規格外れの英雄に育てられた、常識外れの魔法剣士   作:kt60

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 閑話 レイン十四歳のイチャイチャを覗く、リリーナ二八〇歳。

 

「ぐああぁ~~~」

 

 回復魔法の訓練が終わった。

 オレはベッドに倒れこむ。

 

 マリナは静かにベッドに乗った。

 着ている服は、薄くて色っぽいネグリジェだ。

 

「大丈夫………? レイン。」

「へいきだよ……。マリナ」

「おっぱい………さわる?」

 

 オレはマリナの巨乳を見つめた。

 顔がほんのり熱くなる。

 しかしすぐさま目を逸らし、正直なところを言った。

 

「いい、今は手が痛いから無理…………かな」

「ひざまくら………なら?」

「できる……かな」

 

 オレはもぞりと体を動かし、マリナの膝に頭を乗せた。

 やわらかな太ももが、とても至福だ。

 

 オレは静かにため息をつく。

 マリナには平気と言ったけど、実際まったく平気じゃなかった。

 

 傷を治す魔法と、失った血液まで回復させる魔法は別だ。

 訓練で失った血液は、失ったままである。

 よって体は、普通にふらつく。

 

 リリーナ先生であれば、血液も含めて治すこともできるのだが――。

 

『体が弱っていたほうが、魔法は発動しやすい』

 

 と言われ、死なない程度にふらついたままである。

 

 同じ理由で、右手も痛い。

 刺された傷が、出血しない程度にそのままだ。

 傷の痛みを肌と視覚の両方で感じ、双方が消えていくイメージを重ねる訓練も重要らしいのである。

 

 オレは再びため息をついて、傷を見つめた。

 つい先刻の、リリーナ先生がかけてくれたヒール。

 

 それで傷が塞がっていった光景を思いだす。

 とある有名なゲームで使われる、主人公がレベル3ぐらいで覚える魔法を唱えたりしてみた。

 すると傷は、じわじわ塞がり――。

 

 

 治った。

 

 

「え……?」

 

 グー、パーと手を握る。

 痛みも完全に消えていた。

 

「半年から、一年はかかるって聞いてたんだけどな……」

 

 オレが持っている才能は、オレが思っている以上にすごいってことか。

 それとも、ひょっとして――。

 

「レイン………。」

 

 オレがあれこれ考えていると、艶っぽい声が聞こえた。

 同時にマリナが、前屈みになる。

 マリナの巨乳が、オレの顔面で潰れた。

 

「…………!!」

 

 幸福で悶絶していると、マリナは離して言った。

 

「治ったなら………さわれる?」

 

 マリナは、ときめきと恥じらいを足して二で割ったような、色っぽい顔をしていた。

 

「今日は………朝と、昼で、二十回ぐらいしか………してない。」

「二十回って、けっこう多いと思うんだけど……」

(………。)

 

 マリナは無言で、(かぁ………///)と顔を赤くした。

 かわいい。

 

 右手もしっかり治ったことだ。

 オレはおっぱいに手を伸ばし、唇にキスをした。

 

  ◆

 

 レリクスの息子――レイン=カーティスに回復魔法の基本を教えた日の夜。

 屋敷に泊めてもらったわたしは、昼のことを思い返していた。

 

 あの少年は、レリクスと似ていた。

 英雄的な眼差しが、レリクスをほうふつとさせた。

 

 しかも少年である。

 まだあどけない瞳や、五月の若葉のような瑞々しさ。

 大人の体へと向かおうとするうっすらとした筋肉は、いけない衝動を催される。

 

 わたしは、世界のあちこちを旅したり、こうやって村を訪れて、治癒魔法を使用している。

 その一方で、王都の魔法学園に相談役として呼ばれることも多い。

 

 そこにはたくさんの少年がいる。

 彼らのキラキラとした眼差しは、正直に言って危ない。

 しかしあの少年の眼差しは、彼らの眼差しの魅力に加えて、そこはかとない矛盾を足した蠱惑的な雰囲気を…………。

 

 そこまで考えていたわたしは、自身の顔が熱くなってくるのを感じた。

 必死に首を左右に振った。

 流れるよう――と評されることも多い金色の髪が、バサバサとゆれた。

 

 イカンイカンイカン!!

