規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
マリナを味わい家に帰ると、客間で父さんが話を受けてた。
相手はすこしくたびれた服を着たおっさんだ。辺鄙な村の村長といった風貌である。
「と……言うわけなのでございます」
「それは確かに、困り者じゃのぅ……」
「どうしたんですか? 父さん」
「おお、レインか」
「…………」
オレが会話に割って入ると、おっさんは露骨に顔をしかめた。
「悪いけど、坊や。今おじさんは、ちょっと大切な話をしてるんだ」
「気にすることはないじゃろう。
ふたりは確かに子どもじゃが、
少なくともワシは、ふたりに年不相応な『知』を感じることがしばしばある。
魂だけが、奇妙に成熟しているかのような――と言えば、わかりやすいかのぅ」
オレもマリナも、地球からの転生人だ。
その説明は、完璧にあってる。
ただオレは、地球からの転生できていることを話していない。
隠しているわけではないのだが、わざわざ言うこともないと思っているからだ。
なのにこんなピンポイントで当ててくるとか……。
ウチの父さん、マジですげぇ。
「まぁ、領主さまが、そうおっしゃるのであれば……」
おっさんは、不承不承にうなずいた。話を一からしてくれる。
一通り聞いたオレは、簡単にまとめた。
「流行り病が村にきた。
いつもなんとかしてくれる治癒魔法師に依頼をしたけど、今回は外せない用事があって、時間がかかる…………ということですか」
「あっ、ああ」
おっさんは、ハトが豆鉄砲を食らったような顔でうなずくと言った。
「坊やは……いったいいくつなんだい?」
「今年でちょうど一四歳ですかね」
おっさんは、感嘆のため息をもらした。
今のオレ、
「ちなみにその病気ですが、どのような症状がでるのですか?」
「それは……、恐ろしい病です…………」
おっさんは、深刻な顔をして語った。
「水のような下痢が起こったかと思ったら、顔は青ざめ体は痩せて、最後は干からびたようになって死に至ります」
「なるほど……」
「治癒魔法士であるリリーナさまが、病気であると断定するまでは、呪いであるとさえ思われておりました」
確かに知らない人が見たら、そう思うのも無理はない。
しかしオレには、その症状をもたらす病気に覚えがあった。
「その症状…………下痢が一番最初ですよね?」
「はっ……はい」
「しかもほかの症状は、下痢が長く続いたあとに、初めてでてくる」
「おっしゃる通りでございます…………」
おっさんは、唖然と目を見開いていた。
「一部を聞いただけでそこまで見通してしまうとは……。
伝説の、賢者さまのごとしですな……」
くすぐったいほどの褒め言葉だったが、オレは軽く流して言った。
「その病気なら、なんとかなるかもしれません」
「治療法まで、お分かりになられるのですかっ?!」
「治癒魔法士さんがくるまでの延命でしたら、確実にできると思います」
「えっ……?」
「はい…………?」
「なん…………じゃと?」
メイさんとおっさん、父さんの三人が同時に驚く。
「………。」
マリナにしても、目を丸く見開いて驚いていた。
「この領の近くに海はありますか? 父さん」
「西に80キロスほどゆけば、大きな砂浜があるのぅ」
父さんは、アゴをさすってつぶやいた。
ちなみにキロスは、この国での単位だ。1キロスで1キロと思えば、だいたいあってる。
「危険なモンスターも何種かでるが……ワシとおヌシなら大丈夫であろうな」
「わかりました。すぐにでましょう」
「海でなければならぬのか?」
「大量の塩があるなら、海でなくとも構いませんが」
「ある程度ならこの屋敷でも用意はできるが、大量の――となると難しいの」
「それならやっぱり、海がいいです」
「それではすぐにでるとしようか」
「いっ、いきなりでございますか?!」
戸惑うおっさんに、オレは言った。
「村の人たちは、のんびりしていても構わないぐらいに元気なのですか?」
「レリクスさまと似てまいりましたね……」
メイドのメイさんが、ハアッとため息をついた。
なんてこった。
この非常識な父さんと、いっしょくたにされてしまったぜ。
感謝も尊敬もしてるけど、それとこれとは別問題だ。
だが父さんは、オレの命の恩人だ。その父さんの領民が困っているのだ。
なにもしないわけにはいかない。
「それでは行くかの」
「はい」
(こくっ。)
簡素な旅支度を終えた父さんが言うと、オレとマリナはうなずいた。
おっさんが、馬ぐらいの大きさをした鳥を引いてやってくる。
「それではせめて、これをお使いください。わたしがここにくるのに使った、巨大鳥のククルーです」
それはこの世界で馬の代わりに使われる、乗り物用の鳥である。
