エヴァンジェリンに憑依した人の日記   作:作者さん

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・魔法世界での日常の日記

『17§±年 季節は犠牲になったのだ……

 

 アリアドネーで魔法の研究中。ヒャッハー徹夜だーww大量の本に囲まれながら読書をするのは、優越感なんてもんじゃぁないな。よし、無重力状態にして無限に奥行きのある書庫にしよう! とりあえずフェレットを捕まえてこなくては! ササムに捕まえてくるように頼んだらかば焼きになっているのを渡された。そういうことじゃない。

 なんかササムがトレジャーハンターになっていた件について。おにぎりと剣一つでダンジョンとか遺跡とかを勝手に出かけている。いつからアイツは剣士から風来人に転職したのだ。まあ私にとって数か月ぶりが奴にとっての数日ぶりなんてことはざらだが。水晶球ェ……。

 連れてきてから様々なところに冒険に行ったが、結局腰を据えて研究するのにはアリアドネーが一番だろう。独立都市流石っすww。水晶球を置いていても襲い掛かってくるような者が居ないのはありがたい。ただ、そこの長のセランからは、私かアリアドネーかどちらか取ると言われれば、迷いなく私を出すと釘を刺されている。まぁ、だれだってそうする。私もそうする。

 とはいえアリアドネーの生徒達とは良好な関係を作れているのはいい。今は歳を取ってしまった元生徒現先生などとも、いろいろ話せるのは悪くない。弱みなんて全員分持っているwww。

 さておき、そんな良好なはずの関係の人たちに……ガンを飛ばしながら歩くな私を見つけて手を振るなバカモノがぁ!? ちょっと賞金首刈ってきたじゃない! 血が服についているだろうが、一般人は引くんだ理解しろ! 私になついていたはずの子供がよそよそしくなるだろうがぁ!? 貴様は首刈りではなく農作刈り(収穫)でもやってこい!!

 そう言った私の従者がおばちゃんたちに大人気になってしまった。なんか悔しい。』

 

 

『17Ф∵年 季節 犠牲の犠牲にな……

 

 確か私は前回の日記に、なんか問題があったら放り出す、というようなことを言われたと書いた記憶がある。そんな私がアリアドネーで講師をしているのだが。どういうことなの……。

 暇しているんだからいいじゃないの。セランにそう言われた私は思わず返す。私の出した研究成果でどれだけ貴様らに貢献しているんだろうなぁ、と。すっと目を逸らされ、たまには日の光も浴びたほうがいいわよ、と言われた。私は吸血鬼だって言っているだろいい加減にしろ!! 貴様らの着せ替え人形ではない!? この私にキティと名付けた親はだれだぁ!?

 どうしてこうなった……。相手が悪人なら容赦なく笑ってメシウマ状態になれると言うのに……。いつから魔法世界で真祖の吸血鬼はこんなに軽い扱いになってしまったのだ?

 冷静になって考えてみれば、アリアドネーには人と人以外のハーフもかなりいる。魔族とかも普通に居る。最高位の妖精とかがひょっこり顔出ししたりしている。さすがはある意味無法地帯……統一が学ぶ意志だけというのはひょっとしたら凄いんじゃないのか?

 まぁいい。ぐぇっへっへへへ、覚悟はいいか美少年美少女どもめ。涙目になるような難易度の授業をやってやる。そして私は愉悦るのだww。テストで右往左往するがいいわww』

『追書き 何なのだ、これは!どうすればいいのだ?! どうして私が涙目になっている!? 何が罰ゲームだいい加減にしろ!』

 

『17☆▼年 季節ェ!お前は私の新たなry

 

 遺跡ダンジョン攻略中。授業? 自主学習でもやらせとけばいいんじゃないだろうか。許可は取ってあるのだから、セランがなんとかするだろう。

 たどり着いたダンジョンは、そこそこ面白かった。たまには身体を動かすことも悪くは無い。水晶球の中に籠ったりすることも多く、正直周りの人間の十倍は過ごしている自身がある。つまり楽しかったという事だ。

