「久し振り!」
寝ている俺を謎の空間で起こす人物。真っ白な空間は何処か不安を感じさせるが、同時に安心感も与えてくれる。目を擦りながら、その人物とは誰なのかと声のした場所に目を向ける。
「あぁ、お前か」
目を向けた先には、俺をこの世界へと転生させてくれた張本人である少年...神がいた。神々しさの感じられないこの少年は、人懐っこい笑顔をこちらに向けている。
先の少年の言葉を考える。久し振り──ついこの間じゃね?確か転生したのが4日くらい前で...まだ一週間も経ってないよな。この少年にとって何処が久し振りなのだろうか?そもそも俺はこいつに呼ばれたのは何故だ?
「ふふ、それはね...。なかなか気づけない君にヒントをあげようかと思って!」
「はぁ?」
両手を広げて高らかに宣言する少年に、俺は疑問符を浮かべた。気づかないって何のことだ?俺の能力の欠点?いや、そんなのはわかってる。ポーションがこの世界にはない上に平和で使い道がないということ。それが欠点だから、恐らくこれはない。じゃあ俺自身に何か異常が...?
「おぉ!近くなってきたよ!」
俺が思考していると少年がそう言ってくる。ということは俺自身になにかしら異常があるわけだが...わからない。何をもって異常とするのかの判断基準がないから、何処がおかしいとか、そう言うのには気づけない。
「どういうところを考えれば異常だってわかるんだ?」
「そうだねぇ...。例えば前世を思い浮かべてみて。で、その前世と今とで何処か違うところを探すんだよ」
「って言われてもなぁ...」
「自分のことを他人だと思って考えてみるといいかもね」
少年が更なるヒントを与えてくれる。他人事...か。そう言えば最近は泣くことが多いと思う。これがその異常というやつなのだろうか?でも、この世界に来てから早速困難にぶち当たって、その上これほどまで急展開ときたもんだからてっきり精神が不安定になっているだけだと思ってたよ。
これで正解か?と少年の顔を見ると、何処か微妙な顔で笑っていた。これが苦笑いというやつか...初めてみた。
「そこら辺が近いんだけどね、なんかずれてるよ、君」
「そんなこと言ったってこれしか思い付かないんだよ...」
自分の思考能力の低さに思わず項垂れる。昔からよくアホの娘とか言われてた。娘ってなんだよ、子だろ普通。
「でも、そんだけの理由でなんで俺をこの空間に?」
取り敢えず疑問に思っていたことを聞いてみる。この少年のことだ、これだけの用事のはずがない。そもそも神がちょっとの用事で人を呼び出し、会話をするなどあるはずがないのだ。神は暇ではない...はずである。というか神様って普段何してるの?書類仕事?世界の調整?それとも...見守る?なんか違う。
「バレてた?僕も暇じゃあない。君の思った通り僕はそのような仕事はしてないし、する気もない。神である僕がこの世界を操れるわけでもないし、ましてや見守ってるだけでなにもしないなんてことはない。世界は運命で廻ってるんだよ」
「運命...?」
「そ、何時、何処、原因なんかは全て運命が決めてるわけで神が決めるわけではない。そしてその運命さえも運命が操るわけでもない。非常にランダムなのが世界なんだよ」
言い聞かせるような口調で語る少年。一見難しい事を言っているかのようにも思えるが、運命事態は非常に単純だ。ただ、その時何が起こるのか、その時どう思うのか。ランダムで決まってしまうのが運命なのだ。例えば死んでしまう等のランダムが当たってしまった場合、その人は死に、帰らぬ人となる。これでもよくわからないのなら、こう思うといい。誰も知らないのが運命だ...と。
「でだよ、僕が何をしているかと言えば...その決まってしまった運命を少しでも変えるために、日々教えてるんだよ」
「教えてる?」
「そう。今日は君に頼みたいことがあって呼んだんだよ」
少年は何処か暗い表情をしながらそう言った。神様の頼みごと、それは簡単なものなはずはなく、寧ろ難易度Maxなものだと予想ができる。例えば...星が爆発するのを止めろ──とかかな。ま、今の俺にはそんなことは出来ないし出来るはずもないので、恐らくもっと簡単な依頼だろう。依頼内容が気になる俺は、少年に聞いた。
「うーん、そうだねぇ...。聞いてもいいけど、聞いたら絶対に引き受けてね」
「依頼を出すってことは俺が出来るってことだろ?ならやるから聞かせて」
聞く意思を見せて、話してもらうよう促す。
「君がいる世界に、″魔王"が復活するんだよ」
俺は、少年の口から出た言葉を...理解できなかった。だって、この世界はとても平和で、魔王なんて当の昔に倒されて、誰も勇者を必要としなかったから。平和なお願いかと思っていた俺は、後悔することになった。
誤字、脱字等があればよろしくお願いします。