【完】転生者と時間遡行者~Everlasting Bonds~IN SAO   作:MYON妖夢

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第三十七話 災禍へいざなう

「チィ! このままじゃらちが明かねェぞ!」

 

 第七十五層。その階層のボスであるスカルリーバー戦は原作とは違い、死人こそ出ていないまでも相当厳しいところまで追いつめられるものもいるし、第一にスカルリーバーのHPが異常に減らない。仁のメイス系の攻撃を中心という作戦を以てしても、約一時間ほどたっていまだに五段あるHPの中三段目に割り込んだところで止まっている。

 

(そろそろまずいな……少しずつ奴の攻撃威力が上がってる。恐らくは……)

 

「おいディアベル! 気づいてるか、こいつの攻撃力はHP減少に伴って上がってってる!」

 

「ああ! わかっている! タンク隊、装備を完全防御重視に切り替えろ! 少しでもいい、ダメージを減らせ!」

 

 ディアベルが叫ぶと、タンクプレイヤーがいったん下がる、攻撃に重視していた装備を防御重視に付け替える。

 対して仁は今まで愛用していた装備を切り替えず、タンク隊が下がった枠をダッシュで詰めて埋める。

 仁のずっと先ではキリトとユウキ。そしてヒースクリフが鎌を受け止め続けている。恐らく。いや、確実に自分たちよりもずっと集中力と精神力をすり減らしているはずだ。ならばどうして自分たちが攻撃をやめ、戦いをあきらめることをできるか。

 

「おぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 両手の剣を全力で振り続ける。それによって仁がタゲを取るが、襲い掛かる鎌をほむらとディアベルが弾き返し、キリトとユウキが再びタゲを取る。

 

「チッ! やっぱりだめか……ここでこれ以上かくしてても意味がねぇ……か。おまえら! 少しだけでいい、時間を稼いでいてくれ!」

 

 その言葉に帰ってくるのは大きな雄叫び。仁はそれを聞き、すぐに後ろに下がり、両足で地面をしっかりと踏みしめる。

 

「心意システム……解放」

 

 その言葉と共に仁の体から何かの枷が吹き飛ぶような衝撃波が発生し、一瞬にして雰囲気が変わる。

 しかしそれだけでは終わらない。

 

「さて……一気に決めさせてもらおうか……。こい、俺の身を糧とし、力を貸しやがれ! 災禍の鎧!」

 

 仁の体を真っ黒な何かが包み込む。一瞬の間のあとに、仁の姿が再び現れる。しかし、その姿は黒。ただ漆黒。今までつけていた装備はそれまでも黒かったが、より深い黒に包まれていた。

 

「……クッ……ぅ。なんとか、使いこなせる、かな」

 

 災禍の鎧。恐らく知っているものならわかるであろう。アクセルワールドでのクロム・ディザスターと同義のモノ。それは心意の中でも、最高に凶悪なものだ。なぜなら、それは心意解放中以外では自分自身の自我を奪われるかわりに、長時間の全ステータスの超底上げをするというものだ。

 そして心意解放中に限り意識を保てる代わりに、稼働時間は心意解放時のみ、つまりHPが残り1になるまでという短い時間だ。そして心意解放状態は前に述べたとおりHPが継続して減っていく。それはスカルリーバーのように高い攻撃力を誇る相手にはずっと不利になる。しかし仁はあえてそれを選択した。

 

「ウ……オオオオオオオオオオ!!」

 

 仁は叫び、地面をける。縮地を使いながらのダッシュ。それは以前ですらヒースクリフがぎりぎり追える程度のスピードだったにもかかわらず、現在のスピードはそれをはるかに上回る。そのすさまじいほどのスピードにより、システムの処理が間に合わない。それゆえにその体を見ていたものからすれば、仁が何人にも分身したようにも見えるし、その体がぶれ、書き消えたようにも見える。

 

「ラァ!」

 

 黒く染まった両の剣をスカルリーバーの尻尾と体の付け根に思いきり振り下ろす。今までならただ弾かれただけであろうその剣は、現在“斬る”という性質ではなく、叩き潰すという用途に変化している。前までよりはるかに上がった重量で相手の付け根を“叩き割った”。

 同時に砕け散り、ポリゴンの欠片となって消滅する尻尾。それを確認せずに仁は次の攻撃へと入る。

 その場で片足を軸にして、無理やり回転する。その勢いのまま両手の剣をスカルリーバーの側面にたたきつける。それにより、思いきり吹き飛ぶスカルリーバー。同時に思いきり地面をけり、宙を舞うスカルリーバーを補足する。そしてそのまま空中でダブルサーキュラーと同じ軌道を描く斬撃で、地面にたたき落とす。

 さらに天井を蹴って垂直落下によるダメージ補正を付けたままで災禍の鎧専用スキル《ブレイカー・キル》三連撃を発動する。真っ黒な軌道を描く垂直切り落ろしがスカルリーバーの鎌を砕く。そしてその真逆の垂直切り上げが再びスカルリーバーを打ち上げる。そして落ちてくると同時に左の剣が横殴りに吹き飛ばす。

 

「なん……だあれ」

 

 そうキリトがつぶやく。それに反応したのかわからないが、その場にいる全員が勝利を確信した。

 

「おい……いけるんじゃないか?」

 

「勝てる……誰も死なずに勝てるぞ……」

 

