規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士 作:kt60
「ぐああぁ~~~」
回復魔法の訓練が終わった。
オレはベッドに倒れこむ。
マリナは静かにベッドに乗った。
着ている服は、薄くて色っぽいネグリジェだ。
「大丈夫………? レイン。」
「へいきだよ……。マリナ」
「おっぱい………さわる?」
オレはマリナの巨乳を見つめた。
顔がほんのり熱くなる。
しかしすぐさま目を逸らし、正直なところを言った。
「いい、今は手が痛いから無理…………かな」
「ひざまくら………なら?」
「できる……かな」
オレはもぞりと体を動かし、マリナの膝に頭を乗せた。
やわらかな太ももが、とても至福だ。
オレは静かにため息をつく。
マリナには平気と言ったけど、実際まったく平気じゃなかった。
傷を治す魔法と、失った血液まで回復させる魔法は別だ。
訓練で失った血液は、失ったままである。
よって体は、普通にふらつく。
リリーナ先生であれば、血液も含めて治すこともできるのだが――。
『体が弱っていたほうが、魔法は発動しやすい』
と言われ、死なない程度にふらついたままである。
同じ理由で、右手も痛い。
刺された傷が、出血しない程度にそのままだ。
傷の痛みを肌と視覚の両方で感じ、双方が消えていくイメージを重ねる訓練も重要らしいのである。
オレは再びため息をついて、傷を見つめた。
つい先刻の、リリーナ先生がかけてくれたヒール。
それで傷が塞がっていった光景を思いだす。
とある有名なゲームで使われる、主人公がレベル3ぐらいで覚える魔法を唱えたりしてみた。
すると傷は、じわじわ塞がり――。
治った。
「え……?」
グー、パーと手を握る。
痛みも完全に消えていた。
「半年から、一年はかかるって聞いてたんだけどな……」
オレが持っている才能は、オレが思っている以上にすごいってことか。
それとも、ひょっとして――。
「レイン………。」
オレがあれこれ考えていると、艶っぽい声が聞こえた。
同時にマリナが、前屈みになる。
マリナの巨乳が、オレの顔面で潰れた。
「…………!!」
幸福で悶絶していると、マリナは離して言った。
「治ったなら………さわれる?」
マリナは、ときめきと恥じらいを足して二で割ったような、色っぽい顔をしていた。
「今日は………朝と、昼で、二十回ぐらいしか………してない。」
「二十回って、けっこう多いと思うんだけど……」
(………。)
マリナは無言で、(かぁ………///)と顔を赤くした。
かわいい。
右手もしっかり治ったことだ。
オレはおっぱいに手を伸ばし、唇にキスをした。
◆
レリクスの息子――レイン=カーティスに回復魔法の基本を教えた日の夜。
屋敷に泊めてもらったわたしは、昼のことを思い返していた。
あの少年は、レリクスと似ていた。
英雄的な眼差しが、レリクスをほうふつとさせた。
しかも少年である。
まだあどけない瞳や、五月の若葉のような瑞々しさ。
大人の体へと向かおうとするうっすらとした筋肉は、いけない衝動を催される。
わたしは、世界のあちこちを旅したり、こうやって村を訪れて、治癒魔法を使用している。
その一方で、王都の魔法学園に相談役として呼ばれることも多い。
そこにはたくさんの少年がいる。
彼らのキラキラとした眼差しは、正直に言って危ない。
しかしあの少年の眼差しは、彼らの眼差しの魅力に加えて、そこはかとない矛盾を足した蠱惑的な雰囲気を…………。
そこまで考えていたわたしは、自身の顔が熱くなってくるのを感じた。
必死に首を左右に振った。
流れるよう――と評されることも多い金色の髪が、バサバサとゆれた。
イカンイカンイカン!!
これではまるで、変質者ではないか!!
わたしは単に、レイン少年の体と眼差しに、強い興奮を覚えているだけだ!!
変質者ではない!!
仮に変質者だとしても、対象は少年だ!
むしろ健全そのものだ!
変質者だとしても、健全な変質者である!!
わたしは深く息を吸い、
相手は幼い少年である。
わたしより、二七〇近くも下だ。
少年にしても、強くて凛々しく高潔なイメージを、エルフには持っているはずだ。
そのイメージを、師匠のわたしが崩すわけにはいかない。
なにせわたしは先生だ。
先生と、呼ばれている存在だ。
「クハハ、ハハ……」
先生と呼ばれた時のことを思い返すと、胸の奥がくすぐったくなってきた。
少年と先生。
少年と先生。
なんとそそる響きであろうか!!
なんと危険な響きであろうか!!
顔を両手で覆い隠して、ひとり悶え苦しんでしまう。
エルフの耳が、ぴこぴこと動くのが自分でもわかった。
「クウゥッ……!」
いかん。
ダメだ。
二八〇年の間に積もり積もっていた情動が、妙な形でくすぶっている。
山にこもって薬と睡眠魔法で強引にやりすごしていた、四〇年に一度の発情期。
それが一度に襲いかかってきたかのようだ。
「わたしは変質者ではない!」
机を叩いて声を荒げた。
呼吸を整え、何度したかわからない深呼吸。
部屋の隅に、小ビンがあったのが目についた。
体の治癒力を高める、特別な薬だ。
材料自体は安いほうだが、調合が難しい上に時間もかかるので高価な品だ。
治癒魔法の学習に使うのは、少々もったいなくはあるのだが……。
「まっ、まぁ、レリクスの息子であるしな」
わたしはつぶやき、ひとりうなずく。
「レリクスの息子のためとは、レリクスのためでもある。
レリクスは、わたしの村を救ってくれた恩人でもある。
ならば少年のためになにかするのも、当然と言える」
声にだして連呼してると、正論に思えた。
「そそそそ、そうだ。
わたしはわたしは、恩のあるレリクスのために、少年に薬を渡してやるにすぎない。
そう、すぎないのだ。
顔を見たくなったとか、声を聞きたくなったとか、やましい気持ちは一切ない」
何度も何度もうなずきながら、薬を片手に少年の部屋へと向かった。
部屋のドアの前に立つ。胸に手を当て、深呼吸。
暴れていた心臓を落ち着かせて、ドアをこっそりとあけた。
中を見る。
(ななななっ…………!!)
少年は、すごいことをやっていた。
膝枕などという過激なプレイをしていたかと思いきや、キキキキ、キスまで始めた。
そして最後は……。
ボンッと湯気が湧きあがり、わたしの体がぐらりとよろけた。
なななな、なんなのだ。
アレは、ホントに、なんなのだ。
心臓のバクバクと鳴る音が、鼓膜の後ろで響き渡る。
これは……。
実に……。
(けしからん!)
もう本当に、けしからん。
よってわたしは、監視を続けた。
どのくらいけしからんことをしてるのか、把握するためである。
以上でなければ、以下もない。
体はうずいて火照ってきたが、少年と少女のためであるのだから仕方ない。
もう本当に、仕方ない。
(ふわあ、あっ、あっ。けしからん。実に……実にけしからん!!)