比翼連理   作:風月

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因果ー2

荀彧が怪我をした。

(さん)(すい)は庭に転倒したままじたばたもがく荀彧を、そして慌てて駆け寄る曹操やその部下達を他人事のように見ていた。慣れない跳び蹴りなどするからだ。

荀彧は右足首が自分の意思で動かせないのに、夏侯淵の制止を振り切り立ち上がろうともがいている。

 とはいえ、荀彧が涙をこぼしながら欄干に捕まって体を起こす段階になると、こっそり逃げ出したくなるようないたたまれなさを感じた。とはいえ相手は荀彧だ。弱いところを見せたらつけあがる。第一、珊粋にはいわれもなく跳び蹴りをしてきた嫌いな奴に同情する優しさを持ち合わせていない。

 

 荀彧の怪我に伴って、曹嵩との会談中に背後に控える仕事は夏侯淵に変わることになった。

 荀彧は這ってでも対談に参加すると言い張ったが、曹操に『あなたに仕事を命じるわ。医者に診て常態を確認すること。あなた自身に問題がないと確認できない限り、次の仕事はないと思いなさい』と言われて、悔しそうな顔で女の兵士たちに運ばれていった。

 

 謁見の間の中央には四人用の机と三脚の椅子が置かれている。入り口側に曹嵩(そうすう)が、奥に珊粋と曹操が並んで座った。夏侯淵は無表情で曹操の背後に立つ。

夏侯淵以外の主立った将達も、警護という名目で、壁に並んで待機させている。ひりつくような緊張感の中で、親子の会話が始まった。

 

「任地以外にも手を出して忙しいと聞いていたが、急がし気に入った女性を侍らせられる暇はあったようでなによりだ、華琳。珊粋殿も息災でなにより」

 

「ありがとうございます」

 

 曹嵩から投げられた、白々しくとげとげしい挨拶。珊粋は長い体躯を小さくして頭を下げる。呆れやめんどくさいという気持ちができるだけ出ないようにするためだ。

 一方の曹操は珊粋と同様に頭を下げたものの、反撃に打って出る。

 

「は。この乱世、優秀な者を側に置かねば生き残れないことは、父上もご存知の通りです。ただ、父上のように、各地を転々とせずとも人材が揃う幸運には感謝しております」

 

「外面を大事にするという伝統を引き継いでいるようだな。家の思想にそぐわない者は排除する方針も変わりないのだろうな。お前の方針で私は洛陽で死にかけたのだが、知っていたかね」

 

「申し訳ございません。ですが、洛陽の董卓が皇帝を(かい)(らい)とする反逆の臣であり、多くの諸侯がこれを倒そうと動き出していること久しく。もちろん、漢の臣である我が曹家も、諸侯と足並みを同じくしております。見識深く、時勢の流れも読める父上が、よもや危険な洛陽にいらっしゃるとは考えませんでした。ご無事でなによりです」

 

「・・・・・・董卓殿は今や丞相の任にある。陛下が認めた丞相だ。諸侯に踊らされることなく、正しい道を選ぶことも大事だと思わないかね」

 

「暴力による圧政で民が苦しんでいる事実がある以上、董卓に正義はありません。私は民のため、義のある諸侯に力を貸したいのです」

 

「正義。私の事を知ってなお、きれいごとを言うのだな。あの女にそっくりだ」

 

 曹嵩は急にかすれた声でそう言った。あたりさわりのないはずの曹操の返答が、曹嵩の痛いところを突いたらしい。抑えきれなかったのだろう、強い殺気が漏れる。

 曹操や将はその殺気を曹操自身に向けたものだととった。

 曹操は曹嵩のその反応に目を丸くしたし、夏侯淵も反射的に直立姿勢を解いて拳を握った。壁にいた将達も同様で、夏侯惇はどこからともなく剣を取り出し会談の場まで突進してこようかという状態を許褚に抑えられていた。

 

「戦いがご希望なのであれば、ここではなく武道場に場を移させていただきますが」

 

「いや」

 

