規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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次はあしたの午後八時ぐらいに投稿します。


レイン十四歳。村のために立ちあがる。

 

 マリナを味わい家に帰ると、客間で父さんが話を受けてた。

 相手はすこしくたびれた服を着たおっさんだ。辺鄙な村の村長といった風貌である。

 

「と……言うわけなのでございます」

「それは確かに、困り者じゃのぅ……」

「どうしたんですか? 父さん」

「おお、レインか」

「…………」

 

 オレが会話に割って入ると、おっさんは露骨に顔をしかめた。 

 

「悪いけど、坊や。今おじさんは、ちょっと大切な話をしてるんだ」

「気にすることはないじゃろう。

 ふたりは確かに子どもじゃが、(わっぱ)ではない。

 少なくともワシは、ふたりに年不相応な『知』を感じることがしばしばある。

 魂だけが、奇妙に成熟しているかのような――と言えば、わかりやすいかのぅ」

 

 オレもマリナも、地球からの転生人だ。

 その説明は、完璧にあってる。

 

 ただオレは、地球からの転生できていることを話していない。

 隠しているわけではないのだが、わざわざ言うこともないと思っているからだ。

 なのにこんなピンポイントで当ててくるとか……。

 

 ウチの父さん、マジですげぇ。

 

「まぁ、領主さまが、そうおっしゃるのであれば……」

 

 おっさんは、不承不承にうなずいた。話を一からしてくれる。

 一通り聞いたオレは、簡単にまとめた。

 

「流行り病が村にきた。

 いつもなんとかしてくれる治癒魔法師に依頼をしたけど、今回は外せない用事があって、時間がかかる…………ということですか」

「あっ、ああ」

 

 おっさんは、ハトが豆鉄砲を食らったような顔でうなずくと言った。

 

「坊やは……いったいいくつなんだい?」

「今年でちょうど一四歳ですかね」

 

 おっさんは、感嘆のため息をもらした。

 今のオレ、中学生ぐらい(一四歳)としてはかなりしっかりとした受け答えしたもんな。

 

「ちなみにその病気ですが、どのような症状がでるのですか?」

 

「それは……、恐ろしい病です…………」

 

 おっさんは、深刻な顔をして語った。

 

「水のような下痢が起こったかと思ったら、顔は青ざめ体は痩せて、最後は干からびたようになって死に至ります」

 

「なるほど……」

 

「治癒魔法士であるリリーナさまが、病気であると断定するまでは、呪いであるとさえ思われておりました」

 

 確かに知らない人が見たら、そう思うのも無理はない。

 しかしオレには、その症状をもたらす病気に覚えがあった。

 

「その症状…………下痢が一番最初ですよね?」

「はっ……はい」

「しかもほかの症状は、下痢が長く続いたあとに、初めてでてくる」

「おっしゃる通りでございます…………」

 

 おっさんは、唖然と目を見開いていた。

 

「一部を聞いただけでそこまで見通してしまうとは……。

 伝説の、賢者さまのごとしですな……」

 

 くすぐったいほどの褒め言葉だったが、オレは軽く流して言った。

 

「その病気なら、なんとかなるかもしれません」

「治療法まで、お分かりになられるのですかっ?!」

 

「治癒魔法士さんがくるまでの延命でしたら、確実にできると思います」

 

「えっ……?」

「はい…………?」

「なん…………じゃと?」

 

 メイさんとおっさん、父さんの三人が同時に驚く。

 

「………。」

 

 マリナにしても、目を丸く見開いて驚いていた。

 

「この領の近くに海はありますか? 父さん」

「西に80キロスほどゆけば、大きな砂浜があるのぅ」

 

 父さんは、アゴをさすってつぶやいた。

 ちなみにキロスは、この国での単位だ。1キロスで1キロと思えば、だいたいあってる。

 

「危険なモンスターも何種かでるが……ワシとおヌシなら大丈夫であろうな」

「わかりました。すぐにでましょう」

 

「海でなければならぬのか?」

「大量の塩があるなら、海でなくとも構いませんが」

 

「ある程度ならこの屋敷でも用意はできるが、大量の――となると難しいの」

「それならやっぱり、海がいいです」

「それではすぐにでるとしようか」

「いっ、いきなりでございますか?!」

 

 戸惑うおっさんに、オレは言った。

 

「村の人たちは、のんびりしていても構わないぐらいに元気なのですか?」

「レリクスさまと似てまいりましたね……」

 

 メイドのメイさんが、ハアッとため息をついた。

 

 なんてこった。

 この非常識な父さんと、いっしょくたにされてしまったぜ。

 感謝も尊敬もしてるけど、それとこれとは別問題だ。

 

 だが父さんは、オレの命の恩人だ。その父さんの領民が困っているのだ。

 なにもしないわけにはいかない。

 

「それでは行くかの」

「はい」

(こくっ。)

 

 簡素な旅支度を終えた父さんが言うと、オレとマリナはうなずいた。

 おっさんが、馬ぐらいの大きさをした鳥を引いてやってくる。

 

「それではせめて、これをお使いください。わたしがここにくるのに使った、巨大鳥のククルーです」

 

 それはこの世界で馬の代わりに使われる、乗り物用の鳥である。

 地球の馬がそうであったように、急ぐ時にはコイツを使うのが一般的だ。

 