 が、それは一番奥の部屋に着いたときに吹き飛んだ。なんかイラツク態度の精霊、力を手に入れて調子に乗っちゃった系の奴等がまとわりついてくる。髪が燃えた。イラツク。よーしササムあれ首刈っていいぞー。

 そしたら数秒で片づけた。私の従者マジぱねぇ。私の公開している不細工な人形劇で、馬役のモデルにさせてもらっているが、こっそり可愛い少女Cに変えておこう。なんかばれたら旅行に出かされそうだ。背中に乗れみたいなことを言って。

 

『17(◇)年 季節か、大した奴だ

 

 コスプレ大会、はっじまるよー。どうしてそうなったぁぁああああ! 罰ゲームらしい。ちょっと意味わかんないですねww。セランにNDK?NDK?された。今度街中で武装解除の魔法をぶっぱなそう。あんな、あんなちんちくりんな格好など私は認めん。

 というよりなぜ私が暇つぶしに自作したものの売れ行きが大変なことになっているのだろう? 真祖の吸血鬼の作成、というネームバリューかと思いきや、何気にデザインなどが人気になっているらしい。なんだこの街。勉強しすぎると馬鹿になるという一例ではないか。こてこての魔法使いな格好よりも、少し肌を見せる様な格好の方が人気らしい。時代を先取りしすぎではないだろうか……。あれ、なんでそのデザインの服を輸出している。

 とはいえ、祭りだ。祭りは楽しむべき、否定するのが疲れたというものもある。そういうことで、私も服を作って生徒に着せた。ササムの居た国での衣装、着物を幾つか作成。……どいつもこいつも巨乳で腹が立つ。巨乳には似合わんのだ着物というやつは。まぁ、楽しめたのだから良しとしよう。』

『追記 なんかササムが居た。見られてた。…………(手が震えたため続きは書かれていない)』

 

 

―――――

 

 女性はとある部屋の前まで来ると、鍵がかけられていないことを確認して、部屋へ足を踏み入れた。こつ、とハイヒールが床を叩く音が響き渡る。長く伸ばした銀色の髪に、頭の後ろの方から前へと、角獣のような二本角が生えている。すっと伸ばした背筋に薄い水色のビジネススーツを纏ったその姿は堂々としており、指導者であると思わせる雰囲気を出している。現に、その女性はアリアドネーの現代表として活動を行っているのだから、その雰囲気にも納得ができる。

 魔法の灯りによって照らされたその部屋は多くの本と本棚に囲まれ、その部屋の中心にも本が山の様に乱雑に積まれている。その奥に、足をテーブルの上に乗せながら椅子に座り本を読む少女の姿を見つけ、その女性……セランは腰に手を当てて溜息を吐いた。

 

「またそんな恰好で本を読んで。眼を悪くするわよエヴァ? 灯りぐらいちゃんとつければいいのに」

 

「お前は私のお母さんか。いや、私吸血鬼だからな?」

 

 エヴァンジェリンは持っていた本から目を放して、訪ねてきたセランを見ながら答えた。真祖の吸血鬼なのだから、この程度の事で目を悪くしたりはしない。そういう問題じゃないの、と答えたセランはテーブルに置かれた本の山を左右に分けた。話があるのにもかかわらず、本の山越しというのはやりづらい。

 セランとエヴァンジェリンの関係は難しい。簡単に言ってしまえば友人だが、難しく言えば真祖の吸血鬼と出した研究成果のすり合わせがなんたらと、長くなるだろう。十数年単位での付き合いの友人であるため、エヴァンジェリンとしても雑に扱うようなことはしない。

 

「それでどうかしたのか、アリアドネー現代表様? まさか私を追い出す気にでもなったのか?」

 

「冗談でもそんなこと言わないの。少なくとも私がこの立場に居る限りは、滅多なことが無ければそんなことは無いから。心配したかしら?」

 

「……まぁ、今追い出されたら少し寂しいし、悲しいからな」

 