 曹嵩は数回深呼吸をした。やがて曹嵩の殺気は消えたが、夏侯惇を始めとした部下達はまだ、戦闘態勢に入ったままだ。

 

「年をとると自分の気持ちを抑えるのが下手になるようだ。この場で華琳をどうこうする意図はない。斬られては困る。謝らせてもらう」

 

 ぞんざいだが、曹嵩は謝罪を口にする。親である曹嵩に謝られては、曹操は強く出られない。曹操の様子を見た配下たちもしぶしぶと定位置に戻り、当初より警戒を強くしながらも話を聞く体制に戻った。

 珊粋ももちろん曹嵩の殺気を近くで見た。だが、曹嵩の殺気が昔の自分が出していたものと同質の、『手の出せない誰か』に対する殺意だと気がついたため、他の者達と違って冷静に様子を見ていることができた。

  先ほど言っていた外面の良さ、家にそぐわない者は排斥するという言葉。加えて曹操に似ている女といえば、一人しか居ない。曹嵩の妻で曹操の母親ということになる。

 よく考えてみると、曹操から父の曹嵩の話は度々聞いていたが、母親の話は聞いたことがない。曹家も貴族故に、家族内部のどろどろした裏事情があるんだろう。

 珊粋が内心げんなりしている目の前で、気を取り直したように曹嵩が口を開いた。 

 

「先ほどおまえは多くの諸侯と言ったが、現皇帝を支える董卓殿の下につく者も多い。私を救ってくれた張繍(ちょうしゅう)殿もそうだ。あと、珊粋殿もか」

 

「は・・・・・・?俺は華琳に拾われるまでは平民です。お偉いさん方に知り合いなんていませんし、董卓なんて名前もつい最近知ったばかりですが」

 

「ああいや、とぼける必要はない。できる男があちこちに種をまく事は義務というもの。平民出というのにたいした手腕だ。私が助かったのも、君があちらとつながっていたおかげかもしれんし、礼を言うよ。うちの華琳を手に入れただけあって、たいしたしたたかさだ」

 

「はあ?」

 

 曹嵩の爆弾発言に壁に並んだ将達がざわついた。曹操も眉間に皺を寄せて、隣の珊粋を伺う。珊粋の得る情報は他の者たちが持ってくるものより正確で、相手の中枢しか知らないような詳細なものも多い。それだけ敵の中枢に情報提供者がいつのであれば、その者が珊粋の事を相手に伝えた可能性がある。

 

「ねえ、犬野」

 

 曹操は珊粋の耳を強引に引っ張って自分の方を向かせた。そのまま机の陰に隠れるまで珊粋の頭を下げさせたあと、額をぶつける。ごつ、と鈍い音がした。

 

「おい、痛いんだが」

 

「痛くしているのよ。涼州関係で心当たりのある者は」

 

「いない。あっちに回った部下も全員無事だ」

 

 痛くされようが、心当たりもないし、思い出せるものもない。

 珊粋は復帰して以降は、肩慣らしということで連合で味方になる諸侯の情報を集める方に回っていて、洛陽に行っていない。

 董卓関連に回っている部下たちも、呂布がいるため深入り厳禁という指令があるため、町中での聞き込み程度しか行っていない。

 

 全て、小声で確認してから曹操は珊粋の耳を解放した。と同時に自分も体を起こして、改めて曹嵩に向き直る。

 

「珊粋君の弁明は終わったかね」

 

「夫には心当たりがないようです。人間違いでは?」

 

「私は実際に珊粋君宛に書状を預かってここに来ているのでね。私は今回、張繍殿の使者としてこちらに来たのだ。娘に代わって張繍殿に命を助けていただいた恩に報いるためだ。珊粋殿には董卓殿の腹心、陳宮殿から仕事の依頼を。もちろん、張繍殿から華琳への手紙も預かっているが、まずはこちらを読んで欲しいと言っていた」

 

 珊粋の目の前に、やけに達筆で『曹操様の旦那様へ』と書かれた書状が置かれた。

 義父が差し出した書状だ。見ないふりでやり過ごすわけにもいかず、珊粋は書状を親指と人差し指でつまんで持ち上げる。

 

