【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO   作:MYON妖夢

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お久しぶりです!
今度こそペース上げます!


第五十三話 長き決着

 

 

 無機質な白い空間に響くのは、金属と金属がぶつかり合う音。

 

 無機質な白い空間に瞬くのは、武器の耐久値という名の火花。

 

 無機質な白い空間に踊るのは、二人の男。

 

「おいおい、一本で俺に勝てると思っているのか?」

 

 PoHは速い。あの時の殺し合い(影武者)よりも遥かに速い。しかしそれは仁とて同じはず。だというのに――

 

(速い……決して追いつけないほどじゃねえが、一本だとジリ貧なのは確かだ。問題は二本目が小回りの利かなくて、さらに片刃である刀という点――)

 

 PoHの友切包丁は一応ではあるが短剣のカテゴリに分類される。短剣の特徴としてはやはり圧倒的な小回りの良さだろう。ソードスキルも例外なく身軽で動作が素早いものが多い。今のPoHならば仁が一度二刀を振り終わるまでに少なくとも四回、もしくは五回の攻撃を全て急所へ放り込んでくるだろう。

 さらに片刃であるというのは、両刃に慣れている仁にとっては大きな問題にもなる。

 しかし一刀では勝ち目がないのは既にわかりきっている。手数が足りずに一撃でも攻撃をもらえばそれは現実と変わらない痛みとなって仮想の身体に襲い掛かるだろう。そうなれば僅かでも隙が生まれる。それを見逃す男ではない。

 

「やっと抜いたかBoy!」

 

 二本目を抜き放ち、そのままの勢いで左の刀(レイゲンノタチ)を逆袈裟に振りぬく。それを僅かに身体を逸らすことで最低限の動きで回避し、友切包丁を胸の位置に水平に振るってくる。

 即座に右の剣(無銘)を防御に回し受け流す。直後に跳ね返るように同じコースに包丁が返ってくる。同じ位置から動かしていない無銘で問題なく弾くが現実と同じ(懐かしい)感触と痺れが右腕を襲う。

 さらに包丁の動作が終わる前に視界の端に映るのは肌色の塊。反射的に首を捻ることで拳は耳の横を風を切る音とともに素通りする。

 

(体術まで織り交ぜた連続攻撃。スタイルは俺に似てるがより速く一撃一撃が急所に向かって飛んでくる。いや、単純な速さなら恐らく俺が上……必要最低限の動作だけで済ませているから速く感じるんだ)

 

 戦闘しながらの分析は虚像作製を使用しなくても比較的得意な方であるが、だからと言って明確な反撃の糸口が見つかるかと言えば難しい。

 

「……クレイジーな癖に随分と洗練されてるじゃねえか。もっとジョニー・ブラックみたいに暴れてもいいんだぞ」

 

「アイツは無駄な動きが多かったのさ。いつも言ってやっていたんだがなぁ? 強い奴とやるなら繊細さも必要なんだぜBoy?」

 

「ぬかせ!」

 

 右の突き――身体ごと逸らして回避される。

 左の袈裟切り――包丁の刃の付け根で逸らされ、そのまま柄頭を真っ直ぐに突き出してくる。

 首の動きだけで回避し、突きの状態の右の剣を袈裟に振り下ろす。バックステップで距離を取られて空振りに終わる。

 

「……遊びやがって。随分と余裕だなPoH」

 

「余裕? まさか! だが、楽しい遊びはなるべく長引いた方が気分がいいだろう?」

 

 ポンチョの先で口元以外よく見えないが、ニィッと笑ってPoHは続ける。

 

「面白いものを見せてやるよ。驚きすぎて死んでくれるなよ?」

 

 すぐに距離を詰めたPoHが包丁を一瞬腰に溜めるように構える。すると包丁に淡い光が集まっていく。

 

「っ! まさかっ!」

 

 短剣ソードスキル四連撃『ファッドエッジ』

 咄嗟のこととはいえあの世界でモンスター相手にも慣れている。身体は反射的に四連撃を弾き、一瞬のスキルディレイがあるであろうPoHに向かって水平斬りを繰り出す。

 手応え無し。先にディレイが解けたのか包丁で弾かれた。

 

「なんだよあまり驚かねえじゃねえかBoy」

 

 少しつまらなそうな声音でPoHが言う。

 

「……驚いてるよ。この世界にソードスキルは未実装のはずだが?」

 

「ペインアブソーバをいじれるのにソードスキルを実装できない道理はないだろう? なんならBoyのも解放してやろうか?」

 

「結構だ」

 

 ニタニタと笑うPoHの申し出は当然断って地を蹴る。

 

(ソードスキルがあるならなおさら主導権を握られるわけにはいかねえ。スキルディレイがあるにしても恐らく奴もソードスキル中の緩急のブーストはマスターしているだろう。自由にソードスキルを打てるような時間を与えたらさっきと同じようにブーストを加味しない対処だと危険だ。だからこっちから仕掛け続ける!)