 速さなんかは馬やドラゴンに劣るものの、飼育がしやすく人気が高い。

 『劣る』と言っても、自転車ぐらいのスピードはでるしね。

 だが父さんは、ナチュラルに首をかしげた。

 

「急ぐ旅なら、いらんじゃろう……?」

「えっ?」

「いや……じゃから、急ぐ旅なら、ククルーではなく、二本の足で進むべきじゃろう?」

 

 父さんは、ガチの本気で言っていた。

 車に乗ってでかけようとしたら、自転車を進められた人みたいにきょとんとしていた。

 

 実際この父さんであれば、馬や竜より速く走れると思う。

 だからって、それが常識のように言われても普通の人は困ると思う。

 さすが父さんである。

 

「ワシは、先に行っておるでの」

 

 とだけ言い、タンと地を蹴り走りだす。

 そのスピードは、F1――は言い過ぎにしても、自動車ぐらいは余裕ででていた。

 日本にいたら、速度違反で捕まりそうなレベルではある。

 

 UTMO。

 ウチの父さん、マジでおかしい。

 

「さすがは、魔竜殺しの伝説を持つ領主さまですな……」

 

 おっさんは、感嘆してつぶやいた。オレとマリナのほうを見て言う。

 

「ぼっちゃまとお嬢さまは、いかがなされますか?」

「乗って行ってもいいんですけど…………試してみたい魔法がありますんで」

 

 それはついさっき閃いた、空を飛ぶ方法である。

 

「その若さで、魔法を……?!」

 

 おっさんは、目を丸くしてオレを見た。

 このおっさん、この一日で一生分は驚いている気がする。

 

 オレは視線を受けつつも、青銀の板を持ってきた。

 剣や鎧に使われることの多い、頑丈な金属だ。

 かなり大きく、オレの身長ぐらいはある。

 

「サンダーソード!」

 

 魔法剣を発動させて、すこし大きなビート板ぐらいに裂いた。

 板に乗ったオレは、マリナを抱き寄せ抱きあげる。いわゆるひとつの、お姫さま抱っこ。

 

(………!)

 

 オレの意図を理解していないマリナは、驚いたように目を見開いた。

 しかしすぐさま気を取り直し、なでられた猫のように(きゅーん?)と目を細め、オレのほっぺに頬ずりしてきた。

 かわいい。

 

 でもオレがしてほしいのは、それじゃない。

 オレはマリナに耳打ちし、してほしいことを頼んだ。

 

「うん。」

 

 マリナは小さくうなずくと、右手をヒュンッと小さく振るった。その一瞬で、道が軽く凍りつく。

 氷の道の完成だ。

 幅は一メートル程度だが、長さは三〇メートル近くある。

 先っぽのほうは、スキーのジャンプ台のように反りあがっていた。

 

「むっ、無詠唱で、この規模の……?!」

「マリナは、父さんが認めた天才なので」

 

 オレは一言そう言うと、自身の魔力を溜めていく。

 雷とも炎とも言える雷炎の力を溜めて、足場の板に移してく。

 

「あと治療には、大量の水が必要となります。それも用意しておいてください」

「はっ、はいっ!」

 

 おっさんにそれだけを言って、紅と黄色の混ざったイカヅチを、バチバチと鳴らし――。

 

 

「ゴオッ!!」

 

 

 一息に発射。

 超加速したボードは、氷の道を超高速で突き進む。

 反りあがった氷の道の先端へと突き進み――。

 

 

 大ジャンプッ!!

 

 

 気持ちいい風を全身に浴びて、マリナといっしょに着地する。

 蛇行気味にゆれ動き、炎の出力をわずかに落とす。

 ほんのわずかに減速し、体勢を整えて再加速。

 

 ギュオンッと空気の裂く音が聞こえ、白い風となって走る。

 陸上サーフィン、フゥー!!

 

(………♪)

 

 マリナも気持ちいいらしい。一見すると無表情だがほんのり頬を紅潮させて、地面の先を指差している。

 マリナが指を差すと、茶色の地面は順々に凍った。

 

 ヤバいな、これ。

 本当に気持ちいい。

 バイクに乗っているみたいな気分だ。

 

 風になっていると、父さんの背中が見えてきた。

 オレは出力をあげて、一気に追いつく。

 

「それは……なんなのじゃ?」

「さっき作った乗り物です」

「さっき作った…………じゃと?」

「父さんみたいに跳べないかと思って考えてみたら、閃いたので作ってみました」

「作ってみましたの一言で、そのような乗り物を作ってしまえるというのか……」

 

 父さんは、あきれと感嘆が混ざったような目でオレを見つめた。

 その目は〈急ぐ旅なら、ククルルではなく二本の足で進むべきじゃろう?〉と言った父さんを見つめる村のおっさんを彷彿とさせた。

 

 え……。

 待って。

 

 これはまだ、セーフだよね?

 そんな非常識じゃないよね?

 

 おかしいかどうかで言ったら、こんなマシンの隣を普通に走ってる父さんのほうがおかしいよね?!

 

 っていうかホント、なんで普通に並走してるのっ?!

 時速で言うと、八〇キロはでてるんだけどっ?!

 

 オレは言い訳や驚きをくり返しながら、父さんと並んで砂浜へ向かった。




次はあしたの午後八時ぐらいに投稿します。

あとは感想もらえるとうれしいです!

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