規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
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タイトル
規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士
著者名
kt60
出版社
双葉社
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会議室に入ってきたミーユが叫ぶ。
「それよりどういうことだよ! フェミルが行方不明って! それなのに、ボクを捜索メンバーから外すって!」
「聞いていたなら、そのままの意味だ。リスクの高すぎる暗黒領域の探索に、三公のキミを投入するわけにはいかん」
「っ……」
理屈では理解できるらしい。
ミーユは奥歯を噛みしめる。
立場の重みと責任を深く理解し、それでも言った。
「友達……なんだよ」
瞳から、大粒の涙がはらりとこぼれた。
「フェミルは……本当に最低だったボクを許してくれた、友達なんだ……」
そしてミーユは語り始めた。
自分がどれだけ最低だったか。
謝っても謝っても、許されないようなことをしてきたか。
それを許してもらった時。
人から許しをもらえた時に。
自分がどれほど救われたか。
だからフェミルが窮地なら、命を賭けても助けに行きたい。
しかしミーユが語っても、教師たちの表情は渋い。
無理もない。
味方をしたいと思っても、ミーユは三公である。
オレは今ひとつピンとこないが、国の中ではトップクラスに偉い。
日本風に言うのなら、未来の総理大臣のようなものだ。
雑にあつかえるものではない。
が――。
(ダバダバダバダバ)
リリーナは号泣していた。
「わかる……。わかるぞ……!
ミーユ=ララ=グリフォンベール……。
二〇〇年間、友人のいなかった時期があるわたしにはわかる……!」
さりげなく凄惨な過去を暴露したリリーナは、拳を握って言い切った。
「仮に世界が許さなくとも、わたしが許す! 骨が折れても、十本までなら瞬時に治す!
二十本でも五分で治す! 報告義務があるような大ケガも、なかったことにしてやろう!!」
「違反行為を堂々と宣言されると、困るんですがの……」
涙ながらに叫ぶリリーナに、理事のじーさんがつぶやいていた。
そこでネクロが言った。
「そういうことなら、話は決まりでよいのでは?」
手の中でくるみを転がし、パキリと割って中身を食べる。
「こじらせたリリーナと三公殿を説得する手間と、わたしとリリーナが護衛をしながら進む手間を天秤にかければ、護衛のほうが軽い。無理を聞いてやったと言って、恩を作っておくのも悪い手ではないだろう」
「さすがはネクロ! 死霊術師だけあって腹が黒いな!」
「満面の笑みで言われてしまうと、なんとも複雑な気分だねぇ……」
「確かに……。お二方がついてくださるのであれば、そこは大陸でもっとも安全とも言える領域になりますな……」
「レインくんとマリナ嬢が加われば、どこの空間と天秤にかけても世界一になりそうでもある」
「しかしそのバランスですと、今度は探索そのものの効率が……」
「そこについては、どちらにしても戦力を多めに割く必要がある区域にわたしたちを配置すればよかろう。
矛盾にしているように思うかもしれないが、それがもっとも安全でありながら、効率を保てる配分だ」
「百戦錬磨のネクロさまがおっしゃるのでしたら、そうなのでございましょうな……」
七英雄の発言力と信頼は、かなりのものがあった。
かくして、探索のメンバーが決まった。
「フェミル……」
ミーユは、最後まで不安と切なさに顔をゆがめていた。
◆
「それでは行こうか」
校舎をでたリリーナは、北口に向かった。
ミーユが、焦りを噛み殺しながら言った。
「ダンジョンのゲートから行くんじゃないんですか……?」
「勃発的に発生するゲートは、安定感に欠けることが多い。心配なのはわかるが、ここは正面から入るべきだ」
「はい……」
ミーユは静かにうなずいた。
北側の門を抜ける。
「距離で言えば、一〇〇キロほど前方にある。距離だけで言えば、高品質のククルルを使うことで二時間程度になるが……」
「瘴気の湿原があるんですよね……?」
「高レベルのモンスターがでてくる森だな」
「フェミルぅ……」
ミーユはほとんど、泣きそうになっていた。
「マリナ」
「うん。」
「ミリリ」
「はにゃ?」
マリナはすぐにうなずいてくれたが、ミリリは小首を横にかしげた。
「………。」
なんの説明もしていないのにわかったマリナが魔力を溜める。
オレはミリリに、耳打ちした。
「っていう感じのものを、作ってほしい」
「にゃうぅ……」
「無理そうか?」
(ぶんぶんぶんっ!)