 

 右手で片手剣四連撃『バーチカル・スクエア』のモーションをより無駄のない素早くしたもので切り込む。一撃も当たらないがソードスキルの発動の暇は与えない。ソードスキル特有の光は放たれていないが、黒い刃の軌跡が四角を描く。

 PoHの右手が瞬く。左肩口狙いの袈裟斬りを左半身を引くことで避ける。しかしこれだと仁は左手での追撃を入れることができない。そして途中で止めて薙ぐような水平斬りを左の手首を捻って刀で止める。PoHは受け止められた包丁を刀の位置に逆らわないようにさらに袈裟に振り下ろす。

 

「くっ」

 

 右の剣での防御の介入ができない位置。さらに身を引いて避けようとするが僅かに軽金属防具のない位置の布とともに脇腹が裂ける。

 熱く鋭い痛みが左の脇腹に走る。血の流れるような感覚はないが、仁は何年も前を最後に忘れていた痛み。

 

「きかねえな!」

 

 最後にその位置から逆袈裟に向かって振り抜こうとする包丁を、身を限界まで左に引いたことで前に出ている右の無銘を叩きつけるように振り抜くことで弾く。

 

「チィッ!」

 

 PoHの右手が包丁ごと大きく弾かれる。その隙を逃さないようにHPを確認することもせずに刀をPoHの首に向かって振るう。首を引いて躱されるが、本命は次。振り抜かずに左の刀を真っ直ぐに突き出す。

 首狙いの一撃は首ではなくギリギリで避けられてPoHの左の肩口を貫く。同時に仁の左の脇腹に新たな熱が広がる。

 

「ぐっ……」

 

「いいねぇ……」

 

 痛みを感じているのは同じはずなのにPoHは笑う。仁も歯を食いしばって痛みを耐え一度距離を取り、HPを確認する。

 手元にないが装備中という状態により、レーヴァテインのHPと防御が2/3というパッシブが発動したままなのかHPは今の二度の攻撃だけで4割ほど減っている。PoHのHPバーも2割ほどは減っているがダメージレースとしては完全に不利な形になった。しかし――――

 

「コイツは……」

 

 ――――PoHの左の肩口の傷から白い冷気が漏れ、少しずつピキピキという音を立てて傷口と肩が凍っていく。霊刀レイゲンノタチの特殊能力が発動したのだペインアブソーバが効かない状態であることから、現在PoHは液体窒素に触れた時のような痛みを追加で感じているだろう。

 

「おもしれえじゃねえかBoy……」

 

「これで……左腕はろくに動かねえだろPoH……」

 

 呼吸を整える。それを見てPoHから笑みが薄くなる。

 

「Boy……お前、()()()()()()()な?」

 

「どうだろうな……? お前こそ慣れてるようじゃねえか」

 

 言いながら斬りかかる。

 

「腹を抉られたら普通はもっと動けなくなるもんなんだぜえ?」

 

「知ったもんかよ!」

 

 左手を使った体術は封じたといってもいいだろう。だが包丁捌きは衰えずに素早く攻撃を繰り返す。

 少しずつ仁の動きが荒くなる。振りが大きくなっていく。そこの隙を突けないPoHではない。

 

「しまっ……」

 

「焦ったなBoy!」

 

 上からの袈裟斬りを下からの振り抜きで弾かれる。さっきと同じぶつかり方だが今度は仁の腕が跳ね上げられる。それによって生まれたさらなる隙に回し蹴りが仁の胸の中心を捉えふき飛ばされる。

 

「かっは……」

 

 胸に強い衝撃を加えられ、一気に肺の中から仮想の空気が追い出される。痛みに耐えつつすぐに体勢を立て直し前を見る。

 

「焦りは禁物だぁ!」

 

 すぐ目の前に見たことのない真っ暗な光を灯した包丁を突き出して突っ込んでくるPoHが見える。逆手に構えられたそれが振り下ろされる瞬間にPoHの横の空間に飛びつくように回避する。しかしどうやら単発ではないらしい。転がった仁を追うようにPoH自身を軸にした180度回転斬りが放たれる。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に振り向きながら右の無銘を防御に回すように振り抜く。だが、仁は忘れていた。

 

「なっ……」

 

「運に見放されちまったなぁ?」

 

 嫌な感触とともに無銘の刃が半ばほどから()()()()()

 そう、ガーディアン達との連続戦闘の後に剣の耐久値を確認していなかったのだ。あの戦闘で酷使された剣の耐久値はかなり減っていたのだ。

 幸いPoHの攻撃を僅かに逸らして砕けたため二撃目を食らうことはなかったが、まだPoHの包丁の暗い光は消えていない。

 

「そろそろ終わりかBoy!」

 

 三撃目、四撃目と転がるように避ける。格好悪いが見た目など気にしていられるような状況ではない。そこでようやく包丁から光が消える。

 

「突進系かつ連続攻撃のソードスキル……いいユニークスキルもってやがる」

 

