【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO   作:MYON妖夢

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 お待たせしました。


第五十話 告白

 キリトとリーファとは少し離れたところで仁とシノンはベンチに腰かけている。

 どちらも疲労感等を感じない仮想世界なのにも関わらず、疲れ切ったように脱力している。

 

「……ま、種族で攻略しても無理なグランドクエストを三人じゃ無理だよな」

 

「……変に達観してるわね。あなたなら何としてでも攻略して一刻も早く行きたいって言うと思ってたのに」

 

 ジト目とともにそう言われると仁はいつものような不敵な笑い方ではなく、曖昧に――シノンの目からはそう見えた――笑う。

 

「そりゃすぐにでも行きてぇし、本気でやったさ。だが、今回に関しては無理だって分かってたからな。二人三人が強くても運営の匙加減で攻略不可能になるのがゲームってもんだ」

 

 仁がそう言うとシノンは訝しむようにさらにジトーッと見つめてくる。

 

「このゲームの運営の性格を知っている。みたいな言い分ね」

 

 仁はグランドクエストには連れて行かなかった、今二人にヒールブレスをかけてくれているエイミーを撫でながら言う。

 

「ALOはSAOのデータを利用してる。そうでなければ茅場がいなくなったのにあのゲームから一年程度で別人がここまであの世界に似せることもできなければ、そもそもエイミーもいないだろう。何より俺達のステータスはほぼ持ち越し状態だからな。つまり何が言いたいかってーとだな」

 

 一呼吸おいてから続ける。

 

「このゲームの運営はなかなか愉快な性格してるよ。自分達の技術を大幅に投下するわけでもなく美味しい思いしてるんだからな。まぁ確かに魔法の要素は評価に値するだろうけど」

 

「……いつも思うけどとても歳相応とは思えないわよねあなた」

 

「よく言われるよ」

 

 そう言って今度はいつも通りニヤリと不敵に笑う。

 視界の先ではリーファの様子がおかしくなり、ログアウトしたのが見えた。

 

「どうしたのかしら」

 

「……ま、ありゃアイツらの問題さ」

 

「どういうこと?」

 

「そう遠くない頃にわかる。俺達は次のチャレンジに向けて準備しておくとしようぜ」

 

 むー。とこれまたシノンのジト目が仁に突き刺さる。

 

「ホント、何でも知ってるって感じよね。あなたもそうだけどほむらも妙に大人びてたし、よく考えればSAOでは当時小学生で結婚とか即決ってどういうことなのよ。とか色々言いたいことあるけど」

 

「あー……」

 

 よく考えればあの行為は攻略においては有用だったしお互いの気持ちとしても問題はなかったが、周りから見れば明確に異常だった。ということを失念していた。

 

「……まぁいつか話すことになるだろうし、シノンならいいか」

 

 覚悟を決めたように真面目な顔になってシノンのほうを向く。

 

「まず、これから話すことはすべて事実だ。そう簡単に信じられることでもないと思うけどな」

 

「ど、どうしたのよいきなり改まって」

 

「本をよく読むシノンなら見たことがあるかもしれないな」

 

 また一呼吸おいて――

 

「転生って知ってるか?」

 

「転生……っていうと別の世界に生まれ変わる。とかそういうやつ?」

 

「ああ。端的に言うと俺とほむらはそれだ」

 

「……どういうこと?」

 

 完全に頭の上に?が浮いているような表情のシノンに少し苦笑しながら仁は続ける。

 

「俺は俺が元いた世界で一回死んで、転生した世界でほむらと出会って、さらにこの世界に転生してきた。知ってるような口振りなのは実際に知っているから」

 

「待って、ちょっと待って。凄い混乱してきたのだけど」

 

 まぁ無理もない。と考えて一度黙る。そもそも普通の人間なら一度死んで別の世界で生き返る。などということはありえないことなのだ。シノンが「そんなことありえない」と一蹴していないことが本来ありえないことになるはずのことだ。