「はっきり名前が書いていないものを渡されても困るんですが」

 

「華琳の夫は珊粋殿だけだろう。ならば、珊粋殿あてで間違いない」

 

 曹嵩は威厳を出すように胸を張っていた。実際は腹を突き出すような形になっていたが、当人は自身の姿の滑稽さに気がついていない。父親の圧を出せば娘夫妻は手紙を受け取らざるを得ないとわかっているが故に、優越感に酔う。

 

「義理とはいえ、父が届けた書状だからこそ読むべきものではないのか。つまらぬ平民とはいえ、最低限の礼儀は身につけただろう」

 

「この手紙と俺の出自は関係ないでしょう。怪しいから読みたくないって言ってるんだ」

 

「無礼者め。いいか、この機会にはっきり教えてやる。貴族は腹の中に居るときから貴族だ。気品も礼儀も生まれる前から学び、継続し、育まれる。私は君の義父親だぞ。その私にたてつくなど、こちらではあってはならんことだ。親兄弟の学のなさと無能具合が透けて見えるようだよ」

 

「父上!」

 

「・・・・・・言いたい放題言いやがって」

 

 実の家族を侮辱する言葉を受けて、ついに珊粋は鼻白む。明確な殺気を帯びた視線が曹嵩を刺し貫く。曹嵩は珊粋がどこまでも曹家には従順で反抗されることはないと考えていた。その考えが覆られた曹嵩は自分より強い者の殺気におびえ、身を引こうとして椅子の背に妨害され、逃げ場がないことがわかって絶望した。

 それでも引きつった笑みを浮かべ、震える声で珊粋を非難し続ける

 

「わ、わかっているのか。私は君の義理の父で、華琳の父親なんだぞ、」

 

「だからなんだ。俺は家族を侮辱されて平然とするような、そんな育ちをしてないんだよ」

 

「犬野!」

 

 珊粋は典型的な貴族に対する嫌悪感に流されるまま書状を破った。真っ二つに裂いた紙を両手で握りしめて投げ捨てようとする、その直前。袖を引かれた。曹操だった。

 

「だめよ、お願い」

 

「華琳」

 

「今の父は張繍の正式な使者なの。曹操は使者の応対もできない無礼者、曹操の夫は父と恩人をないがしろにする者と噂が流れれば、今後曹家には誰もついてこなくなってしまう。そうなれば、うちは終わりよ。あなたとの約束も守れなくなる」

 

 耳元で早口でささやかれた言葉に、珊粋ははっとなった。

 高い位を持つでも広い領地と財力を持つでもない曹操の売りは『正道』だ。今は小さな一豪族に過ぎない彼女は、正道を貫くことで名声と人望を高めて、人材を集め、地道に力をつけていくしかない。

だから、正式な使者としてやってきた親の面子は立てねばならない。親を助けてくれた恩人への義理もしっかりと果たさねばならない。それがこの時代における『正道』の根幹であり、致命的な傷になる。そうなれば、曹操は二度と王にはなれないだろう。

 

「・・・・・・この償いはあとで何でもするわ。だから、今はこらえて」     

 

 珊粋は返事をしなかった。下から見上げる曹操に視線を合わせることも。

 ただ唇をかみしめたまま、投げ捨てるはずだった書状をそっと机の上に戻した。しわくちゃになった皺を丁寧に伸ばし、二つに裂かれたつなぎ目を合わせた。

 知らない貴族からの書状だ。後ろ暗いところがありすぎるから、いきなり開くには勇気が必要だった。二度ほど深呼吸をしてから、両方に開く。       

 

 

 

 ――曹操のご夫君へ。君に直接会ったことはないだろうし、君は今の私を知らないだろうが、私は君を知っている。私を追いかけ続けた君への褒美でもある。予州の君の生家に石琵琶が置いてある。おそらく、君の一番上兄のところだ。それを私のところへ届けてくれないか。そのかわりに、君の村を滅ぼした人間達の居所を教えよう。どうだね。悪い取り引きではないと思うが。君が早々に琵琶を持って訪ねてくることを願っているよ 陳公台――