「さぁて、どうするBoy……」

 

 再び同じ色の光が包丁に集まる。その構えを仁は見たことがある。

 ユニークスキル悪心剣九連撃『ダークマター』。一撃ごとが重く鋭く、そして全て急所に向かって放たれる凶悪なソードスキルだ。一撃でも食らえば致命傷となる。

 

「しっかり避けないと死んじまうぜぇ!?」

 

 一、二撃目――低姿勢から両足のアキレス腱狙い。飛びのいて回避。

 三撃目――跳ね上がるように右の脇下狙い。刀で防御。

 四撃目――そのまま首狙い。全身を深く沈めることで回避。

 五撃目――両手で包丁を持って沈めた体を頭に向かって振り下ろす。頭上に構えた刀で受け止める。

 六撃目――もう一度少しズラして振り下ろし。防御が逸れ反射的にバックステップをするが肩に刃が食い込む。熱い痛みとともにHPが三割ほどさらに削れ始める。

 七撃目――距離を詰めるように僅かにフロントステップ。そこから引き戻した包丁を再び両手でもって今度は下から全身を使って釣りのように振り上げる。刀で防御――――

 

「うおっ!」

 

 ――――刀ごと左腕が跳ね上げられた。身体も大きくのけぞり大きな隙ができる。

 

「ハッ! あっけねえな!」

 

「くそったれ!」

 

 首狙いの八撃目。ほとんど無意識に右手を振り抜く――――

 

「あ?」

 

 PoHの右腕が大きく跳ね上がる。ソードスキルの軌道から大きく逸れたためソードスキルが中断された。

 

「おいおい……お前、いったいどこからそいつを出した!」

 

 右の手に新しい重さを感じる。それを見ると、いつか彼が振るっていた、そしてSAOではキリトが振るっていた、黒い剣『エリュシデータ』が握られていた。

 

「……そうか。そういうことか!」

 

 元々、彼の転生による特典は失われていたわけではない。剣の生成能力は別にそれは仮想世界でしか使えないというわけではなかったのだ。

 彼もそれを試したことがあるわけではなかった。SAOでは不正扱いで強制ログアウトなんてことが起こっては不味いし、現実世界では試そうとすらしたこともなかった。それゆえに忘れていたのが、無意識に身を守るために発動されたのだ。

 そしてそれはつまり、この世界で得た『虚像作製』は無理にしても、転生特典であるユニークスキル『二刀流』も問題なく発動できるということに他ならない。

 

「ずるいなんて言うなよPoH……お前もシステムをいじってるんだからなぁ!」

 

 両の剣が強く輝く。二刀流二十七連撃『ジ・イクリプス』を発動させる構えだ。

 大きく右腕を跳ね上げられ、さらに左肩が凍り動かせるのは両足だけ。しかしそれではこれを凌ぎ切れない。

 太陽コロナのように激しい連撃を途中までは足捌きで回避したPoHだが、一撃が入った瞬間飲み込まれた。

 

「おおおおおおおっ!」

 

 二十七回の剣劇が終わった時には、全身を斬り刻まれたPoHは地面に倒れ伏していた。右手は肘から切り飛ばされ、右足は膝から、左足は付け根から失われ、HPゲージは残り1割がゆっくりと0に向かって動いていく。ペインアブソーバによって還元されたダメージは確実にPoHの現実の姿すら大きな傷跡を残しただろう。

 

「……クッ」

 

「終わりだな。今度こそ」

 

「クッハハハハハハハハハハ!」

 

 PoHは笑う。全身の痛みなどないかのように高らかに、楽しげに。

 

「……やっぱり狂ってるよ。お前は」

 

「ハハハハハハハハ……。楽しかったかBoy? 俺は楽しかったよぉ!」

 

 それに対して仁は無表情で言う。

 

「どうだかな……」

 

 既に手から消えた右の黒い剣ではなく、左の刀をくるっと逆手に構え、PoHに狙いを定める。

 

「PoH。じゃあな。もう来んな」

 

「やっぱり、同じさぁ……」

 

 最後まで笑いを崩さない男の左の肺の位置を刺し貫くと同時に、男はALOの白い空間から存在を消した。




 はい。お久しぶりです。前書きのとおり今度こそペース上げていきます。

仁「投稿はいつも唐突に」

 書きたい作品ができるとやる気は帰ってくるよね。あといい作品を読んだとき。

仁「すかすかで書くって言ってなかったか?」

 構想がうまいことまとまらなかったから今度は違う原作で書くことにしたよ。もしすかすか見たかった人がいたら申し訳ないです。

仁「言ったことを覆すのは提供する側としてどうなんだ?」

 それをあまり言わんでください。
 しかし昔よりハーメルンは居心地が悪くなりましたね。人が増えたら致し方ないこととはいえ、四年前はもっと平和な感じだったんですけどね……。

仁「それはさておき」

 はい。感想、お気に入り登録お待ちしてます!

仁「次回もよろしくな!」

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