地球の馬がそうであったように、急ぐ時にはコイツを使うのが一般的だ。
速さなんかは馬やドラゴンに劣るものの、飼育がしやすく人気が高い。
『劣る』と言っても、自転車ぐらいのスピードはでるしね。
だが父さんは、ナチュラルに首をかしげた。
「急ぐ旅なら、いらんじゃろう……?」
「えっ?」
「いや……じゃから、急ぐ旅なら、ククルーではなく、二本の足で進むべきじゃろう?」
父さんは、ガチの本気で言っていた。
車に乗ってでかけようとしたら、自転車を進められた人みたいにきょとんとしていた。
実際この父さんであれば、馬や竜より速く走れると思う。
だからって、それが常識のように言われても普通の人は困ると思う。
さすが父さんである。
「ワシは、先に行っておるでの」
とだけ言い、タンと地を蹴り走りだす。
そのスピードは、F1――は言い過ぎにしても、自動車ぐらいは余裕ででていた。
日本にいたら、速度違反で捕まりそうなレベルではある。
UTMO。
ウチの父さん、マジでおかしい。
「さすがは、魔竜殺しの伝説を持つ領主さまですな……」
おっさんは、感嘆してつぶやいた。オレとマリナのほうを見て言う。
「ぼっちゃまとお嬢さまは、いかがなされますか?」
「乗って行ってもいいんですけど…………試してみたい魔法がありますんで」
それはついさっき閃いた、空を飛ぶ方法である。
「その若さで、魔法を……?!」
おっさんは、目を丸くしてオレを見た。
このおっさん、この一日で一生分は驚いている気がする。
オレは視線を受けつつも、青銀の板を持ってきた。
剣や鎧に使われることの多い、頑丈な金属だ。
かなり大きく、オレの身長ぐらいはある。
「サンダーソード!」
魔法剣を発動させて、すこし大きなビート板ぐらいに裂いた。
板に乗ったオレは、マリナを抱き寄せ抱きあげる。いわゆるひとつの、お姫さま抱っこ。
(………!)
オレの意図を理解していないマリナは、驚いたように目を見開いた。
しかしすぐさま気を取り直し、なでられた猫のように(きゅーん?)と目を細め、オレのほっぺに頬ずりしてきた。
かわいい。
でもオレがしてほしいのは、それじゃない。
オレはマリナに耳打ちし、してほしいことを頼んだ。
「うん。」
マリナは小さくうなずくと、右手をヒュンッと小さく振るった。その一瞬で、道が軽く凍りつく。
氷の道の完成だ。
幅は一メートル程度だが、長さは三〇メートル近くある。
先っぽのほうは、スキーのジャンプ台のように反りあがっていた。
「むっ、無詠唱で、この規模の……?!」
「マリナは、父さんが認めた天才なので」
オレは一言そう言うと、自身の魔力を溜めていく。
雷とも炎とも言える雷炎の力を溜めて、足場の板に移してく。
「あと治療には、大量の水が必要となります。それも用意しておいてください」
「はっ、はいっ!」
おっさんにそれだけを言って、紅と黄色の混ざったイカヅチを、バチバチと鳴らし――。
「ゴオッ!!」
一息に発射。
超加速したボードは、氷の道を超高速で突き進む。
反りあがった氷の道の先端へと突き進み――。
大ジャンプッ!!
気持ちいい風を全身に浴びて、マリナといっしょに着地する。
蛇行気味にゆれ動き、炎の出力をわずかに落とす。
ほんのわずかに減速し、体勢を整えて再加速。
ギュオンッと空気の裂く音が聞こえ、白い風となって走る。
陸上サーフィン、フゥー!!
(………♪)
マリナも気持ちいいらしい。一見すると無表情だがほんのり頬を紅潮させて、地面の先を指差している。
マリナが指を差すと、茶色の地面は順々に凍った。
ヤバいな、これ。
本当に気持ちいい。
バイクに乗っているみたいな気分だ。
風になっていると、父さんの背中が見えてきた。
オレは出力をあげて、一気に追いつく。
「それは……なんなのじゃ?」
「さっき作った乗り物です」
「さっき作った…………じゃと?」
「父さんみたいに跳べないかと思って考えてみたら、閃いたので作ってみました」
「作ってみましたの一言で、そのような乗り物を作ってしまえるというのか……」
父さんは、あきれと感嘆が混ざったような目でオレを見つめた。
その目は〈急ぐ旅なら、ククルルではなく二本の足で進むべきじゃろう?〉と言った父さんを見つめる村のおっさんを彷彿とさせた。
え……。
待って。
これはまだ、セーフだよね?
そんな非常識じゃないよね?
おかしいかどうかで言ったら、こんなマシンの隣を普通に走ってる父さんのほうがおかしいよね?!
っていうかホント、なんで普通に並走してるのっ?!
時速で言うと、八〇キロはでてるんだけどっ?!
オレは言い訳や驚きをくり返しながら、父さんと並んで砂浜へ向かった。
次はあしたの午後八時ぐらいに投稿します。
あとは感想もらえるとうれしいです!