【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO   作:MYON妖夢

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 遅くなりましたぁ!


第四十五話 領主との約束

 サラマンダーたちが仁とキリトの勝利によって自分たちの領地へ戻っていったのを確認した仁が口を開く。

 

「さて、と。なんとかなったか」

 

 そういいつつ、領主たちの方へ振り向く。

 

「初めまして、だな。シルフ領主サクヤに、ケットシー領主、アリシャ・ルー。俺は仁だ。よろしく」

 

「そうだな。初めまして、見事だったぞ」

 

「ナイスファイトだヨ少年!」

 

「そりゃどうも」

 

 二人が称賛しつつ手を伸ばしてくる。仁としても褒められて嫌なことは何一つないので、素直に手を伸ばし、一人ずつ握手をする。

 

「ところで……どういう状況なのか説明をくれないか?」

 

 サクヤがそういう。仁はリーファに説明を促す。

 リーファは小さく頷き、説明を始めた。

 

「推測なんだけど――」

 

 そう断ってから語り始めた。

 

「……なるほどな」

 

 サクヤは頷き、続ける。

 

「最近のシグルドの態度に苛立ちのようなものがあると感じていたが……」

 

「苛立ち、ね」

 

 仁はそうつぶやいて、少し顔を俯ける。仁の人より少し長い髪が表情を隠す。

 

「サクヤ。あんたもいろいろ苦労してんのはよくわかった。シグルドの野郎のリーファに対する態度もなんとなくわかった。だが――」

 

 仁が顔を再び上げる。その口角は若干吊り上っている。

 

「だからこそ。シルフの領主としても、シグルドにけじめをつけないとな」

 

「もともと、そのつもりさ」

 

 そこに、リーファが口をはさむ。

 

「苛立ち……? 何に対して……?」

 

 それにも仁が答えた。

 

「許せなかったのさ。精力的にサラマンダーに劣っている、現状のシルフたちをな」

 

 さらにサクヤが補足する。

 

「シグルドはパワー思考の男だからな。キャラクターとしての数値的能力だけでなく、プレイヤーとしての権力も強く求めていた。ゆえに、サラマンダーが世界樹を攻略し、アルブヘイムを支配し、それを地上から見上げるという未来図は許せなかったんだろう」

 

「でも……だからってサラマンダーのスパイなんて……」

 

「アップデート五・〇の話を、知ってるか? 始めたばっかの俺らにゃ無縁な話だが、転生システムが導入されるっつー噂だ」

 

 仁がそういうと、リーファが何かが分かったというように表情を変える。

 

「あっ……じゃあ」

 

「サラマンダー領主、モーティマーにでものせられたんだろーよ。領主を殺すのに協力すりゃサラマンダーに転生させてやる。とでも言われてよ。どうもとんでもねぇ額がかかるみてぇだからな。ま、約束なんてあってないようなものだろうがな」

 

 仁がいい終わると、リーファや、それ以外のプレイヤーたちが空を見上げた。何を思っているのかはわからないが、シグルドも救われない男だ。

 

「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームだな。ALOって」

 

 キリトが不意に苦笑交じりにつぶやいた。

 それに仁がくっくと笑いながら同意する。

 

「まったくだ。あのゲームにも劣らねぇよ」

 

「本当にね。このゲームのプログラマーは嫌な性格をしてるに決まってるよ」

 

 シノンまで頷いた。

 

「それで……どうするの?サクヤ」

 

「ふむ……」

 

 リーファが問うと、サクヤは少し迷うようなそぶりを見せた後にアリシャに言う。

 

「ルー。たしか闇魔法のスキルを上げていたな?」

 

 対してアリシャはケットシーの特徴である耳をパタパタと動かし、肯定の意を示す。

 

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあまり続かないよ?」

 

「構わない。すぐ終わる」

 

 その会話を聞いていた仁がつぶやく。

 

「なるほどね」

 

 《月光鏡》という闇魔法は、こちらと対象の前に鏡を生み出し、それを通じて会話をするというものだ。

 アリシャはぴこっと耳を動かし、一歩下がって両手を宙に掲げる。続いて高く澄んだ声がスペルを詠唱し始めた。

 スペルの詠唱が最後まですむと、周辺が急に暗くなり、どこからともなく一筋の月光が差してきた。

 光の筋はアリシャの前に金色の液体のように集まり、やがて一つの鏡のようにかたどられる。

 すぐにその鏡の表面が波打ち、にじむようにどこかの風景を映し出す。

 

「ふん」

 

 鏡の表面に移った光景を見た仁が不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 鏡の表面に移っているのは、ある一室。飾り気はそこまではないが、NPCの家とも違い、何かを感じる部屋。直感的に領主の部屋だとわかった。

 そしてそこのひときわいいものなのだろう椅子に深く腰掛け、机に脚を投げ出している一人の男プレイヤー。

 

「シグルド」

 

 サクヤが鏡に向かってその男の名前を言った。

 瞬間。シグルドは目を見開き、鏡を凝視した。

 

「サ、サクヤ……!?」

 

「ああ、そうだ。残念ながらまだ生きている」

 

