【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO   作:MYON妖夢

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お待たせしました。(いつもの)
お待たせした割に短くて申し訳ありません。


第五十二話 因縁

 僅かな意識の空白を終え、キリトと仁はほとんど同時に立ち上がった。

 

「大丈夫ですか? 二人とも」

 

 心配そうな顔をしたユイがそう言う。姿はピクシー体ではなく少女の姿だ。

 

「――ああ、ここは……?」

 

「問題ない」

 

 キリトが周りを見回している間に、エリア移動した際には装備者の仁の背中の鞘に戻るはずの炎剣が無いことに気付く。ウィンドウを開いて装備欄の確認をするが、確かに装備したままになっている。

 

「……まいったな」

 

 ボソリと呟く。二人には聞こえていなかったようで、ユイが話している声が聞こえてくる。

 

「……わかりません。ナビゲート用のマップ情報がこの場所には無いようです」

 

「アスナやほむらのいる場所はわかるか?」

 

 ユイは一瞬目を閉じ、大きく頷いて言う。

 

「はい、かなり――かなり近いです。上のほう……こっちです」

 

 ひとまず炎剣のことは置いておき、音もなく走り出したユイに付いていく。

 走っている最中に念入りに索敵スキルを発動し周りに注意を払おうとするも、どうやらスキルの発動はできないようだとわかりすぐに断念し、代わりに意識を集中させて音と気配を注意深く探る。

 

「ここから上部に移動できるようです」

 

 特に何もなく装飾のない四角い扉の前に到達する。目につくのはそれの脇に配置されている上下に二つ並んだ三角形のボタン。

 

「エレベータね……こりゃ仮想世界ってよりデバッグルームか何かのほうが納得できる」

 

「……なんでもいい。アスナがいるなら行くだけだ」

 

 キリトが上向きのボタンを押すと、ポーンという現実では聞き慣れた効果音とともに扉が開き、箱形の小部屋が現れる。三人で乗り込み、キリトが僅かに悩んだ後に現在位置の上に二つあるボタンから一番上の階のボタンを押す。

 再びの効果音とともに扉が閉まり、独特の上昇感覚が身体を包み込む。

 エレベータはすぐに停止し、開いたドアの向こうに先ほどまでのフロアと同じような湾曲した通路が現れる。

 

「高さはここでいいか?」

 

「はい。――もう、すぐ……すぐそこです」

 

 言うや否やユイはキリトの手を引いて走り出す。仁もそれに続くように走る。

 更に数十秒ユイ達の後を追い、ユイが目も向けずに解除するドアをいくつか走り抜ける。

 やがて少し前でユイ達が止まり、ユイがのっぺりとした白い壁に手を当てるのを見て仁も止まる。壁にはすぐに青い光のラインが駆け巡り。最後に太いラインが四角く壁を区切ったかと思うと、ブンという音とともにその内側が消滅する。

 すぐにユイが先程までよりも早く走り出す。

 

(なんだ……? なんだこの変な感覚は……)

 

 嫌な予感。SAOの頃感じたような、いや、もっとそれ以前から感じたことのある嫌な何か。それが仁の思考にノイズのように混じってくる。

 他の足音や気配は一切感じないし、原作の知識としても今現在は特に何も変わっていると思えるようなことはない。この先の展開もしっかり覚えている。

 

「……!」

 

 ふと仁の足が止まる。キリトとユイが不思議そうに振り向く。

 

「どうした?」

 

「……先に行ってくれ」

 

 二人が怪訝そうな顔をする。

 

「先にやらなきゃいけないことがあるらしい。一人でいい」

 

「……わかった。お前がそう言うなら何かあるんだよな?」

 

 無言で頷く。仁の表情は極めて真面目で険しい。だからキリトはそれ以上は何も聞かない。

 

「気をつけろよ。ここまで来たとはいえ何があるかわからないからな」

 

 少しだけ表情を緩めた仁がそう言って元来た道のほうに振り向く。キリト達の足音だけを聞きながら再び険しい顔になり、足音がしなくなった頃に言い放つ。

 

「……舞台は整えてやったぞ。直接対決に望む場合は自分に有利な状況を作ってから動く……貴様のポリシーだろ」

 

