規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
試験の日から何日か経って、入学式の朝がきた。
すこし早めに家をでたオレたちは、屋台が並ぶ露店街を通り抜けて学園に向かった。
骨つき肉の屋台を見かけたカレンが、「ぜな……」と物欲しそうにつぶやく。
オレは無言で屋台に近寄り、骨つき肉を買った。
「ぜな……?!」
カレンの瞳が、にわかに輝く。
オレは肉をカレンに近づけ――――。
自分で食った。
「うまいな、これ」
(ぜなあぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
声鳴き悲鳴が、響き渡った。
「冗談だよ」
オレは一口食った残りを、カレンの口に入れてやった。
(もぐもぐもぐ、こくん)
カレンは、咀嚼して飲み込んだ。
「うまいか?」
「ぜなあぁ……♪」
カレンは、恍惚にうなずいた。
オレはチラリと、マリナを見やった。
いつものパターンであるならば、ここで対抗してくるはずだ。
が――。
マリナは無言で、目を伏せていた。
「食べないの? マリナ」
「太る………。」
「えっ?」
「食べものは、油断をすると………。太る………。」
「気にしてるんだ…………」
「………。」
マリナは、両の腕で身を隠してつぶやく。
「太るのは………いいけど。あなたに、嫌われるのは………。」
「まぁそん時は、オレも太るから大丈夫」
「なぐさめになっていないと思う………。」
と言いつつも、マリナはうれしそうだった。
オレたちは、学園へと向かう。
細かい手続きや初々しい生徒たちの合間を抜けて、用意された席につく。
壇上を見上げる、最前列の席だった。
椅子の横には、奴隷を置いておくためのスペースもある。
逆に席の後ろ側には、わりとビッシリである。
「こういうところも、試験の結果ででてくる『待遇の差』ってやつか」
オレは奴隷用のスペースにカレンを伏せさせ、椅子に座った。
「ん………♪」
マリナが、自分の椅子をオレの椅子にくっつけてきた。
「いいのかな? これ」
などと思ってあたりをチラりと見回すが、咎められたりはしなかった。
特待生すごい。
まさに特別待遇の生徒だ。
オレは椅子に座って待った。
学長らしき爺さんが壇上に現れて、お決まりのあいさつを始めた。
(このへんは、どこの世界でもいっしょだな)
つまらないところとか、眠くなるところとかもいっしょだ。
眠れ、眠れ、睡眠♪
眠れ、眠れ、睡眠♪
そんな音波がすすってる。
まぶたが重くなっちゃうyo!
オレ以外のほぼ全員もそんな感じだ。
実際に寝ている人もいた。
でもオレは、がんばって眠らないようにした。
そして待つこと十数分、学長のあいさつが終わった。
『それでは続いて、首席特待生のあいさつです』
オレが呼ばれそうな響きだが、呼ばれる予定なのはオレではない。
それについては、前の日に説明があった。
主席特待生は、試験全体の総合で判断される。
魔法理論のテストで一位なら一〇点、二位なら七点、三位なら……。
王国の歴史テストで一位なら一〇点、二位なら……。
算術問題のテストで一位なら……。
といった次第だ。
オレは実技と算術では圧倒的なトップだったが、それ以外の成績が今ひとつだった。
実技はぶっちぎりまくっていたが、一位はあくまで一位であって、一位以上の得点にはならない。
野球の試合で、1対0で勝っても33対4で勝っても一勝は一勝であるのと同じだ。
(だから33対4は、けして特別な数字ではない)
説明は、すごい低姿勢だった。
偉そうなヒゲの爺さんが三人並んで、土下座しそうな勢いであった。
「主席特待生としてあいさつをすると、特典とかあるんですか?」
「そういうものは、特には……」
「普通の最上位特待生と、違いはありません……」
「それならどうでもいいですよ。あいさつやらないで済む分、むしろ得です」
「歴史ある、首席特待生の栄誉を…………」
「どうでもいい…………?」
「大切なのは、入ったあとにどうするか――ですしね」
「さすがは、英雄様のご子息ですな……」
爺さんたちは、深々とうなずいた。
まぁ貴族とかいる世界だと、メンツとかなんとかうるさいんだろうな。
入学試験の段階で、拘りそうなやつ見たし。
なんて風に思っていると、主席特待生とやらが、壇上に現れた。
メンツとかに拘りそうなバカ貴族代表の、ミーユ=グリフォン○○であった。
「「「わあぁーーーー!!!」」」
ミーユが現れた刹那、一部の生徒から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
服装を見ると、貴族っぽいやつが多い。
取り巻きパワー半端ないな。
歓声を受けたミーユは、オレのほうをチラと見た。
そしてニヤリと、口角をゆがめた。
明らかに、下を見下す目線であった。
コイツの中では、『勝った!!』っていう意識なんだろうなぁ……。
『本日は……ボクたちのためにこのような式を催していただき…………』
語られるあいさつは、なんの変哲もおもしろみもない、退屈なものだった。
マジでヤバい。
学園長のあいさつで死にかけていた脳細胞が、さらに昇天しようとしている。
打ち上げ花火でパチンパチンだ。
雨にも負けず風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けないオレであろうと、コイツの話の眠さには勝てない。
ゴジラ対チワワのごとき、圧倒的な絶望感だ。
それでも寝たらいけないよなぁ……と思いつつ、必死にこらえてがんばった。
すると――。
「ふわ…………」
あくびでた。
そいつもかなり、大きいやつだ。
それだけならば、大して気にもされなかっただろう。
実際、しているやつはオレ以外にもいる。
でもよりによって、ミーユが反応しやがった。
声を止め、あくびしたオレをガン見して、瞳を丸く見開きやがった。
(そこはスルーしておけよ……)
そうすれば、魔法の言葉『気のせい』で済んだのに。
なのにミーユが反応してしまったせいで、オレがなにか言わないといけないような雰囲気になってる。
仕方ない。
オレは言った。
「話が退屈すぎたんで、つい」
一瞬の静寂。
延々とした沈黙。
そして――。
笑い。
大きな笑いが、平民層と下級貴族から沸きあがっていた。
恥をかかされたミーユが、真っ赤になって震えて――。
「笑ったやつ、前にでろっ!」
一喝。
笑い声を黙らせて叫ぶ。
「そして『三公』のボクを、もう一度笑ってみろ!!」
会場の空気が、オレがあくびをした時とは違う意味で凍りつく。
本当になにをするのかわからないといった、狂気めいた剣幕があった。
オレとマリナ以外の全員が、首筋に刀剣を突きつけられたかのような顔をしている。
「くそがッ!!」
ミーユは壇上の机を蹴り飛ばし、苛立ちながら去っていった。
ミーユのことは、18日午後10時ぐらいの更新で〆る予定です