規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。授業をやったり奴隷制度の話を聞いたり。

「そもそもの質問なんですけど、みなさんはどうやって魔法を覚えてるんですか?」

「どうやって……と言うと…………」

「これじゃな」

 

 じーさんのひとりが、乳白色の板のようなものを取りだした。

 

「カラカラ石を加工した板ですじゃ」

 

 じーさんが力を込めた。

 白い板が、赤に変わった。

 

「ワシの場合は、こうなる」

 

 別のじーさんが力を込める。今度の板は、青に変わった。

 オレが板を持ってみると、板はイカヅチのような黄色に変わった。

 

「その人の、先天属性がわかる板ってことですか」

「そういうことでございますじゃ」

 

 じーさんがうなずくと、リリーナが続けた。

 

「この板で先天属性を調べたあとは、合致する属性の初歩魔法を練習する。

 詠唱を重ねながら、イメージをするわけだ」

「そこから違うわけですね……」

「なに?」

「オレのやり方は、こんな感じです」

 

 オレは両手を前にだす。

 

「透明なりんごを持っているような感覚で両手をかざして、体内の魔力が手と手のあいだに集まるようなイメージを作ります」

 

 魔力の流れが、全身から手のひらに伝わった。

 手と手のあいだで、黄色いイカヅチがバチバチと走る。

 オレは窓があいていることを確認し、右手を窓のほうへと向けた。

 

「ライトニング!」

 

 放たれたイカヅチは、窓から空へ飛びだした。

 白い雲の中に届いて、雲をぶわっと消し飛ばす。

 

「こんな感じで、詠唱を使わずに魔力を操る感覚を、()()()()()()()()で体に叩き込むわけです」

 

 じーさんのひとりが、ぽつりとつぶやく。

 

「具現法か……」

「具現法?」

「今レイン殿がしたように、両手をかざして魔力を発言することで、習得しようとする試みのことですじゃ」

「むかしは使われていたらしいのですが、効率が悪すぎるということで、廃れていった方法ですじゃ」

 

「確かに、普通は属性がでてくるまでに半年。実際に魔法を……となると、もっとかかるそうですからね」

「しかも全員が全員、レリクスさまや、レイン殿ほどの出力を出せると保証されているわけでもない」

 

「それでも、無詠唱で放てるようになるってのは大きいと思いますよ」

「おっしゃる通りですな!」

「早速、学園のカリキュラムにお加えましょう!」

 

 じーさんふたりがわたわたと、教室から出て行った。

 

「キミは、そのようにして覚えていたのだな」

「リリーナ先生も、知らないやり方だったんですか?」

「わたしの場合、物心ついた時点で必要な魔法は習得していた。

 使えるためにがんばるという行為を、()()()()()()()()()()()()

 

 ひどい設定を聞いた気がする。

 

「そういう意味で、教える教官としてはあまり役に立っていないな……」

 

 リリーナ先生の耳が、しょぼんと垂れた。

 行き過ぎた少年愛を持つのぞき魔で、ベッドの上ではオレにあんあん言わされるだけのリリーナ。

 しかしやっぱり、チート側の人間である。

 

「そういう意味で、キミがきてくれたことはうれしく思うぞ! 少年!!」

 

 オレのその晴れやかな笑顔ひとつで、この学園にきてよかったと思った。

 単純である。

 

 授業は進んだ。

 ことあるたびに、オレは意見を求められ、話すたびに感心された。

 どちらが教師なのかわからないまま午前の部が終了し、昼休みになる。

 教室の外から女の子たちがこちらを見やって、キャーキャー言ってる。

 

『あれがレインさまよ!』

『入学試験で、2億デシベルを出したんですって!』

『すてきぃ……♥』

『隣には、ミーユさまもいらっしゃるわね』

『美男ふたりがお並びですと、絵になりますわね……♥』

 

「なんか……すごいことになってるな」

「なっ……なんだかんだで、顔は……、カッコいいからな……オマエ」

「そうなのか?」

「そっ、そうだよ……」

 

 ミーユは、羊皮紙になにかを書いてオレに見せた。

 

(だってボク、ドキドキするもん……)

 

 もう本当に、素直になってるな、コイツ。

 

「だだっ、だからって、カンチガイすんなよ!

