規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
「そもそもの質問なんですけど、みなさんはどうやって魔法を覚えてるんですか?」
「どうやって……と言うと…………」
「これじゃな」
じーさんのひとりが、乳白色の板のようなものを取りだした。
「カラカラ石を加工した板ですじゃ」
じーさんが力を込めた。
白い板が、赤に変わった。
「ワシの場合は、こうなる」
別のじーさんが力を込める。今度の板は、青に変わった。
オレが板を持ってみると、板はイカヅチのような黄色に変わった。
「その人の、先天属性がわかる板ってことですか」
「そういうことでございますじゃ」
じーさんがうなずくと、リリーナが続けた。
「この板で先天属性を調べたあとは、合致する属性の初歩魔法を練習する。
詠唱を重ねながら、イメージをするわけだ」
「そこから違うわけですね……」
「なに?」
「オレのやり方は、こんな感じです」
オレは両手を前にだす。
「透明なりんごを持っているような感覚で両手をかざして、体内の魔力が手と手のあいだに集まるようなイメージを作ります」
魔力の流れが、全身から手のひらに伝わった。
手と手のあいだで、黄色いイカヅチがバチバチと走る。
オレは窓があいていることを確認し、右手を窓のほうへと向けた。
「ライトニング!」
放たれたイカヅチは、窓から空へ飛びだした。
白い雲の中に届いて、雲をぶわっと消し飛ばす。
「こんな感じで、詠唱を使わずに魔力を操る感覚を、
じーさんのひとりが、ぽつりとつぶやく。
「具現法か……」
「具現法?」
「今レイン殿がしたように、両手をかざして魔力を発言することで、習得しようとする試みのことですじゃ」
「むかしは使われていたらしいのですが、効率が悪すぎるということで、廃れていった方法ですじゃ」
「確かに、普通は属性がでてくるまでに半年。実際に魔法を……となると、もっとかかるそうですからね」
「しかも全員が全員、レリクスさまや、レイン殿ほどの出力を出せると保証されているわけでもない」
「それでも、無詠唱で放てるようになるってのは大きいと思いますよ」
「おっしゃる通りですな!」
「早速、学園のカリキュラムにお加えましょう!」
じーさんふたりがわたわたと、教室から出て行った。
「キミは、そのようにして覚えていたのだな」
「リリーナ先生も、知らないやり方だったんですか?」
「わたしの場合、物心ついた時点で必要な魔法は習得していた。
使えるためにがんばるという行為を、
ひどい設定を聞いた気がする。
「そういう意味で、教える教官としてはあまり役に立っていないな……」
リリーナ先生の耳が、しょぼんと垂れた。
行き過ぎた少年愛を持つのぞき魔で、ベッドの上ではオレにあんあん言わされるだけのリリーナ。
しかしやっぱり、チート側の人間である。
「そういう意味で、キミがきてくれたことはうれしく思うぞ! 少年!!」
オレのその晴れやかな笑顔ひとつで、この学園にきてよかったと思った。
単純である。
授業は進んだ。
ことあるたびに、オレは意見を求められ、話すたびに感心された。
どちらが教師なのかわからないまま午前の部が終了し、昼休みになる。
教室の外から女の子たちがこちらを見やって、キャーキャー言ってる。
『あれがレインさまよ!』
『入学試験で、2億デシベルを出したんですって!』
『すてきぃ……♥』
『隣には、ミーユさまもいらっしゃるわね』
『美男ふたりがお並びですと、絵になりますわね……♥』
「なんか……すごいことになってるな」
「なっ……なんだかんだで、顔は……、カッコいいからな……オマエ」
「そうなのか?」
「そっ、そうだよ……」
ミーユは、羊皮紙になにかを書いてオレに見せた。
(だってボク、ドキドキするもん……)
もう本当に、素直になってるな、コイツ。
「だだっ、だからって、カンチガイすんなよ!
中身まで全部認めてるわけじゃないんだからな!!」
だけどこんな風に叫ぶ、素直になれないオンナノコである。
かわいい。
マリナとカレンを横に連れ、食堂に向かった。
マリナはいつも以上にがっちりと、オレの腕にくっついていた。
日ごろあれだけ愛されてるのに、まだまだ自信が持てないらしい。
オレの腕に絡む腕も、オレに押し当たっている体も、必要以上に強張っている。
「オレの一番はマリナだよ?」
「わたしでも………へいき?」
「むしろ逆。マリナじゃないとダメ」
そう言って、ちゅっとほっぺにキスをする。
『選べる立場でありながら、第一夫人さまを大切になっていらっしゃるのですね……』
『すてきぃ……♥』
するとなぜだか、好感度があがった。
おかしくねっ?!
と思ったが、この世界では、そういうものであるらしい。
(ぎゅっ~~~~~~~~~~。)
マリナはますます(><)な顔で、オレの腕にくっついた。
かわいい。
◆
昼食が終わると、午後の部だ。
教室を移動するということなので、教室を移動する。
屋外に近いそこは、多目的室のような感じだ。
合同授業のような感じなのか、生徒の数がそこそこ多い。
全部で六〇人はいる。
オレは床にぺたりと座った。
(じ………。)
マリナが四つん這いになって、オレを見つめた。
「いいよ?」
「ん………。」
オレは体育座りの姿勢から、足を広げた。
あいたスペースに、マリナがぺたりと座り込む。
本当に、いつも以上のベタ甘モードだ。
かわいい。
カレンは横で、ぺたりと伏せてる。
ご主人さまが立っているなら地面に座り、座っているなら伏せるのが、奴隷のあつかいであるらしい。
ちょっと可哀想な気もするのだが――。
「学園の床は、冷たくって気持ちがいいぜなぁ……♥」
本人は、わりと幸せそうだった。
待機してると、ドアが開いた。
小さくミニっこい、猫耳の少女が入ってくる。
その人は、オレたちの前に立つと言った。
「わらしはこの学園の奴隷科を率いる、アリア=ランスロットだ! 敬意を持って接するがよい!」
堂々とした自己紹介に、空気が凛――と引き締まる。
だけど今、なんて言った?
奴隷科?
「諸君ら魔術士は、魔術の際には詠唱を必要とする!
…………一部を除いて。
意識を込めておこなうそれは、必然、無防備の時間を作る!
…………一部を除いて」
先生は定期的に言葉を止めて、最前列のオレに目を向けた。
「優れた騎士と契約するという手もあるが、契約条件でのトラブルも多い!
そこで役に立つのが――」
「奴隷ってわけですか」
「そういうことだ!」
先生は、重々しくうなずいた。
指を鳴らす。
首輪に手枷と足枷をつけられた奴隷たちが、ずらずらとやってきた。
身なりは意外と整っている。
着ている服は白いワンピースのような布が一枚だけだが、汚れや染みはついていない。
「彼ら――そして彼女らは、職業奴隷だ!
貧しい家庭から、国が公的に買い取った者や、犯罪奴隷の子どもなどが属する!」
「悪いことしていないのに?!」
「しかし奴隷制度がなければ、貧しい家庭はますます困窮することになる!
犯罪者たちが、コマを確保するために動くこともあるだろう!
それならば、事前に国で管理したほうがよいわけだ!」
「うーん……」
そう言われると、難しい。
少なくとも、オレが文句を言うことではなさそうだ。
「それに犯罪奴隷とは異なって、権利を主張する権利もある!
望まぬ性交渉は違法であるし、過度な酷使も法律で禁止だ!
さらに半年に一度、国家検診の義務もある!」
それが本当に守られてるなら、