規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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レイン十四歳。のぞき魔を捕まえる。

「作るとしたら、このあたりかな?」

 

 村の外れで、リリーナ先生が言った。

 オレは設計図を広げた。

 

「魔宝石を設置する水源から二手に分かれて、男女別の空間に。

 あとは村を横断するような形で下水管を通して、川の下流に流しましょう。

 この構造なら、あとあと村の中にもトイレを増やすことができます」

 

「理論的には、そうなるな」

 

 先生は、設計図を見つめてうなずく。

 

「この構造だと……一軒当たり、七人が用を足せる計算になるわけか」

「そういうことですね。

 個室ではなく長屋式にすることで、複数の人が同時に足せるようにしています」

 

 古代ローマの方式である。

 トイレと下水が整えられていた古代ローマは、トイレも長屋式だった。

 それでそれなりに使われていたというから、特に問題ないだろう。

 村長のおっさんにも、話は聞いたが――。

 

『我が村に、トイレがやってくるわけですか……!』

 

 と感動していた。

 

「公共の場にトイレとなると、大きな都市でしか見られないからな」

 

 新幹線が通ったと騒ぐ田舎みたいなものか。

 

「それでは木材を採ってくるかの」

「そうですね、父さん」

 

 オレは父さんとマリナの三人で森にでかけた。

 形よい木が並ぶ森の入り口で、父さんが気合いを発した。

 

「ふぅんっ!」

 

 本当に、気合いを発しただけだった。

 なのに気合いで、木々三〇本の木の葉が吹っ飛ぶ。枝も吹き飛び、丸太だけが残る。

 父さんは、木材採取用の剣を(・・)両手で持った。

 身長ほどもある、大剣だ。

 

「ふうぅんっ!!」

 

 ハンマー投げのハンマーを投げるかのように剣を振るうと、剣圧だけで(・・・)木々が倒れた。

 

 技名・父さんダイナミック。

 効果・丸太を取れる。

 

 そんな説明を入れたいぐらいだ。

 

 気合いで枝と木の葉をまとめて吹き飛ばせるのがおかしければ、剣圧だけで木々をなぎ倒せるのもおかしい。

 

 毎度恒例、UTMO。

 ウチの父さん、マジでおかしい。

 でも頼りがいはある。

 

「とりあえず、これだけあれば十分かのう。我が息子レインよ」

「はい、そう思います」

 

 オレはアイテムボックスを使用して、木々の塊を収納した。

 

「何度見ても、レインのアイテムボックスはすごいのぅ」

「そ、そうでしょうか」

「ワシを含めてアイテムボックスを使える者自体は少なくないが、その容量を一度に――となると、ワシはひとりしか知らぬぞ」

 

「それでもひとりはいるんですね」

「まぁ……の」

 

 父さんは、ほんのすこし遠い目をした。

 触れられたくない雰囲気があったので、あえて触れないことにする。

 ついでに森を散策し、キノコを何本か採取した。

 

「なんに使うの? レイン」

「ちょっとね……」

 

 マリナの質問をはぐらかし、村へと戻る。

 

「ま……このようなところかな」

 

 村へついた。

 リリーナ先生が香水のビンのようなものから、液体を垂らしていた。

 

「なにしていらっしゃるんですか?」

「見ての通りだ。魔法水で陣を描いている」

 

 先生は、最後に自身の血を垂らす。

 

「我が血を受けて現れよ、森もぐら(フォレスト・モール)!」

 

 魔法陣が青く輝き、大きなモグラが六匹でてきた。

 一匹あたり六〇センチはあるが、もこもことしていてかわいい。

 

「まずはここから、あそこぐらいまでの掘ってくれ」

〈〈〈もぐー!〉〉〉

 

 モグラはそろって声をあげ、土をザクザクと掘り始めた。

 

「先生って、召喚術も使えたんですね」

「専門ではないがゆえ、レベルの低い魔獣しか呼びだせんがな」

「それでもすごいと思います」

「まっ、まぁ、わたしを尊敬するというなら、やぶさかではないぞ、少年。

 フハハハ、ハハ!」

 

 先生は、自慢というより照れて笑った。

 かわいい。

 

 モグラたちは、もぐもぐ黙々がんばって、穴を掘り進めてくれた。

 

 三時間ほどがすぎた。

 水を通すための水路と、汚物を通すための下水が掘られる。

 

 下水のほうは、直径二メートルの穴が、二〇メートルほどである。

 川にはまったく届いていないが、召喚時間が限界だった。

 