 中身まで全部認めてるわけじゃないんだからな!!」

 

 だけどこんな風に叫ぶ、素直になれないオンナノコである。

 かわいい。

 マリナとカレンを横に連れ、食堂に向かった。

 

 マリナはいつも以上にがっちりと、オレの腕にくっついていた。

 日ごろあれだけ愛されてるのに、まだまだ自信が持てないらしい。

 オレの腕に絡む腕も、オレに押し当たっている体も、必要以上に強張っている。

 

「オレの一番はマリナだよ?」

「わたしでも………へいき?」

「むしろ逆。マリナじゃないとダメ」

 

 そう言って、ちゅっとほっぺにキスをする。

 

『選べる立場でありながら、第一夫人さまを大切になっていらっしゃるのですね……』

『すてきぃ……♥』

 

 

 するとなぜだか、好感度があがった。

 

 

 おかしくねっ?!

 と思ったが、この世界では、そういうものであるらしい。

 

(ぎゅっ~~~~~~~~~~。)

 

 マリナはますます(><)な顔で、オレの腕にくっついた。

 かわいい。

 

  ◆

 

 昼食が終わると、午後の部だ。

 教室を移動するということなので、教室を移動する。

 屋外に近いそこは、多目的室のような感じだ。

 

 合同授業のような感じなのか、生徒の数がそこそこ多い。

 全部で六〇人はいる。

 オレは床にぺたりと座った。

 

(じ………。)

 

 マリナが四つん這いになって、オレを見つめた。

 

「いいよ?」

「ん………。」

 

 オレは体育座りの姿勢から、足を広げた。

 あいたスペースに、マリナがぺたりと座り込む。

 本当に、いつも以上のベタ甘モードだ。

 かわいい。

 

 カレンは横で、ぺたりと伏せてる。

 ご主人さまが立っているなら地面に座り、座っているなら伏せるのが、奴隷のあつかいであるらしい。

 ちょっと可哀想な気もするのだが――。

 

「学園の床は、冷たくって気持ちがいいぜなぁ……♥」

 

 本人は、わりと幸せそうだった。

 

 待機してると、ドアが開いた。

 小さくミニっこい、猫耳の少女が入ってくる。

 その人は、オレたちの前に立つと言った。

 

「わらしはこの学園の奴隷科を率いる、アリア=ランスロットだ! 敬意を持って接するがよい!」

 

 堂々とした自己紹介に、空気が凛――と引き締まる。

 だけど今、なんて言った?

 奴隷科?

 

「諸君ら魔術士は、魔術の際には詠唱を必要とする!

 …………一部を除いて。

 意識を込めておこなうそれは、必然、無防備の時間を作る!

 …………一部を除いて」

 

 先生は定期的に言葉を止めて、最前列のオレに目を向けた。

 

「優れた騎士と契約するという手もあるが、契約条件でのトラブルも多い!

 そこで役に立つのが――」

「奴隷ってわけですか」

「そういうことだ!」

 

 先生は、重々しくうなずいた。

 指を鳴らす。

 首輪に手枷と足枷をつけられた奴隷たちが、ずらずらとやってきた。

 

 身なりは意外と整っている。

 着ている服は白いワンピースのような布が一枚だけだが、汚れや染みはついていない。

 

「彼ら――そして彼女らは、職業奴隷だ!

 貧しい家庭から、国が公的に買い取った者や、犯罪奴隷の子どもなどが属する!」

「悪いことしていないのに?!」

 

「しかし奴隷制度がなければ、貧しい家庭はますます困窮することになる!

 犯罪者たちが、コマを確保するために動くこともあるだろう!

 それならば、事前に国で管理したほうがよいわけだ!」

「うーん……」

 

 そう言われると、難しい。

 少なくとも、オレが文句を言うことではなさそうだ。

 

「それに犯罪奴隷とは異なって、権利を主張する権利もある!

 望まぬ性交渉は違法であるし、過度な酷使も法律で禁止だ!

 さらに半年に一度、国家検診の義務もある!」

 

 それが本当に守られてるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


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