 口を尖らせていうエヴァンジェリンの可愛らしい言葉に、セランは思わず小さく笑った。確かにセランはこの都市の長として、その存在が庇いきれないほどの害となるのなら、迷いなく追い出すと言ってはいる。もちろん、友人としての思いは別であるが。

 そして自分が何を言ったか理解したのか、エヴァンジェリンは少しだけ顔を赤らめると、わざとらしくせき込んだ。そんな様子がやはり可笑しかったのか、くすくすという笑いがセランの口から零れる。

 

「そんなことよりもだ! 私に用が在ったのだろう、さっさと話したらどうだ?」

 

「あら、そうだったわね。はい、これ」

 

 セランとしてはちょっと茶化しただけだ。思い通りの反応をしてくれるエヴァンジェリンに、微笑ましいと思うが、まずはこの場所に来た用件だけ済ませることにした。何の用事が無くとも遊びに来たいのだが、やるべきことは多くなかなか訪れられないのだから、少しでも早く用を済ませよう。

 取り出されたのはいくつかの書類だった。手渡しされたそれをエヴァンジェリンはそれをざっと眺め……、頭からもう一度読み始める。そしてその内容に間違いが無いことを理解すると、ニコニコと笑顔のままのセランを見上げた。

 

「……なぁセラン? 何回読んでもこの書類には、私への講師としての出勤計画が書かれているのだが」

 

「ええ、そうね」

 

「私、真祖の吸血鬼だな」

 

「ええ、そうね」

 

「アホかキサマはーーっ!!」

 

 テーブルをひっくり返しかねない勢いで立ち上がると、乱暴な足取りでセランへと近づき書類を突き付けた。

 

「だって実際勿体ないじゃない。優秀な講師ができる人がこんなところで食っちゃ寝食っちゃ寝……そんな人を放置する余裕はあるけど勿体ないのよ」

 

「余裕があるのならいいだろうが! というより、私は研究の成果で充分此処に貢献しているだろう!」

 

 エヴァンジェリンは何もせずにアリアドネーに居るわけではなく、新魔法の研究などの成果を出しているため、滞在を許されている、というのが正しい。その成果が莫大な物のため、先の事を考えるとずっと滞在することも許されるだろう。

 抗議するエヴァンジェリンに、セランは目をそらして呟くように答える。

 

「……たまには外の光を浴びるのも気持ちいいでしょ? 最近研究ばっかりしているから、生徒達も会えなくて寂しいって言っていたわ」

 

「私は吸血鬼だって言っているだろいい加減にしろ! なんでここの連中は私にそんな絡んでくるのだ!」

 

 それは貴女が悪いじゃない、とセランは言わずにはいられなかった。

 エヴァンジェリンは図書館の一室を借りているが、本を読む場所は一般の所でも読んでいる。そして、睡眠についても眠くなったら寝る、というのが普通だったため、他の人が読んでいるテーブルで平気で寝てしまうのだ。

 真祖の吸血鬼、であるが人形のような服を身に纏った少女の姿ですやすやと気持ちよさそうに眠っていて、何か思わないのは居ないだろう。おそるおそるその頬を触り、そうしたら、ふにゃ、とか寝言で言ってしまうのだ。学ぶことに意欲的な人たちばかりなのだから、当然図書館は頻繁に使われる。その光景を見て吸血鬼に偏見を持っていた者達が、違う意味での偏見を持ってしまうのも仕方ないことだった。そしてそんな吸血鬼を弄る人たちによって、さらにその偏見は加速していき、ついには図書館のマスコット扱いにされているのだから噂というのはわからない。

 それを知らないのは本人だけである。尊大に振る舞ってももはや手遅れ。もみくちゃにする、若いエネルギーあふれる生徒たちに抗うガッツはエヴァンジェリンには無く、されるがままというのが現状だった。

 

「ほら、それでも新しい考えが浮かぶ気晴らしになるじゃない。最初に受け持つ授業は少ないし、女子校の方での授業が中心だから、やってもらえないかしら?」

 

「む……むむ」

 