 

 

 

 

「なんだと」

 

 珊粋の口の中がからからに乾いていく。一度では文章の内容を理解できず、何度も何度も視線が文字をなぞっていく。珊粋は石琵琶について一度も家族から聞いたことがなかった。第一、一番上の兄は殺されている。死体は珊粋が自分の目で確認したし、埋葬も行った。読めば読むほど怖くなる内容の文章に、ぞわりとしたものが珊粋の背中を伝う。 

 動きを止めた珊粋を見て、すぐに曹操も横から書状をのぞき込んだ。内容を見て表情を厳しくした彼女は、落ち着いたふりをしている父を厳しい口調で問い詰めた。

 

「父上。書状の内容を知って夫を煽っておられたのですか」

 

「し、知らん。私は張繍殿に手紙を預けられただけだ。陳宮殿にお会いしたこともない」

 

「夫が家族を失った件に曹家が関与していたことは」

 

「それこそ、あるはずがない。私は予州の地を任されたことがないのだぞ」

 

「ああ。曹家は関係ない」

 

 つばを飛ばしながら反論した曹嵩の意見を肯定したのは、意外にも珊粋だった。

 曹操の側にいるようになってからよりはっきりわかったことだが、太守や州牧などを始めとした管吏も、地方豪族も、自分が任された場所しか影響力を発揮できない。例外は袁家など名の知れた名家、都のかなり高い地位に上り詰めた貴族だけ。

 董家は涼州の地方豪族で、都に来たのは最近だ。当時の高官に働きかけられたとしても、涼州と予州は漢でいえばほぼ正反対に位置しており、手出ししても旨みがない。

 そもそも、陳宮はどうして珊粋にたどり着けたのか。珊粋は曹操にだって生まれが裕福な農家だったことと、その家族を理不尽に殺されたことしか伝えていない。

 今の珊粋の出身地、家族構成を知っている人間を考えると、あの惨劇を生き残った者がいたか、珊粋が子供の頃に家を継げずに出て行った数人くらいか。

 

 

「こちらに来る前に調べている。俺の村を襲ったの太守の部隊で、火消しと口封じをした上で利益をぶんどったのが予州牧だ。あとは、全てをもみ消した都の上の方に誰かが残っているはずとは思っていたが」

 

 だからこそ、珊粋は曹操と結婚をした。たった一人では手が届かない。だが、曹家に入れば家族を殺した都の高官が誰だかわかるかもしれない。もし突き止められなくても、王になった曹操が腐敗貴族を全て粛正すれば、少しはかたきをとったことになるだろうと。

  調べなければ。いや、その前に頭を冷やして、冷静になることが先か。

 

「曹嵩殿、これで俺への用事は終わったということでいいな?」

 

「む・・・・・・」

 

 曹嵩にしてみれば、珊粋の態度は気に食わない。もっといびってやりたい気持ちもあるが、平民で義理の父に殺気をぶつけるような、貴族の常識が通用しない男ということもわかった。下手に怒らせてうっかり殺されてはかなわない。

 手紙のおかげで今後の珊粋の立場は不安定になるだろう。自分の懐にある張繍の手紙を渡せば、曹操自身への嫌がらせにもなる。ならば、多少の無礼を大目に見てやったという立場をとることが最善だろう、と曹嵩は考えた。

 

「いや、そうだな。珊粋殿。次はもっとしっかり目上に対する礼儀を学んでくるように」

 

「次の機会があるのでれば。・・・・・・失礼する。華琳、俺は部屋に戻る」

 

 二つにちぎった手紙を袖に入れ、珊粋は立ち上がった。そのまま扉に向かって歩き出した珊粋だが、数歩も歩いたところで目前に青い服が立ちはだかった。夏侯淵だ。

 手紙の内容で頭がいっぱいだったせいで、珊粋はあっけなく夏侯淵に胸ぐらを捕まれてしまった。そのまま珊粋は体ごと強い力で夏侯淵の方へ引っ張られる。襟をつかんで揺さぶられ、胸元の痛みと気道を締められ息が詰まる。

 

