規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
オレたちは進む。
スカルバタフライが飛んできた。数は六体。
「ボクがやる!」
ミーユが前線にでて、フレイムダガーをヒュンと振るった。
「ファイア!」
サッカーボールぐらいの大きさの火球が、人骨めいた胴体を持った蝶を打ち落とす。
カウンターの体当たり。ミーユは、バックステップで回避する。
「二発目だすには、クールタイムが必要な感じか……」
オレは素早く剣を振るって、二匹の蝶を切り落とす。
「実験はいいけど、安全は確保してけよ?」
「うん!」
ミーユは元気にうなずいた。
クールタイムに注意しながら、二体、三体と炎で落とす。
「えへへぇ♡」
本当にかわいい。
そうこうしているうちに、赤い魔法陣を見つけた。
四本の柱に囲まれた、見るからに意味がありげな魔法陣だ。
「下の階に行く魔法陣だな」
「そうか」
オレたちは、魔法陣の上に乗った。
進んだ先は真っ暗だった。
三〇センチ先も見えない。
何気なく手を伸ばす。
ぷにゅっ♥
右手にやわらかな触感がきた。
(あっ………。)
これは暗闇ハプニングのお約束、『好きな子の胸を触ってしまう』だな。
オレは左手も伸ばし、確認を取る。
(ん………!)
(これはマリナだな)
しかしオレクラスになると、わかった上でも揉むのをやめない。
レベルが違うのだよ! レベルが!
しかしマリナが、声をガマンしているのは珍しい。
オレはマリナの乳首を摘まんだ。
(あっ………!)
力を強めたり弱めたり、ぐにぃ……っと引っ張ったりする。
(やっ………、んっ………。レインのえっち、えっちぃ………!)
マリナも犯人は理解しつつ、身をよじって喘いだ。
明かりがついた。
松明を持っているミーユが、オレたちを見て叫ぶ。
「なにやってんだよ!!」
もっともである。
オレたちは進んだ。
上の階でもそうだったけど、このダンジョンは、虫タイプのモンスターが多い。
スカルバタフライやスカルスパイダー。
巨大ムカデがうじゃうじゃでてくる。
そんな風に進んでいると、六本足の甲虫がでてきた。
すこし平たい、カミキリムシのようなフォルム。
コイツは確か、授業でやった――。
「リンッ!」
「「ミリリ!」」
「はいっ!」
「わかってますにゃっ!」
ドシュンッ!
巨大甲虫が尻を向け、高熱のガスを放った!
リンとミリリは横に跳び、なんとかガスを回避した。
(んっ!)
マリナが氷の矢を飛ばす。
それはガスビートルの尻に刺さった。
どごぉんっ!
そして行き場のなくしたガスが暴発。
ガスビートルは四散した。
敵ながら、ちょっと気の毒になる。
さらにいくつかの階段を降りて、地下の五階の最奥に辿りついた。
魔法陣がふたつある。
赤いのと青いのだ。
魔法陣の手前には、立て看板とチェックポイントの魔石だ。
〈おめでとう! これで授業は満点だ! ダンジョン自体は続いてるけど、青い魔法陣で引き返せ!
赤い魔法陣で進める六階以降は転移結晶が使えない上、とても危険だ! 遭難しても捜索しないぞ!!!〉
ミーユが魔石を手に取った。
「帰るか」
「うん。」
「…………」
「どうしたんだよ、レイン」
「行くなって言われると、逆に行きたくなったりしない?」
「それは……」
「すこし………。」
ミーユとマリナが、それぞれつぶやく。
特にミーユは、自身の剣を見つめていた。
(浅い階層でこんな武器があったなら、下に行けばもっと……)
そんなつぶやきも漏らしている。
だが首を左右にブンブンと振った。
「でもでもダメだよ! ボク知ってるんだからな! こーいう場面で調子に乗ると、だいたい痛い目を見るんだよ!」
「ま、その通りだな」
オレは帰還用の魔法陣に乗り込もうと思った。
が――。
「赤に進んでもよいのではないかな?」
「ネクロさん?」
「キミはまだ、ここに入ってからほとんど戦っていない。
しかし宝箱や鋼鉄の扉を切った剣筋は、すばらしいものだった。
わたしとしては、とても興味があるのだよ。
危険性と好奇心を天秤にかけてみたが、好奇心が勝っている。
なんと言っても、あのレリクスの息子だ」
「オレの力が見たいなら、直接やればいいと思いますけど」
ネクロは目を丸く見開くと、ククククッと笑った。
「?」
「いや、すまない。かつてレリクスに魔竜倒しの協力を頼まれた時に、似たやり取りをしたことを思いだしてね」
「……どんなやり取りだったんですか?」
「キミに魔竜を倒す実力があるのか? と尋ねたわたしに、『直接やればわかるじゃろう?』と木剣を抜いたよ」
「どうなったんです……?」
「殺されかけたね」
「えっ?!」
「レリクスは寸止めをしようとしてくれていたようだが、微妙に間に合わなくってね。
三〇メールは飛ばされた上、無数の木々をなぎ倒して崖に激突させられた」
「ええっ?!」
「幸いにしてリリーナが治癒魔法をかけてくれたが、アレがなければ死んでいたよ。
むしろこの傷を癒せるのかと、リリーナの力量に恐れ入ったぐらいだ」
(父さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!)
「そしてレリクスは、わたしになんと言ったと思う?」
「なんて言ったんでしょうか……?」
ネクロは、声のトーンを落として言った。
『すまぬ……』
オレはなんにも言えなくなった。
「その時は本当に、わたしの肝がひやりと冷えたよ」
「ですよねー……」
「謝罪したということは、悪気はなかったということだ。
レリクスは悪気なく、わたしの脇腹を打ちつけ盛大に吹き飛ばし、崖に叩きつけたということだ。
殺るつもりならどうなっていたのか、いまだに検討がつかない」
オレはもう、苦笑いしか漏れなかった。
「ウチの父さんが、すいません……」
「しかしその圧倒的な強さに痺れ、憧れたのも事実だ」
その口元には、子どものような笑みが浮かんでいた。
父さんを尊敬してくれていることが、温かく伝わってくる。
「それで結局、どうします?」
「一戦お願いすることにしようかな」