異世界でポーション屋を開こう!   作:緒兎

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 子供というのは、頭を撫でられると安心するものです。頭を撫でてあげると、喜び、泣き止むなど様々な反応が伺えます。

 皆さんも、小さい頃は抱っこされるか頭を撫でられるかして、泣き止んでいたと考えるとどうでしょうか?俺はこう思います。

 あぁ、昔は親があんなに優しかったのに... と。


泣き虫

 「でだ、あんたらの言い訳は?」

 

 二人の巨漢を成敗したマダム・ウーマンは、まだ何かを求めているのか、二人を威圧しながら言った。

 

 その問いかけにデカイ方が立ち上がると、苦笑いを浮かべながらマダムを見た。それは何にたいしての苦笑いなのか、俺にはわからない。だけどこれだけは分かる。

 

 その苦笑い怖えぇんだよ!!?

 

 「いやな、こいつが可愛らしい女の子を無理矢理連れてったって街の連中がいうからよぉ、様子見に来たんだけど話し込んじまって... しかも何でか怖がられたもんでね、はっはっは」

 

 「そらあんたらの顔見れば誰だってそうなるわ」

 

 その通り!口では出さないが心のなかでそう言っておく。こんなやつにそんなことを言ったら命がいくつあっても足りないからな。

 

 「んなこたねぇだろ!」

 

 「いやあるね」

 

 「っぐ... しかしまぁ、やりすぎじゃねーか?」

 

 デカイ奴が言って兵士の方へと向く。そこには未だにヒヨコを回している兵士がいた。

 

 確かにあの攻撃ではいくら鍛えたからといって、そうそう耐えられるものではないだろう。それにマダムは相当な力を持ってそうなので、それが合わさってこうなったのだろうことは目に見えている。

 

 しかしマダムは反省するどころか寧ろ清々としていた。

 

 「こんな小さな子を泣かしてんだ、こんくらい必要だろ?」

 

 「鬼だ、鬼がここにいる(鬼だ、鬼がここにいる)... 」

 

 見事に思考が被ってしまった。俺としてはこんなやつと思考が被るのは死んでも嫌なのだが... 。

 

 「とにかくあんたは出ていきな!」

 

 「なぜ!?」

 

 「あんたがいりゃあ怖がってろくに話も聞けんだろうが!」

 

 「分かった、分かったから押すな!」

 

 さっさと出てけと言わんばかりにマダムはその巨漢をぐいぐいと片手で押していく。この人女性なのに何処からそんな力が出ているんだろうか?

 

 十秒もすればこの部屋には気絶した兵士とマダムと俺だけになっていた。

 

 「ごめんよ、あいつらあんな顔だから怖かっただろ?」

 

 マダムは俺の前でしゃがみ、俺の目線に合わせて話始めた。その内容は二人の顔に対する謝罪だったのだが、デカイのが一人居なくなったことに俺は安心していた。

 だからだろうか?涙腺が緩んで涙が溢れだしてきた。

 

 「ふぇ... ふえぇぇ... 」

 

 しかも涙だけでは止まらず、嗚咽まで... 。止まらない、止められない。まるでこの涙は体の意思だと言っているかのように、俺の言うことを聞かない。

 だめだ、こんな年にまでなって涙を流すのは... 恥ずかしい!

 

 しかしマダムは俺のそんな心境を知らずか、抱きすくめてきた。それはまるで母親に抱かれているかのように、優しく、母性に満ち溢れていた。

 

 「大丈夫さ... 怖かったねぇ」

 

 マダムは俺を泣かしたいのだろうか?もう、歯止めなんて効かない... 俺が効かさない。だって、だって... こんなにも安心できるんだから。

 

 この世界、どうやら楽など出来ないらしい。安心など溝にでも、捨てろと言わんばかりに。

 今現在まで振り返ってみようか?上空数万メートルにスポーンして、そこからのスカイダイビング。更には死ぬほどの激痛。路頭に迷うわ方向がわからないわ、街に着いたらこんな強面の男が俺を連れていくわ... もう散々だ。

 

 だから別に恥ずかしいことではない。誰だってそんなことがあれば泣きたくもなるものだろう。男だって、女だって、大人や子供だって... 泣きたくもあるだろう?

 

 俺はマダムの背中に手を回し、その暖かい温もりに頭を押し付け、声を押し殺すこともせず泣きわめいた。

 

 「うわぁぁああ!こわかった... ごわがっだ... なんで、なんで... ふぇぇぇん!」

 

 「あぁ、大丈夫さ。私がいるからね」

 

 マダムの服をぎゅっと掴む。皺になることを考えもせずにずっとそうした。

 

 ──俺の心を癒すのには、これじゃあ足りないから。

 

 あぁ、なんと勝手な事だろうか。こんなにも安心させてくれる存在に、まだ何かを求めるなど...。

 甚だしい限りではあるが、そうしたいのだ。こんなにも疲れきった体、心では、すぐにでも死んでしまいかねないから。

 

 どうやらこの世界は俺に優しくないらしい。否、俺以外の生き物全てに優しくはないだろう。世界とはそういうものだ。誰かが生きるために誰かを殺し、殺され合う、もはや自然の通りだろう。

 しかしそこに優しさが無いかと聞かれれば否、こうして優しい者もいるんだ。

 

 「よーしよし」

 

 まるで子供をあやすように、優しく頭を撫でられる。それはとっても気持ちがよかった、安心できた。これを俺は求めていたんだと直ぐにわかった。

 

 最初に謝っておく。俺を泣かせたら、何時まで泣き続けるか分かったもんじゃないぞ?と。

 

 そこからの記憶は... ない。ただ泣きじゃくった、そんな記憶だけが俺の頭のなかにはあった。




誤字、脱字等があればよろしくお願いします。

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