【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO 作:MYON妖夢
しかし読み直すと黒歴史ですねえ……。
ポーションを使ってHPの回復が始まると、集中力が切れたことで痛みが意識に帰ってくる。右肩を左手で押さえながらキリト達が向かった方向へ歩く仁。脇腹の痛みは時間の経過である程度マシになっている。
「……今はどれくらいまで行ってるかな」
ぼそりと呟く。誰がいるわけでも無い空間に一つの声が響く。
『お疲れさま。ジン君。いや、まだ仕事は残っているようだが』
突然空間に響いた声で仁の身体が思わずビクッと揺れる。
「……見てたのか。相変わらず悪趣味だな」
『まぁそう言わないでくれ。私とていつでも会話できるというわけではないのだから』
『声』と会話しながらも歩きは止めずに口を開く。
「何の用だ? 茅場。……キリトの方には行かなくていいのか?」
『やはり、知っているんだね。何、気にしなくていい。彼のところへはこの後向かうさ』
「そうかい……痛いし不快だろうから早く行ってやってほしいもんだがな」
『そして何の用か。と聞かれれば、単刀直入に答えよう』
仁の目の前に突然ウィンドウが開かれる。記載されている内容は、『super account ID:zin』という文字とパスワードの入力欄だ。
『プレゼントさ。何もこのゲームの運営をしてくれというわけではない。私の好意として受け取ってくれたまえ』
「無茶を言うな無茶を。一般プレイヤーがこんなもん受け取れるか」
無視するように歩くが、ウィンドウは当然仁の目の前に浮いたまま付いてくる。
『これから、必要になるだろう? その後は廃棄してくれても構わない』
「……俺が何もしなくたってキリトが一人で終わらせるだろ。俺が向かってるのだって再開と、顛末を見届けるためだ」
仁がそう言うと、茅場は『ふむ』と少し考えるように黙り、少ししてから再び声を出す。
『キリト君がしようとしているのは、恐らく須郷君と同じようなことだろう』
「そうだな。俺だってそれは好ましくないのはわかってる」
須郷と同じこと。つまり相手を無力にしていたぶるという行為のことだろう。と仁は原作の展開を思い出して頷く。
『だから、ジン君』
「なんだよ改まって」
『真っ向から彼を叩いてやってくれないか』
真っ向から叩く。スーパーアカウント同士のままでぶつかり合え。と茅場はそう言っているのだ。
「……昔のテレビじゃあるまいし、叩いて直るような奴とは思えねえが?」
『確かに直らないかもしれない。それこそテレビのように再起不能になるかもしれない。しかし……もう私にはできないことなんだ』
「……そうか」
茅場晶彦は後悔はしていないだろう。しかしそれを仁に言うということは、やはり須郷という歪んだ人間を生み出してしまった天才には天才なりの負い目があるのかもしれない。
「……わかったよ。貸し一つだ。いつでもいいがいつか返せ。それとアカウントは終わったらすぐに廃棄する」
『構わないさ。貸しは……そうだな。君がいつか病気かなにかにでもなった時にでも私の隠れ家に来てみたまえ。場所は後で送っておこう』
「なんだその不吉な返し方は……しかし既にキリトが終わらせてるかもしれねえがな」
『その心配はないさ……ほら、すぐそこだ。頼んだよ』
その言葉を最後に茅場の気配が消える。仁の視線の先に映るのは中身が真っ暗になったカゴと、その前に立ちすくむユイの姿だった。
「あっ、にぃ!」
「ユイ。どうした?」
「私が介入できない何かで弾き出されてしまったんです……中で何が起こっているのかもわからなくて……」
ポンとユイの頭に右肩から離した手を置き、そのまま手を差し出す。
「大丈夫。俺が何とかする」
ユイはその手を握り、決意の決まったような顔で仁を見上げる。
「システムコード解析……立ち入り禁止指定をキャンセル」
仁の指示は声に出し念じるだけで簡単に世界に認められる。黒いエリアの一部が丸く開き、人が通れる程度の空間が生まれる。ユイは少しだけ驚いたように目を瞬くが、仁のアカウントを見て合点がいったのだろう。訳は聞かずにすぐに視線を前に戻す。中はまだ見えないが、足を踏み入れればすぐにわかることだろう。
「行くぞ。ユイ」
「はい!」
握った手に力が入れられる。AIとはいえしっかり暖かさのあるそれを感じながら、足を踏み入れた。
同時に声が聞こえた。
「システムログイン。ID『ヒースクリフ』。パスワード……」
丁度ヒースクリフとの会話が終わったのだろう。キリトがスーパーアカウントにログインしたのが耳に届いた。
そしてすぐに決して広くない空間にいる者達は新しい来訪者に気付く。
「ジン! 遅かったじゃないか!」
「……お前こそ。やっと反撃かよ」
いたずらっ子のように、いつものように笑って見せる。
「な……なに!? なんだそのIDは!? ぎゃっ!」
オベイロン……須郷はそれどころじゃないようだが、仁が振り抜いた足が須郷の顔面を捉え、吹き飛ばしたことで目を白黒させて仁に気付く、すぐに憎悪の色を灯した目を向ける。
しかし既にそこに仁はいない。
「……悪い。遅くなったな」
「全くね……ヒーローにしても、遅すぎよ」
「……遅れた分の活躍は、すぐに取り戻すさ」
レイゲンノタチを抜刀。居合でそのまま振り抜き、吊り上げられたほむらの拘束具を断ち切る。すぐにアスナのそれも斬り捨て、コマンドを唱える。
「システムコマンド。アイテムID『――――』を消去」
二人の拘束具の手首の部分もコマンドによって消滅する。
「……さて須郷。初めましてだな?」
「お前……お前は……! 畜生! あの野郎は何してやがる!」
「PoHの奴ならもういねえさ。あのキチガイに何を期待してやがる」
「く……く……」
苦悶の表情で身体をくの時に折り、表情が見えなくなる。
「くくく……く……」
いや、違う。
(笑ってやがる……?)