 これではまるで、変質者ではないか!!

 

 わたしは単に、レイン少年の体と眼差しに、強い興奮を覚えているだけだ!!

 

 

 変質者ではない!!

 

 

 仮に変質者だとしても、対象は少年だ!

 むしろ健全そのものだ!

 

 

 変質者だとしても、健全な変質者である!!

 

 

 わたしは深く息を吸い、(みだ)れた心を落ち着けた。

 相手は幼い少年である。

 わたしより、二七〇近くも下だ。

 

 少年にしても、強くて凛々しく高潔なイメージを、エルフには持っているはずだ。

 そのイメージを、師匠のわたしが崩すわけにはいかない。

 

 なにせわたしは先生だ。

 先生と、呼ばれている存在だ。

 

「クハハ、ハハ……」

 

 先生と呼ばれた時のことを思い返すと、胸の奥がくすぐったくなってきた。

 

 少年と先生。

 少年と先生。

 

 なんとそそる響きであろうか!!

 なんと危険な響きであろうか!!

 

 顔を両手で覆い隠して、ひとり悶え苦しんでしまう。

 エルフの耳が、ぴこぴこと動くのが自分でもわかった。

 

「クウゥッ……!」

 

 いかん。

 ダメだ。

 

 二八〇年の間に積もり積もっていた情動が、妙な形でくすぶっている。

 山にこもって薬と睡眠魔法で強引にやりすごしていた、四〇年に一度の発情期。

 それが一度に襲いかかってきたかのようだ。

 

「わたしは変質者ではない!」

 

 机を叩いて声を荒げた。

 呼吸を整え、何度したかわからない深呼吸。

 

 部屋の隅に、小ビンがあったのが目についた。

 体の治癒力を高める、特別な薬だ。

 

 材料自体は安いほうだが、調合が難しい上に時間もかかるので高価な品だ。

 治癒魔法の学習に使うのは、少々もったいなくはあるのだが……。

 

「まっ、まぁ、レリクスの息子であるしな」

 

 わたしはつぶやき、ひとりうなずく。

 

「レリクスの息子のためとは、レリクスのためでもある。

 レリクスは、わたしの村を救ってくれた恩人でもある。

 ならば少年のためになにかするのも、当然と言える」

 

 声にだして連呼してると、正論に思えた。

 

「そそそそ、そうだ。

 わたしはわたしは、恩のあるレリクスのために、少年に薬を渡してやるにすぎない。

 そう、すぎないのだ。

 顔を見たくなったとか、声を聞きたくなったとか、やましい気持ちは一切ない」

 

 何度も何度もうなずきながら、薬を片手に少年の部屋へと向かった。

 部屋のドアの前に立つ。胸に手を当て、深呼吸。

 

 暴れていた心臓を落ち着かせて、ドアをこっそりとあけた。

 中を見る。

 

(ななななっ…………!!)

 

 少年は、すごいことをやっていた。

 膝枕などという過激なプレイをしていたかと思いきや、キキキキ、キスまで始めた。

 

 そして最後は……。

 ボンッと湯気が湧きあがり、わたしの体がぐらりとよろけた。

 

 なななな、なんなのだ。

 アレは、ホントに、なんなのだ。

 心臓のバクバクと鳴る音が、鼓膜の後ろで響き渡る。

 

 これは……。

 実に……。

 

(けしからん!)

 

 もう本当に、けしからん。

 よってわたしは、監視を続けた。

 どのくらいけしからんことをしてるのか、把握するためである。

 

 以上でなければ、以下もない。

 

 体はうずいて火照ってきたが、少年と少女のためであるのだから仕方ない。

 もう本当に、仕方ない。

 

(ふわあ、あっ、あっ。けしからん。実に……実にけしからん!!)

 

 

 


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