異世界でポーション屋を開こう!   作:緒兎

13 / 33
 学校まで行くのに1時間半、この小説が書けるくらいに暇なのでござる。

 誰か俺に暇潰しになるようなものをくだされ。


異世界のお母さん

 あれから幾分泣き続けたことだろうか。気がつけば辺りは薄暗くなってきて、空もオレンジ色がさし夕焼けとなっていた。

 日本ではこの時間帯、カラスが鳴くというイメージがあるが、ここは異世界。そんな常識はなく、ただ夕焼け空が広がるだけだ。

 

 「落ち着いたかい?」

 

 「あっ... 」

 

 そんな時間帯になってようやく落ち着いた俺は、ふいに上から掛かった声に一言、短く声をあげることしか出来なかった。

 まだ、先程の失礼というかお恥ずかしいところを見せたというか、申し訳のない気持ちがあるのだ。

 

 しかし何時までもそういうわけにはいかない。ここは面倒を見てくれたことに感謝の気持ちを込めて顔をあげることにする。

 

 「あの... 」

 

 ありがとうございます、その言葉が中々出てこない。やはり恥ずかしいのかどうか、この体が俺の言うことを聞かない。否、感情のコントロールが出来ていないということの方が正しい。

 

 先程、年端もいかない子供のように泣きじゃくってしまったのも、恐らくこれが原因。異世界に転生する際この体に何かがあって、その時にこうなってしまったのだろうか?

 しかし考えても出てこない。恥ずかしながら、頭はそんなに良くない。寧ろ悪い方だ。

 

 「あ.... あり... がと」

 

 やっと出た声は弱々しく、聞き取る方が難しいほどの小さな声だった。

 

 しかしマダム・ウーマンは、俺がなにかを言おうとしているのを察していてくれたのか、気長に待ってくれており、ようやく発した俺の小さな声を聞き取ってくれた。

 マダムは嬉しそうな顔を、優しい微笑みを浮かべ俺を見てくる。その事に俺は今は亡きお母さんのことを思い出した。

 

 

 

 

 俺が10歳の頃だろうか?気づけば家に母親の姿はなかった。

 1998年12月20日、享年56年4ヶ月。俺の母親は亡くなった。

 

 当時の俺は、亡くなったという事が理解できず、何処か遠いところにお出かけしているんだと思っていた。いつ帰ってくるのだろうか、まだかなまだかなと毎日をワクワクと過ごしていた。

 しかしお母さんは帰ってこなかった。帰れるはずもなかったんだ。

 

 2001年5月3日、俺のお母さんの誕生日。奇しくもその日に、俺はその言葉の意味を知った。

 

 朝起きて何時ものようにテレビを付ける、これが俺の日課。何時も平和なニュースが流れるここ日本では、犯罪などは少なく、起こったとしてもニュースにされるほどのことではないというのが、日本人の、俺の常識だった。

 しかしその日は違った。

 

 『えー、ただいま入りましたニュースです。今日未明、○○県○○市の某コンビニエンスストアで、爆発事故が発生しました。』

 

 そうニュースキャスターが話すと画面が切り替わり、爆発して間もないのだろう、赤く紅く輝く炎がまるで全てを燃やし尽くすかのようにメラメラと燃えていた。俺はその光景をまるで脳裏に焼き付けるかのように見続けていた。

 

 そしてその傍らには沢山の人、人人人人... そして道端にモザイクのかけられたピクリとも動かないナニか。

 

 「なに... これ... ?」

 

 『この事故による死傷者はただいま計測中で、最低でも死者は5人、負傷者は8人と思われます』

 

 そう語るキャスターの下に、計測が終わったのだろうかテロップが出てくる。

 

 【死者:約7名、怪我人:9名】

 

 それをキャスターは読み上げていた。

 

 まるで時間が止まったようだった。俺はあるひとつの漢字を見て固まっていた。死者... "死"者。

 その時に初めて理解できた、理解せざるを得なかった。だって、その漢字は──お母さんが巻き込まれた爆発事故の時に流れていたテロップの漢字と同じなのだから。

 

 涙が溢れてくる、もうお母さんは帰ってこないんだと、理解したから。それに2年と半年くらい気づけなかったから。

 

 それまでに変化はあった。お父さんが家で喋ることも無くなり、ずっと落ち込んで暗い顔をしていた。だけど俺は余り変化を感じれないでいた。それは理解していなかったからか、ただ変化を拒んでいただけか。

 

 『──以上でニュースを終わります。』

 

 ニュースが終わると、俺はただ... 泣くことしか出来なかった。

 

 

 

 あぁ、なんて懐かしいんだろうかこの感情。やっと、やっと会えた... お母さんに。

 

 ホロリと涙が頬を伝う。

 

 「あ... 可笑しいな、さっき泣いたはず... なのに... !」

 

 「ど、どうしたんだい!?やっぱりなにかされたのかい!?」

 

 そんな俺にマダムはあたふたと慰めようと声をかけてくる。

 

 「ううん... だいじょうぶだよ、『お母さん』」

 

 その時のお母さんの顔は、まだ覚えている。




 誤字、脱字等があればよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。