「く……くひゃははははは!」
「!?」
キリトが目を見張ったように須郷を見る。次のシステムコマンドはキリトの口からはまだ唱えられていない。
「しょうがないなぁ……コイツはお前らが絶望してるのを楽しみながら、最後に見せたかったのにさぁ……」
ゾクリと、仁の背筋に嫌な感じが走る。
(ここまで来て、まだ何を隠し持っている……? 原作ではすぐに権限を取り上げられたがために切らなかった切り札を、持っているのか?)
茅場の頼みは、対等なまま須郷伸之を叩くこと。ここで権限を取り合えて弱い者いじめにするのは、彼の頼みに反する。
「来いよぉ! コイツらを殺せ!」
「ッ!」
キリトが焦ったようにコマンドを唱えようとするが、暗い空間から現れたものを見て、その言葉は続かなかった。
「てめぇ……」
仁も顔をしかめる。いつになく厳しい表情で、須郷を睨みつける。
「くくく……お前らはコイツに攻撃できないだろう? だけどコイツはそんなことお構いなしさぁ」
よく見覚えのある、藍色の髪。こちらもよく見覚えのある、紺色を基調とした装備。そして、仁本人が手掛けた藍色の剣。
「ユウキ……」
構えは同じだが目が虚ろで、心ここにあらずといった具合のユウキが、そこにはいた。
「ユウキに……何をした」
下種な笑みを張り付けたまま須郷は楽しそうに言う。
「記憶を書き換えたのさぁ! もうお前らのことなんかなーんにも覚えちゃいない!僕の従順な操り人形だ!」
言うと同時にユウキが真っ直ぐに仁に向かってソードスキルの光を灯した剣で切り込んでくる。
「くっ!」
絶剣単発超重攻撃《エクスカリバー》。両手で持ち直した刀で受け止める。しかしそれはあまりにも重い一撃。大上段からの一撃を受け止めきれずに、仁の身体が後方へ弾かれる。
「さぁどうする! 斬るか!? 斬れないよねぇ! だってソイツはまだ死んだら現実でも死ぬんだからさぁ!」
恐らく真実。SAOからログアウトできていない現状であるユウキは、この場で死んだら現実のナーヴギアでもって命を落とす可能性は、十分にある。
「システムコマンドォ! ペインアブソーバをレベル0に! どうするんだよ英雄クンよぉ!」
「貴様ぁ!」
「おっとやめとけよキリトクン……ソイツがどうなっても知らないよぉ?」
「くっ……」
須郷に斬りかかろうとしたキリトはその一言で動きを止める。何かをしようとしたらユウキの身が危なくなる。IDオベイロンのレベルを落とすコマンドを入力するのすら危険な状況になった。
(恨むぞ茅場……!)
容赦なく何度も攻撃を重ねてくるユウキの攻撃をかろうじて刀で受け流しながら打開策を考える。
「ユウキ! 目を覚ませ!」
「無駄さぁ!」
「てめぇは黙ってろ!」
仁はユウキの一切の遠慮のない攻撃を受けるのは初めてである。勿論デュエルでの対戦経験はあるが、意識がまともにない分本当に容赦がないのだ。
(クソッ! どうすればいい……!)
周りの誰も、打開策を生み出せないし動くこともできない。こればっかりはスーパーアカウントを持ってしてもそれではどうしようもない。
しかも仁が握っているのは慣れていない刀だ。ユウキの猛攻を耐えきることは難しい。
「くぅっ!」
回復しきっていたHPがユウキの攻撃がカスる度に鋭い痛みとともにジリジリと減っていく。剣も実力も一級。このままでは長くはもたないだろう。
「ユウキ! ユウキ!」
「……」
ユウキからの返答はない。しかし、実際に剣を打ち合わせているから仁にはわかることがある。
(呼びかけた瞬間だけ剣に迷いが生まれる。ほんのわずかだが、確かに剣の鋭さが鈍る)
それを認識すると思わず頬が少しだけ緩む。すぐに引き締めるが。
(ユウキも戦ってるんだ。記憶は書き換えられたんじゃない。ユウキの奥深くに閉じ込められてるだけなんだ)
「何をチンタラやってる! さっさと殺れ!」
イライラした声の須郷がそう怒号を飛ばす。するとユウキが剣を引き絞り、特有の光が剣に灯る。
同時に、ユウキの光のない瞳から、光が一筋零れ落ちる。そう、
「ッ!」
絶剣上級十一連撃《マザーズ・ロザリオ》
最初の五連突きを刀でズラして対処しようとするも、一撃ずつが重い。防ぎ切るが刀ごと腕が弾かれる。
次の五連突き。ガードは不可能、そして
当然突きを全て食らい、肩から脇腹まで貫かれた痛みは激痛となって身体を襲い掛かるが、知ったことではない。
最後の一撃。十の点の中央を穿つ最も強い一撃。それを突き出されながらも。
仁はユウキを小さな身体を、強く抱きしめた。
はい。ペースを上げました。これからも維持したい。頑張ります。
そして前書きで書きました通り、細かいことですが全話変更してきました。前々からやろうと思ってて忘れてたんですよね。
仁「駄作者らしい忘れっぷりだな?」
ま、まぁそう言うなって……。
さて、展開としては須郷がとても須郷。テラ子安。
仁「思いつく展開が鬼畜」
君に対して厳しいだけです。
さて、ではこの辺で。
仁「次回もよろしくな!」