「ん………。」

〈もぐー〉

 

 マリナがモグラの一匹一匹に、報酬代わりのりんごを渡した。

 モグラは受け取り、満足そうに魔法陣の中へと入る。

 

「りんごでいいんですね、報酬」

「マリナ殿が配っているのは、ゴールデンアップルだ。

 これは肉食の魔物も果物食に目覚めてしまう、すばらしい味をしている。

 報酬にならんはずがない」

 

 先生自身、ほっぺたを赤くして、りんごを、かぷ……とかじってた。

 剣と魔法の訓練もして、一日をすごす。

 

  ◆

 

 夜がきた。

 マリナといっしょに浴室に入る。

 小型の魔法石が設置されている台座に魔力を流し、蛇口から水をだす。

 

 次に袋を用意する。

 手のひらサイズの袋には、ビー玉ぐらいの大きさをした赤い魔宝石が詰まってる。

 浴槽に入れて、熱をださせる。

 

 入手の容易なジャンク品に近い魔法石だが、こうやって集めれば、ちょっとした銭湯ぐらいのスペースを温めるのには使える。

 毎日使って一ヶ月持つかどうかといったとこだが、一ヶ月は持つので十分だ。

 

「はい、マリナ」

「うん………。」

 

 マリナにすっと手を伸ばし、湯船の中にエスコート。

 マリナの巨乳が、ぷか……と浮かぶ。

 オレはマリナの肩を抱き、空を見上げる。

 

 この風呂は、父さんの趣味が入ってる。

 足はゆったり伸ばせるし、窓からは月と星空が見える。

 

「今日も月が綺麗だな」

「うん………♪」

 

 マリナがオレにしなだれかかる。

 オレは湯船のお湯をすくって、マリナの鎖骨やほっぺにかけた。

 マリナの手触りを楽しみながら、汗や泥を簡単に流す。

 

 ほどよく温まったあとは、体の洗いっこである。

 ほぼスポンジと言ってよいヘチマのような植物で、セッケンを泡立てる。

 

 まずはマリナの背中を洗い、さりげなく抱きつく。

 体をぴたりと密着させて、マリナの二の腕、マリナの脇腹、マリナのおなかを丁寧に洗った。

 

 おっぱいの谷間にも、スポンジを走らせる。

 オレの手が動くたび、おっぱいさまはゆれた。

 

「こんなにたぷたぷゆれてたら、スポンジで洗うのは難しいな」

「えっ………?」

「問答無用!」

「あっ………?」

 

 オレは両手で揉み洗う。

 おっぱい以外もしっかり洗い、マリナの体を丁寧に清めた。

 清める以外のこともやったが、とにかく清めた。

 

 風呂場でイチャついたオレとマリナは、寝室に入る。

 

「ほんばん………♪」

「お風呂の中でも、しなかったっけ?」

「おふろのは………れんしゅう?」

 

 そういうことらしかった。

 オレの腕に抱きついたまま、頭を肩に乗せてくる。

 

「じゃあ、先にベッドに行ってて」

「うん………♪」

 

 マリナは素直にオレから離れ、いそいそとベッドに入った。

 オレはドアのほうを見やり、スポンジ(と呼んでいる植物)を取りだした。

 

 森で取ってきたキノコの胞子をぽんぽんかけて、ドアの上に設置する。

 古典的な、黒板消しトラップだ。

 ひとりうなずきベッドに入り、マリナとイチャイチャらぶらぶした。

 

  ◆

 

「はぐうぅ……」

 

 夜がきた。

 わたし――リリーナは、自室でひとりうめく。

 

 思いだすのは、昨晩のことだ。

 少年とマリナがおこなっていた、ひざまくらとか(怪しすぎる儀式)のことだ。

 

 ふたりは、今日もしているのだろうか。

 今日も昨晩のような、はははは、激しいハレンチをしているのだろうか。

 

 想像すると、もじもじとする。そわそわとする。

 裸を見られているかのように、恥ずかしくなってくる。

 

 いてもたってもいられなくなって、部屋を抜けだしてしまう。

 足と体が勝手に動く。少年とマリナの寝室へ、自らを運ばせていく。

 

「はぐうぅ……」

 

 泣きたいような気分だが、心も体も止められない。

 部屋が近づいてきた。

 わたしのエルフの聴覚が、マリナの声をわたしに運ぶ。

 苦しげな、しかし麻薬的な陶酔を含む甘い声。

 

 だしてみたいと思ってしまう。

 その声がでてくるほどの気持ちを、味わってみたいと思ってしまう。

 

(はぐうぅ~~~~~~~~~~~~~)

 

 あまりにひどいわたし自身に、頭を抱えてうずくまってしまった。

 それなのに、やましい気持ちは止められない。

 

 赤子のような四つん這いで、ふたりの寝室に向かってしまう。

 なぜか最初からあいている隙間から、部屋を覗き込んでしまった。

 

(はぐっ……!)

