エヴァンジェリンに憑依した人の日記   作:作者さん

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・魔法世界での非日常への日記

『17●○年 季節は転校した。

 

 魔法の研究なう。大前提として魔法の固定と充填ができなければ話にならないのだが、さすがは私だ! そんなものはとっくに完成させてしまったぞ。闇の魔法はちょっと体に負担がかかる程度で一般人には使えないのが難点だがな! 

 自身を加速させる魔法は極めて珍しく、仮契約でのアーティファクトでもなければ再現されることはあまり無いらしい。私はできたがww。そんな魔法を使いながら魔法を固定したものを直接ぶつけたりすると、面白いことになる。なんという螺旋玉。こおるせかいとか圧縮したものを直接ぶつけたら、私まで吹っ飛んだ。自爆とかそういう技じゃねーからこれ!

 あとセランと仮契約を試してみた。なんか盗撮用アーティファクトが出てきたが、戦闘力皆無で壊れやすいらしい。なんだこのギャグ漫画で積極的に壊されそうなアイテムは。

久々にササムと手合せ。斬魔剣弐の太刀が飛んできて腕を斬られた。いや復活したが。武器が武器で首を刈られたら私完璧に死んでいたかもしれない。(黒く塗りつぶされている)―か―、そ――正――――で死――――い――事――私は…。

 くそ、そろそろ引退したらどうだと笑ってしまったからか? ニコニコと笑顔でいるくせにわざとデカい技ばかり乱発しているせいで、水晶球の美しい庭園がボロボロになってしまった。数年がかりで直した綺麗な庭がまた吹き飛んでしまったではないか!

 自動人形の背中にまた悲しみを背負ってしまった。魂自体が無いから感情起伏もないが……うん、次回から砂漠とかでやろう。というよりどうして今まで庭でやっていたのだ……』

 

『17●△年 季節秋

 

 学園祭キタ――(゚∀゚)――! 聖騎士団候補生の箒レースだ! 合法な賭けには勝てなくてもいいが心が躍る。狙うは倍率三倍。当たらなくてもいいが、このわくわくにはそれだけの価値がある。

飛び入り参加なんて無粋な真似はしないが、参加しない奴等全員分のチアユニフォームは作成済みだ! 夜なべして作った上のサプライズだ! ふはは、残念ながらスパッツは用意していなかったなぁ……スカートの丈が短い? なぁにぃ? 聞こえんなぁ? 喜べ野郎ども! 貴様らにこの瞬間一生の悔い無しと言わせてやる。そこまで考えるのは良かった。

 ……どうして私は自分で作った服を着たのだろう。他人に渡すならともかく、自分で着るのは、見ていて痛いだろうが……。そんなことできたのは若気の至りと言える昔だけだ。

 思春期少年どもの視線がヤバイ。見るのなら他にもいくらでもいるだろう。私の所に来るんじゃない。そしてレース中のやつはこっちみんな!助けろササム!

 そんな私の従者は眼福と言わんばかりにそれをつまみに酒を飲んでいた。グーで殴り飛ばした。軽く回避された。いいおっさんだろうが貴様!』

 

『17●△年 季節秋

 

 叡智の都市と言う名の通り、学園祭には一般へと向けた公開授業を行う事も少なくは無い。……が、どうして私まで参加して講師をしなければならないのだろうか。真祖の吸血鬼、というネームバリューも相まって聴きに来る方々が多い。アリアドネーを出て冒険者になった者たちから、別に会っても大丈夫じゃね、みたいな噂を広げられたらしい。いや別に私の居場所は内緒っていう訳ではないからいいんだが。

 なんか魔族の人もいる。魔族ってすっげー、骨だぞ骨。思わず私も闇の魔法を使ってしまった。友好であることは表すのはいいんだ。だが、顔を近づけるな。モルさん骨なんだよ。笑顔なのかどうか分からないだろう。何気に怖い。

 結果は、すげーと言われたり挑みに来たりと様々だ。やりすぎない程度にぼこぼこにしてしまった。まぁ、笑いあり涙ありの戦闘シーンは漫画で表すなら3刊程度は必要だろう。ササムも参加しそうになってやばかった。げぇ!首刈り! と他の冒険者が叫び声を上げる程だった。なんかアイツも有名になったもんだ。

 そこには人間もいたし妖精もいた。魔族が居れば、ハーフまでいる。私を恐れる者も何人かいたがそれは仕方ない。だが、手ごたえを感じている。』

 

『17Δ▼年 季節 秋終わり。

 

 ……ササムに仮契約の事を教えた奴は誰だーっ!