 淡々と答えるサクヤ。

 

「か、会談は……?」

 

「条約の調印はまだだが、無事に終わりそうだ。ああ、予期しない来客はあったがな」

 

「き、客……?」

 

「ユージーン将軍とカガナ君がシグルドにヨロシクと言っていたよ」

 

「な……」

 

 シグルドが完全に硬直する。そこに追い打ちをかけるかのように仁が鏡の前に進み出る。

 

「てめぇ……ぜんっぜん懲りてねぇのな」

 

 仁の姿を見たシグルドの反応は簡単だった。

 

「ひっ……」

 

「もう一回殺してやろうか?」

 

 そういって仁が己の首に水平に右手の親指を立てて、スッと横にひくジェスチャーを見せた。

 シグルドは、仁に首を跳ね飛ばされ、完全敗北をしている。そのジェスチャーはこの世界のmob戦では味わえない、本物の恐怖を思い出させるに十分だったようだ。

 

「今からおまえを殺しに行ってやるよ。そこで待ってな」

 

「ひっ……く、来るなっ誰か……誰かっ」

 

 仁が羽を出現させ、宙に飛び上がる。そのまま鏡に映らない位置まで飛ぶと、サクヤにメッセージをうつ。

 そのメッセージを見たサクヤが領主用のメニューを開き、操作し始めた。

 仁が送ったメッセージの内容はこうだ。

『今のうちに追放でも何でもしちまえ』と。

 サクヤが操作をいったん止める。

 

「おそらく今のお前には耳に入らないだろうが……シルフでいるのが嫌ならその願いをかなえてやろう。レネゲイドとして中立を漂え」

 

 そういって、最後の操作を完了する【OK】のボタンを押す。

 その瞬間。シグルドはシルフの領地から追放され、鏡の中から消えた。恐らく中立のフィールドに投げ出されたのであろう。今の状態では、mobに殺されるだけだろうが。

 

「ふん」

 

 降りてくる仁を見ていたサクヤが独り言のように言う。

 

「……私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは次の領主投票で問われるだろう。――とにかく。礼を言うよリーファ。執政部への参加をかたくなに拒み続けていた君が来てくれたのは、とてもうれしい」

 

「シノノンもだヨー。腕を評価して誘ってるのにサー。ぜんぜんOKしてくれなかったのに」

 

「私は、まだ始めて間もないから。そんな重大なことに抜擢されても困るもの」

 

 サクヤがさらにいう。

 

「それとアリシャ。シルフの内紛のせいで危険にさらしてしまってすまない」

 

「生きてれば結果おーらいだヨー」

 

「のんきか」

 

 仁のツッコミが入ったが、完全スルーされる。

 

「あたしはなにもしてないもの、お礼ならこっちの黒二人に」

 

「黒二人ってなんだよ!?」

 

「俺いまそんなに黒いか?」

 

 またスルーされた。

 

「そうだ。ねぇ、キミたち。スプリガンとインプの大使って……ホント?」

 

「なわきゃねーだろ。こちとらまだゲーム参加して二日目だっつーのに」

 

「もちろん大嘘。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

 

「な――」

 

 領主の二人が唖然と口を開く。

 

「……むちゃな男たちだな。あの場面でそんな大ウソをつくとは……」

 

「手札がしょぼいときにはとりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」

 

「はっ。俺は別に強い奴と本気の楽しい戦いができりゃ満足だしなぁ」

 

「おーうそつき君にしてはキミたち。随分強いネ? しってる? さっきのユージーン将軍はALO最強って言われてるんだヨ? そしてもう一人のカガナって子はユージーン将軍の右腕って言われてるネ。それに正面から戦って勝っちゃうなんて……ひょっとしてスプリガンとインプの秘密兵器だったり、するのかナ?」

 

「へぇ、あいつそんなに上等な位置についてたのか。道理で強いわけだぜ。つーか秘密兵器も何も初めて二日だって言ってんだろーが」

 

「まさか。しがない旅の用心棒だよ」

 

「ぷっ。にゃははは」

 

 アリシャはひとしきり笑うと、原作通りキリトに色目を使うかと思いきや――まさかの仁に来た。

 仁の腕を取り、胸元に引き寄せる。

 

「ちょっおまっ」

 

「フリーならキミ。ウチで傭兵やらない? 三食おやつに昼寝つきだヨ」

 

「ならばわたしはこちらを」

 

 サクヤは原作通りキリトの方へ行ったが――。

 

「あのなぁ……俺がキリトみてーに対女体制がないとでも思ってんのか?」

 

 実際仁はアリシャに抱き着かれていても顔色一つ変えずに残っている方の腕で頭を押さえてやれやれと息を吐いている。

 キリトは案の定真っ赤になっているが。

 仮にも100年以上一緒にいる彼女がいる仁に、色仕掛けは通用するわけもなかったのである。

 しかし、シノンの顔が引きつっている。おまけにこめかみがピクピクと動いている。それを見て若干顔を青くする仁。キリトほどではないが鈍感である彼には、シノンが怒っていると判断されたらしい。

