規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
「無詠唱の次は……右手と左手で違う魔法をだせるようにもなりたいな」
オレは右手に炎。左手に雷をだした。
「にゃあぁんっ?!」
「SS級の魔術士になっても極一握りにしか使えないスキルを、当たり前に使うのはやめるぜなあぁ!!」
ミリリが絶望の声をあげ、カレンが苛烈に突っ込んできた。
「でもリリーナとか、わりと近いことやってなかった?
治癒魔法を風で運ぶ的な」
「リリーナさまは、魔竜殺しの七英雄だぜなー!」
突っ込まれてしまった。
「まぁただこれが難しいのは、別属性だからってのもあると思うよ。
ミリリの場合は土の一種類でいいから、そこまで難しくないはず」
「それでも、A級かS級ぐらいはあると思うぜなあぁ……」
オレは言ったが、カレンは疑いのジト目で見てきた。
「けどそれは、魔法に詠唱が必要っていう考えがあるからだろ?」
「ぜな……?」
「詠唱はしないでいいって考えがあれば、左手に持った紙を、右手のハサミでチョキチョキと切るぐらいの感覚でいけるよ?」
「…………」
カレンはやっぱりジト目であった。
なにはともあれ、やってみないとわからない。
オレはミリリへと言った。
「それじゃあまずは、砂魔法からの練習な」
ミリリを背後から抱いた。
右手を握り、前にださせる。
「まずは魔力をたぎらせて、右手に集める」
「はっ……、はいっ……!」
オレの感覚がミリリにも伝わるように、心臓付近を熱くした。
そして心臓に溜めた熱と魔力を血管に乗せて、右手へと集めさす。
ミリリの手にも、魔力が溜まる。
「小さき者よ舞いあがり、我が望む形を作れ! サンドエレメンツ!!」
「小さき者よ舞いあがり、望む形を作ってください! サンドエレメンツ!」
オレとミリリが唱えると、砂がぶわっと舞いあがった。
ヴァルキリーのようなそいつは、槍を構えて軽く振るった。
すぐさま四散したものの、完全に成功である。
「はにゃっ、はにゃあぁ…………」
ミリリは魔力を切らしてしまい、肩で息をしてしまう。
もしもオレに抱かれてなければ、倒れていてもおかしくない。
それでも――。
「成功だな、ミリリ」
「はい……」
「レインは、砂魔法にも精通してたぜな……?」
「そういうわけじゃないんだけど、気分を高めていたら口が自然に」
「すごすぎるぜな……」
「さすがです…………にゃぁん」
カレンはぽうっと頬を染め、ミリリもどこか甘ったるい、とろけたような声でつぶやく。
「ご主人さまがごいっしょでしたら、ミリリはなんでもできる気がいたしますです…………にゃあぁん」
「………わかる。」
マリナが静かにつぶやいて、オレの背中にくっついてきた。
「レインは………七年ずっと、どうにもならなかった、わたしの病気も癒してくれた。」
「病気、だったんですか……?」
「うん………。」
マリナはオレの背中にくっついたまま、心の底からつぶやいた。
「好き好き病………。」
冷静に聞くと甘すぎて恥ずかしくもなるその名称を、マリナは大切な宝石でも抱きしめるかのようにつぶやく。
「レインのことが好き好きすぎて、一日一〇回はえっちなことをしてもらえないと、さびしくて死んじゃう病気………。」
なんか症状変わってない?!
っていうか前より悪化してないっ?!
そんなマリナの発言だったが、ミリリの心には刺さったらしい。
気持ち良くなる魔法のクスリを、吸ってしまったかのように、顔をとろりととろかせていた。
「ご主人さまは、すごいです……にゃあぁん…………!」
ミリリの気持ちは、感謝とか敬意を軽く飛びこえジャンプして、崇拝の域にまで達していた。
なんかそのうち、オレが息してるだけでもすごいとか言いかねない。
別にいいけど。
かわいいし。
「それじゃあ次は一旦休んで、右手からだす魔力で砂の戦士を作りながら、左手で土を隆起させる魔法を練習しよう」
「はいっ!」
ミリリは素直にうなずいて、オレの指示に従った。
適度な休憩を適度に挟み、練習を続ける。
四時間後。
「小さき者よ舞いあがり、望む形を作ってください! サンドエレメンツ!」
ミリリが右手を前に突きだし、小さな砂を舞いあがらせた。
薄茶色の、ヴァルキリーが作られる。
それと同時に、一〇メートルほど先に、拳サイズの隆起がぼこっとできてた。
魔法二種類の同時発動。
しかもそのうちの片方は、完全な無詠唱である。
「やったな、ミリリ」
「はにゃあぁんっ……!」
オレが頭をやさしく撫でると、ミリリは体を震わせた。
それと同時に、キュウゥ~~~っとおなかの虫の音が鳴る。
しかしその音の出どころは、ミリリの腹部ではない。
マリナだ。
どこをどう聞いても明らかに、マリナのほうから音がしていた。
「………わたしじゃない。」
明らかに音源であるマリナは、腹部を押さえてくり返す。
「今のは………わたしじゃない。」
羞恥で頬を赤くしながら、あくまでもくり返す。
「本当に………、わたしじゃない。」
「本当に……?」
「うん………。」
「本当の、本当に?」
「ほんとうに………。ほんとう。」
「本当の本当の本当に?」
「ほんとうの、ほんとうに、ほんとう。」
「ゼッタイにウソじゃない?」
「ゼッタイに………(キュウゥ~~~)」
もはや言い訳のしようのないタイミングで、腹の虫が鳴った。
オレはしばしの間を置いて、ぽつりと尋ねた。
「こっそり本音をつぶやくと?」
マリナは、か細い声でぽつりとつぶやく。
「おなかが………、すきました………。」
「それじゃあ、ごはんでも食べに行くか」
「うん………。」
オレは三人を連れて、レストランに向かった。