ミリリは首を、左右に振った。
「がんばります……にゃあ!」
「よし」
オレはアイテムボックスから、氷の塊をだした。
パチンッ。
指を鳴らして火をだして、土の一部を泥にする。
ミリリは両手を手前にかざす。
「虚ろなる泥土。我の求めに応じてください……にゃあぁ…………!」
ミリリの両手から、白い光りが発せられ、土はじわじわ形を変えた。
「なにしてるんだ……?」
「まぁ、見てろ」
待つことしばらく。ミリリの魔力がからっぽになった。
「にゃうぅ……」
よろけるミリリを、抱いて支えた。
「よくやったな」
「ありがとうございます……にゃあ」
ミリリが泥で作ったのは、八人乗りのモーターボート。
オレはミリリを抱いたまま、右の手から火を放つ。
完全に乾いた。
軽くノックしてみたが、ミリリの魔力のせいだろう。かなり頑丈である。
と、同時。
「んっ………!」
マリナが氷をぶっ放す。
ガキイィンッ!
氷の道ができあがる。
さすがマリナと言うべきか、五〇〇メートル以上は続いている。
オレはボートに乗り込んだ。
「これに乗るのか……?」
「はい」
オレは素早く乗り込んだ。
マリナにミリリが続いて乗った。
「まぁ……キミの言うことであるしな」
リリーナやカレン、ミーユとリンにネクロも乗り込む。
「よし……」
オレはハンドルを握った。
オレの魔力をボートに流す。
土色のボートが、光り輝く。
「しかしマリナは、よくオレのしたいことがわかったね」
「あなたといっしょにしたことは、みんな、ずっと、覚えてる………から。」
マリナは本当、隙あらばマリナだ。
かわいい。
オレが以前に金属の板を使って、地面をスケートするかのようにすべったことを覚えているのだ。
エネルギーが溜まった。
オレは力を激しく込めた。
グオッ!
土と魔力で作られたボートは、ロケットのように発射した!
五〇〇メートルはあった氷の道が、一〇秒足らずで端に行く。
「んんっ………!」
マリナは右手を前にだし、氷の道を作り続ける。
オレは速度をゆるめたが、それでも時速一二〇キロ近い。
あらゆる景色を後ろに流し、風の塊となって進む。
頬にびゅんびゅんと当たっていく風が、最高に心地いい。
草原にいるホーンラビットやバイコーンといった草食動物はもちろんのこと、レッドライオンといった猛獣も、驚き慌てて逃げていく。
そして長らく進んでいくと、薄紫色の霧のかかった空間が見えた。
背後のリリーナが言った。
「瘴気の湿地だ。強力なモンスターが現れる上、レベルが低いものが入ると、空気を吸うだけで死ぬ」
「そうですか」
オレはスピードをあげた。
空気を吸うだけでヤバいメンバーがこの中にいるなら、リリーナが言っている。
湿原に入る。
沼地だろうと足場だろうと、マリナが凍らせ突破する。
体長一メートル級の、沼イソギンチャクが現れた。
触手と体がうねうねとしていて気持ち悪い。
モーターボートでぶっ飛ばす。
スワンプマンが六体でてきた。
人の形を緑の泥で作ったかのような、異形のモンスターである。
モーターボートでぶっ飛ばす。
毒ガエルが現れたりもした。
モーターボートでぶっ飛ばすッ!!
圧倒的なパワーで突き進んでいると、湿地の奥に、黒い空間が見えてきた。
「止まるのだ! レイク=アベルス!」
「はいっ!」
オレが叫ぶと、マリナが魔力の流れを変えた。
くいっと動かし、氷の道に半円状のカーブを作る。
それに乗りあげたオレたちのボートは、宙でぐるりと一回転。
「はにゃあああっ!!」
「うわああああああ!!!」
「ぜなあぁぁぁぁぁぁ?!?!」
みんなは悲鳴をあげてたが、ボートは無事に着地した。
しかし土のボートでは、耐久力に難があったらしい。
オレたち全員が降りると同時に、ヒビが入って砂へと化した。