 

「じゃあ昔から妙に大人びていたのも、元々見た目通りの年齢じゃないからだったの?」

 

「そういうこと。これでも100を超えてるんだ」

 

「……冗談じゃないのよね」

 

「冗談じゃないが、あっさり信じるとも思わなかった」

 

 そう言うとシノンは少し微笑みながら言う。

 

「だってその表情の時の仁が嘘ついてるのみたことないし、事実として予知みたいな先読みは今までも何度かあったもの。状況として信じる要素が多い」

 

「……自分を世界を別のことで知られてて、今まで死んだ人とかを助けなかったこととか……昔のこととか、で怒られる。くらいは想像してたんだがな」

 

 そう言うとシノンはうーん。と少し悩むそぶりを見せて、少ししてから言う。

 

「……昔のこと蒸し返してもどうしようもないし、確かにあの時あなたがいてくれれば心強かったかもしれない。でも事前に防ぐのは子供の身じゃ無理だった。でしょう?」

 

「それは……そうだが」

 

「ほむらと凄く仲が良かったのも、元々知ってたからなのね」

 

「……ああ」

 

 それを聞くとシノンはふう。と息をついてから

 

「……それなら私の入り込む場所は最初からなかった、か」

 

 ととても小さく呟く。仁に聞こえないように呟いたつもりだったのだろうが、仁には聞こえてしまった。

 それを聞いてしまった仁は、すぅっと目を細める。思うのは罪悪感と申し訳なさ。

 仁とて鈍感なわけではない。自分に向けられた好意に気づいてなかったわけではないし、シノンを嫌いなわけでもない。精神年齢が高いとはいえ可愛い女の子から好意を向けられて嬉しくない男などそうはいない。

 せめてこの場だけは今の言葉を聞かなかったことにしようと思った。きっと慰めの言葉は辛いものになるし、そもそも自分がこの世界にいつまでいるのかすらわからない。前の世界のように寿命を全うできるのか、それとも途中で自分達はこの世界から消えるのか。もし後者ならばシノンの気持ちを応えるのはしてはいけないことだろう。なにより――

 

(ほむら的な意味で後が怖い)

 

 もちろんほむらを裏切るつもりでもないし、ここで「はい」と言うほど仁は軽い男ではない。

 

「あんま言いふらさないでくれよ。本来信じるほうがおかしいことだし、俺達はこの世界にいるほうがおかしいことだからな。変に起きることが変わるのはよくない」

 

「うん。わかってる」

 

「……悪いな」

 

 なるべく小声で呟いた。シノンに聞こえたかどうかは仁には定かではない。

 

「さて、準備準備……どっかにレンタルの鍛冶工房でもありゃいいんだが」

 

「武器の手入れ?」

 

「ああ。だいぶ無茶な使い方してたのにまだ手入れしてやれてないからな。その弓の弦も見ておこうか?」

 

「そうね。お願い」

 

 弓を預かり、左手を振り下ろしてアルンのマップを開く。

 町の中心からそう遠くないところにレンタルの工房が見つかる。

 

「シノンはどうする? 装備のチェックと研磨にはそれなりに時間がかかるが」

 

「見てようかな。向こうでまじまじと見たこともなかったし」

 

「そうか」

 

 二人でレンタルの工房に行くと、すぐに仁は三本の剣とシノンの弓のパラメータを確認し始める。

 

「無銘は流石にそんなに耐久値は減ってねぇな。霊刀はそれなり、弓も今すぐ壊れるってわけじゃない……問題はレーヴァテインか」

 

 レーヴァテインの特殊能力『炎の刻印』は超強力な効果であるが、当然強力な力にはデメリットが存在する。

 レーヴァテインのそれのデメリットは、使用するたびに耐久値が大きく削れるというものだ。先の戦いで乱発すれば突破できた可能性はあったが、その僅かな可能性に賭けてレジェンダリーウェポンを失うのは分が悪い賭けであったため乱発せずに要所要所で使っていたのだ。