「っ、なんだ突然」

 

「勝手に退出しようとして何だとは白々しい。華琳さまはまだ珊粋様に何も言っておらんだろう。まだ疑いも晴れていないのだ。勝手な行動は慎むべきではないか」

 

「疑い?」

 

夏侯淵のきめ細かい唇から漏れた吐息が珊粋の喉元をくすぐっている。

 接吻ができそうなほどの距離に近づいた二人を見て、曹操の機嫌が加速度的に下がっていく。が、怒りで視野が狭まっている夏侯淵は気づいていない。

 

「貴殿が董卓軍とつながっているという件だ。董卓軍と関係があるのならば貴殿は手紙の内容について我々家臣に伝えるべきだ。今のままでは、貴殿が何か我々にとって不都合な事を、知って黙っているように感じられるぞ。曹操様の夫というのであれば、立場にふさわしい行動をとっていただきたい」

 

「秋蘭、あなたこそ立場を弁えた行動をとったらどう?まだ父上と、いえ、張繍殿の使者との会談中よ。相手の思い通りに揺さぶられてどうするの。頭を冷やしなさい」

 

「しかし、華琳さま。その男はっ」

 

「頭を冷やせと言っているの。犬野は私の大事な人よ。家臣ではなく夫なの。一家臣とは立場が違うし、私を裏切るなんてありえない。謹慎させられたくないなら、その手を離しなさい」

 

「・・・・・・失礼、しました」

 

 悔しそうに歯がみしながら、夏侯淵は珊粋を解放して曹操の後方に下がった。その両方の拳を強く握られたままで、許可が出たらすぐに殴りかかってくるだろうと感じられるほど力が込められている。なぜ、自分が曹操にたしなめられたのか理解できていないようだった。  

 珊粋は胸元を見る。曹操に噛まれた胸元は、襟にすれたせいでうっすら歯形から血がにじんでいた。

 曹操の許可を取らなかったのは、動揺していたとはいえ悪かったかもしれない。珊粋の縦に長い体が皆の視線から逃れるように自然と縮こまっていく。

 

 

「犬野。昼過ぎに会議を開くわ。どこかにいったりしないで、部屋にいるように」

 

「了解した。ありがとうな」

 

「いいえ。私こそ、・・・・・・いえ、なんでもないわ」

 

 珊粋は曹操に感謝の言葉を述べてから謁見の間を出た。そのまま駆け足で寝室に向かう。曹操が自分の気持ちを慮ってくれたことが、とても嬉しかった。おかげで陳宮の謎の手紙で動揺した気持ちも少し落ち着いた。

 

 まずは、会議の場で曹操配下の疑いを晴らすことを最優先に考えをまとめる必要があるそのために、自分の過去を曹操の家臣達に話す必要があるし、陳宮の依頼に対して、自分がどうすべきか結論を出さねばならない。      

 

 そこで珊粋は、家族の敵につながる情報を得たわりには落ち着いていることに気がついた。昔の自分なら後のことを考えず、怒りのまま陳宮を脅しに都に向かっただろうに。ああ、曹操の存在のなんと大きいことか。

 こんな場所で。自分の恨みと欲望より、曹操には幸せになってもらいたいという気持ちが強すぎる事を改めて確認してしまうなんて。

 

「あげく結論が、華琳とずっと家族でいられれば、なんて。はは」

 

 あっという間に珊粋は自室に戻った。顔が熱い。そのまま、曹操の匂いが残っている寝台に飛び込む。

 少し眠ろう。少し眠れば、冷静な自分が戻ってくるはずだ。

 珊粋は急速に眠りに落ちていく。 

 

 

 

 曹操がもう二度とこの部屋に戻ってくることがない事を、知らないままに。

 

 




今回もお待たせいたしました。
宛城の戦い編で必要な下地をようやく書き終えることができました。
次からキャラそれぞれをガンガン動かして行くつもりです。

今回も本作を読んでいただきありがとうございました!

また、感想、評価をいただきありがとうございます。
今回も何度も読み返しながら書きました。とても励みになっています。
この場を借りて御礼申し上げます。

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