スキマ妖怪、邁進す   作:りーな

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リアルがやっと落ち着いたので、久々に投稿します。
ほんとに申し訳ない…
またコツコツ進めていきます。


陽光聖典

アルベドと談笑をしていると、村人が転がり込むようにしてアインズのいる村長宅へ駆け込んできた。

曰く、戦士風の装いの集団が近づいてきているとのこと。

見返りも求めず手を貸すことを了承したアインズは、きっとお人好しと呼ばれる部類なのだろうと紫は思う。餓死しない程度に取ってしまえばいいのに、とも。

紫は日傘を差し、夕日の光を避けている。実はこの日傘、神器級装備のミラである。傘型で作ったせいか、普通にそっちの用途でも使えたのだ。

ちなみにウェリタスも扇子として普通に使えた。何故。つくづくよく分からない世界である。

鐘を鳴らして村人を村長宅に集め、その前方にデスナイトを配置する。アインズと村長は広場に並んで陣取り、アルベドはアインズの左斜め後ろ、紫は右斜め後ろに立つ。

やがて村の中央を走る道の向こうに、騎兵の姿が見え始める。数にして20騎の騎兵が隊列を乱すことなく粛々と広場へ入ってくる様子は、しっかりとした規律を感じさせた。

胸に共通の紋章を刻んでいるものの装備はまちまちで、なるほど確かに戦士という表現が似合う集団だ。傭兵と形容してもいいかもしれない。

見事な整列を維持している集団の中から、騎乗したまま1人の男が進み出てきた。集団の中で最も目を引く、屈強な男だ。

男の視線が村長の上を通り過ぎ、アルベドでしばし止まった後紫へと動き、そこでまたしばらく止まった。

真正面から視線を受け止めて尚平然と微笑んでいる紫をどう判断したのか視線を外し、最後にアインズの仮面に隠された顔へと鋭い視線を送った。

半ばアンデッドと化しているアインズにそんな視線が通じるはずもなく、動じないアインズの様子に満足したのか男は口を開いた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐するために王の御命令を受け、村々を回っているものである」

 

深みのある声が響き、村長の顔が驚愕に彩られる。同時に、村人達のざわめきも耳に入る。

紫はアインズが村長と何やら相談したり、ガゼフと名乗った男と会話している間、その話を一切耳に入れることなく彼らの分析をしていた。

ガゼフ、兵共々体格はいい。笑ってしまうほど弱かったあの騎士達とは確実に練度が違うだろう。王国戦士長という国の役職に就いている人間が、身分も定かではないアインズへわざわざ馬を降りて頭を下げている姿から察するに、人格的にも優れていると思われた。

ただ、ナザリックを脅かす存在にはなりえない。そう紫は判断した。

その時、大きく息を乱した騎兵が飛び込んできた。恐らくはガゼフ辺りが予め配置していた警戒要員だろう。

 

「戦士長!周囲に複数の人影。村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼフとアインズが横並びに佇み、村を包囲する集団を観察する。均等にある程度の間隔を空け、隣にモンスターを従えている相手は全員が統一された武装だ。恐らくは魔法詠唱者(マジック・キャスター)の集団。先程の騎士らとは、ガゼフら同様練度が違うと感じられた。

ただ、アインズと紫には気になる点があった。というのも、

 

「八雲さん」

「何かしら」

「あのモンスター、どう見てもユグドラシルのモンスターですよね」

「そうね。お察しの通り、炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だと思うわよ」

「魔法が同じなのか、はたまた見た目が同じなだけの別種なのか…」

「別種なら面倒ね」

 

意見を交換し合っている通り、彼らが従えているのはユグドラシルで出現するモンスターなのだ。低位の信仰系魔法で召喚することも出来る。ユグドラシル同様のものなのかは分からないが。

紫も信仰系のクラスを修めているため、召喚しようと思えば可能だ。

信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)を多く揃えることが可能で、かつ天使系のモンスターを好んで使役していることからガゼフがスレイン法国の兵だろうと語った。その狙いが自分の命だろう、とも。

結局、アインズは法国兵と予想される集団と戦うことは避け、しかし村人を守ることは名にかけて約束した。アインズにとっても紫にとってもその名は重い。

 

「…アインズさん。何であのアイテムをわざわざ渡したのかしら?」

 

村から法国兵を引き剥がす目的で囮として派手に脱出したガゼフ一行を見送って、紫はアインズに問いかけた。正直、割に合わない。たとえ500円ガチャのハズレアイテムで大量にあったとしても、ユグドラシルのアイテムは既に手に入らないものとなっているのだから。極力節約すべきだろう。