 

 ふたりは今日もすごかった。

 説明するのが恥ずかしいぐらい、すごいことをやっていた。

 キキキキ、キスなどを、当たり前にやっていた。

 

 クールで凛々しいはずのわたしは、ガラにもなく興奮してしまった。

 自分で言うのも難ではあるが、わたしは、本当にそういうイメージなのだ。

 

 レリクスたちとやった魔竜殺しは、詩人の語りや絵画のテーマにも使われた。

 わたしの顔は知らずとも、名前は演劇で知っている者も少なくない。

 そこでわたしの役割と言えば、クールで凛々しいハイエルフだった。

 

 黒いメガネで変装し、劇団の講演を何度も見に行ったこともある。

 そのたびに、わたしは凛々しいわたしの姿に、惚れ惚れとしたものだ。

 

 だからわたしはカッコいいのだ。

 クールで凛々しく、カッコいいのだ。

 

 そんなわたしを露知らず、ふたりの行為は過激化してきた。

 わたしは思わず、身を乗りだして――。

 

 

 ぽふんっ!

 

 

 頭になにかがぶつかった。白い粉のようなものが鼻に入った。

 

「くちゅんっ!」

 

 くしゃみがでてきた。

 同時に、においで察知する。

 

(痺れ、キノ、コ……?)

 

 少年が、わたしの存在に気がついた。

 行為をとめて、わたしのほうに寄ってくる。

 

(はぐうぅ~~~~~~~~)

 

 わたしは逃げようとしたが、キノコのせいで動けない。

 後日には、解毒魔法を使えばよかったと気がついた。

 でもこの時は、焦ってうっかり失念していた。

 

 わたしの凛々しいイメージが!

 クールで凛々しいイメージがあぁ!!

 

  ◆

 

「やっぱり、あなただったんですか……」

「はぐうぅ……」

 

 オレの部屋。

 先生が、正座でしょぼんとうなだれた。

 無防備でうなだれる姿は扇情的で、そそられるものがある。

 

「生徒の行為を覗いちゃうなんて、とってもいけない先生ですねぇ……」

「でっ……、できごころだったのだ……」

「ただの出来心で、二日連続のぞいちゃうんですか?」

「ふわっ?!」

「実際、のぞいてたでしょ? 二日連続で」

「クウゥン…………」

 

 図星であったらしい。

 うなだれていた先生の耳が、しおっと垂れる。

 なんというのか……いじめたくなってしまう姿だ。

 

「そんな悪い先生には、おしおき…………ですね」

「ふわっ?!」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべて、先生を押し倒した。

 本気で嫌がられたらやめるつもりではあったが、そんなことはなかった。

 なんと言っても、先生自身が言っていた。

 

「わたしのわたしの体は自由にできても、心までは自由にできんぞ!

 だから……存分にするがいい!

 わたしの体を、自由にもてあそぶがいいっ!!

 早く……、早くうぅ…………!」

 

 こんな風に言われたら、遠慮なんて必要ないよね。

 というかここまで言われたら、何もしないほうが犯罪である。

 

 行為が終わった。

 オレはベッドの端に座る。

 マリナが、背中にくっついてきた。

 

「………。」

 

 言葉は発していないものの、目線は切なげに細まっていた。

 

「レイン。リリーナに、九回した………。」

「数えてないけど、そんなとこかな」

「わたしは………八回。」

 

「風呂場の分は?」

「れんしゅうだから………ノーカウント。」

「そうなのか……」

「うん。」

 

 やはり言葉はなかったが、オレを抱きしめる腕の力が、(むぎゅっ………。)と強まってきた。

 声にはだしていないものの、純然たるヤキモチである。

 かわいい。

 

 しかも風呂場のがノーカウントなら、オレはその分もしないといけない。

 マリナに熱いキスをして、たっぷりと楽しんだ。

 二回すればよかったところを、その六倍は楽しんだ。


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