人が生きてきた一生とは、その人にとってかけがえのない物だ。人生は一生に一度きり、やり直しなど利かぬこう難易度のRPGゲーム。
選択肢を一つでも誤ると、そこから転落。地位も名誉も家族も全てを失うことすらある。
大切な誰かが死んだとき、その時にも選択しというのは存在する。つまり大雑把に言えば、生きるか死ぬかということだ。
大切な誰かを思いだし、一生懸命生き続けるか。大切な誰かを忘れて、新しい人生へと踏み出すか。大切な誰かを見捨てるか。大切な誰かを追って自殺するか。
皆は考えたことはあるだろうか?自分の側にいる、それも親しい人間が突然死を迎える。どんな死にかただっていい、想像してみてくれ。その時の君は... 一体どんな気持ちになるだろうかと。
普通はそんなの想像しない。出来ない。普通の人では想像するのに足りないものがある。何かわかるかな?
そう、ズバリ経験だ。その時の気持ちなんて、体験してみなければわからない。体験すれば、自分がどう思い、どう感じ、どうするか等は明確にわかる。
じゃあ想像できる奴はなんなのか?それはソイツがそう願っているだけだ。その時、自分はどんな感情になるのかを願う。例えば親が死んだときには泣きたい... とかだ。みんな誰しも願うことはある。
でも、叶わないときだってある。泣けない、泣けないときだってあるだろう。どんなに悲しくても、どんなに悔しくても、泣けないときだってある。それは決してその人が冷徹で残酷だ... なんて事はなく、ただ理解が追い付いていない... それだけだ。
なんで平気でいられるの?なんで誰かのために泣けないの?そんなことを聞くのは何もわかっていないだけ、心の何処かでは、必ず泣いているのだから。
これから先、長くも短い人生を送っていると、いつか迎えるだろう。人の死を見ることがあるだろう。その時に想像してみてくれ、自分は本当に誰かのために泣けるのかを。自分の死を悲しんでくれる人は... いるのかを。
とある一人の女性が泣いていた。
側にはまだ一歳にも満たないであろう赤ちゃんがいる。恐らくこの女性の子供であろう。可愛い、可愛い女の子だ。
その女性の名前は
「なんで... !なんであなただけ... うぅ... 」
伶奈は一人、近所の病院で涙を流す。他の誰でもない、今この世に存在しない夫の夢美を思って。一人だけ死んでしまった思い人へ向けて。
そう、死んだのは夢美ただ一人。他二人に怪我はなく、この事件は奇跡の転落事故と言われた。あの日トラックを運転していた人は即逮捕、免許の一生剥奪を言い渡された。懲役は約10年。容疑を認めている。
しかしどんな奇跡だろうと、どんだけ生き残ろうと、伶奈にとっては奇跡ではなかった。伶奈が奇跡と感じるのは、夫と娘、両方が生き残る事だった。
あぁ、情けない。人間とはなんと無力で望みの多い生き物だろうか。望めなければ自殺し、望んで失敗すれば自殺する。望んだ先に一体何があるというのだろうか?
奇跡か?夢か?金か?どれもこれも薄汚れ、汚い。人間が思うこと全てが汚いものへと変わっていく。こんなのは正に... 地獄だ。
「くくっ... ハハハハっ!!」
そして人間は壊れていく。大切なものを失う度に人間とは自らを壊して生き延びようとする。壊れなければ、自殺するから。愛する一人娘だって、殺してしまうから。
誰かが止めなければ、誰かが守らなければ、決して人間とは生きていけない。しかしここには誰もいない、誰も来ない。現在時刻は夜中の2時。来る方が可笑しい。
「もう、疲れたわ... フフフ」
一人、のそりと立ち上がる。彼女はまだ正気だった。かろうじて愛する娘に癒され、止められた。
「夢奈... 」
娘の名前を呟く、反応など帰ってこない。だが、それでいいのだ。自分の娘を再確認することで心を癒し、正気へと戻していく。やがて悲観しかなかった頭も、スッキリとしていく。
そっと指をその小さな手に近づける。
ぎゅっ... まるで放さぬかのように、遠いところへと行けないように、子供ながら強く握ってきた。
「... ッ!?くぅ... !!」
ポロポロ、滝のように涙が溢れ出す。大切な人を失った悲しみ、娘と自分が生きている奇跡による喜び、どちらの感情もが入り交じり涙を流し続ける。
そして誓う。心ではなく魂で誓う。大切なあの人のためにも、娘のためにも、強く... 強く生きる... と。
そして人は強くなる。
誤字、脱字等があればよろしくお願いします