 女の色気は通用しない代わりに、女の子の怒りには対応できない仁であった。実際には怒っているわけではないのだが……

 

「ま、まぁ俺は中央の世界樹に行かねぇといけねぇしな。傭兵になるとしてもそのあとだぁな」

 

「世界樹? いったい何をしニ? 観光?」

 

「いや……あそこにいるであろう大事な人に会いに、な」

 

「ふーン。わけありってことかにゃーん? けどあそこにいるのは妖精王オベイロンくらいじゃないかナ?」

 

「……そいつじゃねぇ。けど、今は止まるわけにはいかねぇんだ。行かなきゃ……な」

 

「あそこに行くってことハ、攻略するんだよネ?」

 

 アリシャが仁に問いかける。それに対する仁の答えはもちろん。

 

「するさ。多いに越したことはねぇが、一人でも諦めねぇさ」

 

「……この会議は世界樹攻略のための会議なんだよネ。ケドここで同盟を結んでも、資金が足りないから時間がかかりそうなんだよネ」

 

「別にいいさ。おまえらにそこまでの無理させるわけには、行かねぇしな」

 

 仁が視線を移すと、キリトの方の話が終わり、サクヤに資金を手渡しているのが見える。

 

「……まぁ、金も使い切れねぇくらいに残ってるしな」

 

 左手を振り下ろし、紫のウィンドウを出す。ほむらと結婚していたため、ユルドは約二倍になっているため、約半分ほどをオブジェクト化する。

 

「ほれ」

 

「わっいきなりなに投げて……って重い!」

 

 半分、つまり仁だけで稼いだ分のSAO時代の金は、相当なものである。キリトがサクヤに渡した分をはるかに上回っているだろう。

 

「うぬぬ……」

 

 アリシャが重そうに持っていた袋を地面に置いた。

 

「……10万ミスリルユルド賃……? これ全部……?」

 

「良けりゃ資金の足しにでも使ってくれ。そんだけありゃ向こうのも合わせて充分だろ」

 

「いいノ? こんなニ」

 

「どうせ使い切れねぇよ。俺の獲物はこいつがすでにあるしな」

 

 そういった仁がレーヴァテインを腰から抜き、太陽に向かってかざす。仁でもまだ使いきれていないこの剣は、まだ何かの力が眠っている。様な気がする。

 

「……確かに、これだけあれば十分すぎるネ。というか余りそう」

 

「余ったら余ったでとっときゃいいじゃねぇか」

 

 仁がレーヴァテインを鞘に収め、キリトたちの方へ一歩踏み出した。

 

「ま、俺たちの目的が達成されりゃ俺は完全にすることもねぇフリーだ。そうなったらケットシー領の傭兵ってのも悪かねぇわな。用事はさっさときれいさっぱり終わらせるに限る」

 

 キリトたちの方に目をもう一度向けると、話が終わったのだろうサクヤがこちらに近づいてくる。

 

「暇のある時だけならな。さて、あいつらも話が終わったみてぇだ。そろそろ、出発かね」

 

「ふむ……彼も言っていたが、世界樹に挑むのか」

 

 サクヤがそう問いかけてきた。

 

「ああ、俺にも、しなきゃいけねぇことがあるんでね」

 

「こちらの準備が整い次第、我らも世界樹へ向かう。恐らくは共闘。ということになるな」

 

「ま、それまでに俺らが攻略し終わってなかったらな」

 

 そう、獰猛に笑って言う仁。

 

「ならば間に合わせて見せるさ」

 

 サクヤも仁以外ならば誰をも魅了するであろう美しい笑みを浮かべ言った。

 

「さっきの言葉忘れないからネ? 目的とやらが達成されたらケットシー領(ウチ)にきてよネ? えーと……」

 

「ああ、名乗ってなかったっけか? 俺はジン。ま、暇な時くらいは傭兵になってもいいぜ」

 

「ジン、ネ。覚えたヨその名前」

 

 そういったアリシャとサクヤに背を向けて右手をひらひら振る。

 

「じゃあな。次は世界樹出会うかもな」

 

 視線の先では三人が待っている――シノンだけはジトーっとした眼ではあるが――仁たちにとってのSAOが終わるまでは、そうないであろう。




(≧∇≦)ノ ハーイ♪終わりました。

仁「終わらせかたひでぇな」

思い浮かばなかったんだ。
それと、皆様へ。
 まず、次のヨツンヘイムはすっ飛ばします。理由? 原作と全く同じ展開になるからです。仁とシノンが空気になり、原作通りの展開になりそうなので、抜かします。本当に申し訳ないです。
 それと、高校に入学し、ある程度落ち着いたのですが、高校では文芸部に所属しまして、そちらの文化祭で出すためのオリジナル小説を書かなければなりませんゆえ、さらにペースが落ちるかもしれないということを承知ください。
 ちなみに要望があればオリジナル小説の方もハーメルンにて上げさせていただきます。

仁「なげぇよ」

こっちも大変なんだよ。案外ね。

仁「まあいい」

 では、ここまで読んでいただきお疲れ様です。

仁「次回もよろしくな!」

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