 仁はそんなことは耳には入っていないが、更に攻撃を連続でかさねる。

 災禍の鎧は通常ソードスキルが発動できない代わりに、専用ソードスキルが存在する。さきほどの《ブレイカー・キル》もそれに含まれる。そしてもう一つが発動する。

 《ディザスター・ブースト》。発動と同時に一気に加速し、そのまますれ違いと同時に水平に一閃する。刀スキルの《紫電一閃》とほぼ同じスキル。しかし威力は段違いで、そこまでの時点で四段目に入っていたスカルリーバーのHPは一気に四分の一ほど削れた。

 しかしスカルリーバーが仁に向かって鎌を振り下ろす。そしてそれを迎え撃とうと両手の剣を構える仁だったが――次の瞬間。

 

「チッ……」

 

 仁の体から漆黒がはじけ飛ぶように消えた。それに舌打ちしながら仁は自分のHPを確認すると、案の定残り1。

 そしてそれに気づいたほむらは時間を止め、仁に迫りくる鎌をぎりぎりでそらし、仁を連れて退避した。

 

「悪いな……ほむら」

 

 災禍の鎧の弱点は、使っている間は圧倒的な力を手にする代わりに、使用時間が短い、そして使った後しばらくは体がうまく動かないということだ。だから使用時間中に射止めたかったのだが、間に合わなかった。

 仁はすぐに無理矢理でも体を動かし、ボスを仕留めようと動こうとするが、しかし体はうまく動かずに前のめりに倒れかけたところをほむらに支えられた。

 そしてほむらからすぐに出されたハイ・ポーションを震える手で受け取り、あおる。こんなときであっても、水分は体中にしみわたり、心地よく全身を満たす。

 

「くそ……もう少しだったってのに」

 

「……馬鹿なのね。本当に」

 

「ん?」

 

「毎回私はいっているわよね? 無茶をしないでって。なんで……なんであなたはいつもいつも無茶ばっか……」

 

 ほむらは涙ぐんでいた。そして仁はそのほむらを見て、大いに戸惑う。

 

「うっ……すまん……」

 

「すまんですむならすでにこんなことにはなっていないでしょう!」

 

「……」

 

 ほむらの剣幕にすでに仁は何も言えなくなってしまった。そしてその奇妙な空気を破ったのはほむらの使い魔である、エイミーだった。

 

「キュー」

 

 エイミーは飛んできたかと思うと仁に《ヒール》をかけ、そのまま飛んで行った。仁は全回復したHPを見て、あわてたように立ち上がる。

 

「ほむら、とりあえずそれはあとにしてくれないか? 今はあいつをたおさねぇと」

 

「……わかったわ。けど……」

 

「ああ、分かってる。ほどほどにしておくさ」

 

 そういって仁は両手を数回開閉してから、すでにフルバーストの終わった二本の剣を抜き放った。戦線ではいまだにキリトたちが鎌を防ぎ続けている。しかし鎌は片方を仁が砕いたためしばらくは戻らない。それは尻尾も同様で最初よりもずいぶんと安全な戦いになっている。

 

「お……おおぉぉぉぉぉおおおお!」

 

 仁が《ヴォ―パルストライク》を使いつつ、一気に距離を詰める。そしてその二倍ほどの長さになった刀身はスカルリーバーの骨にあたり、火花が一瞬仁の顔を照らす。

 一瞬動きが止まるが、すぐにその場での二刀による連続連撃を浴びせる。それらは先ほどまでよりも圧倒的に軽い一撃だが、確実に積み重ねる。

 やがてタゲが仁に移り変わる。そしてその残っている鎌を振りかざしふりおろ――そうとしたが、ユウキの絶剣単発最重攻撃スキル《エクスカリバー》によって大きく弾き返される。そこにほむらが《クロックアップ》により加速した体で目にもとまらぬ連続攻撃を次々と繰り出す。

 そして一時離れたほむらが仁に《クロックダウン》をかける。先ほどよりも遅くなった体で仁がスカルリーバーへ《バーチカル・スクエア》を繰り出す。続けてもう片方の剣で《ホリゾンタル・スクエア》を放つ。

 

「はぁぁああああ!」

 

 そこに最年少攻略組プレイヤーリリカが《転打》(回し蹴り)を放ち、その勢いのまま片手直剣をたたきこむ。

 さらに遠距離からシノンの放った矢が空気を振動させる。その無数の矢はスカルリーバーを正確に射抜いていく。

 攻略組のプレイヤーも黙ってみていたわけではない、いやむしろ自分たちより年下のプレイヤーの有志にひかれ、我先にと攻撃を繰り出す。

 

「おおおおおおおぉぉぉぉおおおお!!」

 

 ボスのHP。残り最後の一段の五分の一ほど。そこで仁は賭けに出た。

 《ジ・イクリプス》。二刀流最高剣術二十七連撃。その全方向からの斬撃がスカルリーバーの体を、骨を一本一本寸断するように叩き込まれる。その連撃はスカルリーバーのHPを一気に削り取っていく。

 最後の二十七連撃目。敵のHPは残りの数ミリ。そしてそれが撃ち込まれた――しかしボスの体はいまだにそこにあった。数ドット。本当にわずかな分だったが残っている。そして鎌が仁に振り下ろすために上段に構えられる。が――それが振り下ろされることはなかった。

 一閃。紫の閃光が横一線にスカルリーバーを半分に断ち切った。《紫電一閃》――この世界でのほむらの代名詞ともいえるスキルが、七十五層ボスを切り伏せたのだった。




 (≧∇≦)ノ ハーイ♪ 終わりました。 皆さんおくれて申し訳ありません。

仁「まったくだ」

 2500位は書きだめてあったけどそこから先が遅れてしまってねぇ。

仁「次回は早く書けよ」

 できればね。

 では、感想指摘、☆評価よろしくお願いします。

仁「次回もよろしくな!」

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