 一拍置いて、本来呼びたくもない、呼ぶことになるはずもなかったその名を――

 

「PoH」

 

 空気が一変する。仁から放たれるそれだけではなく、その場に新たな”殺意”とも”害意”とも、そして”娯楽”とも感じ取れる雰囲気のようなものと笑い声が鳴り響く。

 

「HaHaHaHa! ザッツラァ~イト!」

 

 何もない白い空間が歪むように、因縁とも言える姿が現れる。

 

「よくわかったじゃないか。Boy」

 

「仮想空間だからと言って殺意は隠しきれねぇぞ。まさか生きていたとはな」

 

「なんとな~く分かってたんじゃないか? クラディール達も殺ってくれちゃってよぉ」

 

 ニヤニヤしながらPoHが話す。かつてのラフィンコフィンの仲間が殺されたことを話しながら非常に機嫌がよさそうにさらに続ける。

 

「まさか俺達が何の保険もなくあの戦いをしたとでも思っていたとはおめでたいなぁ? ……尤も、ジョニーとザザの奴は殺られちまったけどな」

 

「貴様のユニークスキル……悪心剣と言ったな。まさか……」

 

「HaHaHa! 察しがいいじゃあないか!」

 

 更に上機嫌に、さらに愉快そうに、殺人鬼は語る。

 

「Dark mirror……悪心剣のパッシブの一つの名前だよBoy」

 

 フードから僅かに覗く口元は依然口角が吊り上がり、ニヤニヤと笑う。

 

「自身の姿と記憶、そしてステータスを他人に一定期間上書きするスキルだ。察しのいいboyならあとは、わかるだろ?」

 

 一方対照的に仁は心底胸糞が悪そうに表情を歪める。

 

「てめぇ……関係ないプレイヤーを影武者にしやがったな!」

 

「That's right! お前達が殺したと思い込んでいたPoHはただの犯罪行為を犯したことすらないただの男! 黒鉄宮のプレイヤーネームすら一時的に偽造する優れものさぁ! 英雄君は罪もない人間を殺したのさ! PKに理解あるゲームはいいもんだよなぁ! 」

 

「……」

 

 (ショック。確かにそうだ。PoHを殺したとされたプレイヤーJinは、その実犯罪とは縁遠い利用されただけのただの人間を殺したんだ。誰だったのかすらわからない。しかし確かに俺は無意味な殺人を犯したということだ。だが……)

 

 ギッとPoHを睨みつける。

 

「……今は貴様に足止めを食らっている時間なんてねぇんだよ。御託はそこまでにしろ。本題はなんだ」

 

 PoHの口元から笑みが消える。

 

「つまんねぇなぁ旋風? もっと苦しんでくれよ。初めて純粋な殺人を犯したのを知っておいて、そんなに戦乙女が大事かよ」

 

 再び笑みが戻る。

 

「まぁいい。本題だったかBoy? 勿論これを教えてやるのも本題の一つだったんだけどなぁ?」

 

 一呼吸おいて、声高々に言い放つ。

 

「システムコマンド! ペイン・アブソーバー、レベルゼロだ!」

 

「なっ……」

 

「HaHaHa! 命のかかっていない殺し合いなんてつまらないだろBoy! 殺し合いにはエンターテインメント! つまり痛みと恐怖だ!」

 

「自身も相応のリスクを持ったスリル……変態野郎が!」

 

「さぁ、イッツ・ショウ・タイム!」

 

 友切包丁を構えたPoHが実に狂って、実に楽しそうに、炎の剣がなく、代わりに名のない剣を抜いた仁に向かって駆けた――




 今回二度目のお待たせしました。そしてお待たせしている間にSAO原作アリシゼーション編が完結しましたね。川原先生お疲れさまでした。
 いや難産でした。この話ともう一つ後の話より後の展開は思いついていました。なのでこれは蛇足というものになるかもしれませんが、唐突に降ってきたアイデアを入れたくなるのは二次作家特有の性かと思います。
 一方キリト側は。の話も書きたいとは思います。
 今回仁君は後書きには欠席ということで一つ。
 では、こちらも終わりが近づいてまいりましたが感想お気に入り登録、そして次回もよろしくお願いします!

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