 レンタル工房備え付けの回転砥石を起動してSAOから持ち越している鍛冶スキルを使って武器を一本ずつ研磨していく。

 

「リズならもっと上手くやるんだろうけどな……」

 

 研磨し終わっても僅かに全回復しない耐久値を見て思わずそんな言葉が出てしまう。攻略組でなかったにしてもマスターメイサーと高レベルの鍛冶スキルを両立していたリズベットは仁から見ればなかなか根性があると感じていた。

 数十分経って研磨が終わった武器をそれぞれ鞘にしまい、シノンに弓を渡す。

 

「充分回復してると思うけど」

 

「少し残るのはちょっと気分的にアレなんだよ」

 

「戦闘では割と荒い戦い方なのにそういうとこは几帳面よね」

 

「元々の世界では命賭けて戦うなんてことなかったからな。そういう点ではがむしゃらになるしかないんだ」

 

 そう言いながらアルンの世界樹の前まで戻る。既にキリトとリーファは戻ってきていて、もう一人追加でレコンがいた。

 

「話に決着はついたか。お二人さん」

 

 少し驚いたようなキリトとリーファ。

 

「知ってたのか?」

 

「まあな。色んな観点で人を見る目はそれなりにあると自負してる」

 

 シノンがクスクスと隣で笑っているのを横目で見ながら続ける。

 

「で、今度はリーファとレコンも加えて攻略ってか?」

 

「ああ。ユイに少し分析してもらってたんだ」

 

「はい」

 

 そう言ってユイが説明を始める。

 

「あのガーディアン・モンスターは、ステータス的にはさほどの強さではありませんが、湧出パターンが異常です。ゲートの距離に比例してポップ量が増え、最接近時には秒間十二体にも達していました。あれでは……攻略不可能な難易度に設定されているとしか……」

 

「そりゃそうだ。高火力広範囲魔法を同時に打ったとしてもすぐに埋め尽くされる。その一瞬の隙に突っ込んだら完全に包囲されるはずだ。要はまだクリアさせる気は向こうさんにはないってわけだ。何より俺らのビルドは高火力魔法もあるわけじゃない。個々の突破力なら間違いなくこのゲームでもトップだろうけどな」

 

「個々のガーディアンは一、二撃で落とせるからなかなか気づけないけど、総体では絶対無敵の巨大ボスと一緒ってことだな。普通にみればクリアのためのフラグ解除を引っ張ってるってことだろう」

 

 キリトがそう付け加える。

 

「でも、にぃの言う通り異常なのはパパ達のスキル熟練度も同じです。瞬間的な突破力だけならあるいは」

 

 キリトがそれを聞いてしばし黙考する。一方仁はというと。

 

「どう足掻いても無理ってわけじゃない。勝てる可能性としては0には近いが0ってわけじゃない。0じゃなければ理論上勝てる。1%でも掴めるかどうかは俺らの意思と維持だな」

 

 キリトが顔を上げてリーファをじっと見て言う。

 

「……すまない。もう一度だけ、俺の我儘に付き合ってくれないか。ここで無理をするよりは、もっと人数を集めるか、別のルートを探すべきなのはわかる。でも……なんだか嫌な予感がするような、もう猶予時間がないような……」

 

 それを聞いたリーファは一瞬何かを考えた様子だったが、すぐに顔を上げる。

 

「解った。もう一度頑張ってみよ。あたしにできることなら何でもする……それに、こいつもね」

 

「え、ええ~……」

 

 レコンは少し考えながら何かをブツブツと呟きながら諦めたように頷いた。




25日内に投稿するつもりだったんですが、少し遅れてしまいました。申し訳ない。

仁「有言実行くらいしようか」

次からは気を付けます。

ではここまで読んでいただきありがとうございます。

仁「次回もよろしくな!」

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