 なんか気持ち悪い太刀が出てきた。』

 

『17Δ〇 冬

 

 面倒なことになった。なんかとある都市が魔都になってしまったらしい。それなんて型月www、とか思ってた。やっべえ、本読んでる場合じゃねぇwwwワロスwwww! 一番魔の混入に気を使っている、旧世界からの移住者の国で、チェック漏れとかワロエナイ。でも私には関係ないしなー。遠くの国で起きたテロ行為に同情はすれども、何かしようとは思わない。

 そう思っていた時期が私にもありました。 なんかテロ行為の主犯が私になってるワロスwwww。出回ってきた新聞読んで吹き出してしまった。なんで隣の大陸まで行ってテロしなければならないのだ……。エヴァンジェリンは静かに暮らしたい(´・ω・`)。時を止める程度はできるが巻き戻しなんてできないんだよぉ! 頼むから私に静かに研究させろwww

 ああ面倒だ』

 

――――

 

 セランは棚からお茶請けである焼き菓子を取り出しテーブルに置くと、紅茶を取りに奥へと戻る。そして戻ってくると、テーブルの上に放られた書類が目に入った。その書類を放ったのは、足を組んでソファに座るエヴァンジェリンだった。傍らには女の子の操り人形を置いて、いかにも面倒くさい物を見つけた目つきで、じっとその書類を見つめている。その視線の間を遮るように、セランは紅茶をテーブルへと置いた。

 

「そんなに眉間にしわを寄せていたら、後が残ってしまうわよ? エヴァ」

 

「そうだな、こんな面倒な噂が立つぐらいなら、普通にしわができる様な生体でありたかったよ」

 

 焼き菓子に手を伸ばし、口元でそれを割りながらエヴァンジェリンは答える。その声はどこか落ち込んでいて、一人だったのなら溜息の一つでも吐いていただろう。口の中に広がる甘い香りも、どこか思考に引っ張られて微妙なものに感じていた。そして、人形を体の前でぎゅっと抱きしめる。

 セランはエヴァンジェリンの対面へと座り、自ら紅茶を口へと含む。普段ならば秘書などが気を利かせて淹れているために、素人である自分がどこか微妙なものに感じる。しかし、飲めないというほどでもなく、お茶請けに時折手を伸ばしつつ時間を過ごす。今日は休日であり、自分の周りで忙しなく動き回る秘書たちも居ないが、友人であるエヴァンジェリンがこの場所へと訪れていた。

 

「MMでの吸血鬼騒動、ねぇ。いっそここまで広められると清々しい物を感じるわね」

 

「……清々しくなどあるものか」

 

 ふて腐れたような口調でエヴァンジェリンは呟くと、また焼き菓子に手を伸ばし口へと放り込んだ。そこには何時ものように自信を持って尊大に振る舞う彼女の姿は無く、怒られて落ち込んでいる子供のようにも見えた。

 MM国内のとある場所で死都ができた。それは一人の吸血鬼によって民をグールへと変えて、外に出ていきそうだったものを鎮圧した、という事件だった。そしてその付近の、幾つかの村に半吸血鬼が生まれ、その処理に追われている。場所によっては閉鎖されたらしい。

 それだけならばエヴァンジェリンとは全く関係が無い。しかしその被害者の中にこの学園祭で、彼女の催しに参加していたという者が居た。その部分を、疑われたのだ。ハッキリ言ってしまえば、それは誇大妄想だと笑うような出来事だが、MM内では笑いごとにはなっていない。そのように情報操作されていた。その結果MM内ではその吸血鬼がエヴァンジェリンである、と決めつけている様な風潮が流れていた。

 

「まぁ、悪評が広がってそう思えるわけが……っと、渡鴉の人見が丁度その噂に出くわしたみたいだけど、見る?」

 

「遠慮しておく。それを見たら、また気分が落ち込みそうだ。……なんだかなぁ」

 

 タイミングよく開いた窓から部屋へと入り込んできたのは、鳥の形の絡繰りにレンズを着けたようなゴーレムだった。エヴァンジェリンとセランとの仮契約で出現したアーティファクトであり、許可さえあればどこででも潜り込み覗き見ることのできる、というものである。仮契約によるアーティファクトは、その人物が居る状況に必要とされるものが出現しやすい。術者と契約者の、情報の内容はともかく、それが欲しい、という意思が一致した結果出現したもののようだ。

