)
ざっと九か月ぶり…ほんと遅い。
最新話は書き進めていますが、生存報告と繋ぎに超短編の幕間を投下。
規制ギリギリの文字数なので、内容とか気にせずにサクッと読んでいただけると幸いです。
今回はゆかりんいません。
剣を振る。
遅い。
――――剣を振る。
…まだ遅い。
――――――――剣を振る。
……まだまだ遅い。
一通りの型を終え、ブレインは息を吐いた。アンデッドである以上肉体的には不要な動作だが、生前に染み付いた動きはふとした拍子に出てきてしまうものらしい。
シャルティアの吸血行為によってナザリックの一員となったブレインは一度戦闘をさせられ、そのポテンシャルを測られた。その時模擬戦とはいえ真剣を用いて挑み、そして成す術なく惨敗した相手とその剣を思い出す。
凍河の支配者、コキュートス。
武技を使用したブレインの最高剣速が、コキュートスにとっての遊びレベルでしかないことに心を折られ。
同じ刀でも文字通り次元の違うコキュートスの装備に心を折られ。
そもそも剣士としての技量そのものに天と地ほどの差があることに心を折られた。
しかしブレインはめげない。気が付いたのである。自身が身を寄せるこの地は、超越者が雁首を揃えるナザリック。非常識こそが常識のこの地においては、基準を一般常識に求める事こそが最大の過ちである。
だから気のせいなのだ。ナザリック内の権力ヒエラルキーは言うに及ばず、実力ヒエラルキーにおいても最下層近辺にいることに思い至って目が若干潤んでいるのは気のせいなのだ。
頭上を仰ぎ、頂の高さを再確認する。目に映るのはナザリック第二階層・地下墳墓の灰色の天井だが、ブレインの網膜にはコキュートスの剣技が鮮明に焼き付いていた。
コキュートスの剣技は、完成されたものだけが許される、ある種の美を帯びている。主人に仇なす敵を屠る為の血腥い剣技だと言うのに、知性体として致命的に何かがズレてさえいなけれは心に必ず響く美しさを宿しているのだ。
ブレインが究極的に目指すのはその領域だ。大海をコップ一個で全て掻き出す方がまだ現実的な領域。
しかし不可能ではない。人であった頃ならば、人間には不可能だと匙を投げただろう。だが今のブレインは吸血鬼。人ではない。加えてこの地は、超越者が雁首を揃えるナザリック。目指すべき頂は幾つもあり、仰ぐべき先達はそれこそ無数。出来て当たり前の事の大抵が神域に至っていることを除き、全体的な規格外さと非常識さに目を瞑れば、上を目指すものにとって最高の環境だろう。事実、ブレインは本気でそう思っている。
…そういった連中の事を、俗に
人ならざるこの身に、そしてナザリックに身を置ける幸運に感謝しながら、ブレインは疲労もなく休息も不要な体を酷使する。
全ては、ブレインの中で初めて明確に形を持った、剣の最果てに至る為に。
何時の間にか吸血鬼になっていたブレインさんのおはなし。
本編でもさらりと流してます。
さすがに不憫だったし、ふと思いついたので書きなぐってみた。