 困ったように目尻を下げて答えるセランに、エヴァンジェリンは返答に詰まった。セランとしては、講師をやってほしいと言うのは本心からの事だ。真祖の吸血鬼という存在への偏見を解消することや、その実績からの知識を広めて欲しいと考えている。

 エヴァンジェリンとしても、セランの友人をやっているつもりはある。しばらく悩み、あることを思いついてニヤリと笑った。

 

「いいだろう。だがな、授業の難易度は私が決める。赤点を大量に出しても文句は言うなよ?」

 

 そう、それなら無能であることを証明してしまえばいい。研究の成果などで、それなりの結果は出しているのだ。無論、生徒のレベル上限少し上のものにするが、赤点になる者も多数出るだろう。講師として使えないとわかれば、セランも取り下げるだろう、と。そうエヴァンジェリンが考えていることをセランはその一言で読み取った。

 

「ん~、それだけだと生徒たちがかわいそうでしょう? 飴と鞭、みたいに生徒全員赤点が出なかったらご褒美を出していいかしら? エヴァンジェリンが一つ生徒たちの言う事を聞いてくれる、とか」

 

「ああ、それぐらいならいいぞ。赤点以外を出すつもりは無いからな」

 

 そう言ってエヴァンジェリンは判を持ってくると、講師を承諾するという契約用紙に判を押した。

 

 数か月後、生徒たちが切磋琢磨し赤点を誰も出さなかっため、エヴァンジェリンという名の着せ替え人形を要求されるのとは、本人も思ってはいなかっただろう。

 

――――――

 

 新品に近い灰色の着物に着替えると、ササムは立てかけておいた大太刀へと手を伸ばした。アリアドネーでそれを使うことはありえないが、どうも出かけるときはそれを持っていなければ落ち着かない。

 魔法世界での生活はササムにとっては初めて見るものばかりであり、目を引かれるものも多い。なによりも良かったのが、神鳴流の剣を表で存分に使うことができると言う点だった。合法的に魔と呼ばれる存在を斬ることができる。己が鍛錬も強大な魔があるとなれば、それを斬るために力を入れた。何度か死にかけることはあっても、実力は上がっていることを感じていた。

 そんな、世界へと連れてきた人物、エヴァンジェリンについて、ササムは思うところが在った。

 アレは魔だ。強大な魔であり、出会ったばかりの自分ではどう足掻いても斬ることの敵わない存在なのだ。だが、実際旅をしてその印象は変わっていた。

 くだらないことで笑いくだらないことで落ち込み、子供の様に二転三転と表情を変えたと思えば、老人の様に思慮深い姿を見せることもある。訳が分からない人物だったと言えるだろう。

 いい加減、共に居る時間も長い。従者という区切りに落ち着いては居るが、未だにササムはエヴァンジェリンについて考えると、頭の中が急に散らかるような気がしていた。どうありたいのか、どうしたいのか。そしてその問題は何か。時間は人である自分には有限であり、答えを出さなければならない。

 恋慕? 分からない。確かにエヴァンジェリンという魅力的な人物であるだろう。共に居たい、と思う事もあるが、それを恋慕の一言で済ますものには感じられない。親愛? あるだろう。共に旅に居て、ササムという存在に意味を持たせたことを考えれば、親愛の情を抱いていると考えるのも難しくは無かった。しかしそれらの感情が在っても、ササムは引っかかる。

 あれは、魔だ。神鳴流の剣士である自分が行うことは……。そう考えて思い直す。ササムが神鳴流剣士として『行いたいことは』決まっている。

 

「……ちっ」

 

 ササムは無意識に刀に延びていた手を離した。手の掌で自分の顔をはたいて表情を直し、エヴァンジェリンの元へと向かった。誰も見てはいなかった。しかし、ササムの先ほどの表情は、歪んでいた。

 

 

 しかし、そんなササムがエヴァンジェリン先生と女子生徒たちによるコスプレパーティを目の前にして、呆れた表情になるまで、あと数十分。

 

 


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