 流れる映像は聞くに堪えない罵詈雑言であり、セランも溜息を吐いてその映像を消した。真祖の吸血鬼という存在に対しての危険視する意見や、過激なものでは抹殺すべきであるという思想の者までいる。些細な、とは言い難い規模の事件ではなかったが、国自体が煽らなければこのような規模の話にはならなかっただろう。

  動いているのはクロフト執政官自らだった。吸血鬼に都市一つを落とされる失態の眼を、こじ付けでいいから報道を操作して真祖の吸血鬼という存在へと向けようとしていた、実態はそんなところであろうとセランは踏んでいる。それよりも面倒なことは、アリアドネーがその吸血鬼を匿っている、と見られているということだ。

 

「なぁ、今のアリアドネーで私はどういう風に見られている?」

 

「図書館のマスコットでしょう? 政治的に、という意味で聞いているのなら、私は貴女が知る必要はないわね、って答えるわ」

 

 現実的に見れば、MM上層部の無能さの苛立ちを、そのまま此方へとぶつけられるかもしれない。しかし距離的な関係、戦力など考えれば戦が起こると考えるのは難しい。手を打つ必要はあっても、緊急性のあることではない。

 それよりもセランとしてはエヴァンジェリンの態度が、らしくないことが気がかりだった。

 

「だが……、私がこの都市に居ることで不利益を被っているのは事実だろう?」

 

「……ああ、そういうこと」

 

 エヴァンジェリンの言葉にセランは納得する。以前、エヴァンジェリンがこの都市に存在することで不利益が発生させるようなら、迷いなく追い出すと言った記憶がある。だが、その当時と比べ、セランにも情は移ってしまったと自覚はしており、その上ここで権力とやらに屈してしまえば、独立都市が聞いて呆れるだろう。

 それらの旨をエヴァンジェリンに伝えるが、やはりその表情は晴れなかった。だが、セランにそれ以外に落ち込む理由が分からなかった。何を言えば良いのか戸惑っていると、エヴァンジェリンから先に口を開かれた。

 

「なぁ、私がもし――――――」

 

 

―――――

 

 

 

「ササムさんって仮契約ってもうしたんですかー?」

 

 そう言ったのはとある学生だった。財布を借りようとエヴァンジェリンを探している最中、道を歩く女子生徒に聞いたときに尋ねられたのだ。ササムのことはアリアドネーではエヴァンジェリンの従者、という肩書で通っているため、一般の生徒も知らないわけではない。また、自分の財布も貯金も存在するが、態のいい理由作りのためというのが真実だった。

 魔法使いの従者、本来大型の呪文を放つまでの時間稼ぐ前衛というのが一般的であり、ササムとエヴァンジェリンという魔法使いと剣士という組み合わせは、確かに強力であることは想像できる。そんな戦闘についての指摘を、どうして女子学生が気にするのだろう、と。ササムは内心で首をかしげた。

 その女子生徒としては、マスコット扱いにされている先生のゴシップを聞きたかっただけだろう。現に、魔法使いとそのパートナーは恋愛対象として扱う事も少なくは無いのだから。そして一般的な契約方法が、キスという事もある。もちろんそれ以外の契約方法もあるのだが。

 していない、とササムが答えれば、女子学生のグループは驚きの声を上げた。さらに、今日仮契約をしに行くのですか? と尋ねられて、多少気圧されながらも頷くと、黄色い声はさらに大きくなった。

 そんな学生たちとは逆にササムは冷静に仮契約の有効性について考えた。魔法使いからの魔力の供給は力をブーストするのには向いており、仮契約でのアーティファクトが出現する可能性もある。それが契約一つでできると考えれば、有効であることは確かだった。

 

「……よくよく考えてみれば否定する要素が無いな」

 

 話し込む学生たちにエヴァンジェリンはセランの部屋へと向かっていた、という情報をようやく聞き出して部屋へと足を向けた。セランからも、エヴァンジェリンと仮契約を行わないかと聞かれていたが、時間を取られるのが面倒だからと断っていたのだ。

 しかしエヴァンジェリンから仮契約について話が出たことは無かった。ササムも、不老不死であるその身に、余計なしがらみを持ってしまう事が億劫であったのではないかと想像している。いい加減、歳もとったためにエヴァンジェリンという存在について、ある程度の理解はある。相手が拒否する可能性もあると、ササムはその現実に顔をしかめる。

 が、現実はそんなシリアスな思考ではなく、ただ単に恥ずかしかったというものと、お互いに魔法使いと従者というポジションが当てはまりすぎて、あまり気にならなかったというのが真実だった。

