規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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家に帰るその前に

 父さんを連れてくるため、街に戻ることにした。

 以前に作った『転移のドア』があれば一瞬で移動できるのだが、ローリアには秘密にしておいたほうがいいと思った。

 オレたちが街に戻ると、聖騎士たちに囲まれた。

 

「ご無事でしたか! ローリアさま!」

「死霊都市はいかがでしたか?!」

「眠り病の原因は?!」

「えっ、えっ、ええっとっすね……」

 

 どこまで言ってよいのかわからないのだろう。

 ローリアは、視線でオレに助けを求めた。

 

「調査をしている途中だが、忘れ物に気づいてな。取りに戻ってきていたところだ」

「なるほど……」

「そういうことなら、オレは宿に寄らせてもらうが」

「その口振りですと、死霊都市にはまた向かわれる、ということですか?」

「ああ」

 

「ローリアさまは、いかがなさいますか?」

「じ、自分は……最後まで見届けたいっす!

 神聖教会の神官として、見届けないといけないと思ったっす!」

「ふぅむ……」

 

 護衛の聖騎士の団長が、アゴをさすってうなった。

 

「そういうことなら、我らも同行してよろしいですかな?」

「えっ?」

 

「レイン殿のお強さは、身に染みて感じ入りました。

 だからこそ、思うのです」

 

 団長は、一拍の間をおいて言った。

 

「あれほどの規格外れの力を持ったレイン殿が、たかが忘れ物で引き返さなくてはならない存在とはなんなのか――」

 

 なかなか鋭い団長だった。

 

「それを考えますと、ローリア様がそのような存在のところへ行くのに、我らが残っていてよいとは思えませんでした」

 

 無難な言い訳をしたつもりなのに、墓穴のような結果になってしまった。

 オレへの評価が、そこまで高くなっていたとは。

 

「忘れ物をしただけでそこまで言われるとか、アタシのご主人さまはすごいぜなぁ……♥」

「うん………♥」

「まぁ、レインだしな……」

 

 逆にカレンたちは、照れたり誇らしげだったりしていた。

 

「いかがでしょうか? レイン殿。

 ローリア様の盾になることはあれ、レイン殿の邪魔はしないよう心がけますが。

 レイン殿に劣るとはいえ、腕に覚えもございます」

 

 腕に覚え……?

 オレが疑問符を浮かべていると、ミーユが小声で耳打ちしてきた。

 

(一応言っておくけどな、聖騎士って強いんだぞ?

 中級聖騎士程度でも、

 平均的な王国騎士なら十人でかからないいけないイノシシの魔物ともひとりで戦えたり、

 並の騎士なら百人いても手をだしちゃいけない特殊指定危険生物である大王スクイッドでも、

 三十人で倒せたりするんだ)

 

 ミーユ的には、それはすごいことらしい。

 でもやはり、オレにはピンとこなかった。

 

 イノシシの魔物→十歳のころにはひとりで倒していた。

 大王スクイッド→軽い魔法で一発だった。

 

 っていう過去があるので。

 

「しかし人である以上、個人差があるのも事実――ではございます」

 

 いつも眠たげな瞳をしているリンが、いつも通り眠たげな目のまま槍を構えた。

 

「わたくしが軽い『テスト』をしておきます。

 レイン様とマリナ様は、『忘れ物』を取りにいってください」

 

「そういうことなら、アタシもテストに参加してやるぜなっ!」

 

 真面目なリンはもちろんのこと、相手を『弱そう』と見たカレンも叫んだ。

 基本的にカレンという子は、相手が弱いと思っていると強い。

 

「でしたらミリリも、しますです……にゃあ」

「テストって、どんな感じのことをするの?」

 

 危ないことだと、リンやミリリが心配になる。

 

「大したことではございません」

 

 リンは事務的で抑揚のない声で言うと、ひとりの聖騎士を見やった。

 並んでいる中では、もっとも若い聖騎士だ。

 

「ではあなた、こちらへ」

「レイン殿であればともかく、部下の奴隷が相手とは……」

「そのような発言は、勝てる相手に限定したほうがよろしいですよ?」

 

 リンは先っぽが、たんぽぽの綿毛のように白い丸で覆われている訓練用の槍を構えた。

 それは挑発のようでいて、挑発ではない言葉。

 真面目でクールで事務的なリンは、仕事の上で必要なことや重要なことは端的に述べるところがある。

 

 しかし相手からすると、それは挑発だったろう。

 聖騎士は、面白くなさそうな顔で剣を構えた。

 次の瞬間。

 

 ドンッ!

 

 リンの槍が聖騎士の喉笛に刺さった。

 聖騎士は、あえなく吹っ飛び街の塀にぶつかった。

 

「不合格――ですね」

 

 リンの得意の瞬殺芸だ。

 リンは人間の隙の有無を、光る壁という形で見ることができる。

 槍一本が刺さる範囲でも見えさえすれば、相手を一瞬で倒すことができる。

 

「グラーフは、聖騎士になってからは日が浅く、我らの中では最弱……」

「それでも聖騎士として任命されるだけの力は持っている……」

 

「それがたったの一撃で……。

 いや、そもそも、グラーフが最弱と見抜ける眼力……」

 

「レイン殿は、従えている奴隷ですら常識外れということか……」

 

 聖騎士たちは戦慄していた。

 

「しかしグラーフは、それでもこの中では最弱。

 『テスト』は、我ら全員にやっていただきたい」

 

「元よりそのつもりです」

 

 リンは再び槍を構えた。

 

「大丈夫そうだな」

 

 オレはそう判断し、マリナといっしょに宿を探した。

 集団で歩いていたときも目立ったが、ふたりで歩いていても目立つ。

 マリナが目立つのはもちろんだけど、オレもなかなかに目立つ。

 どうやらオレも、かなりの美形であるらしいのだ。

 

「ふたりきり………♪」

 

 マリナはマリナでうれしげに、オレの腕に腕を絡ます。

 かわいい。

 

 そしてこんなにかわいいと、なにもしないわけにはいかない。

 聖騎士が20人近くいることを思えば、テストに時間もかかるだろう。

 人目が途絶えた一瞬の隙をついて、路地裏に移動した。

 マリナを壁に押し当てて、ちゅっ………とかわいいキスをする。

 

(むにゅむにゅむにゅ)

 

 ついでにおっぱいも揉んだ。

 

「えっち………♪」

 

 マリナはちょっぴりはにかみながらも、うれしそうに背を向けた。

 壁に手をつけお尻を突きだす。

 

 誘うかのように、小さく振ってきたりもした。

 いただきます。

 

 それからオレは適当な宿を借りた。

 アイテムボックスのスキルを使ってドアをだし、家へと戻った。




以前にも宣伝しましたが、この作品の三巻がいよいよ明日発売です!!
よろしくお願いします!!

http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-75172-7.html

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