規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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死霊都市探索編
自分たちの立ち位置を確認するレインさんたち。


 怪しい屋敷を越えたオレたちは、目的の街についた。

 大きな城壁に囲まれた、とても大きな街である。

 

「「待て!」」

 

 衛兵ふたりに呼び止められた。

 

「「身分証をだしてもらおう!」」

 

 大きい街なら当然とも言える検問だった。

 

「身分証? わたしを見ても、そのように言うのか?」

 

 リリーナが前にでた。

 魔竜殺しの七英雄として、教科書にも載っているリリーナだ。

 この街を救ったこともあるらしいし、常識で言えば顔パスだ。

 

「ハハハハ。かわいいねぇ、お嬢ちゃん。

 でもおじさんは今、こっちのお兄さんとお話しているんだ。

 悪いけど、後ろで待っててくれるかなぁ?」

 

 しかしロリ化している今となっては、ただのかわいい女の子だ。

 

「なっ……?! 

 いや、そうか。待っていろ。今身分証を……む?!」

 

 懐に手を入れたリリーナが慌てる。

 体のあちこちをさわりまくるが、身分証はでてこない。

 

「まさか自宅に、置き忘れを……?!」

 

「………。」

 

 マリナがリリーナを抱きあげて、列の後ろに移動した。

 

「はぐうぅ……」

 

 格好をつけそこなったリリーナは、しょんぼりとうなだれた。

 エルフの耳も、しおっと垂れる。

 かわいい。

 

「身分証って、学生証でもオーケィですか?」

 

 オレは学生証を取りだした。

 

「それはどこの学園かにもよるが……レイボルト魔法学園?!」

 

「三公のグリフォンベール家のご子息がお通いなされることがあれば、

 七英雄のリリーナ様が講師を務めることもあるという、

 国内最高峰がひとつの魔法学園か?!」

 

「しかもこの学生証は、ゴールドメタルがあしらわれている!

 成績トップクラスの優秀者だぞっ?!」

 

 衛兵さんは、ふたりそろって驚いていた。

 東大主席を見ているかのような反応だ。

 マリナやミリリに、カレンも身分証明書を見せる。

 

「こちらも成績優秀者?!

 で……ふたりはその召使いか……」

 

 衛兵さんは、マリナの学生証を見ても驚く。

 そして視線が、ミーユにいった。

 ミーユのことは知らないが、オレとマリナの連れであるなら、きっとすごいに違いない、と緊張している眼差しだ。

 

「…………」

 

 ミーユは、決まり悪げに視線を逸らした。

 しかし観念したかのように、ため息をつくと学生証を見せた。

 

「やはり成績優秀者で、名前は…………ミーユ=ララ=グリフォンベール?!?!?!?!」

「三公さまのご子息っ?!」

「「これは失礼をいたしましたあぁーーーーーーーー!!!!!」」

 

 衛兵はふたりは、武器を捨てて土下座した。

 

「ええっと……そんな、土下座とかしなくてもいいんで……」

 

 ミーユはとても悪いことをしてしまったかのような顔で、ふたりから目を逸らした。

 

 これは後日知ったことだが、『グリフォンベール』は、雷名でありながら悪名でもある。

 原因は、主にダンソンである。

 ダンソンがあれこれやっていたせいで、『とてもうるさくてヤバい権力者』というイメージがついた。

 実際には失脚しているわけだが、テレビも新聞もない世界だ。

 細かい話が伝わるまでには、かなりの時間がかかるのだろう。

 新しいリーダーのリチャードがまともかどうかも、ここの人にはわからないだろうし。

 

 そして一昔前のミーユも、まともな人間ではなかった。

 親に理不尽な虐げを受けていた過去から、周囲にも理不尽をバラまいていた。

 だからこういう対応を見ると、過去の自分を思い出して恐縮してしまう。

 まぁそれで恐縮するあたり、今はいい子になっているとも言えるけど。

 

「しかしグリフォンベール家のおかたが、護衛もつけずに……?」

「それについては、こういうことです」

 

 オレは空に右手をかざした。

 

「ファイアーボール」

 

 ドゥンッ!

 空に登ったファイアーボールが、雲に届いた。

 ボワッと雲に穴があき、雲の隙間から空が見えた。

 

「魔法を、空まで……?」

「しかも無詠唱で……?」

 

「つまり半端な護衛より、オレのほうが強いっていうわけです」

 

「「なるほど……」」

 

 ふたりは納得してくれた。

 オレたちは、街の中に入る。

 

「わたしが尊敬されたかったのに……!」

 

 リリーナは、ひとり悔しがっていた。

 忘れないように言っておきますが、彼女は二八〇歳です。


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