 

 学園内にあるセランの執務室、実質自室までたどり着くと、中から笑い声が聞こえてきた。ササムの来る少し前までは静かな空間であったが、弾むような声が辺りへと響き渡っている。

 

「……ロ人形だ! モデリングや設定はササムでな……」

 

「はぁ、確かに設定的には……」

 

 なにやら自分の事について何か話しているらしい。それを外からこっそり聞くのも面白そうではあるが、ササムの趣味ではない。ドアを叩き返事が在ったことを確認し、部屋へと足を踏み入れる。

 

「失礼するぞセラン、……と、ここにいたのかエヴァ」

 

「ん? なんだササム、私に何か用か?」

 

 エヴァンジェリンはセランに見せていた人形を一旦隣に置くと、すっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。セランの用意したお茶請けは無く、エヴァンジェリンが自作した三色団子が置いてあり、懐かしい、とササムはそう思った。昔団子屋の店長に、テメェに出す茶は出がらし茶も無ぇよ! と蹴り飛ばされたのを思い出したのだ。が、ササムがそう思ったのも一瞬である。

 セランはササムが部屋に入ってきて、挨拶の一つも返そうと考えてはいた。しかし、ササムがエヴァンジェリンに用があるときは、十中八九遺跡か旅に出かける準備をしよう、ということだろう。後は金を借りに来たか、だ。そのどちらの会話にしてもセランは入るつもりは無く、エヴァンジェリンと同じく紅茶を飲みながら先の言葉を待つ。

 

 

「ああ。道中で思い出したんだが、そろそろ仮契約しないのか?」

 

 

 そうササムが言った瞬間、部屋の空気が揺れた。エヴァンジェリンは器官に紅茶が向かいせき込み、セランはその言葉にただ固まった。そしてゆっくりと紅茶の入ったカップをテーブルに置くと、無表情で、内心で大笑いしながら思った。あ、これ面白そうだ、と。

 

「ななな何をい言っている貴様ァ! と、突然何を言い出すかと思ったらそんなことを急に言うんじゃにゃい!」

 

 真っ赤になり両手を振りながら抗議するエヴァンジェリンに、ササムが解せぬと云わんばかりに首をかしげる。この道中に来るまでの間に女子学生と話したものでは、そこまで緊張したり意気込むようなものではなかったはずだと、そう考えていたからだ。

 友人達の様子を見て、セランの口元がひくひくと動いた。セランも女性である。ゴシップは嫌いでもなく、それが自分の友人たちとしたらなおさらだった。別に今更恋人がどうこう言うつもりもない。二人はそんな風に言葉で決められるような関係ではないのだろう。ただ今は、目の前の光景がただ面白い。少し場面を動かしてみようとセランも口を開く。

 

「いいじゃないエヴァ。仮契約の陣なら貴女だって書けるでしょう? それに私だってしたんだから今更じゃないかしら」

 

「なっ……貴様も余計な事を言うな!」

 

「なにか問題でもあるのか? 無いのなら魔力供給やアーティファクトは魅力的であると思うが」

 

 おそらくササムはその仮契約の方法については知らないのだろう。キスによる契約が一般的ではあるが、血を使ったものなど契約方法は一つではない。そのことにエヴァンジェリンは混乱していて気が付かないようだった。セランとしては面白そうであるため、無理やり権限を使ってでも仮契約を専門としている場所を一日休業にしようと思っていた。しかし、その心配もなく、十分面白い光景が見れそうだった。

 

「ぬぬぬ……ぬわぁー! ちょっと待ってろ心の準備というやつをさせろー!」

 

「あ、おいご主人!?」

 

 部屋を勢いよく飛び出していったエヴァンジェリンを見て、微笑ましいと思ってしまい、自分の性格が案外悪いんだと、セランは今更ながら感じた。それを追いかけていったササムの後方へと、渡鴉の人見に追いかけさせる。流石に恋がどうこうという話ではなく、セランと仮契約を行う時も、恥ずかしがっていたのだ。それが男となるとさらに恥ずかしいだけだろう。

 エヴァンジェリンにお茶請けで出された三色団子を頬張りながら、のんびりと写される映像を眺めた。数十分後、結局仮契約を行ったのだが、セランが一言でその情景の事を言うのなら、微笑ましかった、だろう。

 

 対して、出現したアーティファクトを見つめて、ササムは顔をしかめていた。そのことをセランが知ることは無かった。

 




本来はこんな感じで、軽い空気の小説でした。
シリアスを期待していた方は申し訳ございません。

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