 

「…さあ、どうしてなんでしょう。死を覚悟して尚進む、自分とは違う強い意志に憧れを感じたからかも…しれませんね」

 

『アインズ・ウール・ゴウン』の名を自ら背負ったのだから、アインズは強い意志は持っていると紫は考えている。しっかりとナザリックの最高支配者も務めているのに、自信が無いのか何なのか、アインズはどうも自己評価がとことん低い。

アインズだって、ナザリックの為には形振り構わないだろう。ガゼフも同じだ。アインズにとってのナザリックが、彼にとっての王国であり、その民達であるだけで。

伏兵を探させるようアインズがアルベドに命じているのを聞き流しながら、紫はいつもの笑みを消した無表情で、ガゼフの向かった方向を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろですね、準備はいいですか?」

「いつでもどうぞ」

 

村人を防御魔法を掛けた大きめの家屋の中へ詰め込み、待つこと暫し。何かを感じ取ったアインズの言葉に、紫は軽く返す。

先程ガゼフに持たせていたアイテムは、居場所を入れ替える為のアイテムだ。アインズは自分達3人とガゼフ達を入れ替えるよう設定して渡していた。

視界が一瞬ブラックアウトし、建物の立ち並ぶ村から荒野へと切り替わる。

まず目に映ったのは、正面にいる法国兵達。顔のみならず、全身の中に肌の露出した部位はない。その中で、1人だけ顔を晒しているのが統一された装いの中で目立つ。隣に上空で群れている雑多な天使とは別の天使を待機させているのも要因だろう。

格好が違うその男は、アインズ達を警戒の色を浮かべながら観察していた。頬には決して浅くはなかったと思われる傷跡があり、瞳は奇妙なほどに硬質な輝きを有している。恐らくは指揮官。

ガゼフと交代するように現れたからか未だに包囲の形を崩していなかった天使達が下がり、法国兵らの壁になる。

それを見届け、アインズが一歩前に出る。

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと親しみを込めて呼んでいただければ幸いです。そして後ろにいるのがアルベドと八雲紫。まずは皆さんと取引したいことがあるので、少しお時間をもらえないでしょうか?」

 

相手の指揮官らしき男が顎をしゃくって続きを促した。

 

「素晴らしい。…お時間をいただけるようでありがたい」

 

そこから始まったアインズと相手の隊長格の男との話し合いに耳を傾けながら、紫は法国兵の観察を続ける。

魔法詠唱者(マジック・キャスター)らしい布の服装に身を包み、スリング弾を放つための装備を腕に付けている。服に低位階の防御魔法が掛かっているようだが、この場にいるナザリックの面々にとっては意識する必要すら無いようなものだ。ガゼフの言が真実ならば、彼らはこの場に非合法にも程がある特殊作戦の為に来ているのだろうから、まず間違いなく最上級の装備を携えているのだろう。その予想が紫の涙を誘う。

先の騎士といい目の前の法国兵といい、あまりにも弱すぎやしないだろうか。それともこれがこの世界での普通なのか。若干の呆れと哀れみと共に、紫はそう思う。

最早やる気を完全に失った紫は、傍観者に徹することにした。たとえ魔法職特化型で、尚且つロールプレイありきの遊び(・・)だらけのビルドであるアインズだとしても、負ける要素はほぼ無い。

無論、何かあったなら即座に割って入るが。

 

目撃者は殺すという信条なのか何なのか(叫び方からして単に恐怖に駆られただけだろうが)、天使2体がアインズに突撃してきた。

抵抗もせず反応もせずに貫かれたアインズに安心したのか、隊長の男が如何にもホッとしましたと言いたげな声で嘲る。

が、悲しいかな。躱せなかったのではなく、単に食らっても問題無いので躱さなかっただけである。

 

この後、彼らは「絶望」とか「無駄」とかの言葉の意味を身を以て知る事になるのだが、その辺りは紫は放心状態で思考の内にほぼ留めてすらいなかった。身も蓋も無い言い方をすれば、飽きたのである。

ただ余りにも哀れな姿に、ほんのちょっとだけ紫の目頭が熱くなったとだけ言っておこう。




・分析ゆかりん
陽光聖典の装備を見て、ちょっと泣けてきたゆかりん。
現地の基準から見ると良いものなのだけれど…

・放心ゆかりん
陽光聖典への興味はその程度。
ゆかりん強いからね仕方ないね。
陽光聖典の鏖殺はばっさりカット。グダグダしそうだったので。

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